2019.03.13
震災時も「ペットの命」を守るための5つの鉄則| 大震災に気を落とすのは「人間だけ」じゃない
避難所になっている小学校の廊下につながれたペットの犬=2016年4月20日午前7時18分、熊本県益城町(写真:共同通信)
東日本大震災から8年。災害に対する心構えや準備については、以前よりも認知されつつある。だが、震災をめぐる「ペットの扱い方」については十分とはいえない。実際、3年前に発生した熊本地震でも、人と共に多くのペットが被災し、現地で混乱を招いたという。
今回は熊本地震の被災者であり、ペットの飼い主のための防災ガイドブックを作成する「PIACK(ピアック)の会」メンバーの高士優希さんに、震災時、飼い主とペットはどんな境遇に置かれたのか、ペットを守るコツとあわせて話を聞いた。
大震災が起きたらペットはどうなる?
災害時は、人間の安全が最優先になる。しかし、飼い主にとっては「ペットの安全」も同等の問題だ。
熊本地震後に環境省がまとめた「熊本地震におけるペットの被災概況」によると、避難所51カ所のうち、避難所屋内でのペットの飼養が見られたのは15カ所で、全体の3分の1。5つの自治体ではペットの立ち入りさえ許されなかった。なぜ、同県内で対応方針の違いが生まれてしまったのだろうか。
「災害発生時、避難所では、その責任者自身にペットの飼育経験があるかないかで同伴避難(ペットと一緒に避難所でも過ごせる)の可否が分かれました。また、自治体の担当者でも環境省の同行避難のガイドラインを知らない人もいました。一緒に避難したものの避難所に入れず、そのため玄関外や軒下などでペットと共に寝起きをする人も見られました。
さらに、運よく避難所に入れたとしても1頭でも吠える、汚い、臭うなどでペットを飼っていない被災者との間に問題が生じると、それを防ぐためにすべてのペットが避難所から出されることになりました。ペットが迷惑になることを恐れ、自ら車中泊を選ぶ人も多く、現場は混沌としていました」と高士さん。
避難所ごとの対応の違いや、「同伴避難」と「同行避難(災害発生時に飼い主がペットを避難所まで同行すること。同一の空間で居住できることを示さない)」の混同により、ペットとその飼い主はさまざまな形で苦労したという。
熊本地震以降、その教訓から改定された環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」では「同行避難」を基本とする一方で、避難所でペットと人間が一緒に過ごせるかどうかは“避難所のルールによる”と明記された。
ペットを守るための「5つの心がけ」
「同伴避難」は避難所の規模や状況などに左右されるため、自治体は全面的に推奨するのは難しいという。また、それとともに被災者の「自助」が強く強調された。自助とは「他人の力を借りることなく自分の力で切り抜けること」を意味する。つまり、災害時は飼い主の自己責任でペットを守る必要があるということだ。
「私は自分も被災者という中でさまざまな思いを持ちながら活動をしていましたが、災害に直面したときの鉄則は『自分のペットは自分で守る』ということだと確信しました。飼い主以外にペットを守れる人はいません。そのために必要なことは、まずは日頃の準備と心がけです」(高士さん)
環境省のガイドラインを理解することや、自分が住む地域の避難所の受け入れ体制の確認をすること、約1週間分のフードの備蓄や防災グッズを準備しておくことが求められる。そして、高士さんによると、震災時にペットの安全を確保するためには、以下の5つの心がけが大事だという。
1. 災害発生時の心がけ
身体の安全確保とともに、ペットに首輪とリードを装着し、ケージなどに入れ安全確保に努める。
【ペットを保護できなかった場合】
無理はせずに、ペットが外に逃げ出さないよう家の戸締りをして避難する。避難の際、ペット残留情報カー ド等を目立つ場所に貼り、ペットが室内に残っていることを周知する。
2. 避難時の心がけ
普段どおりの行動を心がける。落ち着いて首輪の迷子札と非常用持ち出し袋を確認する。避難経路に合わせて適切な経路を選び、ペットと共に避難する。
3. 避難先での心がけ
被災情報、支援物資情報など正しい情報を得るようにする。避難所に同伴避難できる場所があれば、自分から責任者に提案することも大切。
【避難所・広場・車中泊で過ごす場合】
飼い主同士協力をすることが大切。温度管理に気をつけ、体を動かす。ペットの排泄物は適切に処理する。
【自宅で過ごす場合】
2次被害に注意する。さらなる災害に備え、避難経路を確保する。避難の準備をしておく。
4. 仮設住宅での心がけ
犬は市町村への登録をする。ペットの飛び出し防止柵を設置し、迷子札をつねに装着する。排泄場所に気を配る。近隣住民とのコミュニケーションを大切にする。
5. ペットが迷子になったときの心がけ
ペットの写真やチラシを用意し、近辺に貼る。町内の有線放送、回覧板、市町村の広報誌などを利用する。愛護センターなどで保護情報を確認する。決して諦めない。
さらに、「ペットのストレスケアも必要」と高士さんは言う。
「まずは安心できる場所(ケージなど)を作ってあげます。怖がったり驚いたりしないように、大きい声で命令したり、叱ったりするのは避けること。また、ペットは飼い主の不安な感情を敏感に感じ取ります。飼い主が先に落ち着いて、普段どおりに接してあげることが大切です」
このように飼い主の自助の役割は多岐にわたる。事前の備えがなければペットの安全を守ることは難しい。
震災時に試される「しつけ」
「震災発生時、飼い主が備蓄していたフードや避難グッズを持ち出すことは困難でした。そんな余裕はないというのが事実です。玄関から出られず、置いた場所が倒壊してしまえば取ることもできません。幸いにも動物愛護センターには北九州の備蓄物資がすぐに届きました。それを配布してペットの命をつなぎました。
備蓄や防災グッズは落ち着けば家に取りに行くことができますが、より避難生活で必要なのは、日頃のしつけや、飼い主のマナーです」
ペットは家族の一員という考え方は飼い主目線で、ペットを飼っていない人には理解してもらうことは難しい。避難所では、こうした価値観の違うもの同士が同じ空間で過ごすことを強いられる。
避難所の様子(写真:PIACK(ピアック)の会)
「避難所ではお互い支えあって生活しなければなりません。しかし、被災者の中にはペットが苦手な人もいる。飼い主はその気持ちを理解して行動することが大切です」
震災によって被災者は多くの物を失う。精神的に追い詰められた状況下で、ペットの無駄吠えや臭いなどの問題は、ペットを飼っていない人にとっては想像以上のストレス。その反面、ほかの被災者からの苦情は飼い主にとって大きなストレスになる。
それらを軽減するためには、ハウストレーニングや無駄吠えをさせないしつけはもちろん、避妊去勢手術、寄生虫の駆除、予防接種を受けたほうがいい。また、日頃から飼い主がマナーを遵守して、ペットを飼っていない人に嫌なイメージを与えないことも重要である。
PIACK(ピアック)の会をはじめ、いくつかの市町村では環境省が改正した「人とペットの災害対策ガイドライン」を受けて、避難所におけるペット対応マニュアルなどを作成している。
飼い主たちには、そうした資料を参考にしながら、「自分のペットは自分で守る」という意識を持ち、常日頃から災害に備えてほしい。
「飼い主とペットの為の防災ガイドブック 災害時ペットたちはどうなる? どうする?」(写真:PIACK(ピアック)の会)
●取材協力/PIACK(ピアック)の会
熊本市動物愛護推進協議会の動物取扱業(動物病院・サロン)登録者有志で設立された団体。震災後に飼い主とペットのための防災ガイドブック「災害時ペットたちはどうなる?どうする?」を作成し、今後の災害に役立つ情報を発信している。
【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します
提供元:震災時も「ペットの命」を守るための5つの鉄則|東洋経済オンライン