2021.01.19
「植物肉」がコロナ禍で普及モードに突入の意外|大豆タンパク素材シェア1位の不二製油が牽引
油淋鶏風唐揚げなど、すべて植物性素材を使ったメニュー(記者撮影)
油淋鶏(ユーリンチー)風というその唐揚げは、噛むと柔らかい肉の繊維感がある。ほかに注文した棒々鶏風サラダとラザニアも、それぞれに入っている鶏肉とひき肉の食べ応えはお肉そのもの。事前に知らされていなければ、それらが大豆でできていることに気づかなかったかもしれない。
東京・有楽町の複合型店舗「有楽町micro FOOD & IDEA MARKET」。そこでは2020年11月下旬から2週間の期間限定で、肉のような食感を味わえる「大豆ミート」(粒状大豆タンパク)などを用いたメニューが提供された。
大阪市内の大丸心斎橋店に店舗を構える「UPGRADE Plant based kitchen」(アップグレードプラントベースドキッチン、以下アップグレード)とのコラボ企画だった。
国内シェア1位の大豆素材を活用
アップグレードを出店・運営するのは不二製油グループ本社。チョコレートやパンに使われる植物性油脂の大手で、食品メーカーなど主に企業向けに製品を販売している。業務用チョコレートのシェアは世界3位、国内で1位だ。
大阪心斎橋の大丸にある『アップグレード』の店舗(提供:不二製油)
大豆タンパク素材や大豆タンパク食品を製造販売する大豆加工素材事業も展開している。プロテイン飲料や肉の代替素材などに使われる大豆タンパク素材は国内シェア1位。アップグレードが提供するメニューは、それら自社素材を活かしたものだ。
不二製油がアップグレードを出店したのは2019年9月。直接販売する機会の少ない一般消費者を対象に、大豆肉をはじめとする植物性素材の認知を広げるという狙いがあった。期間限定とはいえ東京でも出店したのは、フードテックやSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、大豆ミートへの関心が高まってきたからだ。
不二製油のPBFS(Plant-Based Food Solutions)事業部門の小野育子氏は、「東京での出店は思った以上に反響が良かった」と明るい声で話す。丸の内ワーカーが男女問わず来店してくれたうえに、メーカーや外食関係者など販売先となる層も多く店を訪れてくれた。現時点で新たな出店予定はないと言うが、商談の機会が増えるなど一定の手ごたえを得たようだ。
植物性素材などで肉の代替品をつくる動きは、ここ数年アメリカを中心とした欧米で活発になっている。肉を食べないベジタリアンやビーガン(完全菜食主義者)の増加が背景にあるが、家畜の生育に比べて環境負荷が少ない点もニーズ拡大を後押ししている。
東京五輪の延期は痛かった
この流れを受けて、日本でも大豆ミートなどの植物肉を扱うメーカーや外食チェーンが増えてきた。例えばモスバーガーやロッテリアなどのハンバーガーチェーンは、近年相次いで大豆肉をパティに使用した商品を発売している。
訪日外国人の集客という観点からも、ベジタリアンや宗教上の理由から肉製品を避ける人たちのニーズを取り込むことはメリットがあった。ところが、このような取り組みが進む中でコロナ禍に見舞われた。
「2020年の東京オリンピック観戦や観光を目的とした訪日外国人の消費を見据えて、国内の食品業界では植物肉を使った商品やメニューが増えてきた。ところがオリンピックが延期になり、正直みんな困ったなと思った」
不二製油執行役員でPBFS部門長も務める鈴木清仁氏はそう振り返る。不二製油でも五輪開催に合わせ、大手ラーメンチェーンと共同で植物性素材のみを用いた豚骨スープの開発を進めていたが、商品化を延期している。
一方、コロナ禍はチャンスももたらした。健康志向が強まったことで植物性タンパク質が一層注目されることになったからだ。大豆タンパク質を多く含むなど栄養価が高いうえに、動物性タンパク質に比べると脂質が少ない点が好まれている。
コロナ禍以前から植物性タンパク素材の需要は徐々に高まっていた。日本植物蛋白食品協会によると、肉の食感を再現することなどに使われる粒状大豆タンパクの国内生産量は、2010年の2万3560トンから2019年には3万3297トンと1.4倍に増えている。
不二製油は昨年6月、千葉工場(千葉市美浜区)内に粒状大豆タンパクを製造する新工場を新設した(提供:不二製油)
不二製油は需要の高まりを受けて、2020年夏に大豆タンパク素材の新工場を稼働させた。受注は足元でも増える一方だという。
「2030年までに国内の植物性由来肉食品の市場を1800億円とし、(代表的な大豆由来食品である)豆腐の7~8割の市場規模になるよう育てていきたい」と、鈴木氏は意気込む。
普及に向けた課題は「味」
ただ、植物肉については「まずい」といった味へのマイナスイメージが根強く、「お店でメニューとして並んでいても、売れるというところまでは来ていない。より美味しくしていく必要がある」(鈴木氏)。また、加工しづらいといった課題も残る。
環境負荷の軽減という点では、「ハンバーガーなど肉を多く食べる欧米と比べて、豆腐など大豆食品が浸透している日本では植物肉などの代替肉を使うメリットがわかりにくい」(同)。日本において、欧米市場と同様の成長を見込むのは難しそうだ。
とはいえ、植物肉の認知が進んできたことは事実。2017年に日清食品がカップヌードルの「謎肉」に大豆が使用されていると公表するなど、いまや消費者への訴求に一役買う存在に変わった。食スタイルの1つとして日本に根付く日はそう遠くないはずだ。
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提供元:「植物肉」がコロナ禍で普及モードに突入の意外|東洋経済オンライン