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2020.11.25

浸かるだけで体をキレイに「夢のお風呂」の値打|こすって肌を傷めずとも小さな泡が汚れ落とす


“人間洗濯機”を目指したお風呂の秘密とは?(写真:NHK大阪拠点放送局)

“人間洗濯機”を目指したお風呂の秘密とは?(写真:NHK大阪拠点放送局)

身体をゴシゴシこすらなくても、浸かるだけで身体中の汚れが落ちるとされるお風呂をご存じだろうか。
直径0.1mm未満の泡(ISO国際標準規格)の“ファインバブル”というミクロの泡が肌のすみずみまで老廃物を取り除き、健康的でつややかな美肌にしてくれる。「わが家のお風呂がエステになる」、それがうたい文句だ。
このお風呂を開発したのは、大阪市淀川区に本社を構える「サイエンス」(2007年設立)。ファインバブルの技術を取り入れた浴槽やシャワーヘッドで業績を伸ばしている。
ファインバブルは、泡の大きさによって「マイクロバブル」「ウルトラファインバブル」に分類される。通常、水の中でできる気泡と比較しても極めて小さく、負電位のため、微小な汚れを吸着して水面に浮上させる性質を持つとされる。
ファインバブルをつくる技術は、日本が世界的にリードしており、その機能や効果はまだ解明中である一方、その特性から水質浄化や医療分野に応用が可能な技術としても大きな注目を集めている。
NHK大阪拠点放送局が制作する「ルソンの壺」は11月22日の最新放送回(関西地域で7時45分~8時25分放送)において、サイエンスと京都市下京区のレンタル絵画のベンチャー企業Casie(2017年設立)を取り上げた。そのうち経済ジャーナリストの三神万里子氏と狩野史長アナウンサーによる、サイエンスの青山恭明会長へのインタビューを、番組本編に収まりきれなかった部分も含めてお届けする。

「ルソンの壺」 ※外部サイトに遷移します

ただ娘を救いたい一心で

狩野 史長(以下、狩野):

入浴装置の分野に参入したきっかけは?

青山 恭明(以下、青山):

私の三女が生まれたときから重度のアトピー性皮膚炎を患っていて、水道水に含まれる塩素が入浴などで肌に吸着しアレルギー反応を起こしてしまうため、身体をこすって洗うことができないということがありました。

そんなとき、偶然テレビで「小さな泡を使って洗う」という半導体の洗浄工程を見たときに、はっとしました。

同時に50年前の万博を思い出して、例えば同じ理屈で小型化してお風呂をつくれば、“人間洗濯機”ができるのではないか。お湯に浸かっているだけで娘の身体をきれいにしてやれるのではないか、と思いました。

娘の問題を解決することができたら、同じように苦労されている方のお役に立てるのではないかと思ったのです。

浄水器を家のおおもとにつける“浄水システム”を開発し、お風呂にためるお湯もシャワーのお湯も、すべて塩素がない状態の“いいお水”を出すという装置の開発が、わが社のスタートでした。

三神 万里子(以下、三神):

私はてっきりファインバブルの技術がはやっているから参入したと思っていたのですが、そうではなかったのですね。一方で、レストランの食器洗浄用にノズルだけ換えればいいという、すごくやりやすい商品が世界的なヒットになっていたのに、サイエンスはなぜいきなり浴槽から始めたのでしょうか。

青山:

私には、商品開発において絶対譲れないコンセプトがあります。世の中のすべての人が、毎日使うもの以外はやりたくないということです。お風呂はほぼすべての人が入ります。その浴槽で本当に肌を傷めずにきれいに洗えたら、すべての人に喜ばれる。極端なことを言うと、すべての人がマーケットになるのです。

日本人の入浴習慣を根本から変えていく

三神:

ただ、もともと「洗い場で体を洗って、浴槽内はきれいに保ちたい」というのが日本の入浴習慣ですから、ここの習慣を変えなきゃいけないワケですね。

サイエンスの青山恭明会長(写真:NHK大阪拠点放送局)

サイエンスの青山恭明会長(写真:NHK大阪拠点放送局)

青山:

はい。「身体をきれいにすることは、こすって肌を傷めることではなく、浴槽に浸かってきれいにすることが、本当の意味できれいになる」というように、日本人の文化や習慣を根本から変えていくことを、当時のメンバーと誓い合いました。

三神:

もともと青山さんは営業マンだったそうですね。その青山さんが技術者の着想で開発をする際、どんな会社と協力したらいいのか、どんな技術が正しいかなどを見抜くノウハウはお持ちではなかったのでは?と思いますが、どのようにアプローチをされたのでしょうか。

青山:

『マイクロバブル年鑑』という10万円近くする分厚い本を購入し、ファインバブルを研究している企業や、大型プラントに活用する製品を開発している会社に、片っ端から連絡を入れました。当時は、一般家庭用の民生品として、その技術が使われているものはまったくなかったので、自分が思い描いている浴槽の開発について一生懸命語っていきました。ところが、まったく相手にしてもらえなかった。

三神:

興味すら示されなかった?

青山:

はい。「何を言っておられるのか」というような感じでした。

三神:

日本では一般的に、会社が作れるものや作りたいものを基準にして商品開発を行う「プロダクトアウト」というスタイルが使われますが、本来はマーケットを見なければいけない。顧客の意見やニーズをくみ取って製品開発を行う「マーケットイン」という、逆のアプローチに対して扉を開かないと市場は大きくなりません。青山さんの着想はまさにマーケットインなのに、それに乗っかる企業がなかなか見つからなかったんですね。

青山:

絶対に諦めきれませんでした。お風呂に浸かっている娘が、「きれいになったよ! パパ」と喜んでいる姿を思い浮かべ、それを実現したかったのです。

三神:

突破口になったのは?

青山:

50社ほどの会社に連絡し、あと1社、2社くらいしか声をかけられる会社が残っていないというところで、運命だと感じる出合いがありました。

長崎の大型プラントをやっている企業の取締役技術本部長の担当者が、「自社の技術を応用して小型化したものに挑戦するべきだ」という考えを持っていたのです。私は自分の思い描いていた夢を語り、初めて「1回やってみますか」という言葉をいただけました。天にも昇るような思いでした。

サイエンスはシャワーヘッドも展開している。NHK「ルソンの壺」は関西の“キラリと光る”企業や団体を取材し、ビジネス成功の秘訣を伝える番組。最新回は11月22日(日)、NHK総合の関西地域で7時45分~8時25分放送です(写真:NHK大阪拠点放送局)

サイエンスはシャワーヘッドも展開している。NHK「ルソンの壺」は関西の“キラリと光る”企業や団体を取材し、ビジネス成功の秘訣を伝える番組。最新回は11月22日(日)、NHK総合の関西地域で7時45分~8時25分放送です(写真:NHK大阪拠点放送局)

NHK「ルソンの壺」 ※外部サイトに遷移します

狩野:

自分の思い描いていた夢を先行させてアプローチできたのは、営業職という、これまでの経験が生かされたのでしょうか。

青山:

はい。結局は何のために物を売るのかと言うと、「お客さんの喜んだ姿を見たい」。ただそれだけです。

冬場の寒いときを思い浮かべてください。浴室に入ったら早くお湯に浸かりたいとなるものの、浴槽が汚れないように、我慢しながら体を洗っている人は少なくないでしょう。それが、洗う時間を省いてすぐにお湯にぱっと浸かって、それだけできれいになれる。夢みたいな話じゃないですか。

これは絶対に喜んでもらえる。身体を洗う手間もなくなるし、浸かるだけでエステを受けたような状態になります。すべての人に喜んでもらえるモノを、早く世の中に届けたいと思っていました。

「怪しげなもの」のイメージを取り除くには

狩野:

開発を始めてからおよそ4年。2009年、ついに販売にこぎ着けました。営業先の反応は?

青山:

大ヒット間違いなしと営業をかけまくりましたが、「怪しげなもの」と言われて、まったく相手にされませんでした。

今でこそ、ISO化(国際標準化機構:International Organization for Standardization)されて国際的に標準化されていますが、当時は、何ミクロンの泡を何バブルと呼ぶのか、基準もエビデンスもない状態でした。そのため、「大学の教授の推薦はないの?」と言われることもあり、用意してもデータ説明をしっかり聞いてもらえないのです。

三神:

基準がない時代に売り込むという非常にリスキーなことをされたんですね。データも見てもらえないなかで、どうされたのでしょうか。

青山:

汚れがどのように落ちるか実感してもらうには、「データよりも体感する以外方法はない」という結論に至りました。

装置をつけたベビーバスくらいの大きさの浴槽を持参し、「だまされたと思って5分間、ここに片手を入れてください」と言って、片手を入れてもらいます。その間に原理を説明し、5分後に手を出して拭き取ってもらい、反対側の手と見比べてもらいます。手がつるつる、しっとりとしているのを実際に体感してもらうのです。

スタジオに招いた青山会長(写真右)に三神万里子氏(中央)と狩野史長アナウンサーが聞きました(写真:NHK大阪拠点放送局)

スタジオに招いた青山会長(写真右)に三神万里子氏(中央)と狩野史長アナウンサーが聞きました(写真:NHK大阪拠点放送局)

自分で体感したことはうそがないので、疑いが強ければ強いほど反動も大きく、真剣に聞こうという姿勢を持ってもらえるようになりました。

今は住宅メーカーやマンションデベロッパーなどが供給する住宅に標準で採用されているケースがあります。分譲販売する場合は必ずモデルルーム、モデルハウスで浴槽を設置しています。

そこで、極端な話、「当社の住宅にはバスルームはありません」ぐらいのことまで言ってもらっています。お客さんは「えっ? お風呂ないの?」って驚かれるのですが、「ゴシゴシ洗う洗い場はございません。私どもの住宅はエステルームをご用意させていただきました」って言うんです。

それでモデルルームやモデルハウスに備え付けた体感機を試してもらいます。皆さんびっくりされて、それだけで住宅の購入を決めてしまうお客さんもいらっしゃるほどです。極端な言い方をすると、自分たちのショールームがたくさんできたようなものです。

「このマンション(住宅)に住めば、あの装置の付いたお風呂でリラックスができてきれいになれる」ということを知って訪れるお客さんが、この10年でかなり増えました。当社の製品を扱っている、年間2000戸マンションを分譲している大手ハウスメーカーは、13年で数万個にも上る当社の商品を導入してくれています。

ファインバブルの未知の可能性

狩野:

「ファインバブル」はほかにどのような分野で活躍が期待されていますか。

青山:

当社ではありませんが例えば、高速道路のサービスエリアのトイレ洗浄に、ウルトラファインバブル水が使われています。昔は臭かったサービスエリアのトイレですが、ウルトラファインバブル水を使ったトイレではほとんど臭いを感じません。

また、業務用のマヨネーズのメーカーがファインバブルを封入して作ったところ、通常は酸味が立つのに、まろやかな味になりました。洗濯機にも業界初のウルトラファインバブル機能洗濯機が開発されるなど、いろんな分野で出てきています。

われわれは唯一のファインバブル専業メーカーといっているので、民生品だけではなく、医療、農業、水産、工業用洗浄など、ありとあらゆる分野に進出していきたいと考えています。

三神:

さまざまな分野の可能性の原理や効果効能の解明が固まる前に、試験的に始めているという印象です。

青山:

はい。シャワーヘッドの技術を応用して、某大学の食マネジメントの教授と共同実験を行いました。

ファインバブル水で料理して美味しくなったら最高ですよね。

安いお米と、高級だと言われているお米を用意し、一般の水で高級なお米を、ファインバブル水で安いお米を炊いておにぎりにして食べ比べをしたところ、全員が間違えました。感覚的なものでは人それぞれ好みがあるので、全部数字やデータで出しました。

すると、水をファインバブルにすることでお米の硬度が変わり、浸透率が高いため、粘り気が変わることがわかりました。お米はでんぷんなので、甘みを強く感じるようになるという結果が出たのです。

環境保全の観点でもインパクト

三神:

洗浄のときに水の量が減る、調理のときに使うエネルギーが少量・短時間でうま味が深まる、洗剤を使わなくても洗浄できる、などということができるようになれば、環境保全などのありとあらゆる分野でインパクトがありますね。

ファインバブルはさまざまな可能性を探って研究が進んでいる。NHK「ルソンの壺」は関西の“キラリと光る”企業や団体を取材し、ビジネス成功の秘訣を伝える番組。最新回は11月22日(日)、NHK総合の関西地域で7時45分~8時25分放送です(写真:NHK大阪拠点放送局)

ファインバブルはさまざまな可能性を探って研究が進んでいる。NHK「ルソンの壺」は関西の“キラリと光る”企業や団体を取材し、ビジネス成功の秘訣を伝える番組。最新回は11月22日(日)、NHK総合の関西地域で7時45分~8時25分放送です(写真:NHK大阪拠点放送局)

NHK「ルソンの壺」 ※外部サイトに遷移します

青山:

はい。“持続可能な開発のための2030アジェンダ”を前に、2025年の大阪・関西万博を目の前の目標として、世界の人々に私どもの技術を見てもらい、世界に貢献していきたいと考えています。

三神:

ファインバブルの世界は、きれいに、環境保全型で洗わなければいけないということが肝です。その突破口が動き出していますね。

狩野:

未来がありますね。

青山:

これは世界に貢献できる日本発信の技術だと自負しています。日本国内だけでなく、世界にはアトピーに苦しんでいる方はたくさんおられます。その方々の役に立てることがいちばんです。

人の生活そのものが、より便利でより環境に優しく、心の底からうれしいと喜んでいただける形に展開していきたいという夢は尽きないです。

(構成:二宮 未央/ライター、コラムニスト)

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