2021.02.17
「人へのアドバイス」はなぜしてはいけないのか|「聞き疲れ」を感じている人に伝えたいこと
相手の悩みを聞いた後、疲れてしまった経験ってありませんか? 相手のためにもなり、自身も疲れない話の聞き方を紹介します(写真:mits/PIXTA)
こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャ®」の大野萌子です。
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親しい人の相談を聞きながら、「またその話?」と思ったり、「どう反応したらいいのかな?」と悩んだりしたことは、ありませんか? 頑張って話を聞いて、別れてからどっと疲れたり……。
最近、そんな「聞き疲れ」をしている人が増えていると感じます。
とくに、相手を思いやる気持ちの強い聞き上手な人ほど、頑張りすぎて心身をすり減らしがちです。
この、話を聞くときの「モヤモヤ」や「イライラ」は、何が原因なのでしょうか?
今回は、拙著『『聞き上手さん』の「しんどい」がなくなる本 自分も相手も嫌いにならない話の聞き方』から、話を聞いても疲れなくなるコツをご紹介します。
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「どうしたらいいと思う?」と聞かれたら
「これってどう思う?」「どっちがいいと思う?」と聞かれることは、よくありますよね。
とくに、聞き上手な人は、人から相談されることが多いと思います。
例えば、「恋人と別れたほうがいいと思っているけれど、別れられない。どうしたらいいと思う?」と相談を受けたとしましょう。あなた自身は「別れたほうがよさそうだな」と思うけれど、「本当は別れたくない」という相手の気持ちも察すると、返答に迷うのではないでしょうか。
関係性にもよりますが、それでも相手のためをと思って「私にも同じような経験があるけど、別れたほうがいいと思う」「気持ちはわかるけど、そろそろハッキリさせなきゃ」などと、アドバイスをするかもしれません。
実は、この「アドバイスをする」という行為が、聞き疲れの原因になっていることがあるのです。
その理由は主に2つあります。
1つは、「頭を使っていること」です。
アドバイスをする人は、話を聞きながらも「どんなアドバイスをするか」ということに意識が向いています。自分の経験を思い出したり、相手を傷つけない言葉を考えたりして、頭を使いすぎるのです。この「考えすぎ」が疲れの原因になります。
もう1つの理由は、悩みに対してアドバイスをした後に、「ああ言ったけれど、よかったのかな」と悩んだり、「いいことを言えたはず!」と得意になったりすること。話を聞いた後も感情が揺れ動き、疲れにつながります。
また、この後で詳しくお話ししますが、アドバイスで他人を変えるというのはとても難しいことです。「いいアドバイスをした」と思っていたのに、実行もされず、また同じような相談をされる……ということが起きるのはこのため。何のために親身に相談に乗ったのかと、疲れの原因になります。
答えは必ず本人の中にある
・アドバイスはしなくていい
そもそも、相談をしてきた人というのは、本当に意見やアドバイスを求めているのでしょうか?
例えば、友だちとのショッピングを例に挙げてみましょう。
AとBのどちらを買えばいいか相談されたとします。よくあるのが、自分がAをすすめたとしても、「Bがいいと思うんだよね」と、結局は本人が決める、というケース。
アドバイスしたほうは「悩んで損した」「決まってるなら聞かないでよ」と思いますよね。この場合、友だちが求めていたのはアドバイスではなく、自分と同じ「B」という答えです。
このように、答えは、必ず本人の中にあります。深刻に思える相談でも基本的には同じで、本当に求めているのは、自分の決断を後押ししてもらうことなのです。
それでも、なかには、「自分の経験を伝えて参考にしてもらえたら」と思う人もいるかもしれませんね。
ですが、本当の意味で役に立つアドバイスをする、というのは、カウンセラーでも難しいこと。なぜなら、悩みを抱えている相手と自分は別の人間で、価値観も考え方も違うからです。そのため、一生懸命考えてアドバイスしたとしても、相手にとっては的外れだったりします。そんなアドバイスは相手に響きませんし、もちろん相手が変わることもないのです。
そして、こうしたことが、1回や2回ならまだしも、何度も何度も続くと、いつかはあなたも限界を迎えます。「あなたのために、我慢して聞いてアドバイスしてあげたのに」と感じるわけです。
一方のために、他方が我慢して尽くす関係というのは危ういもので、どちらか一方の心境や環境の変化ですぐに崩れてしまうものです。大事な人の話なのに聞きたくないと思ったり、相手のことを嫌いになったりするかもしれません。
「友達のために」と一生懸命聞いてアドバイスを考えたのに、相手のためにならないどころか、友人関係がダメになってしまっては、悲しいですよね。
もう1つ、ここで知っておいていただきたいのが、アドバイスというのは、する側の「承認欲求」の表れでもあるということです。
承認欲求とは、「人から好かれたい」「すごい人だと思われたい」といった気持ちのことで、誰にでもあります。満たされれば幸福感やモチベーションにもつながる、大切な感情です。
ただ、この承認欲求は、人の話を聞いているときにもしばしば頭をもたげ、相手を評価したり、本来必要のないアドバイスをしたりする原因にもなります。
「相手が感動するような、すごいことを言いたい」「自分の知識や経験を示したい」という考えがもとになっているもので、結局は自己満足なのだということを理解しておきましょう。
アドバイスを求めているわけではない
・「ただ聞く」だけでいい
では、アドバイスを求められたときは、どのようにしたらいいのでしょうか?
答えは簡単で、「ただ聞くだけ」です。相手の気持ちを、「あなたはそう感じているんだね」とそのまま受け止めてあげるだけでいいのです。
繰り返しになりますが、相談という形をとっていても、本当にアドバイスを求めているわけではありません。つらい感情を吐き出して楽になりたい、あるいは迷っている自分を後押しする言葉をかけてほしい、という場合がほとんどです。あなたにも、「心が苦しくてやりきれなくて、ただ聞いてほしかった」という経験があるのではないでしょうか?
ですから、「どう思う?」「どうしたらいいと思う?」と相談されたら、悩んでいる気持ちを受け止めた後に、このように返してみてください。
「あなたはどう思うの?」
「あなたはどうしたいの?」
このフレーズをきっかけに、相手が本心を打ち明けてくれることもあります。この本心こそが、相手が本当に聞いてもらいたいことです。相手が話し始めたら、相手の気持ちを受け止めつつ、ただ話を聞くことに集中してください。頑張ってアドバイスを考えたり、「相手にどうしたら伝わるかな」と悩んだりしなくて大丈夫です。
「今、この瞬間」を共有することが大切
人は、自分の気持ちをそのまま受け止めてもらえたと感じると、それだけで心が浄化され、「聞いてもらえて楽になった」と思うものです。「ただ聞くこと」には、それだけ大きな力があります。
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人は皆、悩みを自分で解決する力を持っています。黙って話を聞くというのは、相手のその力を引き出すことであり、相手を信頼することでもあります。
また、話を聞く楽しさとは、相手の「今、ここ」を理解し、共有することです。
聞き手としては、相手の過去や未来に関わることができません。唯一できるのは、「今、この瞬間」に相手に起こっていることをそのまま受け止め、分かち合うことだけです。
『『聞き上手さん』の「しんどい」がなくなる本』では、マンガと本文で、疲れなくなる話の聞き方を具体的にわかりやすく解説しています。
余計なエネルギーを使わずに、肩の力を抜いて話を聞くヒントが満載ですので、ぜひ、参考にしていただければと思います。人間関係が楽しく、楽になることを願って。
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提供元:「人へのアドバイス」はなぜしてはいけないのか|東洋経済オンライン