2021.01.29
「温水洗浄便座で洗いすぎのお尻」が大変なワケ|皮膚表面のバリア機能が失われている可能性
お尻の「洗いすぎ」はさまざまなトラブルを引き起こす可能性があるようです(写真:kimtoru / PIXTA)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークの導入が進むなど働き方に変化が生じてきました。椅子に座る時間が以前より長くなったことで、お尻のトラブルに悩む人もいるかもしれません。『痛み・かゆみ・便秘に悩んだら オシリを洗うのはやめなさい』を上梓した、肛門科医の佐々木みのり氏が、お尻のトラブルが起こる原因と解決方法を紹介します。
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温水洗浄便座で「洗いすぎ」が原因?
お尻のトラブルで来院される方には、1つの共有点があります。それは、体やお尻をよく洗っていることです。トイレに行けば必ず温水洗浄便座の洗浄機能を使う。お風呂でせっけんをつけてしっかりこすり洗いをする。中には、肛門を消毒している方までいらっしゃいます。しかし、「お尻は清潔にしておかなくてはいけない」と意識を高く持って洗っている人ほど、お尻は汚れているかもしれません。
温水洗浄便座を愛用している方のお尻を診ると、
・肛門が真っ白
・肛門が真っ黒
・肛門がシミだらけ
・肛門プツプツ病
・肛門がつっぱる
・肛門がペタペタする
・肛門がテカテカする
・肛門ヒリヒリ病
・洗いすぎ切れ痔
・肛門に性病
といった悲惨な状態になっていることが往々にしてあります。ほかにも、下着に便がついている方や、肛門に紙がくっついている方までいらっしゃいます。これらは、お尻の洗いすぎが原因の場合があります。なぜ、お尻を洗いすぎると、さまざまなトラブルを引き起こしてしまうのでしょうか?
それは、お尻を洗いすぎると、「皮脂膜」がなくなってしまうからです。皮脂膜は、皮膚の表面を潤している天然の油分であり、とても重要な皮膚のバリア機能を担っています。
皮脂膜は外部から有害な物質を侵入するのを防ぐだけでなく、弱酸性のためバイ菌の増殖を防ぎ、皮脂膜の中にいる常在菌が肌を守ります。
また、皮膚の表面が皮脂膜という油分で覆われているので、皮膚内部の水分が蒸発せずにすんでいます。肌を守り、水分の蒸発を防ぐ皮脂膜は、洗いすぎると簡単になくなってしまいます。そのため、洗いすぎたお尻は免疫力が低下して、さまざまなトラブルを引き起こすのです。
皮脂膜がなくなると、皮膚の炎症がなかなか治まらず、ただれていきます。その結果、肛門周りに湿疹ができて真っ白になったり、炎症が慢性化・長期化して色素沈着が進み、皮膚が黒ずむこともあります。
さらに、メラノサイトというシミやホクロを作る細胞が活性化されて増殖するため、洗いすぎるとシミやホクロが増えたり、色素沈着を起こします。洗いすぎによる摩擦でプツプツ(稗粒腫)ができたり、乾燥を防ぐために過剰に皮脂が出てきてペタペタ・テカテカなお尻になったりするのです。
毎日、お尻を洗いすぎると、炎症が繰り返され、免疫力が低下した状態が続くため、皮膚組織から癌細胞が発生しやすくもなります。お尻のかゆみで悩まれていた患者さんが、実は皮膚癌だったというケースを何度も経験しました。
弊害が出始めたのは15年以上前のことですが、日本大腸肛門病学会で「温水便座症候群」という病名が提唱されました。これを受けて、医療の現場でも「お尻は洗いすぎないように」という指導方針に変わっています。
たかがお尻と思っていても、治らない症状や生死に関わる病気を発症してしまうことがあります。このようなお尻のトラブルを解消、予防するために、まずは以下のように「2週間、お尻を洗うのをやめてみる」ことが有効です。
・温水洗浄便座の洗浄機能を使わない
・お風呂で肛門に直接シャワーを当てない
・せっけんやボディソープで肛門近くを洗わない
・ボディスポンジやボディブラシ、タオルなどで肛門をゴシゴシこすらない
お風呂でのお尻の洗い方
お風呂でお尻を洗う場合は、手のひらでせっけんやボディソープを泡立てお尻(臀部)に優しくつけ(肛門にはつけない)、洗うときは手でお尻をなでるだけ。シャワーは、お腹や胸、背中、肩などに当てて流すだけで、お尻は十分キレイになります。
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皮膚科医としての経験と約10万人のお尻を診てきた経験から、ボロボロになった皮膚の炎症が治まり、皮膚が再生するのに必要な期間が、2週間でした。
「温水洗浄便座があるから何となく使っていた」という方は、お尻を洗うのをやめるのは、難しいことではないでしょう。しかし、今では、携帯型のお尻を洗浄する機器も出ているほど、「温水洗浄便座なしでは生きていけません」という方が多くいらっしゃいます。習慣となっている行動をやめるのは、簡単ではありません。
はじめは洗わないと気持ち悪いと感じたり、物足りなさを感じたりするかもしれません。ところが、「洗わないこと」を習慣にすれば、むしろ洗うことがストレスに感じるようになるのです。お尻のトラブルで悩んでいるのであれば、まずは、2週間だけでもお尻を洗うのはやめてみましょう。
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提供元:「温水洗浄便座で洗いすぎのお尻」が大変なワケ|東洋経済オンライン