2021.03.17
「ボケやツッコミ」がなくても面白い話できる訳|雑談で笑いを取るのに高度なテクニックは不要
下手なボケやツッコミで「自分はおもしろい」と勘違いしている人も(写真:KY/ PIXTA)
お笑い芸人が使うフリ・ボケ・ツッコミなどのテクニックは、雑談でおもしろい話をするときには必要ないようです。『「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則』に続いて、即興力養成講師で放送作家の渡辺龍太氏の『おもしろい話「すぐできる」コツ』より一部抜粋・再編集してお届けします。
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自分の感情を素直に話すメリット
感情ベースでおもしろい話をすると、ウケるだけではないメリットがあります。それは「勝手にいろんな人に好かれる」こと。その「モテるメカニズム」を説明します。
フリ・ボケ・ツッコミは、お笑い芸人などのプロが覚える「技術」で、普通の人が意識する必要はありません。そうではなく、「自分の心の動きを他人に伝える」ことが、おもしろい話をするうえで大事なのです。自分の感情をベースに話すと、ウソがありません。「なんか話を盛ってるな」「ちょっと不自然だな」と思われることなく、あなた自身の個性が相手に伝わります。
話していくうちに、聞き手が勝手に抱いていた「話し手の〇〇さんは、こんな人である」という人物像と、今聞いている内容が「なんかちょっと違うぞ」という点が、どこかで出てくるはずです。それが、違和感となり特別なことをしていなくても自然とおもしろい話が生まれる瞬間になるのです。
さらに、これには「おまけ」もあります。話し手は自分の感情を開示し、自分を理解してくれた人に価値を感じます。さらに聞き手も、感情を開示してくれた人に価値を感じます。つまり、双方に親近感が生まれます。
人間は、一定以上の理解に達した他人は、とても気になる存在になります。そうすると、別にその人がいない場所でも、「あの人だったら、こういう時には、こんなリアクションを取りそうだな」などと、気になる存在になります。
それが、いわゆる「モテている」という状態です。この場合の「モテる」は、男女関係だけにとどまりません。「先輩からモテる後輩」など、人間関係において全方位でモテるようになるという話をしています。
これが、自分の感情を話すことでおもしろい話ができると、いろんな人にモテる理由です。これを多くの人は、「おもしろい話をするからモテる」のだと思っているかもしれませんが、そうではありません。自分の感情を素直に相手に話して、自分を理解してもらっているから、モテるわけです。
その場合、おもしろい話は「副産物」であって、一番の価値は、「人間関係が円滑になり、いろんな人に魅力的な人物と思われること」とも言えるかもしれません。
一方、フリ・ボケ・ツッコミという技術を駆使しておもしろい話を作るのは、これとまったく異なる仕組みになっています。そういった技術を駆使する人は、聞き手の先入観を予想し、それを狙って突き崩すことで、意図的におもしろい話を作ることを目指している人がほとんどです。
しかし、相手が何をおもしろいと思うのかは、その聞き手が何を知っているかに大きく依存します。だから、聞き手の先入観を予測する高い技術が必要です。
さらに、そんな聞き手の先入観を予想し、それを崩すことを長期的に狙い続けるには、ある程度「こういう人たちに向かってネタをする」というように、対象を定める必要もあります。
だから、どんなに上手な人でも、笑いを取りやすい特定の集団があります。言い換えれば、フリ・ボケ・ツッコミなどの技術に頼って誰かを笑わそうと思えば、ある意味で、その瞬間から万人にはウケないという宿命を背負ったことになります。
実際、プロのお笑い芸人だって、自分のターゲットの人々には「おもしろい」と言われていて愛されていても、別の人には嫌われているなんてことは、ザラにあります。
特定の人々を対象にしたテクニックの難しさ
そんな、自分のことを嫌う人を生み出す可能性があるうえに、とても高度な笑いの技術であるフリ・ボケ・ツッコミを、普通の人が適切に使いこなせると思ってはいけません。クラスや職場にも、「自分はおもしろい」と思い込んでいるようですが、ごくわずかな人以外からは、白い目で見られているような人はいませんか? そういう人は、この部分に気づいていないのです。
そのほかに、「女子にウケる〇〇トーク術」というような、特定の人々を対象にした「おもしろい話」の作り方が解説されることもあります。例えば、女子はダイエットの話に決まって食いつくので、ダイエット関連でこんなネタを仕込みましょうというようなテクニックです。しかし、これも普通の人には難しすぎます。
なぜなら、対象とする人の属性を絞っても、その時々の状況は個々人によって違いすぎるので、そうした話題を瞬時に合わせてカスタマイズする技術のない人にとっては、かなり難しいからです。
例えば、ホストの先輩が後輩に、20代の女の子のお客さんにウケるトークなどを伝授することは仕組み的に可能です。なぜなら、見た目の雰囲気や年齢などが、同じ店のホストであればかなり近い可能性があり、その店のターゲットのお客さんも似ている人たちだからです。
しかしもし、そのテクニックを「ホストが女性にモテるためにやっているテクニック!」として、水商売のお店に一度も足を踏み入れたことのない50代のおじさんが、子育てで大忙しの40代のシングルマザーに使おうとしたらどうなるでしょうか? 絶対におもしろい話が成立しないとは言いませんが、よくない方向に転ぶ可能性が高いのは明らかです。
ですから、こういった「女子にウケる◯◯トーク術」などが役に立つ人は、そこで語られているテクニックを、自分なりに加工できる人だけなのです。どうカスタマイズすべきなのかが直感的にわからない普通の人の場合は、努力しても、その方法では何の成果も得ることはない可能性が高いです。それどころか、スベってイヤな気持ちになったり、聞き手に小馬鹿にされたりするリスクも十分あります。
「話のうまい人」ほど参考にならないワケ
また、誰かの作った「ストーリーありき」のおもしろい話を、一部始終、落語のネタのように覚えることで、おもしろい話をしようとする人たちもいます。
例えば、社内でもトークスキルの高い人が、会社で起きた出来事を、おもしろおかしくお客さんに話していた、なんてこともあると思います。そういうとき、それをそばで見ていて、「ああやって話せば、おもしろい話ができるんだな」と真似て、そっくりそのまま自分のお客さんにも話してみようとする人もいるでしょう。
しかし、ほとんどの人は、そばで見ていただけのトークをそっくりそのままコピーすることはできません。だから、同じように話しているつもりでも、おもしろい話として成立しないことがあります。
人間には、生まれ持っての個人差があります。だから特に訓練していなくても、生まれつきトークスキルが高い人たちも一定数います。だから、「プロの芸人の話ではないのだから、自分も真似できるだろう」と思って、安易にそういう人たちがやっているトークをコピーしようとしても、うまくいかないことが多いのです。
その他、おもしろい話というと、「情報」に頼る人がいます。身近な人間関係の噂話から、エンタメやスポーツに関する世間の最新情報など、そういうことに人一倍詳しくて、「おもしろい話をするなぁ」と思われている人がいます。
私はこれを「報道系トーク」と呼んでいるのですが、さまざまな情報を仕入れることで「おもしろい」を作り出す方法は、とても便利です。本書では、この方法について詳しく書くスペースがありませんでしたが、自分の興味のあることでよいので、何かしら詳しい話題を持っておくのはいいことだと思います。
しかし、それはやはり、仕入れた情報に対して、「自分の心がどのように動いたのか」という感情をセットで相手に伝えないと、あまり意味がありません。なぜなら、それを聞いている人にとってその情報のみにしか価値がない場合には、話している人に対して興味を抱いてもらえないからです。
例えば、NHKの5分ぐらいの短いニュース番組のアナウンサーの名前をどれだけの人が言えるでしょうか? 顔は知っているけど、名前は知らないという人も多いはずです。一方、民放のワイドショーに近いようなニュース番組であれば、アナウンサーからコメンテーターまで、顔を見れば「○○さん」と、名字ぐらいは思い出せる人も多いと思います。
その理由は、放送時間の長短とか、そういう問題ではありません。NHKのニュース番組は、情報の質やスピードと、アナウンス技術に価値を見出した作りになっています。一方、民放ではそれよりも、「情報に対する個人の見解」などに価値を見出した作りになっています。この差が、その理由です。
情報ではなく自分自身に興味対象に
『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP研究所)
だから、視聴者もNHKのニュースに対しては、情報の質や、アナウンサーの安定感があれば十分だと思っています。アナウンサー個人への関心度は、かなり低いと言えます。
そのため、「このNHKのアナウンサーは、このニュースに対してどんな感想をもっているのかな?」と民放のアナウンサーに対して思うような想像をすることはありません。
それどころか、いつも見ているNHKのニュースのアナウンサーが、急に差し替えられたとしても、ガッカリもしないどころか、気づかない視聴者すらいるでしょう。
普段、一生懸命ニュースなどをチェックして、おもしろい話題をまわりに教えてあげている人は、ネタの質ばかりにこだわってNHKのアナウンサーのようにならないようにしましょう。それは、日常生活で個人が目指すような価値提供ではありません。
普通の人の場合は、自分の感情を織り交ぜながら、自分自身に興味を持ってもらえるような形で情報提供をしてください。さもなければ、さらなる情報通が現れた瞬間、その人の価値は相対的に低くなってしまい、それまで「おもしろい」とチヤホヤされていたとしても、そのポジションが一晩でなくなってしまうかもしれません。
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提供元:「ボケやツッコミ」がなくても面白い話できる訳|東洋経済オンライン