2019.12.11
「腹筋でお腹は凹む」と思う人の大いなる勘違い│有酸素運動から始め、骨盤の傾きも整えよう
脂肪が増えたのはお腹の筋肉が弱ったからではありません(写真:つむぎ/PIXTA)
やせたい部位の調査で、ほぼ間違いなくトップ3にランクインする、お腹周り。学生時代はスリムだった人も、20代後半から30代になると雲行きが怪しくなり、40代にもなるとお腹周りに脂肪を溜め込んでいない人はかなりの少数派になる。
こうしてお腹が気になるようになった人が始める運動の多くは、効果の面で疑問があるという。トップアスリートや青学大駅伝チームだけでなく、四半世紀にわたり多くの一般人を指導してきた『世界一効く体幹トレーニング』の著者、中野ジェームズ修一氏が「出ているお腹を効率的にへこますための考え方」を解説する。
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加齢とともに衰える筋肉の多くは下半身
「手っ取り早くお腹をへこませる方法を知りたい」
これは一般の方向けのセミナーなどで非常に多くいただくリクエストの一つです。
そこで「何が効果的だと思いますか?」と問いかけると「腹を割るには、まず腹筋」とばかりに腹筋運動を挙げる方が結構います。腹筋運動とは、クランチやシットアップといったお腹の筋肉を縮めて体を起こす種目ですが、ほかには体幹トレーニングに分類されるプランクという種目を挙げる方もいました。しかし、主に腹直筋に効く腹筋運動やプランクは、出ているお腹をへこませる手段としては、まったくお勧めできません。
質問者の中には「お腹の筋肉が弱ったから脂肪が増えた」と思っていた方もいました。これは残念ながら間違った認識で、加齢とともに衰える筋肉がどこかを調べると、衰える幅が大きい筋肉は下半身がメインという結論に至ります。つまり、そもそもお腹周りの筋肉は大きくは衰えないのです。「昔は腹筋が6つに割れていたが今は見る影もない」という方は、腹直筋が衰えたのではなく「腹直筋の上に脂肪が乗った」状態です。
お腹が出る原因は、2層の脂肪がついたことにあります。運動や日常生活での消費エネルギーを飲食による摂取エネルギーが上回ると、まず内臓周りの空間を埋めるように内臓脂肪がついていきます。さらに筋肉の上にまで皮下脂肪が乗っていくと、お腹の厚みはどんどん増してしまう。腹部の筋力が弱くなったからお腹が出るわけではありません。
では、どうすれば出ているお腹がへこむのでしょうか。
いちばん確実なのは、お腹の内容物を減らすことです。つまり、ついた脂肪を落とすのです。
腹直筋のトレーニングだけ行うのは、お腹をへこませるという目的に相当な遠周りをしていることになります。その理由は、まず脂肪を落とすために必要なエネルギー消費量が稼げないからです。腹筋運動もプランクも消費エネルギーが小さいため、毎日の習慣にしたところで脂肪はあまり消費できません。
腹筋運動で主に使うのは、太ももやお尻に比べると圧倒的に質量の小さい腹直筋です。ここをどんなに頑張らせても、軽いジョギングより時間当たりの消費エネルギーはケタ違いに少ない。プランクは腹直筋を中心に全身を少し使いますが、負荷が低く動きもないため消費エネルギーを稼げません。お腹の脂肪という内容物を減らす手段としてはお勧めできないのです。
しかも腹直筋は、お腹の正面を縦に一部分覆っているだけですから、お腹全体を引き締める効果も期待できません。例えて言うなら、空気の入った風船を手のひらで押さえるようなもの。押さえた部分の周りにお腹の内容物が広がるだけです。こうした種目に割くエネルギーがあるなら、ほんの少しでも食事を改善するなり有酸素運動で脂肪を減らす努力をするなりしたほうが、はるかに効率的です。
動かした部分の脂肪が使われるわけではない
お腹をへこませたくて腹筋運動をする方は、動かしている部位の脂肪が直接的に使われるとイメージしていることも多いようです。しかし人間の体には、動かしている部分の近くにある脂肪だけをエネルギー源とする仕組みはありません。
例えばフルマラソンの選手や陸上トラック競技の選手たちは脚を酷使しますが、彼らの脚だけが皮一枚になるまでやせて棒のようになっているかというと、そんなことはないですよね。ランニングなどをすると下半身の筋肉がついて心肺機能が上がるだけでなく、顔も体も引き締まってお腹までへこむのは、以下の仕組みが体に備わっているからです。
走るなどして下半身の大きな筋肉を動かすと、普段よりも大量のエネルギーを消費します。これは体にとっては緊急事態です。速やかに失ったエネルギーを筋肉に補填するべく体に蓄えられた糖が使われる一方で、脳から「体脂肪を分解して利用せよ」という指令が全身に発せられます。
こうして体脂肪が分解されてできた脂質が血液に入り、酸素とくっついて脂肪酸に。それが動かしている大きな筋肉に届き、水と二酸化炭素に分解されるときにエネルギーが生まれる。だから運動を続けられるし、脂肪も消費されるのです。
有酸素運動をすると、皮下脂肪よりも内臓脂肪がよく使われます。内臓脂肪はつきやすく落ちやすい性質があるので、お腹をへこませるなら内臓脂肪を狙える有酸素運動から始めるといいでしょう。男性は、ホルモンの影響で女性に比べると皮下脂肪より内臓脂肪がつきやすいので、男性のほうが早く成果を実感できるはずです。
運動習慣のない人なら、まめに階段を使うだけでも効果はあります。加齢とともに基礎代謝は落ちていくことを考えると、プラスして食事のコントロールにも目を向けたほうが、より確実に高い効果を得られるでしょう。
もし、出ているお腹を割れるレベルまでたどり着かせたいなら、さらに皮下脂肪を減らすことが不可欠です。皮下脂肪まで落ちれば自然にお腹は割れてきますし、そこから腹直筋のトレーニングを頑張れば、腹直筋の厚みが増したぶん、もっと深い溝を刻めるでしょう。
筋肉が隆起し脂肪を極限まで削るボディビルダーでも、減量期でなければ、ある程度以上食べるため、お腹が出ることもあります。それでも腹直筋が割れているのは、ついたのが内臓脂肪だから。さらに皮下脂肪の厚みまで増すほど食べたら、ボディビルダーと言えど腹直筋による溝は埋もれてしまうのです。
下腹が気になる人は骨盤の傾きを整えよう
お腹が出るといっても、下腹がぽっこり出ているとしたら別の対処法が必要です。下腹が出るおもな原因は、骨盤が後傾することにあります。人間の骨盤は通常、軽く前傾し、お腹は上下に引き伸ばされていますが、腰が丸まって骨盤が後傾すると下腹はたるんで出てきてしまうのです。
なぜ骨盤が後傾するのでしょうか。主な原因は下半身の筋力、もしくは柔軟性の低下にあります。座骨周辺からハムストリングスまでが硬くなると、骨盤が下方向に引っ張られます。引っ張られた骨盤は後ろに傾いていく。こうして下腹がたるみ、その上に皮下脂肪が乗ると、ぽっこりと出た下腹が出来上がってしまうのです。
では、どうするか。まず必要なのは、根本原因である骨盤の傾きを整えることです。崩れた土台の上でどんな工夫をしても、土台に問題があれば台無しになります。そして下腹がぽっこり出る方でいちばん問題なのは、筋肉量の減少です。下半身のような大筋群の筋肉量が減ると基礎代謝量が下がり、有酸素運動時の脂肪燃焼量も悪化してリバウンドもしやすくなります。
腹筋運動やプランクをすることは無意味ではないが
筋肉の量を維持することは、健康に生きるうえでとくに重要です。現代人の生活はどんどん便利になり体を動かさなくなってきています。5年後や10年後、さらに暮らしが便利になれば筋力低下も進むでしょう。その一方で食はどんどん豊かになります。昔はおいしいものを食べようとしたら外出が必要でしたが、今は家にいても届く。それだけでも体を動かす機会がどんどん減っていると強く感じます。
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誤解のないよう申し上げておきますが、腹筋運動やプランクをすることは無意味ということではありません。拙著でも解説していますが、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群、横隔膜で構成される「インナーユニット」をうまく使いながらであれば、腹筋運動やプランクは数多くのメリットを得られます。
例えば、素早く動き強いパワーを発揮する、ケガなく長時間動き続けるといったスポーツパフォーマンスの向上だけでなく、腰痛の予防・緩和や姿勢改善にも大いに役立ちます。「インナーユニット」を遣えていない腹筋運動やプランクは「お腹をへこます」という目的には合っていない、というだけです。
どんなトレーニングにも向き・不向きはあるので、それを踏まえて何がご自身の目標達成にベストかを調べたり考えたりして実践することが重要です。
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提供元:「腹筋でお腹は凹む」と思う人の大いなる勘違い│東洋経済オンライン