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2021.02.09

料理をやめた途端「認知症リスク」が急増する訳|「惣菜をパックのまま食卓に出す人」は要注意


料理をやめるとなぜ「認知症リスク」が高まるのか?(写真:mits/PIXTA)

料理をやめるとなぜ「認知症リスク」が高まるのか?(写真:mits/PIXTA)

親が急に料理をやめたり、食卓にパックの惣菜を皿に盛ることもせずに並べたりするようになったら要注意。急に料理をやめると、「認知症リスク」が高まる可能性があります。その理由を医学博士の朝田隆氏が解説。新書『認知症グレーゾーン』より一部抜粋・再構成してお届けします。

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前回紹介した認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害のことを示す)の人は、「めんどうくさい」とは直接言わず、もっともらしいエクスキューズ(言い訳)を言うようになるのも特徴です。

たとえば、カラオケが大好きで近所の仲間も集まるカラオケ喫茶に通っていたのに、突然行かなくなってしまった。「どうしてやめてしまったの?」と家族が聞くと、正座がつらい、腰が痛い、早起きがつらい、カラオケ仲間に嫌な人がいるなど、適当なことを言ってごまかします。本当はただめんどうくさいだけなのに、やらないことに何らかの理由をつけて正当化しようとするのです。

やらなければいけないことを先延ばしにするときも同じです。「明日は銀行へ行って手続きをする」と言っていたご主人が、翌日になってもなかなか出かけないので、「早く行ったほうがいいですよ」と奥さんが声をかけると、「雨が降りそうだから、今日はやめた」などと言ってやめてしまう。

おそらく、心の中では続けないといけない、サボっちゃいけないという気持ちが、まだどこかに残っていて、やめることに後ろめたさを感じるために言い訳をするのではないかと考えられます。無気力を人に悟られたくないという気持ちもあるかもしれません。完全に認知症になると、そうした気持ちも残りにくくなります。これも認知症グレーゾーンの特徴と言えるでしょう。

前回 ※外部サイトに遷移します

「めんどうくさい」と「認知症」の関係

では、なぜ認知症グレーゾーンの人は、「めんどうくさい」と感じるようになるのでしょうか。認知症になると、脳の側頭葉で記憶を司っている“海馬”と呼ばれる部分が萎縮することは一般に広く知られています。

加えて、実は海馬の萎縮が始まるより先に、前頭葉の機能が落ちてくるケースがよくあります。前頭葉はちょうどおでこのあたりに位置し、言ってみれば「脳の司令部」。やる気を生み出す中枢でもあります。本来は旗振り役のこの部分の機能が衰えることにより、「うーん、めんどうくさいな、まだやらなくてもいいかな」「行かなくてもいいかな、今度でいいかな」となってしまうと考えられます。

さらに言えば、認知症グレーゾーンの初期の頃に見られる「人の名前を思い出せない」などの記憶力の低下も、前頭葉の働きが落ちていることに由来するのではないかと、私は考えています。

司令部の前頭葉は、脳内の情報を出し入れする役割も担っているため、その働きの低下により、脳内の情報が段取りよく引き出せていないことで、「人の名前をなかなか思い出せない」といった症状が出ている可能性があるからです。

だとすれば、認知症グレーゾーンの初期に「めんどうくさい」という行動の変化が見られた段階ですぐに対策を打てれば、海馬の萎縮を事前に防ぎ、元に戻る可能性が高まるとも推測されます。

年を取ると「怒りっぽく」なる理由

前頭葉は、感情をコントロールする役割も担っています。そのため、前頭葉の機能が低下すると、感情面にも大きな変化が表れてきます。イライラして怒りっぽくなるのは、その代表です。

もともと加齢に伴い、前頭葉の機能はある程度低下します。ですから、年を取ると誰でも怒りを自制しにくくなります。堪え性がなくなるのですね。

新聞やネットで、高齢者がキレて事件を起こした記事を目にする機会がしばしばありますが、実は認知症でない高齢者やグレーゾーンの高齢者のほうが、認知症の人よりもキレやすいことがわかっています。

とくに定年後の男性の場合、将来への不安や、社会の第一線から離れてしまった劣等感などの裏返しとして、自分に対する周囲のリスペクト(尊重)が足りないと感じ、怒りが爆発する大きな引き金となります。

仕事を辞めると、過去の肩書や業績はリセットされ、十把一からげに「ただのおじさん」扱いされる場合があります。本人としては、特別ちやほやされたいわけではなくても、年を取っているからといって“ぞんざい”な扱いをされると、自尊心を傷つけられて過敏に反応してしまうわけです。

現役で仕事をバリバリしていた頃は、心の中で怒りを覚えても、口に出すのはぐっと我慢し、皮肉の一つを言うくらいでとどめておけた人でも、加齢による脳の衰えで自制が利かなくなっていますから、怒りを覚えると我慢できずにすぐ暴言を吐いたり、大声で怒鳴ったりしやすくなりがちなのです。

さらに、認知症グレーゾーンになると、よりいっそうブレーキが利かなくなります。今まで物静かだった人が急に怒りんぼうになったり、もともと怒りんぼうの人が、さらに怒りんぼうになったりする。ほんのささいなことでも腹を立てるようになります。周囲の人が実際にどう思っているのかは関係なく、よかれと思って声をかけてくれた人にまで怒りをぶつけるようになるのです。

親子だと、とくに感情がストレートに出やすくなります。娘さんが「お父さん、それ、間違っているよ!」と強めのトーンで言ったりすると、本人は否定されたという負の印象だけが残ります。言われた内容の良し悪しは関係なく、とにかく娘が自分をバカにして言い負かそうとしている、という思いが爆発し、暴力・暴言につながったりします。

あるいは、難聴気味の認知症グレーゾーンの人に大きな声で話しかけると、「大声で罵倒された」と怒りだすことがよくあります。「大声=怒られている」と勘違いし、そこから会話が成り立たなくなってしまうのです。

「性格が丸く」なっても認知症の可能性も

まれな例として、もともと怒りんぼうだった人が、変に丸くなる場合もあります。年を取って人格的に丸くなったのではなく、認知症による脳の変性によって性格が一変してしまった結果です。

認知症グレーゾーンになると、2つのことを同時に進行する「ながら」ができなくなります。たとえば、歩きながら重要な話ができなくなります。これは重要な話だと思うと、無意識に立ち止まって話そうとする。あるいは、歩きながら集中して聞くことができなくなるのです。

さらに症状が進むと、食事をしながら会話ができなくなります。自分がしゃべりたいときは、どうでもいい話でもピタッと箸を置いて話し出す。食べながらでもいいような話なのに、食べることと話すことを同時進行できなくなるのです。

本人は気づいていませんが、周囲の人が認知症グレーゾーンを見つける一つの判断材料となります。家族が異変に気づく手がかりとして、最もわかりやすいのは料理の変化です。食事をずっと作ってきた女性が、急に料理を作らなくなったり、料理の味付けがおかしくなったりした場合、認知症グレーゾーンの可能性が濃厚です。

料理というのは非常に煩雑な作業で、献立を考えるところから始まって、食材を揃え、同時進行で煮たり焼いたり炒めたり刻んだりしながら、すべての料理をちょうど美味しいタイミングで食卓に並べなければなりません。2ステップどころかマルチステップが求められます。集中力と注意力をフル稼働する必要があるので、前頭葉の働きが低下している認知症グレーゾーンの人にはうまく対応できません。

そのうち、今夜のおかずを何にするかも考えつかなくなり、料理を作ることを避けるようになります。認知症グレーゾーンの人が料理を作れなくなる背景には、記憶力の低下とともに、「めんどうくさい」という意欲の低下も大きく影響していると考えられます。

『認知症グレーゾーン』(青春出版社)

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以前は、今日はこんな料理に挑戦してみようとか、家族にこんな料理を食べさせてあげたいといった思いで毎日料理を作っていたのに、そうしたモチベーションがまったく湧いてこなくなります。加えて何十年も作ってきた料理の手順の記憶も落ちますから、料理を作ろうという気持ちにならないのです。

それでも、自分の役割として料理を作らなければいけないと思っているため、献立がワンパターンになっていきます。さらに症状が進むと、スーパーやコンビニエンスストアで出来合いの惣菜を買い、それで済ませることが増えていきます。最近は小さいパックの惣菜が、種類も豊富に店頭に並んでいます。

料理は「認知症対策」にとても有効

一人暮らしや夫婦二人暮らしの家庭では、作る手間や材料費を考えると、「自炊するより経済的」と言われれば確かにそうだと思います。しかし、実はそれが認知症グレーゾーンによる「めんどうくさい」の言い訳である可能性も考えておく必要があります。惣菜の中身がポテトサラダやきんぴらごぼうなど、バランスの取れたものを選んで買っているうちは、まだある程度の気力が残っています。

一方で、毎日おにぎりや即席ラーメンだけで済ませていたり、買ってきた惣菜を皿に盛ることもせずにパックのまま食卓に出すようになってきたら、認知症にかなり近づいてきていると考えたほうがいいでしょう。本来、料理を作ることは認知症対策にとても有効です。それをやめてしまうと認知症がより進みやすくなるところも問題です。

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提供元:料理をやめた途端「認知症リスク」が急増する訳|東洋経済オンライン

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