2019.01.21
「事故物件」、知らずに契約しないための知恵|プロが教える見抜き方と業界慣行の抜け道
事故物件を見抜く方法ってあるの?(写真:recep-bg/iStock)
殺人や自殺、火災、孤独死などで人が亡くなった物件を事故物件と呼ぶ。そんな事故物件と知らずに不動産を購入したり、賃貸契約を結んでしまったりしたら、どうだろうか。事故物件であることを隠して、高い賃料で入居させたい。そんな大家や不動産会社もいるかもしれない。
事故物件の可能性を疑ったほうがいい場合とは
事故物件を、入居する側はどのように見抜いたらいいのだろうか。事故物件公示サイト「大島てる」の運営者である、大島てる氏は事故物件を見分けるコツについて、主に3つあると言う。
(1) 不動産屋に案内されたときに、ほかの部屋に比べて、異様にリフォームされている
これは、「事故物件の可能性を疑ったほうがいい」というのが大島てる氏の見解だ。物件の内覧では事故物件かどうかはわからない。事故のあった物件は、床下に体液が染み込んでいるなど、物件そのものの損傷が激しいことが多い。体液がフローリングの下まで染み込んだせいで、通常は行わないフローリングの総取り替えをしていたら、フローリングはピカピカで新品になっている可能性がある。また、浴室で自殺していたら、浴槽ごと新品に取り替えるなどのケースもある。
部屋は普通でも、通常ならば取り替えないような一部の箇所が丸ごとリフォームされている場合も要注意というわけだ。
(2)アパートやマンション名が最近、急に変わった
殺人事件などで、新聞などで繰り返し物件名が報道されて有名になってしまうと、それだけでイメージがついてしまい、入居者が減ることも考えられる。また、物件名がインターネット上に残り続けるということも。そこで物件名を丸ごと変えてしまうのだ。また、事故物件の場合、アパートの塗装の色が急に全面的に塗り替えていることもある。これは、少しでもイメージを払拭したいという狙いだろう。
(3)1人目には告知するが、2人目には言わないという不動産会社の慣行を悪用
定期借家契約などで、更新を2年などに定めて、1人目を追い出し、2人目からは、通常の家賃に戻すというケースだ。場合によっては、先に少し述べたように会社の社員を数カ月住まわせてその後、何事もなかったかのように貸し出す業者も中にはいるという。ほかにも、家賃が相場よりも安い物件も、事故物件の可能性が高い。
ただし、これらの項目が当てはまるからといって、当然ながら必ずしも事故物件であるとはいえない。事故物件が平気な人もいるが、敬遠したい人も少なくないだろう。そういう人たちにとっては、賃貸物件の一般的な慣習とされる1人目だろうが、2人目だろうが、きっと関係ないだろう。何を“瑕疵(かし)”とするかは個人の考え方によるのではないか。
しかし、賃貸の場合、事故物件の告知義務は1人目のみで、2人目以降は告知しなくてよいというのが通例になっている。
そもそも賃貸物件においての事故物件の1人目告知という通例は、いつ頃できたのだろうか。大島てる氏によると、そもそもこの1人目告知が不動産業界で通例になったのは、東京都内のアパートで、自殺した借り主の連帯保証人に対して損害賠償請求を行った裁判だ。
東京地裁は、この裁判で「1人目の賃借人には告知しなければいけないが、その賃借人が退去したら、次の入居者に対して告知する義務はない」という判決を下した。それに基づいて賠償請求が認められたわけだ。これは、そもそも連帯保証人である遺族が、過重な負担を負わないためだと考えられる。しかし、この裁判が元となり、不動産業界には「事故物件はその後に借りる1人目へは告知すること」の通例が生まれた。
ちなみに、「これはあくまで業界の慣行であって、裁判で争ってその理屈が通用するかどうかは別問題だ」と大島てる氏は語っている。つまり今後の裁判によっては、この1人目告知の慣行が覆される可能性があるのだ。
事故物件の裁判からわかること
しかし、事故物件であることを知らずに借りてしまったり、買ってしまったりしたらどうすればいいのだろうか。また、仲介業者さえもその事実を知らずに、物件を売買して、後でその事実を知ってしまったら……?
実は、事故物件において、告知義務を怠ったために、宅建業者が損害賠償請求をされるケースが過去にはある。いわゆる心理的瑕疵の物件をめぐる裁判である。
心理的瑕疵の物件の裁判では、個別のケースによって、それぞれの判断にばらつきがあり、なかなか断言できない部分があるのが現状である。殺人事件ならば、事件が起こってから何年まで告知すべきだとか、マンションならば、隣やほかの部屋にどこまで告知すべきだという明確な基準はまだ定まってはおらず、あいまいであるがおおむね義務はなしというのが、大まかな裁判所の判断となっている。
まず、ざっとポイントを説明すると、物件のある場所が都会なのか、それとも田舎なのかで大きな違いが生じることが挙げられる。これはたとえば、人の入れ替わりが激しい都心部の物件だと、人の記憶も薄れやすいとの判断が働いている。そのため、心理的瑕疵の度合いも低いとされるのだ。
ところが、田舎だと例え何年経っても、殺人や自殺などの記憶がそこに住む人々の間で、風化せずにずっと残り続けることが多いことから、心理的瑕疵の度合いが高くなるとされている。
建物がすでに取り壊されている場合は?
2つ目は、死因が自殺であるか、他殺であるかだ。当然ながら、病気を苦にした自殺と凄惨な殺人事件とでは同じ死でもやはり住み心地に影響するとされるからだ。そして、事故が起こってからどのぐらい経過しているかも重視される。契約をした日に近い日にちに自殺などが起こった場合、それは、心理的瑕疵として認められるケースが多い。逆に何十年も経過していた場合、一般的に心理的瑕疵は薄れてくるとされる。
『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました Kindle版』(菅野久美子著、彩図社)。
さらに、事故があった建物がすでに、取り壊されているかどうかなどは、心理的瑕疵の程度を判断するうえで、重要な判断材料となってくる。つまり、一般的に自殺や殺人があった建物がすでに取り壊されて土地だけになっている場合は、心理的瑕疵は認められていないケースが多い。建物がなくなったから、いいじゃないかという考えだ。
また、居住目的なのか、店舗なのかによっても違ってくる。家族などで住む場所としては瑕疵があるが、お店として使用するのだったら、それは薄れるというのが一般的な判断だ。
今後、さらなる情報化の発達によって、不動産業界にとって、「大島てる」のようなサイトの発達は抗えないと感じる。事故物件をめぐる裁判も増えるだろう。事故物件を隠蔽するのではなく、初めから貸す側、借りる側の双方にとって結果的によく、共存していく道なのではないだろうか。
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提供元:「事故物件」、知らずに契約しないための知恵|東洋経済オンライン