2020.11.30
老舗が続々と閉店「住みたい街・吉祥寺」の変貌|ハーモニカ横丁など人気スポットも点在する
老舗のレストランが続々と閉店しています(写真:筆者撮影)
「住みたい街」の代名詞となっている東京・吉祥寺(武蔵野市)。2020年の「住みたい街ランキング(関東版)」(SUUMO)では横浜、恵比寿に続いて3位となっている。そんな人気の街もコロナ禍の直撃を受け、多くの店舗が閉店に追い込まれた。数十年にわたって営業を続けてきた老舗も例外ではない。
多くの人々に愛された店が、長い歴史の幕を閉じている。主だった店を挙げると、「コーキーズハウス」(22年間営業のアメリカンダイナー=4月閉店)、「芙葉亭」(33年間営業のフレンチ=5月閉店)、 「OLD CROW」(31年間営業のイタリアン=5月閉店)、「葡萄屋」(37年間営業の黒毛和牛のステーキ・しゃぶしゃぶなど=7月閉店)、「スパ吉」(17年間営業のパスタ専門店=8月閉店)、「金の猿」(23年間営業の和食ダイニング=12月閉店予定)。
思わずため息が出てしまう。「コロナ禍さえなかったら……」というのが関係者の共通した思いだろう。ある店にはこんな挨拶が掲示されていた。「ご愛顧ありがとうございました。 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、このようなご挨拶となってしまい、誠に残念ではありますが……」。
食べログの掲載店舗数も減少
吉祥寺にはさまざまな飲食店が軒を連ねている。大手グルメサイト「食べログ」で「吉祥寺 すべてのお店」で検索すると、総数は「1416件」となっていた(11月25日時点)。
口コミ投稿者がカウントした過去の吉祥寺の掲載店舗数を見ると、2020年1月1日時点では1680件となっている。それが9月1日時点では1367件へと、なんと313件も減っているのだ。
この激減ぶりはメディアでも報じられ、話題になったものだ。(ちなみに武蔵野市に確認したところ、市内の飲食店の総数は平成28年の経済センサスをベースに約1200軒と認識しているという)。
一方で11月に入り、食べログ掲載店舗数は1400件台まで回復しつつある。最近の新規オープン店舗をカウントすると、10月以降だけでも約20件の店がオープンしている。コロナ禍が最悪の状況を迎える中で、再び閉店する店が増えてしまう恐れはあるが、この街のリカバリー力というか、新陳代謝パワーはすごいものがある。
11月中旬の平日、午前中からお昼時にかけ、改めて吉祥寺の街を観察してみた。人混み中継の撮影スポットとなっている駅前のサンロード(アーケード商店街)の人波は少なめだ。
この商店街は全国チェーンのファストフードやドラッグストア、携帯ショップなどが多い。途中に禅寺があり、山門が接している。地域に溶け込んだ光景だ。
個性的なショップが展開しているのは東急百貨店の裏側のエリア。中道通りには実に多彩な店が軒を連ねている。ビストロ、アジアンフードレストラン、抹茶専門店、こだわりの食材専門店、豆乳とおからを使ったドーナツ店、中古アウトドア用品店、高知の印刷会社がはじめた紙の雑貨店、地元・武蔵野市と友好都市9市町村の生鮮物、特産物を扱うアンテナショップなど、歩くたびに新たな発見がある愉快な商店街で、女性客の姿が多い。
井の頭公園に向かう一帯も人気エリア
そして吉祥寺駅北口駅前にあるハーモニカ横丁(通称・ハモニカ横丁)も忘れてはならない。入り組んだ細い路地に小さな飲食店、鮮魚店、雑貨店など100軒ほどの店がひしめく。
飲み屋は、立ち飲み屋、赤提灯系、カフェ、バルなど雑多。手ごろな料金で楽しめるスポットだけに、若い人たちの姿も多い。訪れたときは日中だったため、多くの店は閉まっていたが、煌々と灯りをつけて営業している店も。ディープなスポットだ。
さまざまな飲み屋が集まるハーモニカ横丁(写真:筆者撮影)
吉祥寺駅の公園口から井の頭公園に向かう一帯も人気エリアで、いつも多くの人々で賑わっている。
また、駅から東に中央線沿いに延びる通りには、漫画出版社グループが経営するカフェがあり、アニメファンに人気だ。
編集者がライターと打ち合わせしているシーンに遭遇したこともある。新たな情報発信エリアになりつつあるようだ。
吉祥寺界隈暮らしが長い筆者は、この街を長年見続けてきたが、この数十年で街は大きく変貌した。少々古い話になるが、かつて吉祥寺には何軒もの百貨店が存在していたが、今も営業を続けているのは「東急百貨店(吉祥寺店)」のみである。
1971年にオープンした「伊勢丹吉祥寺店」は2010年に38年間の歴史に幕を下ろした。1974年に開店したのは、関西系の「東京近鉄百貨店(1983年に近鉄百貨店東京店に改称)」だ。2001年に閉店し、同年、「吉祥寺三越・IDC大塚家具ショールーム」が開店したが、2006年に閉店。その後は「ヨドバシ吉祥寺」となっている。
新宿に近いため、百貨店の商圏としてはかぶってしまうのだろうか。大型店舗の長寿組は1960年に開店した「丸井吉祥寺店」。リニューアルを繰り返しながら、60年間にわたって営業を続けている。
百貨店が消えていく一方で進出してきたのが、さまざまな大型商業施設。2013年には「無印良品」の跡地に「ドン・キホーテ吉祥寺駅前店」が開業し、2014年には「ユニクロ吉祥寺店」(売り場面積800坪)がオープン。そして駅ビルも大きく姿を変えた。
JR吉祥寺駅にあった商業施設「吉祥寺ロンロン」は2010年に「アトレ吉祥寺」に生まれ変わった。京王吉祥寺駅ビルには、かつて「ユザワヤ吉祥寺店」が出店していたが、2014年にビルを新築し「キラリナ京王吉祥寺」が誕生した。
そして「吉祥寺パルコ」の地下にあったブックセンターがなくなり、2018年に5つのスクリーンを備えたミニシアターコンプレックス「アップリンク吉祥寺」がオープンした。大型商業施設だけみても、実にさまざまな形での変貌を遂げてきたのである。
来街者調査の興味深い結果
新旧の店、エリアが混在する街、吉祥寺には、いったいどんな人々が、何を目的に集まってきているのだろうか。一般財団法人 武蔵野市開発公社がまとめた「吉祥寺駅周辺来街者行動実態調査報告書」(調査日:2019年9月18日=平日、10月14日=祝日)を見てみよう。
回答数は平日258件、休日241件で合計499件。ともに女性が7割以上となっている。年代(平日)は10~30代が全体の24.8%、40~50代が31.0%、60代以上が44.2%で、調査回答者に限った年代とはいえ、高齢者が多いのは意外な感じがするが、実際、街中を歩いても若い人だけが多いという雰囲気でもなかったから、そんなものなのだろうか。
いくつかの興味深い結果を抜粋しよう。
【滞在場所(平日)】(1)アトレ17.8% (2)その他小型・個店14.9% (3)キラリナ12.2% (4)サンロード9.4% (5)コピス吉祥寺8.6%
【滞在場所(休日)】(1)アトレ16.0% (2)コピス吉祥寺15.6% (3)その他小型・個店11.6% (4)キラリナ11.1% (5)サンロード、東急百貨店8.1%
【滞在目的(平日)】(1)食料品・日用品の買い物39.1% (2)ウインドウ・ショッピング12.8% (3)食事10.4% 【滞在目的(休日)】(1)食料品・日用品の買い物34.8% (2)趣味・雑貨の買い物13.0% (3)ウインドウ・ショッピング12.4%
【平均消費金額(平日)】2186円(1場所当たり)5632円(1人当たり) 【平均消費金額(休日)】 2592円(同)7863円(同)
【印象的な場所(平日)】(1)アトレ40件 (2)その他小型・個店33件 (3)キラリナ、コピス吉祥寺20件 【印象的な場所(休日)】 (1)アトレ47件 (2)東急百貨店29件 (3)コピス吉祥寺28件
【同伴者(平日)】 (1) ゼロ(単独行動)81.0% (2)1人(2人で行動)17.1% 【同伴者(休日)】 (1) ゼロ(同)72.2% (2)1人(同)24.1%
【現在の居住地(平日)】 (1)武蔵野市31.0% (2)三鷹市19.0% (3)杉並区16.7% 【現在の居住地(休日)】 (1)武蔵野市27.0% (2)三鷹市24.9% (3)杉並区15.8%
駅ビル、エキナカ施設や大型商業施設への訪問者が多いのは当然だが、個性あふれる個店への愛着ぶりがわかる。意外なのは単独行動が圧倒的に多い点である。日常生活の一環としてのショッピングが多いということなのだろうか。
来街者のうち、市内在住者は全体の3割程度。残りは市外だが、大半が隣接する三鷹市や杉並区、練馬区などであり、「地元度」はかなり高い。東京都外からの来街者は平日5.8%、休日4.1%にとどまっている。報告書は「23区北西部や多摩地域東部において、生活の中心地の1つになっていることがうかがえる」と分析している。
「住みたい街」はどう変わっていくのか
来街者調査を見る限り、吉祥寺の街は観光客やインバウンドで賑わってきた原宿や、韓流人気で若い女子たちが集まる新大久保などとはまったく街の性格が異なる。たしかに吉祥寺でも若い人たちを多く見かけるが、中高年も多い。
残念ながら多くの老舗がコロナ禍で閉店となってしまったが、それでも40年以上続くジャズクラブの名店「SOMETIME」や、幅広い世代の人に愛されている焼き鳥の「いせや総本店」など健在の店も多い。
市街地から歩ける範囲に井の頭公園や井の頭自然文化園(動物園)といった緑豊かな自然エリアがある点も大きな魅力だ。子どもたちに大人気の宮崎アニメの世界を堪能できる「三鷹の森ジブリ美術館」(三鷹市=現在メンテナンス休館中)も、バスですぐの距離にある。
武蔵野市観光ガイドは、ワンデートリップとして3モデルを紹介している。①マンガ・アニメの聖地巡礼 ②緑あふれるスポット巡り ③仲良し親子の公園・動物園めぐりーー。駅から半径300メートルのエリアの中で、シニアも若者も子どもも、いろんな世代がそれぞれの楽しみ方をできる街といっていい。
コロナ禍の深刻化で飲食店に限らず厳しい経営状況が続く店が多いと思うが、何とか乗り切って、吉祥寺をますます魅力的な街にしていってほしいものである。吉祥寺や井の頭公園などを舞台に、中村雅俊や田中健が大学生を演じた青春ドラマ『俺たちの旅』(1975年~76年)の放映から半世紀近くになる。当時ドラマを観ていた若者はすでに60代以降。そんなオールド吉祥寺ファンも、気になる街の変貌と進化を見守り続けている。
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提供元:老舗が続々と閉店「住みたい街・吉祥寺」の変貌|東洋経済オンライン