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2020.10.16

日本プロ野球とMLB「コロナ対応」で決定的な差|メジャーは大幅な年俸削減によるコストカット


観客数の上限を引き上げて開催されたプロ野球・中日-阪神戦=9月19日、ナゴヤドーム(写真:時事通信社)

観客数の上限を引き上げて開催されたプロ野球・中日-阪神戦=9月19日、ナゴヤドーム(写真:時事通信社)

6月19日に始まった今年のプロ野球も終盤戦を迎えようとしている。当初は無観客だったが、7月10日からは5000人を上限として観客を入れ、9月19日からは上限が「球場キャパシティの半分、あるいは2万人のうち少ないほう」にまで緩和された。

最近の試合を見ていると、にぎわいが戻ってきて昨年までのペナントレースと近い雰囲気になったような気もする。メディアも例年と同じような報道になってきた。あたかもこのまま緩和が進んで、来年にはまた元通りのプロ野球が開催できそうな雰囲気さえある。

しかしながら多くの識者は、新型コロナ後の日本は、決して元には戻らないだろうと予測している。日本野球機構(NPB)も平穏に戻ると思うのは楽観的すぎだろう。

マスク着用の静かな「観戦スタイル」

観客を入れるようになってから、筆者は観客として13試合を観戦したが、パ・リーグを中心に5000人の上限でさえもいっぱいにならない球団がある。

NPBは、ファンクラブを中心に積極的なリピーター戦略で観客動員を拡大させてきた。これによって2019年には史上最多の2653万人余を動員したが、その多くは「野球」そのものではなく、選手を大勢で応援したり、イベントに参加したり、グルメやグッズを楽しむような顧客だった。

そもそも「ボールパーク構想」とは、「試合だけでなく、さまざまなイベントを通じて野球場で1日楽しく遊ぶ」顧客をターゲットにしていた。

しかし今年は、スタンドから声援を送ることも、選手のテーマソングを歌うことも、風船を飛ばすことも禁じられている。ビールや食べ物の販売も制限されている。

拍手やメガホンをたたいて応援することはできるが、着席中はマスク着用を求められ、試合中は黙って観戦しなければならない。観客同士もソーシャルディスタンスをとっている。ハイタッチなどもできない。

こうした「行動変容」は、今年1年で終わるとは考えにくい。以前とは異なる観戦スタイルが続く中で、「球場で応援してストレス発散をしたい」という観客が離れる可能性もあるだろう。

9月19日から観客数の上限が緩和されたが、興行収益的にはNPB各球団は大きなダメージを被っている。球団によっては売り上げが8割減になったという報道もある。

球場内の物販収入も含め、売り上げの大幅ダウンは避けられないところだ。このままいけば入場料の値上げも不可避だろう。さらに野球中継の視聴率も落ちている。来年以降の放映権収入にも影響が出そうだ。

こうした状況下、今季もそろそろ「FA」の話題がメディアで取り上げられるようになった。今季は、ヤクルトの山田哲人、中日の大野雄大、西武の増田達至が「FAの目玉」とされている。しかし球団の経営が厳しさを増す中、各球団が巨額のFA資金を用意するかどうかは予断を許さない。

FAはMLBに倣って導入されたが、日本独特の「FA宣言」という制度によって有名無実化している。選手の職業選択の自由を担保するため、という本来の趣旨が損なわれている。コロナ禍によって、FA制度はさらに形骸化するのではないか。

日本プロ野球の「限界」

こうした問題を正面からとらえた著書が刊行された。中島大輔の『プロ野球 FA宣言の闇』だ。この本は、日本にFA制度が導入された経緯や、それがどのように変化していったかを追いかけている。

日本特有の制度である「FA宣言」が、本来独立した事業者である選手を球団の支配下につなぎとめる「保留制度」との兼ね合いで生まれ、その背景には、自社の目先の利益を声高に叫ぶ一部球団の専横があるという。

その対比として、若いころから野球に専心し、世の中の常識をほとんど会得しないままに、「個人事業主」になった選手の存在があることを浮き彫りにしている。

一方でパ・リーグを中心に、NPB全体のことも視野に入れて改革を進めた球団があったことで、プロ野球は21世紀以降、観客動員が大幅に増加し、収益構造が改善された。しかし、FA宣言に象徴されるように野球界の体質そのものはあまり変わっていない。

MLBでは、選手本人が契約書を隅々まで読み込む。そのうえで腕利きの代理人が加わって球団側と契約交渉をするが、NPBでは多くの選手が入団時に球団とかわす「統一契約書」でさえもほとんど読んでいない始末だ。

この本は、NPBという組織が「制度疲労」を起こし、ポストコロナの新しい時代に対応する能力に疑問符が付くこと。そして選手の意識も高いとは言えないことを端的に表している。

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アメリカのコロナ禍は、日本の比ではなかった。世界最多の感染者数、死者数が出る中、MLBでは従来162試合のペナントレースを4割以下の60試合にまで圧縮した。すべて無観客試合のまま9月末でレギュラーシーズンは終了した。

放映権収入はあったが、入場料収入や物販収入などはほぼゼロだ。そこでMLB機構はポストシーズンを充実させて、放映権収入を少しでも多く獲得しようとしている。

しかし、それでも大幅な減収は不可避だ。それを見越してシーズン前にMLB経営者はMLB選手会と協議して、今季の年俸を大幅に削減した。さらには2軍(AAA)から8軍(ルーキーリーグ)まであるマイナーリーグは経費削減のため、今年は全休になった。マイナーリーグの選手たちは事実上職を失ったのだ。

来季以降もMLBは改革の手を緩めないだろう。おそらくは球史に残るような大改革をするだろう。これまでの枠組みを見直すことだけでなく、マイナーを含めた球界再編も不可避だ。

こういう時期ではあるが、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは、MLB球団数を30から32に増やすエクスパンションの意向を持っているといわれる。

MLBの徹底的な生き残り策

その一方で、コロナ禍の直前に2軍から8軍まで160あった球団のうち、下部に属する40球団との契約を打ち切っている。

NPBと異なり、MLBのマイナー球団のほとんどは独立採算の単独企業だが、こうした球団との契約を解除することで、選手育成コストを削減したのだ。こんな時期でも市場拡大を志向する一方で、コストカットも果敢に行っているのだ。

これまでもMLBはコミッショナーの強いリーダーシップで、次代を見越した施策を次々と打ってきた。新型コロナの危難も、大胆な機構改革とマーケティングで乗り切るつもりだろう。

おそらく選手会との激しい対立があるだろうが、それも織り込み済みのはずだ。北米4大スポーツでも最も老舗で守勢にまわりがちなMLBだが、生き残るためには何でもするという腹積もりだ。

NPBでもコロナ禍になって、一部球団オーナーから選手年俸を削減する提案があった。しかし多くの球団がこれに反対して見送りになった。

前述のように、今季、ほとんどの球団が大幅減収となり、赤字決算になる可能性があるが、親会社のある球団は従来通り補填をして乗り切るだろう。親会社がなく独立採算の広島も、過去5年はほぼ満員の観客動員であり、内部留保で乗り切ることが可能ではないかと思う。

しかしながら「ポストコロナ」には、世の中は大きく変わると考えられる。すでに「野球離れ」が危険水域に達する中で、NPBはプロ野球というマーケットを維持、拡大するために積極的な手を打つべきときが来ていると思われる。

ソフトバンクの王貞治球団会長は、球団数を増やすエクスパンションを提唱した。オリックス球団からは各地の独立リーグ、クラブチームを傘下に収める球界再編の話が出た。またプロアマの垣根を越えた連携などの話もある。しかしNPBは一向に動く気配がない。

NPBにもコミッショナーがいて、最高権限を有しているとされるが、実際にはNPBの運営は各球団の思惑で動いている。プロ野球、野球界全体を見渡してドラスティックな改革をする旗振り役がいないのだ。

“老いた日本”と“若いアメリカ”

日米のプロ野球の体質の差は、そのまま両国の社会のあり方の差でもある。高齢化が進む日本では、改革よりも既得権益を守る空気のほうが優勢なように思える。

危難に直面しても、先手を打って動くのではなく周囲の変化を見まわしてから動こうとする。そして「使えないFA制度」は、格差社会が深刻になる中でも、人材の流動化がなかなか進まない「やり直しがきかない国、日本」を象徴している。

『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)

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日本人から見れば「やりすぎ」と思うほどに矢継ぎ早にドラスティックな改革が行われ、目まぐるしく人材が流動するアメリカは、少なくとも「自分の才覚で困難を打開し、未来を拓こう」という気概があることが見て取れる。アメリカは若い。

『プロ野球FA宣言の闇』では、代理人として野茂英雄や伊良部秀輝をMLBに導いた団野村がこう言っている。

「プロ野球はもっと計画性をもって、14球団、16球団に増やしていくべきだと思います。独立リーグもNPBの傘下に入れて、若い選手を育成するためにどんどん試合をやっていく。そうすることで地域が活性化して、少年が野球をやるような環境を作っていく。やっぱり身近にプロ野球を見ていくことで、子どもたちの夢も変わると思うんですよね」

筆者も全く同感だ。日本プロ野球は若々しい決断をすることができるだろうか。

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提供元:日本プロ野球とMLB「コロナ対応」で決定的な差|東洋経済オンライン

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