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2019.02.15

医者の余命告知を真に受けてはいけない理由 |人の余命は断定的に言えるものではない


余命告知を真に受けていませんか?(写真:BrianAJackson/iStock)

余命告知を真に受けていませんか?(写真:BrianAJackson/iStock)

進行したがんや難病など、進行性の重い病気をもった患者さんへ余命告知をしたほうがよいかどうか、患者になったときに余命を聞きたいかどうか、議論されることがしばしばあります。

担当医に自分の余命を尋ね、「放置していれば、あと3カ月ですね」と返答されれば、患者やその家族は戸惑い慌てふためいてしまいます。平穏だった日常生活から、いきなり断崖絶壁に立たされていることに直面するのだから当たり前です。

人間には人生の重大な危機に対処する力が備わっています。しかし、この3カ月という期日を信じ込み振り回されてしまうと、呪文にかかったようにその力を失いしぼんでいきます。

訴えられた例もある

2017年8月の読売新聞の記事で『進行がん患者、聞きたいと思ってるのに 余命「告知なし」4割』と題して国立がん研究センター(東京都)と東病院(千葉県)で行われた研究結果が紹介されていました。

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ここでは、「がん治療について余命を知りたいと思っていたが、医師から聞いていない人が、進行がん患者の4割に上る」と書かれていました。

しかし、実際には、「余命何カ月です」と断定的に言えるほど、医師は患者の余命を知っているわけではありません。

また、2018年10月には、同年1月に死亡した大分市の女性(当時57歳)に余命1カ月との診断結果を告知しなかったため、「残りの人生を家族で充実させることができなかった」として、遺族が女性の通院していた病院を運営する市医師会と主治医に対し損害賠償を求める訴訟を大分地裁に起こしたということが報じられました。ここにも、余命はわかるものとの前提があるように思われます。

2008年に報告されたアメリカの調査では、患者に具体的な余命について話す頻度は、「つねに」あるいは「通常は」と答えた医師は43%。「ときどき」、「まれに」あるいは「まったくない」の回答が53%であったと報告されています。

患者さんへの情報提供が進んだアメリカにおいても半々なのです。大分で起きた件も、余命を知らせなかったというよりは、病気の重症度や、死に至るのはどのような経過が可能性としてあるのか、などが十分に伝わっていなかったことが問題なのだろうと考えられます。

「余命1ヶ月の花嫁」がテレビのドラマや映画などになって話題になったように、余命告知から始まるドラマや小説が数多くあります。おそらく、その影響もあって、余命1カ月・3カ月と判断できるのが当たり前と考えてしまっているのでしょう。しかし、余命の予測はあたりません。

医者の的中率はどのくらいか

予測された余命が、どの程度の精度であったかという研究が2015年に報告されています(※)。通常、有効な治療がなくなり6カ月以内とされた人が入る緩和施設の研究であり、わが国の緩和ケア施設が59施設も参加した多施設研究です。臨床的に予測した生存日数と実際の生存日数が報告されています。下図の横軸が予測した日数、縦軸が実際の生存日数です。

(画像)Amano K, et al. The Accuracy of Physicians' Clinical Predictions of Survival in Patients With Advanced Cancer. J Pain Symptom Manage. 2015 Aug;50(2):139-46.

(画像)Amano K, et al. The Accuracy of Physicians' Clinical Predictions of Survival in Patients With Advanced Cancer. J Pain Symptom Manage. 2015 Aug;50(2):139-46.

横軸の30日、60日、90日、180日の上に黒い点が数多くのっているのは、医師が予測する時に、このような期日を目安に予測していることを表わしています。

横軸の60日や90日の上に打たれている点を見ると、ほぼ0日から180日までまんべんなく広がっています。それ位、医師の予測はあたらないということを表しています。

グラフには3本の斜線が引かれています。真ん中の線が予測と実際の日がピッタリとあたった場合の線です。上の線は予測より33%長く生きた場合、下の線が33%短く生きた場合です。

上下の線にはさまれた部分が、プラス・マイナス33%の範囲であり、予測が60日であれば、40日から80日の間に亡くなられた場合に相当します。このプラス・マイナス33%の範囲内で亡くなった人は35%であり、予測日が長めだったのは45%、予測日が短く悲観的すぎたのが20%でした。

まずは、医師の予測の的中率はこの程度ということを理解してほしいと思います。この調査は、積極的な治療をあきらめ、緩和医療に入った進行がんの患者さんが対象です。がんの進行度がより軽く、これから治療を試みようとする患者さんであれば、結果はバラツキ予測の的中率はさらに低くなります。

がんはゆっくり進行する病気であるために、比較的余命がわかりやすいほうです。ですが、心筋梗塞や不整脈、脳卒中や肺炎などでは、突然なるため予測はより一層難しくなります。
(※)Amano K, et al. The Accuracy of Physicians' Clinical Predictions of Survival in Patients With Advanced Cancer. J Pain Symptom Manage. 2015 Aug;50(2):139-46.(https://www.jpsmjournal.com/article/S0885-3924(15)00161-X/fulltext)

もう少しわかりやすく解説しましょう。地震や火山の噴火の予想はかなり難しいですね。この予想のあたらなさが、心筋梗塞や不整脈、脳卒中や肺炎などの死亡予測に相当するものと考えてください。

地震予測もあと何年以内に何%の確率でという予測であれば、ある程度科学的で信頼できるものですが、何日後とか何カ月後に起きることが予測できるかといえば、不可能なのです。

徐々に病気が進行するがんや慢性呼吸不全や慢性心不全、肝硬変などでは、突然訪れる心臓病や脳卒中に比べて、もう少し予測があたるかもしれません。しかし、それでも、天気予報でいえば台風の進路予測ほどにはあたりません。台風でさえ、迷走することがあり、あたることもあたらないこともあるのです。

余命を短めに伝える

医師による余命の予測は、そもそもあたらないものですが、余命を聞かされたときに、気をつけておくべきことがもう1つあります。それは、医師は予測よりも短めに伝えがちということです。

余命の予測を短く伝えて、患者さんがそれより長生きされれば問題は起きませんが、長く伝えて短期間で亡くなられてしまうと、患者さんにも遺族にも恨まれることになります。あるいは、余命を短めに伝えておいたほうが医師から奨める治療に早く同意するからという要因も無視できません。そのような背景もあって、医師は自分の予測よりも短く伝えることになりがちです。

患者さんや家族に余命を尋ねられたときの医師の思考を考えてみたいと思います。聞かれたとき、医師は正直に「解りません」と答えることは難しいのです。ある種の勇気が必要となります。なぜなら、「この医者は余命も解らないのか」と医師としての経験や技量が疑われてしまうからです。

それを避けようと、医師は勘をはたらかせて「あと何カ月」などと答えてしまいます。どちらかと言えば、医師の自己防御的な余命の告知です。

一方、患者さんが聞いてもいないのに、「このままで放っておけば、あと3カ月の命です。手術をすれば……」といったように余命を伝えようとする医師もいます。医師が自分の勧める治療に少しでも早く持ち込みたいという気持ちが強ければ、いわゆる「おどしの医療」として余命を短く伝えてしまうことになります。主導権をにぎって患者に早く決断してもらいたいからです。

患者さんは即断をせず、冷静になる時間をとり、できる限りの情報を集め、自分が何を大切にするのかという本心を確かめ、信頼できるほかの人とも相談したうえで決めたほうがよいでしょう。

断定的に死ぬ期日を伝える余命告知はあたらないし、聞かないようにしたほうがよいのです。もし、乱暴な口調で医師に余命を告げられたとしても、信じ込まないことです。余命なんて、実は誰にも解らないことなのですから。

AIを使って、病気の予後を予測計算させるという試みは始まっており、今後確率的な精度は多少上がってくるでしょうが、それでも断定的な余命の予測はできないものと考えたほうがよいでしょう。

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提供元:医者の余命告知を真に受けてはいけない理由|東洋経済オンライン

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