2020.10.15
京セラ、「タフなケータイ」であえて勝負の理由|防水・防塵機能を強調、ニッチ戦略で生き残り
京セラの携帯は防水や防塵機能を強調したニッチ戦略を追求している(記者撮影)
2007年のiPhone登場以降、スマートフォンの拡大とともに日本メーカーの携帯電話機器事業は勢いを失った。2001年には11社が参入していたが、今も一般消費者向けに新製品を出し続ける日本のブランドはシャープ、ソニー、富士通、京セラの4社だけになった。
このうち、富士通は2018年3月に携帯端末事業を営む子会社の株式の大半を投資ファンド「ポラリス・キャピタル・グループ」に売却。2019年4月に全株をポラリスに譲渡した。
極端なニッチ戦略で生き残り
日系メーカーはかつて、NTTドコモなど通信事業者との強固な関係を築く戦略をとっていたが、それは今や崩壊し、日本国内シェアの45.4%をアップルのiPhoneが握る(IDC Japan調べ)。もともと強くなかった海外市場でも、韓国のサムスン電子や中国のファーウェイ、シャオミ、オッポなどに大きく差をつけられており、日本勢で世界シェア1%以上を持つメーカーは存在しない。
その中で、極端なニッチ戦略をとることで異色の存在となっているのが京セラだ。他社と同様に販売減に苦しみ、2010年代半ばには携帯電話端末事業は赤字に追い込まれた。一時は撤退もささやかれたが、2016年から取り組んだ構造改革の効果もあり、2018年3月期を最後に赤字から脱却。2021年3月期はコロナ禍にあっても売上高が減少しても十分な利益を見込めるという。
スマホ市場が前年比10%以上落ち込む中、京セラの携帯電話事業が黒字を確保できるのはなぜなのか。
「アップルやサムスンと同じようなグローバルモデルで戦ったときに、ブランド力、規模の経済で勝負にならない」。京セラで2016年4月から通信機器事業を統括し、構造改革を率いてきた厳島圭司常務はこのように語る。
コンデンサーなどの(電子)部品を数多く手がける京セラにとって、通信端末事業からの撤退は考えられなかった。端末事業は他事業との相乗効果が高く、IoT化が進む昨今、通信端末を開発・製造する技術を持つことで、部品やネットワークサービスなどほかの事業に良い影響を与えられる。厳島氏は「通信技術は一度手放すと、二度と手に入れられない」と話す。
ただ、5Gや有機ELディスプレイなどスマホ端末の高度化技術は日進月歩。莫大な開発費をかけられるアップルやサムスンなどと正面から勝負をしても勝ち目は薄い。そこで京セラが目をつけたのが、工事現場や警察、消防で使われる「タフなケータイ」だ。
軍隊でも使用できる頑丈さ
工事現場で使うスマホには、一般の製品にはない特殊な性能が要求される。防水機能だけでなく、ほこりが多い環境にも耐えられる高度な防塵機能も必要になる。汚れてもせっけんやアルコールで手入れでき、手袋をしていたり、手が濡れていても使えるといった点は、iPhoneなどではあまり重視されていない要素だ。
今ではほとんどのスマホから姿を消したボタンも、粉塵や水にさらされることの多い現場仕事ではニーズが高い。
京セラで通信機器事業を統括する厳島圭司常務(記者撮影)
京セラの携帯は、衝撃や日光への耐性でアメリカ国防総省が定める16項目の耐久試験をクリア。軍隊でも使用可能な頑丈さを売りに、2016年以降、建設業など向けの販売を強化した。アメリカでは警察官や消防士、救急隊員が持つスマホとして一定の評価を得ており、ホテルの従業員が襲われたときにSOSを簡単に発することのできるスマホなども人気だという。
京セラはスマホ端末事業が継続的に収益を上げていくためには少なくとも年間1000億円以上の売上高が必要だとみており、そのための構造改革(と生産体制の構築)を2016年から本格化させた。2017年にはマレーシア工場を閉鎖し、生産拠点は国内1カ所に集約させた。
設計部門の技術者に対して設計や販売にかかる費用をすべて開示し、「開発者を含め、すべての社員がトータルコストを意識して生産することを徹底させた」(厳島氏)。アメリカの販路はBtoBに強いベライゾンとAT&Tの2社だけに絞った。生産を日本国内のみしたことで、「メイドインジャパン」としての信用も得られた。
このようにアメリカ市場ではシェアを獲得できたものの、日本国内では苦しい戦いが続く。国内のタフスマホ市場は小さく、収益を見込める規模まで販売を拡大するには、一般消費者に向けたアピールが必要となる。
例えば、サイクリングや登山などのアウトドア向けにタフスマホを売り出すが、家電量販店や携帯ショップで存在感を得るには至っていない。タフスマホとは別に、高齢者や子ども向けに簡単に扱えるスマホも販売しているが、こちらも市場が大きくない割には富士通やシャープといった競合がいる。
5Gへの対応も遅れている。京セラはこれまで「(5Gで使える)コンテンツがどのようなものかわからない」(谷本秀夫社長)との理由から、5G対応スマホの開発に及び腰だった。5G向けに使われる通信用半導体がアメリカのクアルコムに牛耳られており、高価なものしかなかったことも開発をためらわせた要因だった。
5Gスマホで出遅れ感
2020年中の5Gスマホ発表を目指すが、出遅れ感は否めない。厳島氏は「われわれの商品戦略やブランドとの整合性から(2020年春に各社が出した5G対応製品の)第1陣に加わる必要はなかった」と話すが、出遅れが将来響くことはないのか。
今後はレストランの注文用や遠隔授業用のタブレットなど、市場は小さいが、特定分野におけるニーズの強い製品を生み出せるかがポイントになる。
長年スマホ事業の赤字に苦しんできたソニーは2021年3月期、4年ぶりに黒字に転換する見通しだ。ソニーは、得意とするカメラや映像表現での性能を極端に高くすることでニッチな顧客をつかむことに成功した。販売地域や対象顧客を絞り込み、売上高が減少しても利益をあげられるようにした点は京セラと似ている。
かつて「ガラパゴス」と呼ばれた日本の携帯電話。令和時代に生き残るための1つの解が、京セラのニッチ戦略に見出せるかもしれない。
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提供元:京セラ、「タフなケータイ」であえて勝負の理由|東洋経済オンライン