2021.03.26
「会議中スマホを見る人」を襲いかねない問題|タスク・スイッチングが脳を疲弊させる
パソコンやスマホのあの便利な機能で、実は集中力が下がっていた(写真:Pangaea/PIXTA)
世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスによるパンデミックで、時間の使い方を見直した人は多いのではないでしょうか。通勤や飲み会に費やしていた時間が減ったことで自由時間が増えたにもかかわらず、時間がうまく使えないと考えている人も少なくないはず。本稿では、リーダーシップ・行動心理学の研究者であり、『タイムマネジメント大全』の著者、池田貴将氏が、便利なはずのスマホの思わぬ落とし穴について解説します。
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マルチタスクではなくタスクの切り替え
私たちの脳は実はごくわずか、1~2%の人をのぞいてマルチタスクができません。私たちがマルチタスクだと思っているものは、単なるタスクの切り替えであることがわかっています。
スタンフォート大学の神経科学者、エヤル・オフィル博士は、「人間はじつのところマルチタスクなどしていない。タスク・スイッチング(タスクの切り替え)をしているだけだ。タスクからタスクへと素早く切り替えているだけである」と述べています。
ためしに、1から10まで数を数えながら会議の議事録をとってみてください。必ずどちらかがわからなくなります。私たちは、どちらも脳の前頭前野を使うような2つのことには、同時に取り組むことができないのです。
そのうえタスクからタスクへと切り替える際には、集中力を取り戻すまでに平均約25分かかり、脳のエネルギーをかなり消費してしまうことがわかっています。
とくにオンライン会議が中心となった最近では、多くの人は意識せずに会議の合間にメールをチェックしたり、書類を作成しながらチャットアプリのメッセージをチェックしていると思いますが、脳はそのたびに集中をいったんストップし、新しくまた時間をかけて集中し直していたのです。
忙しかった気もするし、こんなに疲れているのに大したことができなかったな、と感じた1日はありませんでしたか? それはマルチタスクならぬタスク・スイッチングによって、脳の集中が妨げられていたからなのです。
さらに怖いことに、こうしたタスク・スイッチングは、脳の機能を衰えさせることがわかっています。情報をきちんと理解するクセをつけなければ、つねに情報から情報へと切り替えていくのが脳のパターンとなり、理解力も記憶力も低下します。
つまり、私たちに必要なのは短時間でも1つのタスクに没頭して効率を上げることです。1つの作業に没頭すれば、「フロー状態」と呼ばれる深い集中状態が生まれやすくなり、ふだんより能力も高まり、心理的にも充実感を得られることがわかっています。
これはプライベート時間でも同じで、せっかく自分のやりたかったことをやっても、つねに気が散っていては満足度が下がってしまいますから、何かをするときには1つのことに集中して取り組むことを意識してください。
「承認欲求」が集中を邪魔する
私たちが安易に集中を乱してしまう理由の1つに、「承認欲求」があります。
SNSでよく言われる言葉ですが、私たちの心の中には「他人から評価されたい」という逆らいがたい強い欲求があるため、ちょっとした頼み事でも人からの要求を断るのはとても難しいと感じてしまうのです。
職場でも、いろいろな人から頼みごとをされて困っている人はいませんか? その人はとても優しい人だと思いますが、実際のところ、自分の時間を他人に捧げて承認欲求を満たしているとも言えるかもしれません。それに、他者からの声がけやメールなどの刺激に反応することは、立ち止まって自分の生き方を見つめ直そうとするよりもラクなことです。
つまり、どれだけ時間術に詳しくなろうとも、その前に自分自身が「人の要求より自分の欲求を優先する」「自分の時間の使い方は自分で決める」と決意しなくてはならないのです。
集中を邪魔されるいちばんの原因になるのは、スマートフォンによる通知です。いますぐスマホの設定を開いて、すべての通知をオフにしてしまいましょう。
PCでも同様にすべての通知をオフにしてしまうことをおすすめします。とくにポップアップで知らせてくるメールや、お気に入りのブログや動画の更新通知は、意識のうえでは無視しているつもりでも、必ず集中を途切れさせてしまいます。「設定」からまとめてすべての通知をオフにしましょう。
僕は、アップルウォッチを使っていたときでさえ、すべての通知をオフにして使っていました。アップルウォッチを使っていたのは心拍数を確認したかったからで、ランニングしながら仕事のメールに返信をするためではないからです。
メールも電話も地図も決済も、すべてができる便利なスマートフォンですが、ときに通知によって今、目の前にいる人との時間をも台無しにしてしまいます。目の前の人といくら大切な話をしていても、メールの通知音が鳴ったりスクリーンに通知がきたら、無視できないのが私たちなのです。
「考える力」が落ちるスマホの支配
『デジタル・ミニマリスト』を書いたカル・ニューポート氏によれば、1995年以降に生まれた若者世代は、孤独な時間を排して常時世界とつながっていることで、メンタルヘルスに支障をきたしている例が増えていると警鐘を鳴らします。
私たちは、ときには自分の気持ちを振り返って反省したり、自分でも気づいていなかった本音を見つめ直したり、自分が本当に大切にしていることを考える時間を奪われることで、そもそもそれを考える能力すら奪われているようなのです。
とくにSNSを見ていると、日常の中でも特別にいいシーンだけを切り取ってありますから、地に足をつけた自分の生活を振り返ることが大切だという感覚を忘れてしまいかねません。
SNSを見ないようにすると、「最新情報に追いつけないのではないか」という不安な気持ちが生まれる人もいると思いますが、不快な投稿に気持ちを乱されたり、きついメッセージを受け取ったりするデメリットと自分の時間が増えるというメリットを総合すれば、メリットのほうが断然大きいでしょう。
今の私たちの生活は、不便なようでいて実は大きなチャンスです。普段の生活では他者がいや応なく時間に割り込んできてしまいますが、今なら通知をオフにすれば自分の時間をどう使うか、自分ですべてを決められるのです。
じっくり計画を練るもよし、新しい習慣を身につけるもよし、数年計画で人生のスケジューリングを見直すことだってできます。この先の人生を変えるタイミングが、今なのです。
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提供元:「会議中スマホを見る人」を襲いかねない問題|東洋経済オンライン