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2019.01.16

誰からも嫌われたくない人が生きづらい理由| 名越康文が「対人関係のコツ」を徹底解説


無意識のうちに「すべての人に好かれなくてはいけない」という思い込みにとらわれてはいませんか(写真:しげぱぱ / PIXTA)

無意識のうちに「すべての人に好かれなくてはいけない」という思い込みにとらわれてはいませんか(写真:しげぱぱ / PIXTA)

やたらと自分にばかり厳しい上司。

揚げ足ばかりを取ってくる部下。

なぜか馬が合わない同僚……。

職場に苦手なタイプの人がいると、それだけで気が滅入りますよね。

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「嫌な相手なら付き合わなければいい」と言いたいところですが、仕事であれば、そういうわけにはいかないケースも少なくありません。ましてや、その相手が、同じ部署で毎朝顔を合わせる上司や部下であったり、どうしても付き合わなければならない得意先の担当者だったりすると、それこそ、精神科に相談をしなければいけないくらい、心の状態を悪化させる原因になってしまうこともあります。

ただ、「苦手な相手と付き合う」ということは、どんな仕事であっても避けることができない現実なのだということには変わりはありません。

宇宙の真理と「1:2:7の法則」

かつて私のカウンセリングの師匠に、ちょっと冗談めかして「宇宙の真理って知ってる?」と聞かれたことがありました。「え?」と絶句していると、「それは1:2:7の法則というのです」と、これも芝居がかった預言者のような口ぶりで厳かにおっしゃいました。その時のおかしさとその後に語られた衝撃の事実(笑)は、今もありありと脳裏に刻まれています。ほんとうに師匠とはありがたいものです。

さてその“真理”とは何なのか。僕が学んだアドラー心理学は対人関係の心理学なので、この「1:2:7の法則」も対人関係の法則のことなのです。たとえば自分の周囲に10人の他人がいるとします。そのうち、あなたが少々何をしでかしても、変わらずあなたのことを好きでいてくれる人が1人はいる。でも喜んでばかりもいられません。一方であなたがどんなにいいことをしても、どうも気に入らないやつだと思っている人が2人いるのです。そして残りの7人は自分の接し方によって敵にも味方にもなりうる人たちだ、というのです。

この教えにはもちろん科学的根拠があるわけではありませんが、これは、いま振り返ってみると改めて人間関係の真理をついているように思います。

同じ職場に10人、20人の人がいたら、どうも気が合わない人は必ず2人や3人はいる。そういう人とどう付き合っていくのかということは、働く人であれば誰にとっても避けがたい重要な課題なのだということを、まずは確認しておきたいと思います。

「すべての人に好かれなければいけない」という思い込み

特に日本人に顕著な傾向ですが、無意識のうちに「すべての人に好かれなくてはいけない」あるいは「誰からも嫌われてはいけない」という思い込みにとらわれている人というのは、少なくありません。

先に述べたように、どうしても気の合わない人というのは10人に2人ぐらいは必ずいる。そうすると、この「すべての人に好かれなくてはいけない」「誰からも嫌われてはいけない」という思い込みが無意識的に強い人は、普通に仕事をしているだけで、非常に大きなストレスを抱えることになります。

最近、小学生や中学生の不登校が社会問題化していますが、私が児童相談所などでかかわってきたケースをみても、学校にいけなくなる子どもの多くにみられるのが、この「すべての人に好かれなくてはいけない」「誰からも嫌われてはいけない」という先入観です。

改めて申し上げるまでもないことかもしれませんが、「誰からも嫌われない」ということは、不可能です。人それぞれ個性や好みが違う以上、あなたのことを好きな人もいれば、嫌いな人もいます。

もちろん、嫌われるよりは好かれたほうがいいでしょう。むやみに人から嫌われるような振る舞いをするのは、避けたほうがいい。誰だって人に嫌われるのは嫌なものだし、上司から嫌われれば出世の妨げになることもあるでしょう。あるいは、得意先の担当者に好かれることで、営業成績が上がることだってあるかもしれません。

ただ、どれほど努力をしても、何をやっても、どう取り入ろうとしても、あなたを受け入れてくれない人は必ずこの世に存在するのです。しかも一定数いると言ってよい。その現実をねじ曲げて「すべての人に好かれよう」「嫌われないようにしよう」という思いばかりが先走ると、リラックスした日常はとても送れなくなってしまいます。

「職場に苦手な人がいる」と悩んでいる人は、まず自分の中に「すべての人に好かれなくてはいけない」「誰からも嫌われてはいけない」という密かな思い込みがないか、ということをチェックしてみてはいかがでしょうか。

「嫌われること」を恐れていませんか?

厳しい言い方だと感じられるかもしれませんが、「嫌われたくない」「誰からも好かれたい」というのは、突き詰めると個人的な「欲」でしかありません。

だってそうですよね。あなたのことを好きになるか、嫌いになるかは相手の自由なのだから。

「好かれる」とか「嫌われない」というのは、実は「相手を自分の思うようにコントロールしたい」という大きな欲につながっている。この自分の中にある大いなる「欲」に気づき、上手に払っていくこと。これは、ストレスをためず、仕事を長く続けていくための大切なコツの1つだと私は思います。

他人から嫌われることを恐れ、とにかく好かれようとして疲弊してしまう傾向を、私は「過剰適応」と呼んでいます。一般的に、欧米人に比べて日本人は、過剰適応の傾向にある人が多いと私は考えていますが、特に仕事でストレスをため、精神的に追い込まれてしまう人の中には、この過剰適応の傾向を持っている人が少なくありません。

過剰適応の傾向を持つ人の中には、幼少期の環境が影響を及ぼしている場合もあります。父親がお酒に酔って暴力を振るっていたとか、感情的になりやすい母親の顔色をいつもうかがっていたという経験がある人は、大人になって、ビジネスの場においても「嫌われたくない」「好かれていないと不安で仕方がない」という無意識の渇望が顔を出してきやすくなります。

実は私自身、若い頃は「嫌われること」が苦手でした。振り返ってみると、子ども時代、両親がよく家の中でイライラしていたので、けっこう親の顔色をうかがっていた頃があったのです。そうやって、両親の顔色を見ながら育つことで「嫌われることへの恐怖心」を自分で植え付けてしまうわけです。

仕事上の人間関係って、本来であれば、利害関係がはっきりしているから、プライベートに比べればわかりやすいはずなんです。少なくとも、家族との人間関係よりは、仕事の人間関係をうまくやるほうが、難易度は低いと考えられます。ところが、現実には、職場での人間関係に悩んでいる人は少なくないですよね。

それはおそらく、本来であれば利害関係が中心であるはずの仕事上の人間関係に、無意識のうちに「家族のような関係性」と受け取ってしまっているからだと考えられます。

「上司」に対して、「親」に対するような甘えや畏怖(いふ)を覚えていないか。

「同僚」に対して「きょうだい」や「家族」へのような感情や距離感を見いだしていないか。

職場で「あの人が苦手だ」と感じたときには、まず自分の心の中にある「人から嫌われることへの恐怖心」や「家族のような距離感の中に入りこんでいないかに」を探ってみてください。それだけでも、それまでの自分の対人関係のあり方を見直し、関係性を改善するヒントが見つかることが少なくありません。

嫌われるのが嫌だから「YES」と言う

嫌いな相手や苦手な相手を避けるのではなく、逆に自分からすり寄っていったり、やたらと相手を持ち上げたりする人もいます。これは、心理学的には「反動形成」と呼ばれるもので、自分の中にある怒りや敵愾心(てきがいしん)を隠すために、自分の思いとは裏腹の言動を取るのだと考えられています。

反動形成が起きている人の中には、「嫌っている」という気持ちを相手に気取られるのが怖くて過剰にサービスする、という人もいれば、「誰かを嫌うという気持ちを持っていること自体を否定したい」という心理の人もいます。

自分はつねに「いい人」でありたい。「人を嫌う自分」を認めたくない。反動形成の奥にはこうした心理があると考えられますが、こうした反応のほとんどは、無意識ないしは本人の自覚があまりないということが特徴です。だから、相手のことを嫌っているという自分の本心には、きちんとは気づけないまま、相手の要求になんでも応えたり、太鼓持ちをしてしまったりすることがあるわけです。

このように捉えると、反動形成の背景には、先に述べた過剰適応があるということがわかります。また、文化的な背景としては、「身近な人を失望させてはいけない」とか「他人の期待には応えなければいけない」という、日本人特有の倫理観のようなものが作用していることも考えられます。

いずれにしても、こうした傾向を持つ人に必要なのは、「嫌われても大丈夫。自分はやっていける」という、ある種の「根拠のない安心感」だということが言えると思います。

仕事ができる人というのは、心のどこかで「嫌われても大丈夫」というメンタリティーを持っているように思います。ただ、これを身に付けるのは、過剰適応の傾向を持っている人にとっては、意外と難しいハードルだと言えます。

「あの人に嫌われたって平気だよ。ほかの人がみんな、君を嫌っているわけではないんだから」と言われたところで、なかなか、無意識レベルに根を張った「嫌われることへの恐怖心」はぬぐえません。

「嫌われても大丈夫」だというメンタルを身に付けるための1つの方法として、ビジネスマンの場合は、「人に負けない」と思える何かを、自分の中に持っておくことが有効だと思います。この「人に負けない何か」は、別に仕事に直結している必要はありません。むしろ、仕事とまったく無関係なもののほうが、かえってメンタルの支えになることがあります。

僭越ですけれど、僕の場合を例に挙げると、中学生の頃、「漫画を描く」ということを、1つの心の支えにしていました。別にプロになろうということではなかったのですが、クラスの中で自分はいちばん漫画を描くのがうまいと思っていました。実際にいちばんうまかったかどうかはともかく、学園祭などでポスターを描くときには、絵を描いてくれと頼まれました。そうやって誰かから必要とされる場面があることが、心の支えになっていたのでしょう。

趣味の世界でも結構ですので、そういう「負けないもの」を1つでも持っておくと、誰かから嫌われたり、いじめられたりすることがあったとしても、そうした困難を乗り越える力、1つの拠り所になることがあるのです。

承認欲求を満たすのは自分

「承認欲求」という言葉があります。一般的には、「他人から認めてもらいたい」という欲求だと言われていますが、実は、承認欲求というものを本当の意味で「満たしてくれる」のは、他人ではなく自分です。

「他人が自分のことを認めている」ということがわかっているだけで、心は安定を取り戻します。それはとてもうれしいし力強い体験です。しかしそれは同時に、よく効く「痛み止め」のようなものです。いつの日か、そこからさらに、「自分で自分を認める」という経験をする必要があります。そうでなければ、承認欲求は終着点に行き着かないのです。

長期的にみれば、人から好かれる体験だけでは、承認欲求が収まって安心感を得ることはできません。それよりも、人に負けない「得意分野」を1つ作っておいたほうが、承認欲求が満たされ、「嫌われても大丈夫」という安心感が育まれてくるのです。

別に宴会部長になってもいいし、エクセルのデータ処理が上手で、いろんな部署からデータ整理を頼まれる、といったことでもいいでしょう。小さな分野、特殊な分野、ちょっと変わった分野のほうがむしろいいでしょう。何か1つ、他人に負けないものを作っておくこと。そうやって「万が一、嫌われても大丈夫」という安心感を心の奥底で育てておくことこそが、苦手な相手と一緒に仕事をしていくための、第一歩なのです。

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提供元:誰からも嫌われたくない人が生きづらい理由|東洋経済オンライン

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