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2018.11.26

重病サインを見逃す医師の無知と患者の過信|もっと早く見つけていれば助かったケースも


病気が放置される原因は、医師・患者双方にあるかもしれない(写真:PIXTA/SoutaBank)

病気が放置される原因は、医師・患者双方にあるかもしれない(写真:PIXTA/SoutaBank)

長引く体の痛み(慢性痛)の特徴の1つとして、医療機関を受診したくなるような強い痛みを患者さんが感じているにもかかわらず、痛みの原因となるような異常が見つからず、なぜ痛いのかがよくわからない、ということがある。

慢性痛は直ちに命が危険になるような病気ではないのだが、毎年500人以上の患者さんを診ていると、すでに何らかの病気にかかってしまったことで、慢性痛とは別の原因で痛みが生じているケースに遭遇する。そのようなときには、もっと前に見つけられていれば……と忸怩(じくじ)たる想いにとらわれる。

痛みの原因がよくわからない

「やっと先生にお会いすることができました。この半年間は特に痛くて痛くて……。なかなか予約が取れなかったんですよね~」

部屋に入ってイスに腰掛けるなり、患者さんは期待感を弾んだ声にこめて話しだした。軽く日焼けしているような、やや褐色の肌をした60代前半の女性である。身長160センチはあるだろうが少し痩せ気味だ。言動は活発だが、どことなくやつれているように感じられた。長くお待たせしたことをお詫びした後、いつもどおり、「何がいちばんお困りですか」と質問を始めた。

「仕事の関係から、パソコンの前に座って作業していることが多く、ずっと前から背中の中ほどが凝って痛かったんです。それが、1年くらい前から段々痛みがひどくなって、半年くらい前からほぼ毎晩、寝ていても痛みで目が覚めるくらい痛みが強くなりました」

女性は、この日一緒に来ていた60代の旦那さんと2人で会社をずっと経営してきた。女性は税理士の資格を持っていて経理を担当しているため、パソコン仕事が多いという。もう数年したら仕事をたたんで悠々自適の生活に入ろうと考えている。

そうしたら身体も楽になると頑張ってきたが、あまりにも痛みがひどいので当科を紹介してもらったとのことである。今まで、大学病院を含む複数の医療機関を何回か受診したことがあるが、背中の痛みの原因はよくわからないといわれてきた。

「1年位前からのひどい痛みにはロキソプロフェンがよく効いて、飲んでから30分もすると痛みは半分以下になって楽になります。そこで、身体に悪いとはわかっていたのですが、ロキソプロフェンを1日6回も7回も飲んでしまって……。

そうしたら胃が痛くなって血を吐いてしまい、副作用で胃潰瘍になっていると診断されて内科の先生から叱られました。アセトアミノフェンに替えて胃潰瘍は治まったのですが、前ほどは効かなくて困っています」

胸と腰とのちょうど間の背骨のあたりに鈍い痛みはつねに感じていて、ひどくなるとそこから身体の前のほう(上腹部)に広がって差し込むような痛みとなるという。食欲が落ちたわけでもないのに、この半年くらいで体重が3kgくらい減った。若いときから風邪さえもほとんどひいたこともないくらい健康であり、かつ個人事業で忙しいので、必要だとは知りつつも、がん検診を含む健康診断は過去数年間受診していない。

このような話を聞いているうちに、自分の気分が少しずつ沈んでいくのを感じていた。痛みの原因が「ある」ことを示す「ヤバイ徴候」が満載だったのである。ひと通り診察を終えた後、内臓に原因がある可能性が高いことを夫婦にお伝えして、すぐに消化器内科に院内紹介状を書いて受診してもらった。

数時間後に返ってきた返信は、私のいやな予測が当たっていたことを示していた。「膵臓がんの可能性が高いため、直ちに入院精査します」と書かれていた。

薬が効かないこともある

痛みに何か原因がありそうなヤバイ徴候としては、まず、強い痛みのために寝ていても目が覚めてしまう、ということがあげられる。ここで重要なのは、痛みが原因で目が覚めるということであり、目がさめたら痛みを感じた、のではない。

つまり、ほかの事(トイレだとか隣に寝ている旦那さんのイビキだとか)で目が覚めたら痛みも感じた、とか、以前から寝つきが悪かったり眠りが浅かったりしていたので寝ている間も痛みが気になってしまう、というのとは異なる。あくまでも、強い痛みがきっかけで目が覚めてしまう、ということである。

すなわち、痛みで眠りが妨げられるというのは慢性痛ではまずありえないことなのである。慢性痛患者さんほぼ全員が、たとえ睡眠薬などを使用してでも、一度寝てしまえば痛みは気にならない、と話す。一般的に使われている睡眠薬には鎮痛効果はない。

また、薬そのものの作用もそれほど強いわけではなく、縫い針一本を刺しただけでも目を覚ませる程度である。鎮痛薬、特に非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs、ロキソプロフェンやジクロフェナクなど)がよく効くのも「ヤバイ徴候」の1つだ。よく効く、というのは服用してから30分くらいしてから効果が出始めて、痛みが半分以下になるというような場合である。

医師でさえも誤解している人がいるのだが、NSAIDsは「抗炎症薬」であって、鎮痛薬ではない。怪我や病気で起こる炎症を抑えることで、炎症に伴う痛みが間接的に良くなるのである。つまり、炎症がなければ理論的にNSAIDsは効果がない。

そして慢性痛はほとんどの場合に炎症を伴わない(あってもごくわずか)ので、NSAIDsを飲んでも効果はあまり感じられない。

慢性痛でも効果を感じるように思うのは、いわゆるプラセボ効果によることが多い。また、「平均への回帰」も効果があったように思う一因となっている。慢性の痛みのほとんどでは、痛みは強くなったり弱くなったりを繰り返す。

つまり、痛みが極めて強くなったら、そのまま何もしなくても自然に痛みは弱くなる。その一方で、痛みに対して薬を使うのは痛みが強くなった時なので、たとえ薬の効果がほとんどなくても、自然と痛みが弱くなるため、薬が効いたと思ってしまうのである。

さらに、この患者さんの場合には特に思い当たる理由がなく体重が急に減っている。中高年以上では、原因不明の急な体重減少は内臓などに癌などのなんらかの大きな異常があることを疑わせる「ヤバイ徴候」である。

自信過剰で「ヤバイ徴候」が見過ごされがち

ではなぜ「ヤバイ徴候」が見過ごされるのだろう。

見過ごされやすいのは、以前から慢性痛があった部分に新しい痛みがかぶってしまった場合である。痛みの性質が以前とは変わっている(この患者さんの場合、以前よりもはるかに痛みが強くなり、かつ腹部まで痛みが広がってきた)にもかかわらず、患者さん自身で「前からの痛みがひどくなっただけ」と理解してしまう。

特に、痛みの性質が変わる以前に大きな病院で精密検査を受けたことがあると、「どうせまた、何もないと言われるだけだ」と考えて、医療機関を受診することもない。

また、慢性痛についての医師への教育が日本はアメリカやヨーロッパなど先進国に比べて大きく遅れているため、ほとんどの医師は慢性痛について十分な知識や経験がない。そのため、痛みの性質の変化や、痛みによる睡眠障害、NSAIDsが効き過ぎること、などの重要な情報を患者さんに問診することもほとんどなく、見過ごしてしまいがちになる。

さらに、この患者さんのように自分の健康に過剰な自信を持っていて、定期的な健康診断などを受けていない場合は、さまざまな「ヤバイ徴候」が見過ごされがちになる。

そして、この患者さんの場合、ただでさえ症状が出にくくて発見が遅れがちになる膵臓がんの中でも、特にわかりにくい膵尾部癌であったことが不運だった。

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提供元:重病サインを見逃す医師の無知と患者の過信|東洋経済オンライン

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