2020.08.27
在宅勤務で必要なのは「頑張り」ではなく4視点|短期的な数字だけを追う成果主義は失敗する
リモートワークが中心となるこれからの時代で、「成果」を出していくためには何をするべきか(写真:marchmeena29/iStock)
人事コンサルタントとして、1万人以上のビジネスパーソンの昇格面接や管理職研修を行い、300社以上の企業の評価・給与・育成などの人事全般に携わってきた西尾太氏による連載。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボにより一部をお届けする。
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「頑張りました」では、もはや評価されない時代に
リモートワークは、社員が働いている姿が見えません。プロセスが見えない以上、会社がより重視するようになるのは「成果」です。前回の記事でそのようにお伝えしましたが、 今回は個人が成果を出し、より評価を上げていくための具体的な方法をお伝えしたいと思います。
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成果を出し、高い評価を得る方法は、極めてシンプルです。
前回お伝えしたように自身の「ミッション」を「〇〇を、より〇〇する」といったように明確にし、そのうえで自ら「目標」を立て、それを達成すること。
ここで重要なのは「目標」の「達成基準」を明確にすることです。
達成基準とは、何をしたらOKといえるのか、目標を達成したといえるのか、上司に対してハッキリとわかるように示すこと。これがより重要になってきます。
なぜなら「頑張りました」では、もはや評価されない時代になっていくからです。社員が働いている姿が見えない以上、会社は「成果」で評価するしかありません。
社員が提供する「成果」に対して、会社が対価として給料を払う。リモート時代における社員と会社の関係は、そんな「企業と顧客の関係」に近いものになっていくでしょう。
雇用契約とは本来「労務を提供して賃金を得る」というものですが、とくに日本では一緒に同じ場所で過ごした「時間」から生まれる「人間関係」や「頑張り」といったプラスアルファの、しかし曖昧な要素に対しても給与を払ってきました。
けれど、リモートワークが中心となるこれからの時代では、同じ場所と時間を共有することがなくなり、人間関係も希薄になっていくかもしれません。頑張る姿も、直接目にすることはできません。会社(=顧客)が求めるのは、「成果」に絞られていきます。
一般的な顧客との関係においても、お客様に対して「いやぁ、頑張ったんですけどね」などと言っても、商品やサービスに価値を認めてもらえなければ、お金を払ってもらえませんよね。社員と会社の関係も、それと同じようになっていきます。
ましてや、今や多数の企業が廃業を迫られる、未曾有の不況が訪れようとしています。社員と会社の関係は、よりシビアでドライな、本質的な雇用関係、いや「契約関係」に変化していくはずです。
目標は与えられるものでなく、自分自身でつくるもの
日本では、約8割の企業が「目標管理制度(MBO)」を導入しています。これはもともと経営学者のピーター・ドラッカーが提唱したもので、上司から一方的に指示して業務を遂行させるのではなく、社員一人ひとりが組織の目標について考え、自分で目標設定を行い、上司と相談したうえで実行し成果を出すという、「自身と組織の目標をリンクさせるマネジメント手法」です。
上から目標を与えるのではなく、個々が何をすべきかを考え、自分自身で目標を決めるので、社員も「やらされ感」がなく、意欲的に仕事に取り組め、かつ組織の成功にも貢献できる、とされています。
MBOは目標達成と人材育成が一体化した優れた人事制度ですが、残念ながらうまく運用できている会社は多くありません。そもそも上から目標を落としているケースが多く、ドラッカーが提唱していた本来の考え方とは違ったものになってしまっているのが実情です。
しかし、リモート時代に必要になってくるのは、本来の意味での「目標管理(Management of Objectives and Self Control)」=「目標と自己統制によるマネジメント」です。
「目標とは、与えられるものではなく、自分自身でつくるもの」
ドラッカーがそう提唱したのは1954年。今から70年近くも前のことですが、当時も肉体労働から知的労働へと人々の「働き方」が大きく変わる時期でした。
今、私たちも「働き方」が大きく変化する時代の転換点に立っています。「目標と自己統制によるマネジメント」という発想を改めて捉え直し、実行すべき時期が来たのだと思います。
では、どのように「目標」を明確化したらいいかというと、次の4つの視点が必要になります。これらは「バランス・スコアカード」(Balanced Scorecard/BSC)と呼ばれる業績評価の仕組みの視点です。
目標設定に必要な「4つの視点」
①財務の視点
お金の視点、要は最終的な「数字」です。営業であれば売上目標。総務や経理といった成果を数値化しにくい職種であっても、「業務効率化5%」「経費精算を中4日から中3日に」などと数値化し、成果を「見える化」することによって正当な評価(給与)を得やすくできます。
②顧客の視点
その数字を上げるために、顧客にどんな価値を提供するのか。顧客とは、いわゆるエンドユーザーだけではありません。お客様と接する機会のない職種であっても、仕事には必ず価値を提供している相手がいます。経営者、役員、株主、上司、社員などを「お客様」として捉えることが重要です。
そうした顧客に、どんな商品やサービス、あるいは仕事の成果といった価値を提供するのか。顧客を明確化することは、目標設定をするうえで非常に大事なポイントです
③プロセスの視点
顧客に価値を提供するためには、どんな仕組みをつくって実現するのか。どのように効率化するのか。目標達成のための「プロセスの視点」も重要です。顧客に安定的に価値を提供していくための「仕組み」や品質向上のための仕組みや取り組み、業務の効率化など、過程提供の仕組みの視点は、今年だけでなく、来年以降の財務的価値、顧客への提供価値を高めていくために大切なことです。
④人材の視点
上記のプロセスを行うためには、どんな能力が必要になるのか、その学習のために必要なものは何か、自身の成長ステップも明確にする必要があります。管理職だったら、部下の育成方法もここに含まれます。目標達成をするうえで必要となる能力を明確化し、それを獲得する手段、あるいは育成する手段を明示しましょう。
以上の4つの視点に加え、今までやったことがない新たな取り組みをする「革新の視点」を加えることができたら、言うことありません。
目標を立体化させ、高い成果と評価を得る
この4つ、ないし5つの視点を個人の目標設定に応用するのです。
1990年代のバブル崩壊後にも、現在と同じように「成果」を重視する、いわゆる成果主義がブームになりましたが、結果的には失敗に終わりました。それは①の「財務の視点」しかなかったからです。
数字だけを目標にしてしまうと短期的視点に陥りがちで、顧客への価値提供・プロセス・人材の育成といった、企業や個人にとって大事なものを失ってしまいます。
しかし、これら4つの視点をバランスよく持つことができれば、今期や今年度といった短期的な目標だけでなく、来年以降の価値提供も含めた長期的な成果を目標にすることができます。
これらすべてを満たす目標設定は、最初は困難かもしれません。しかし、このように自ら目標を立体的にし、上司に承認をもらって、達成のための計画を立てて実行し、高い成果と評価を得ることができれば、これまで以上の年収を得ることも可能でしょう。
リモートワークでは、上司によるマネジメントが徹底できなくなります。だからこそ、社員に必要になるのは「セルフマネジメント」なのです。
逆に言えば、自ら目標を立て、実行し、成果を上げられる人にとっては、大きく飛躍できるチャンスなのです。
リモート時代とは、ここで紹介した「4つの視点」で、目標設定を明確にして実行することこそが、ビジネスマンの価値となるのです。
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提供元:在宅勤務で必要なのは「頑張り」ではなく4視点|東洋経済オンライン