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2021.02.15

人間を襲う外敵と戦う「細胞」の超シビアな現実|そもそも「免疫」とはいったい何なのか


「免疫」や「抗体」は、そもそもどんな役割を果たしているかご存じでしょうか?(写真:metamorworks/iStock)

「免疫」や「抗体」は、そもそもどんな役割を果たしているかご存じでしょうか?(写真:metamorworks/iStock)

ここ最近は、皆さんが生きてきた中でも最も免疫を意識しているときではないでしょうか。ワクチンの接種も始まります。世界的な生命科学者であり、ノーベル賞受賞者の共同研究者でもある吉森保先生。その吉森先生が、生命科学の基礎から最先端までをわかりやすく解説した著書『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』より、免疫と抗体について解説します。

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免疫は外敵を体から排除する仕組みのこと

昨年から今年にかけて、ニュースのみならず日常会話でも「免疫」や「抗体」という言葉をよく耳にしますね。

とはいえ、免疫とは、そもそも何でしょうか。何となくわかっているけれども、正確に説明できない。そんな言葉の1つではないでしょうか。

免疫は、簡単にいうと外敵を排除して体を守る仕組みです。

本当は、免疫にはがん免疫のようにがん細胞をやっつける免疫もあるし、移植免疫といって他人の組織や細胞を排除する免疫もあります。がん細胞は本来自分の細胞だし、移植した組織や細胞は正確には敵ではありません。つまり本来は、「正常な自己」と「非自己」や、がん細胞のような「異常な自己」を見分ける仕組みが免疫なのですが、ここでは混乱しないように外敵の排除とします。

外敵とは病原体や寄生虫のことで、病原体は大きくわけて3種類います。
(1)ウイルス、(2)細菌、(3)真菌・原虫、です。

ウイルスは、実は生き物かどうか怪しい存在です。生き物とは自力でエネルギーをつくり、子孫を残す能力が最低限必要です。ウイルスは、その能力はありません。細菌は生物ですが、ウイルスは生き物ではないともいえます。

細菌は、ボツリヌス菌やレンサ球菌などです。一方、真菌はカビや酵母のことで、真核生物です。

真核生物は、酵母からヒトまで大きなグループをつくっています。原虫やカビも真核生物に属します。原虫というのは、昆虫ではなく、原始的な動物です。マラリア原虫が有名です。

寄生虫はそれよりずっと大きく、肉眼でも観察される生き物です。もちろん真核生物です。

とにかく、病原体と寄生虫に共通するのは宿主の体に侵入して、病気を引き起こす点です。このような病気を「感染症」と呼びます。

風邪が抗生物質では治らない理由

細菌とウイルスは、なんだか似ていますが、まったく違う生き物です。少し詳しく説明しましょう。

ウイルスは、自分の体をつくる設計図である「遺伝子」をタンパク質の殻に包んでいます。人間などの真核生物は、遺伝子があればそれをコピーして自力で増やしますが、ウイルスはこれができません。ではどうするかというと、相手の細胞に侵入して、その機能を乗っ取って、自分を増やすのです。

一方で、細菌は1つの細胞が個体として生きる単細胞生物で、分裂して子孫を残すことが可能です。

病気を引き起こす仕組みとしては、ウイルスは侵入して細胞を破壊します。一方細菌は、同じく細胞に侵入する場合と、毒素を出して細胞を殺したりする場合があります。

大きさもまったく違います。例えば、大腸菌は1ミリの約1000分の3ですが、インフルエンザのウイルスは1ミリの1万分の1です。細菌のほうがウイルスよりはるかに大きいです。

大きさは覚える必要はありませんが、まったく種類が異なるので、病気になったときの対処法も変わってきます。例えば、抗生物質は細菌に効きますが、ウイルスには効かないということです。

皆さん、風邪を引いたとき、抗生物質を出されたことはありますか? 風邪の原因はほぼ100%ウイルスによるものですので、抗生物質は効きません。

しかし、風邪でも咽頭炎や扁桃炎など、のどが痛い場合はA群レンサ球菌と呼ばれる菌が引き起こしている症状ですので抗生物質が効きます。ただ、それは風邪に付随して起きている現象です。

まず、細胞がウイルスに感染することで体が弱ったところに細菌が繁殖して、違う炎症が起きていると考えてください。ウイルスが原因で体がおかしくなって、二次的に細菌によって起きているのが喉の痛みの原因です。ですから、抗生物質を飲んでものどの痛みは治りますが、風邪は完全には治りません。

それでは免疫を知っていきましょう。さきほどの、細菌、ウイルス、原虫やカビなどの病原体や寄生虫から自分を守るために、いったい体は何をやっているのでしょうか。

免疫には3通り撃退方法がある

免疫=「外敵を排除すること」です。では、具体的にどのようにして、これらの「敵」を排除しているのでしょうか。大きく分けて、3つあります。

まずわかりやすいのが、「物理的に防ぐ方法」です。外敵を防ぐといえば、まず「壁」です。例えば皮膚です。皮膚は、細胞と細胞が結合してできていますが、これで病原体の侵入を防いでいます。

同じ働きをするものとしては、粘膜も物理的な障壁になります。粘膜は侵入しやすい場所に見えますが、粘液を必死に分泌することで病原体を侵入させません。粘膜には、細菌を殺す化学物質が分泌されています。

2つ目の方法が「細胞が相手を殺す」です。1つ目の「壁」が突破されて病原体が侵入してしまったら、食べることで敵を取り除きます。食べて、自分の細胞内に取り込み、分解します。敵を食い殺す代表的な細胞に、白血球(の一種である好中球)があります。食細胞と呼ばれています。

これは、自然免疫とも呼ばれています。ほかの数多くの生物も持っている、原始的な免疫だからです。

感染症で炎症が起きると熱が出ますね。これは体温を上げることで、細菌の増殖を抑えるとともに、食細胞の活動を活発にするためです。つまり熱が上がると、食細胞は活発になります。したがってむやみに熱を下げるのは考えものです。

先ほど、風邪はウイルスによるものだといいましたが、ウイルスを殺そうとしてやりすぎて炎症が起きている状態など、いろんなことを指して風邪といいます。この「炎症」もとても大切なので、これについては後ほど詳しく説明をします、

また、もっと奥深く細胞に侵入してきた細菌やウイルスを殺す仕組みがあることもわかっています。オートファジーという細胞内のシステムです。オートファジーが病原体を殺す作用は、私の研究室で見つけましたが、これについては拙著でも詳しく説明していますので、興味のある方は読んでください。

さらに、ウイルスが入り込んだ細胞を殺す細胞もいます。 味方ごと殺す殺し屋みたいな存在です。実際、キラーT細胞と呼ばれています。キラーT細胞は、食細胞のように相手を食い殺すのではなく、飛び道具で相手の膜に穴を開けて殺すので、本当に殺し屋っぽいです。キラーT細胞は、がん細胞や移植細胞も殺します。

自殺する細胞もいます。ウイルスに感染した細胞も自殺します。キラーT細胞は、相手の膜に穴を開けるだけではなく、その穴から自殺しろと命じる物質を送り込むことで、その細胞を死に追いやります。敵が来たとき「戦え」「戦うな」「自殺しろ」などとさまざまに命じられて、細胞は敵と日々戦っているわけです。

人間の社会だととんでもないことですね。細胞の世界はシビアです。

敵を排除する「免疫」の手段の1つが「抗体」

そして、敵を排除する3つ目の方法が「抗体」です。ワクチンのこともあり、よく聞く単語ですが、具体的にはどういうことでしょうか?

抗体は、ウイルスや細菌や、細菌が出す毒素の働きを妨害したり、相手の細胞を殺すきっかけをつくったりします。

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詳しくいうと、抗体はタンパク質です。体の中の物質の主役はタンパク質です。B細胞と呼ばれる細胞の中でつくられ、細胞内の輸送網を使って細胞の外に放出されます(分泌と言います)。B細胞は、それぞれの敵に効くように、相手の特徴に合わせて異なる抗体をつくり出しています。

ここまでで、食細胞とかキラーT細胞とかB細胞とか出てきましたが、これらをひっくるめて免疫細胞と呼びます。 免疫を専門にしている細胞という意味です。

ほかにも、免疫細胞には樹状細胞とか、ヘルパーT細胞とかいろいろありますが、ここではこれ以上触れません。なお、免疫細胞をプロフェッショナルな細胞と呼ぶこともあります。免疫を職業にしているプロということですね。

さて、これでみなさんは免疫の話はざっとマスターできたと思います。免疫については、抗体がいちばん強いというわけではなく、何が効くかは敵次第です。

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提供元:人間を襲う外敵と戦う「細胞」の超シビアな現実|東洋経済オンライン

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