2020.10.07
なんでも「正解」が欲しい日本人に足りない視点|オックスフォード大学式チュートリアルとは
オックスフォード大学で学んだ、自分に必要な答えを導き出す方法を紹介します(写真:skynesher/iStock)
未曾有のウイルスによって働き方やライフスタイルに大きな変化が起きている。先が見えない中、どう行動するのが正しいのか、誰を信用すればいいのかなど、「唯一無二」の答えが存在しない状態となっている。
こうした中、『自分の軸で生きる練習』筆者で、プロコーチングとして活躍する大仲千華氏は、「万能な答えのない状況では、1つの答えを追求するより、いかに自分で考えるかということのほうが重要だ」と話す。本記事では同氏がオックスフォード大学で学んだ自分の頭で考えて、自分に必要な答えを導き出す方法を紹介する。
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1つの答えを出すより、「いかに考えるか」が重要
私たちはいま、前例のない「答えのない時代」を生きています。国際情勢から為替の変動、そして新型コロナウイルスまで、「未知なこと」や「予測不能なこと」が日常的に勃発し、一つひとつの出来事が複雑に影響し合って、日々の生活や働き方などが思わぬ方向に進む事態も発生しています。その変化の速度は、ますます加速しているといえます。
このような状況下では、すべての問題を解決してくれる唯一無二の答えなど存在しません。そんな「答えのない時代」に、自分にとって必要な答えを導き出すためには、どんな能力が必要なのでしょうか?
その1つが、考え方の考え方、つまりは「考え方の軸」を持つことです。万能な答えのない状況では、1つの答えを追求するより、「いかに考えるか」ということのほうが重要だからです。
私はイギリスのオックスフォード大学大学院で、答えのない状況での考え方の軸を本格的に学びました。オックスフォードに入学して驚いたのは、教授と学生が1対1、もしくは1対2で対話をしながら学ぶ「チュートリアル」という指導体制がとられていたことです。
多くの大学では、講義における議論への参加ぶりや提出した課題の内容によって評価されるのに対し、オックスフォードではこのチュートリアルこそが、学びの中枢になります。
まずは、そのステップをご紹介しましょう。
(1)これまでの論点を言語化し、整理する
毎週新しいテーマに関する文献を大量に読むことによって、テーマを理解して言語化し、論点を整理します。何十年、何百年もかけて積み上げられた先行研究の内容を「自分の言葉」で表現する作業です。それをもとに、いままでに何が明らかになっていて、どんな課題があるのかという点について、自分なりの結論を出して小論文にまとめます。オックスフォードではこの作業を1年間で8週間×3学期=計24週間繰り返します。
(2)不明確な点を明確にする
完成した小論文を教授に提出すると、チュートリアルが始まります。教授によく聞かれたのは、「それはどういう意味?」という質問でした。この単純な質問を繰り返されると、不明確だった部分が明確になっていきます。自分の中できちんと理解できている場合はそれなりに回答できるのですが、理解できていない場合はうまく言葉にできずに説得力のある答えができないからです。この質問のおかげで、自分の理解の曖昧な点を明らかにすることができます。
答えは1つではないことを知る
(3)結論に至った思考の前提を確認する
次に聞かれたのは「どうしてそういう結論になったのか?」ということでした。この質問によって、全体の論理展開に矛盾がないか、自分の考えのもとになっている前提は何かを確認していきます。
(4)洞察を深める
そのうえでさらに、洞察を深めていきます。自分の理解や情報が足りない点をクリアにしたうえで、さらにどう思うか聞かれたり、「こういう別の見方もあるけど……」と、反対意見に対する考えを求められます。自分とは違う意見と比較することで、自分の視野や選択肢を広げ、そのうえで改めて「自分にとっての結論は何か?」をよりはっきりさせることが狙いです。
(5)理解を積み上げる
こうしたプロセスの中で、唯一の答えを求められることはありませんでした。むしろ、答えは1つとは限らず、多彩な視点があってよいことが強調されます。そして、「誰も1人では理解を深めることはできない」という前提のもと、自分とは違う意見にオープンに耳を傾けて、自分自身の思考プロセスを確認する作業を続けるように促されました。
チュートリアルでは、クラスメートの存在や教授からの「なぜその結論になったの?」という問いかけのおかげで、「なぜあなたはそのテーマに興味があるのか?」といつも自分の根源について問いかけられているような気になったものでした。
この思考のプロセスを繰り返すうちに、私は「理解や答えはある日、突然湧き出てくるものではない」ということに気がつきました。ひらめきが何千回、何万回もの地道な情報収集と試行錯誤の末にやってくるのと同じで、「考える」作業も、成功体験を一つひとつ積み重ねていくことで、新しい答えやオリジナルな答えに到達します。つまり、「理解する」ということは、思考と洞察の「積み上げ」によってもたらされるのです。
かつてアインシュタインは、「大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない」と言いました。彼の言うように、この変化の激しい時代において力になるのは、疑問や好奇心を通じて自分自身への理解を深めることであり、同時に、他者と意見を交わしながら、丁寧に目の前の課題に対して向き合っていくプロセスです。
オックスフォードでの体験によって、私は答えのない課題に向き合うための「メンタリティー」と「考え方の軸」を構築することができました。とはいえ、現在学校に通っていない方は普段の生活や仕事をしていく中で、自分自身でどのように課題に向き合っていけばいいか、理解を深めていけばいいか、イメージしにくいかもしれませんね。
答えがないときに大事な3つの問いかけ
答えがないように見えるときこそ、次の3つの「問いかけ」を行い、目の前の課題を整理してみてください。
(1)「何が問題なのか?」
(2)「これまでに何が明らかになっているのか?」
(3)「どのような選択肢・対策がいいのか?」
オックスフォードを卒業して数年後、私は国連で東ティモールや南スーダンといった民族や宗教が複雑に絡み合う「予測不可能」な紛争の現場で働くことになるのですが、そこでこの力が助けになるとは、まだ夢にも思いませんでした。これらは、現在コーチングのプロとして活動する中でも、つねに念頭に置いている思考のステップです。
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一見複雑に見える出来事や新しいテーマであっても、自ら調べ、一つひとつわかる範囲が増えていき、自分の中での理解が深まっていくにつれ、これまではわからなかったことが確実にわかるようになっていきます。
この3つの問いを繰り返しながら、知識と理解を積み上げていくと、一見難しいことに対しても自分で必要な「答え」がわかり、自ら判断できるようになっていきます。自分で答えを導き出し、「わかっていく」体験は、確実に自信となり、人生においても大きな力となってくれることでしょう。
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提供元:なんでも「正解」が欲しい日本人に足りない視点|東洋経済オンライン