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2019.05.08

夢のセカンドハウスは老後破綻を招きかねない |長く持つほど貧乏になる「負動産」の可能性も


「夢のセカンドハウス」は誰でも買いたくなる。だが買うと「老後破綻」を招く可能性もある(写真:Tony / PIXTA)

「夢のセカンドハウス」は誰でも買いたくなる。だが買うと「老後破綻」を招く可能性もある(写真:Tony / PIXTA)

アラフィフ世代のご夫婦には、ようやく子どもが就職して自立したり、ローン完済のメドも立ったりして、安堵している方々も多いでしょう。私は「プレ定年」専門のファイナンシャルプランナーとして主に会社員世帯のご相談を受けていますが、今回お話しするケースは「セカンドハウス」の購入を迷いに迷った大手企業管理職のAさん(55歳)夫婦です。

まさにアラフィフ世代のAさん、人生の折り返し地点を過ぎて一息つき、これからは自分たちの暮らしを楽しむ余裕も持ちたいと思っていたところ、電鉄系リゾートの広告に、ふと目が止まりました。懐かしい想いが湧いてきたからです。

「海外リゾートのヴィラ」のような物件に一目惚れした

その電鉄系リゾートには会員専用のホテルがあり、Aさんの会社は法人会員になっていました。まだ子どもが幼かった頃、家族でたびたび訪れていたのです。敷地内には別荘もあり、「いつか自分たちもセカンドハウスを持てたらいいな」と、漠然と思っていました。

しかし、教育費やマイホームのローンなどの負担が重く、日々の暮らしを送るだけで精いっぱい。セカンドハウスへの想いは遠のいていましたが、リゾート広告にそれを喚起されたわけです。Aさんは奥様にも話し、夫婦で意気投合。物件の内覧を決めました。

「セカンドハウスなんて高嶺の花」と思っていたAさん夫婦でしたが、内覧したら、一目で気に入ってしまいました。物件は、マンションタイプの2階建て。街中のマンションとは雰囲気が異なり、まるで海外リゾートのヴィラのように見えました。ピクチャーウィンドウからは八ヶ岳の眺望も楽しめる。夫婦の嗜好にぴったり、納得の物件だったのです。予算内で購入できそうなので話を進めることにしました。

ところが、条件を聞いた頃から、暗雲が立ち込めてきたのです。

物件は築35年、1LDK・約43㎡で380万円です。年間維持費は管理費・修繕積立金・借地料・上下水道基本料・ケーブルテレビ視聴料を合わせて約27万円、電気・ガスは使用量に応じて実費がかかります。一時金として預り金・名義変更料・借地期限更新時事務手数料で合計約63万円の支払いも必要でしたが、それらの合計約470万円でセカンドハウスを所有できるなら安い、とAさんは感じました。

疑念が頭をもたげるようになったのは、「10年ごとに大規模修繕の費用が100万円かかる」と聞いた頃からでしょうか。10年で100万円を含めると年間の維持コストは約37万円に増えますが、月当たりにすれば約3万円と払えない金額ではありません。

しかし、購入に向けて話を進めていくうちに、「このセカンドハウスって、年間通して利用できるだろうか?」というところも気になってきました。販売業者によると、毎年10月から各住戸の水抜き作業が行われる、というのです。厳寒期の水まわりの設備凍結による被害防止のためで、住戸利用が制限されるものではないと。しかし利用する際には水抜き作業を自身で行う必要があります。仮に、冬期は利用しないとすると、月当たりコストは6万円と倍増です。不安も倍増するAさん……。トドメを刺したのは、奥様の一言、「このセカンドハウスって、私たちが使わなくなったら、売却できるかなあ」でした。

2人は、親戚が熱海に所有している温泉付きマンションのことも思い出しました。毎月の管理費が高額になり、「タダ同然で売りに出したけど、全然買い手がつかないよ」とこぼしていたのです。売却したいときに売却できない不動産は、資産ではなく負債になりかねません。

結局、海外リゾートのヴィラみたいなセカンドハウス購入は見送ることにしました。

ねんきん定期便で現実を知らされる

セカンドハウスの購入を一瞬、夢見たことがきっかけになって、Aさんは、アラフィフ以降の自らの暮らしがどうなるか、気になってきました。今度は、老後のお金の心配が頭をもたげてきたのです。

と、その頃、Aさんに「ねんきん定期便」が届きました。大企業管理職のAさんの年収は約1200万円。厚生年金保険料は毎月5万6730円と、上限額を納めています。ねんきん定期便に「65歳からの年金見込額は毎月約18万円」と記載があり、妻の年金と合わせると毎月約24.5万円です。

問題は、Aさんは2年後、役職定年を迎え、年収が3割減になることもあり得るのです。「そうなったら、私の年金はどうなるんだろう」と不安げなAさん……。

Aさんが受け取った、50歳以上に送られるねんきん定期便には「現時点の収入が60歳まで続く」と想定した年金額が記載されています。もしも、今後年収が下がると、受け取る老齢厚生年金額が減る可能性があるのです。

というのも、厚生年金は給与や賞与の額に応じて保険料が決まります。負担する保険料が多ければ、その分将来受け取る老齢厚生年金の額も多くなります。保険料は1等級から31等級に区分されており、上限の31等級では標準報酬月額62万円(報酬月額60万5000円〜)です(報酬月額は基本給以外の残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)つまり、報酬月額60万5000円×12カ月分=726万円以上になると厚生年金保険料は増えませんが、老後に受け取る老齢厚生年金受給額も頭打ちということです。賞与については別途計算ルールがありますが、Aさんは給与のみのためここでの説明は割愛します。

年収1200万円(給与のみ)のAさんの標準報酬月額は上限の31等級です。役職定年を迎えて、例えば57歳から3割減の840万円になったとしても31等級のままです。ただし、726万円未満になった場合には、年金見込額は減ることになります。

ではAさん夫婦の年金見込み額は「標準」と比べて多いのでしょうか?厚生労働省によると、「モデル世帯」の公的年金(厚生年金)の給付水準は2019年度で月額22万1504 円。モデル世帯とは、夫が平均的な収入(平均標準報酬〈賞与含む月額換算〉42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間全て専業主婦の世帯です。Aさん夫婦の見込み額はモデル世帯を約3万円上回ります。一方で、年金受給の見通しでは「現役世代の収入の5割」をモデルとしていますが、Aさん夫婦は3割です。現役世代の収入が高い人ほど割を食うといえます。逆説的ですが、収入が高い人ほど十分な老後の備えをしておかないと、家計破綻のリスクがあるのです。現役時代と同様のお金の使い方、生活レベルは望めません。Aさん夫婦の場合、90歳まで生きるとすると、年金以外に毎月約16万円、累計で約4800万円が最低限必要になります。

イケイケどんどんの「アラフィフ世代」が危ない

Aさん夫婦は、老後の生活レベルをダウンサイズするか、老後の備えに励むか、戦略を立てる必要があります。とはいえ、「自分たちの立ち位置が分かって、スッキリした」とAさん。「あのままセカンドハウスを購入していたら毎月の維持費を払い続けることになり、老後破綻していたかもしれませんね」と胸をなで下ろしました。

Aさんのようにバブル景気の時代を経験したアラフィフ世代は、車や家など、欲しいと思ったら所有することを考える傾向があります。しかし、こと不動産に関しては、少子高齢化で空き家問題も叫ばれている現状ですから、精査せずに購入を決めるのはオススメできません。生き方や価値観は人それぞれ、老後の田舎リゾート暮らしを否定するつもりはありません。でも、購入前に賃貸などでトライアルしてからでも、遅くはないでしょう。

Aさんの後日談ですが、いまは不動産投資を検討されているそうです。お父様が都内にワンルームマンションを所有し、賃貸収入を得ていることから、不動産投資へのハードルは高くはないようです。いろいろな不動産投資セミナーに参加をして、都心の駅近中古ワンルームマンションの購入を考えているとのことです。

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提供元:夢のセカンドハウスは老後破綻を招きかねない|東洋経済オンライン

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