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2020.10.23

藤井聡太の人気を将棋界が生かし切れてない訳|大スターを最大限に生かす経済効果を考える


もともとそれなりに裾野が広いだけにもっとポテンシャルがありそうだ(写真:森田直樹/アフロ)

もともとそれなりに裾野が広いだけにもっとポテンシャルがありそうだ(写真:森田直樹/アフロ)

高校2年生、17歳にして、第91期ヒューリック杯棋聖戦で「棋聖」を獲得し、その翌月には第61期王位戦を制して「王位」を獲得した藤井聡太2冠。閉塞感漂うコロナ禍の中で数少ない明るい話題といっていいだろう。

しかも、将棋という日本独自の世界で、前人未到の業績を日々更新している。まさにスーパースター誕生と言っていいかもしれない。

藤井2冠の活躍による将棋界の恩恵は極めて大きなものであり、それまでの地味で、一部の高齢者向けのマニアックな世界と思われていた将棋界が、一気にメジャーで注目を浴びる世界に変わってしまった。

スポーツ専門雑誌『Number』の特集にもなるような高校生スター棋士が現れたことは、少なくとも将棋界に計り知れない経済効果をもたらすと誰もが思うはずだ。

だが、将棋界はきちんとその「効果」を生かし切れているのだろうか……。

これまでも話題になったのは「扇子」や「クリアファイル」といったグッズ販売、ワイドショーなどで取り上げられる際に話題となる「勝負飯」くらいなものだ。2冠になってからも、棋聖戦での一戦で書いた「封じ手」がオークションにかけられて、高額で落札されたことが話題になったが、その金額も将棋の世界では画期的かもしれないが、プロのアスリートなどと比較するとまだまだ小さい。

なぜ、将棋の世界は藤井2冠という大スターを生み出した環境を生かせないのか……。その背景には、長年続いた将棋のタイトル戦を牛耳る大手新聞社などの体質と関係があるともいわれる。

藤井2冠という歴史に残るスターが話題になる中で、こうしたスターを巡る「経済効果」について考えてみたい。

将棋人口は700万人?空前の将棋ブームは来るのか?

ところで藤井2冠を巡る話題に入る前に、将棋界の現状についておさらいしておこう。そもそも「将棋人口」とはどの程度あるのだろうか。

15歳から79歳までが対象の『レジャー白書』(日本生産性本部)によると700万人(2018年)となっている。藤井聡太のように4歳から将棋を始める子どもが少なくないことを考えると、一説には「1000万人市場」とさえいわれる。

2016年の総務省の社会生活基本調査によると、10歳から75歳以上の「行動者率調査」では、将棋の行動者率は3.2%、363万3000人。社会生活基本調査というのは、簡単に言えば国民が自由な生活時間を何に費やしているのかを調べたもの。1976年の第1回調査以来、5年に1回の頻度で調査が行われている。

レジャー白書の数字と大きく異なるのは、将棋を指す機会の頻度はともかくとして、少なくとも駒の動かし方とか、ルールぐらいは知っているという人は非常に数多いといっていいだろう。

ちなみに、囲碁人口は210万人(2018年、レジャー白書)、麻雀が580万人(同)。将棋と近い参加人口のスポーツを見てみると、バドミントン、登山が共に680万人(同)、ゴルフ練習場660万人(同)となっている。

将棋と似たような環境の麻雀や囲碁と比較すると、将棋はもともと一歩抜きんでた娯楽といっていい。ただ、囲碁は漫画・アニメ「ヒカルの碁」の大ヒットによって、一時的に大きな話題となったものの、囲碁人口を大きく増やし、市場規模を拡大させるには至らなかった。

ただ囲碁は将棋と異なり、中国、韓国と共通の競技であり、囲碁人口は世界で3600万人(世界の推定囲碁人口、日本棋院HPより、中国2000万人、韓国900万人)とも言われる。その点、将棋は日本独自のものであり、将棋は世界進出の余地が残っているとも言える。

さらに、チェスや囲碁と異なり、将棋はとった駒を自分の駒として生かせるルールのため、極めて複雑なゲームとなっており、AI(人工知能)もまだ人間の知能を凌駕できていないといわれる。 

人間同士の戦いに加えて、「AI対人間」という新しいカテゴリーで、世界中のだれもが参加して競うことができるオンラインゲーム「Eスポーツ」に発展させることも可能だ。

藤井聡太がもたらした経済波及効果とは?

さて、 藤井2冠の経済効果を試算するのは、そう簡単なことではない。周知のように、2016年10月に最年少棋士として15歳でデビューした藤井2冠は、加藤一ニ三・九段との初戦を端緒に、破竹の29連勝を達成し「藤井フィーバー」と言われた。

29連勝した時点で、日本将棋連盟(以下、連盟)はその広告効果を「185億円」相当に上ると発表している。テレビや新聞、ウェブ等で取り上げられたものを換算すると、ざっと185億円に達したとされている。確かに発売された公式扇子は即日完売し、各地の子ども向け将棋教室も昨年比で4割増の参加者となり、そのフィーバーぶりが話題になった。

とはいえ、扇子は2263円(税込み)、続いて販売されたクリアファイルも324円(同)、第3弾となったジグソーパズルも1620円(同)という具合に、いずれも少額だ。本気で経済効果を狙っているとは思えないが、29連勝のときは予期せぬ出来事で一気に偉業を成し遂げてしまったために、準備不足という面もあったのかもしれない。

あれから約3年が経過し、さまざまな意味で準備期間があったはずだが、連盟やタイトル主催者たちが、本気で藤井2冠の経済効果を狙いにいったとも考えにくい部分がある。

スポーツ雑誌『Number』でも取り上げられたように、将棋の棋士はある意味でアスリートと言っていい。そういう意味では、もっと棋士1人ひとりの収入が高くてもいいし、タイトル戦の賞金も高くていいのではないか。その実力を全体的にもっと高く評価できる環境、体制作りを急いでいいような気がする。

例えば、2019年の賞金・対局料ランキング1位は豊島将之名人・竜王(当時)で7159万円(日本将棋連盟発表)、藤井七段(当時)は2108万円で9位となっている。この金額は、プロ野球選手やプロサッカー選手などと比べて、おそらく1ケタ違っているし、また海外と比べるとく2ケタ違っていると言っていい。

将棋界で、これまでの最高は、7冠を同時に保持した羽生善治九段が1億1900万円(2015年)だったとされる。昨年、日本人として初めて全英女子オープンで優勝した女子プロゴルファーの渋野日向子は、全英オープンの賞金だけで67万5000ドル(約7150万円)を獲得している。現実に、将棋の7大タイトル中、4つは賞金額が1000万円未満といわれる。

こうしたアスリートや棋士の賞金や収入というのは、その競技の市場規模や観客動員数、グッズなどの販売額、テレビの放映権料等よって賄われる。市場規模が大きく、観客動員能力が高く、高額な放映権料などが期待できれば、アスリートやプレーヤーの収入も高くなる。

まさに経済効果の高い競技ほど、その競技者にも高い報酬を支払うことができるわけだが、観客動員数とか放映権料といったものはアスリートやプレーヤーの頑張りだけではどうしようもない部分が多く、その競技の運営者側に大きな責任がある。

日本では、アスリートやプレーヤーに支払う報酬は、海外に比べると少ないといった批判が以前からあった。アスリートやプレーヤーの経済効果を最大限に発揮できていないのではないか、という指摘があるのも頷けるわけだ。

経済効果の計算方法とは?

そもそも、経済効果は正確には「直接効果」と「波及効果」に分かれる。直接効果とは、例えば藤井2冠が大きな会場で対局を行い、その会場に数多くの観客が押し寄せた場合、そのチケットの売り上げなどが相当する。キャラクターグッズなどの販売も直接効果といっていいだろう。

一方で、その入場者の交通費や報道機関の交通費、飲食代、雑費等は波及効果になる。要するに、将棋界の経済効果を計算するときには、将棋の世界だけの計算ではダメで、それに付随するさまざまな産業や企業の経済波及効果も計らなければならないということだ。

こうした経済波及効果を計るものの1つとして、総務省が5年ごとに作成・公表している「産業関連表」がある。これに基づいて経済波及効果を算出することになっている。詳細は総務省のホームページにも出ているが、専門家でなくとも経済効果の概算を算出できるようになっている。

もっとも、経済効果の算出方法は同じ事例でも波及効果をどこまで考えるかによって試算の結果は大きく異なってくる。また総務省の作業管理表は5年に1回しか作成されないために、タイムラグが発生する場合もある。

ちなみに、最近の経済効果で話題になったのは、2019年に日本で行われたラグビーのワールドカップや2020年の東京五輪開催の経済効果だろう。

●ラグビーワールドカップ2019

経済波及効果は総額では6464億円。ワールドカップ史上最高のチケット完売率や訪日客による消費支出の経済波及効果、12の開催都市での経済効果などを生み出している。ラグビーワールドカップ史上、過去最大の経済効果であると言われている

●東京五輪

当初発表された試算では、約3兆円(東京都試算、2012~2020年)から32兆円(東京オリンピック・パラリンピック準備局、2013~2030年)という幅の広いものとなったが、新型コロナで1年延期されたことで、様相は大きく変わってしまった。もともと、オリンピックのような大型すぎるスポーツイベントは経済効果を生むことはなく、むしろ経済的な負担になるという説もある

野球やサッカーなどの経済効果は?

ワールドカップや五輪といった国際的なイベント以外で見てみると、プロ野球やサッカー、バスケット、卓球といったプロリーグの概要は次のようになっている(日本政策投資銀行地域企画部「スポーツの価値算定モデル調査」より、2020年3月)。数字は2019年現在。

●NPB(野球)

12チーム、公式試合数858、1試合平均観客数2万9779人、営業収益:非公開

●J1リーグ(サッカー)

18チーム、公式試合数306、1試合平均観客数1万9872人、営業収益734億円

●Bリーグ(B1バスケ)

18チーム、公式試合数540、1試合平均観客数3025人、営業収益145億円

●Tリーグ(卓球)

男子4チーム、女子4チーム、公式試合数共に42、1試合平均観客数1186人、営業収益:非公開(数字は2018〜2019年)

規模が大きいプロサッカーであっても、営業収益は734億円となると、やはり日本のプロスポーツビジネスの規模は小さいとしか言えないだろう。英国のプロサッカーとの市場規模を比較すると次のようにざっと5倍の格差がある。

●日本……937億円(2016年)

●英国……4674億円(同)

ちなみに、新型コロナウイルスによる「経済損失」とはどんなものなのだろうか。経済効果の反対で「負の経済効果」とも言える。例えば、東京五輪は1年延期されたことで6408億円、中止の場合は4兆5151億円というシミュレーションが関西大学から発表されている。

コロナ禍による各種のイベントが、今年の3~5月に相次いで中止に追い込まれたが、その間の経済効果(損失)をシミュレーションした数字も発表されている。いくつかの代表的なものを紹介すると次のようになる。日本政策投資銀行「新型コロナウイルス感染拡大によるイベント等自粛の経済的影響について」(日本経済研究所)より。

●プロスポーツ

2688億円(プロ野球、プロサッカー、プロバスケの合計、日本政策投資銀行調べ)、直接効果の経済損失は1385億円

●音楽イベント、文化イベント

9048億円(音楽ライブ、ミュージカル、演劇等、同)、直接効果の経済損失は4822億円

●フェスティバル

1兆7411億円(自治体等が主催するイベント、同)、直接効果の経済損失は9160億円

●MICE

1109億円(国際会議、見本市、展示会等、同)、直接効果の経済損失は580億円

わずか3カ月で、計3兆256億円。直接効果の経済損失も1兆5947億円に達すると試算している。緊急事態宣言による影響がいかに大きいかがわかる数字と言っていいだろう。当然、この中には将棋のイベントなども入っているわけだが、残念ながら詳細な数字は公表されていない。将棋界もまたコロナ禍の影響は大きいのかもしれない。

スポーツビジネスに学ぶ将棋界の活性化!

もともと日本のスポーツビジネス市場は、プロ野球やJリーグなどスポーツ全体で10兆9000億円程度(2020年、スポーツ未来開拓会議)と試算されている。こうした現状の中で、2012年には全体で5兆5000億円だったスポーツ関連市場を、2025年までに15兆円にまで拡大させようということが「日本再興戦略2016」で目標として提示された。

しかし、アメリカや中国のスポーツ市場とは比較にならないほど小さい。例えばアメリカは50兆円(2015~2016年)、中国も約10兆円(同)と言われており、中国では2025年までに100兆円を目指すとさえ言われている。

実際に世界のスポーツビジネスの市場規模は順調に成長を続けており、例えば2009年から2013年の4年間で世界のスポーツイベントの収入は584億ドルから760億ドルに増加したとされる。

日本の経済成長を目指すうえで、観光立国になることばかりがクローズアップされてきたが、その一方でスポーツイベントに対する関心が世界的には広まっており、ちょっとした工夫でスポーツビジネスは巨大な産業になると言われている。

将棋の世界もプロスポーツの世界も構図はあまり変わらない。どうすれば、経済効果の高いビジネスを展開できるのか、という意味ではともに同じ課題を抱えていると言っていい。

日本の場合、戦後形成された新しい仕組みによって、スポーツも、将棋も、さまざまなしがらみに支配されてきた。例えば、プロ野球の世界もかつては読売ジャイアンツのような新聞社系や阪神タイガースなどの交通系企業などによって運営されていた。しかし、時代の変化とともにそのオーナーも様変わりしていったことはよく知られている。

ちなみに、プロ野球球団はどんなに赤字になっても、その親会社は「広告費」として損失を処理できるという税制上の優遇制度がいまだに残っていることを知る人はあまりいない。「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」と題された、昭和29(1954)年8月10日付の通達に基づいたものだ。

一方、将棋には「7大タイトル」と呼ばれる以前からあるタイトル戦があるが、それらがすべて大手新聞社や通信社の主催になっている。

●竜王戦……読売新聞
●名人戦……毎日新聞、朝日新聞
●王位戦……新聞三社連合(北海道新聞、中日新聞、西日本新聞)、神戸新聞、徳島新聞)
●王座戦……日経新聞
●棋王戦……共同通信
●王将戦……スポニチ、毎日新聞
●棋聖線……産経新聞

2015年からは、ここに「ドワンゴ」が主催する「叡王戦(えいおうせん)」が加わり、8大タイトルとも言われている。さらに、タイトル戦以外にも、朝日杯将棋オープン戦、銀河戦、NHK杯戦、将棋日本シリーズ、新人王戦、YAMADAチャレンジ杯、加古川清流戦、AbemaTVトーナメント、電王戦など一般公式戦が、年々徐々に増えつつある。

もともと日本将棋連盟は、「AI」との対局などさまざまなイベントを展開し将棋人口の増加につとめてきたが、それ以外にも1日に3局まで無料でインターネットやスマホで対局できる無料アプリ「将棋ウォーズ(HEROZ)」を公認している。幅広い参加者と自由に対局ができ、その成績によって日本将棋連盟公認の段や級を取得できる「段級位認定システム」が導入されている。

利用者数は、公称で360万人(2020年2月現在)。2014年の120万人から3倍に増えている。将棋好きにはたまらないアプリだが、持ち時間10分という高齢者を無視した運営法には批判もある。

プロスポーツを参考にすればもっとできることはある

藤井2冠の登場によって、将棋全体の人気度が高騰している中で、さらなる経済効果のアップを図るにはどうすればいいのか。むろん、現在のコロナ禍の中ではイベントなども限られてくるが、プロ野球やプロサッカーなどが実施するスポーツイベントなどを参考にすれば、もっとできることは多いはずだ。

藤井2冠の登場は、将棋界にとっては単なる天才棋士が現れただけではない。こうした世界では珍しいスターが誕生したととらえて、彼の存在を最大限に生かす方法を考える必要がある。それは、将棋をこれまで支えてきた大手新聞社など既存のスポンサーも含めた「大人」の仕事といえる。

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提供元:藤井聡太の人気を将棋界が生かし切れてない訳|東洋経済オンライン

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