2018.08.17
「介護付き老人ホーム」は本当に高すぎるのか|「おひとりさま」なら今から考えておきたい
高くて、暗いイメージの老人ホームだが、本当はどうなのか(写真: Greyscale / PIXTA)
「人生100年」を経験できる人は、今までそれほど多くありませんでした。しかし、これからは当たり前になっていくと言われます。そうなると、従来のように60代前半でリタイアした場合、残りの人生は40年近くもあります。40代前半〜半ばの団塊ジュニア世代には、独身の方も少なくありません(子どもを持っていたとしても、老後の面倒を見てもらえるかどうかはわかりません)。そこで「おひとりさまの団塊ジュニア」の人が、長い老後を安心して暮らすための対策を考えていきましょう。もちろん団塊ジュニアでなくても考え方はあてはまりますので、ぜひ参考にしてください。
老後を2つのステージに分けて考える
(1)60~80歳(シニアライフを楽しむ期間)
今「老後を迎えたら、こんなふうに過ごしたい」と思い描いていることはありますか。老後は、仕事中心から、自由を一段と楽しむステージへ変わります。自然に囲まれた田舎、もしくは海外で暮らしたいといった夢があるかもしれません。もちろん好きな仕事にチャレンジもできますし、今とはまったく違う仕事もできます。「体力に合わせて週に2〜3回」などと決めて働くこともできるでしょう。今後、年金の減額が予想されるので、不足分をカバーするために、働き続ける必要があるかもしれません。そして、もちろん、80歳以降の人生に向けての本格的な準備も早くからしておくことに越したことはありません。
(2)80歳から(自分らしさを追求する期間)
もし移住するなら、80歳を目安に、なるべく元気なうちに、行動に移すことがその後の安心につながります。ずっと一人で暮らすのであれば、いつか体が動かなくなったときのために、さらなる備えが必要になります。もし、自宅を所有していれば、自らが意思決定できるうちに売却し、その資金や預貯金を元手に介護ケア付き老人ホームに移るという選択もあります。自分で動けるうちは、普通の暮らしと同じように自由に生活でき、介護が必要になると手厚い介護サービスが受けられるのが特徴です。こうした施設は、元気なうちしか入ることができません。
介護ケア付き老人ホームの一般的な費用について、ここでは神奈川県の港南台駅から徒歩圏のところにある施設を例にあげます。入居金(終身利用権)は2500万〜4200万円と幅があり、そのほかに安心サポート費が500万〜900万円必要です。入居一時金は、場所や入居時の年齢で大きく変化します。年齢の目安として、75歳の人で3700万円ほどかかり、毎月の管理費は11万円ほどです。それに光熱費と利用した分の食費が加算されます。毎月の生活費は、どこにいてもかかるものです。いざというときの介護費用も先払いになります。
入居金が用意できれば、あとは不安なく自由な時間を追求できます。老人ホームというと、「あとは死を迎えるだけ」と暗く考えられがちですが、こうした施設は実は難しい介護状態にならないための工夫がたくさん施されているのもメリットです。このように、介護ケア付き老人ホームも視野に入れながら、多様な生き方と資金計画を立てることも可能となります。
「おひとりさまの老後」を具体的にイメージしていただくために、市原百合子さん(76歳、仮名)の例をご紹介しましょう。
百合子さんは、まだまだ元気で活動的ですが、「万一健康を害したときのため」と、あらかじめ行動に移した一人です。夫は8年前に他界し、一人で暮らしています。一人息子は別に家を持って暮らしています。夫の遺産分割の際に、相続財産の半分をきっちり息子に分けているので、息子には自分の財産を残さなくてもいいと考えていました。ですから、経済的な不安はありません。
要介護になったときだけ面倒を見てもらう
百合子さんは若い頃は普通の会社員として働いていたこともあり、友達も多く、今も海外旅行、国内旅行にもたびたび出かけています。歌、フラワーアレンジメントやフラダンスなど趣味も幅広く、活動的です。あるとき、介護ケア付き老人ホームに入所している友人から、とてもいいと聞いてから、「自分もそんなところで暮らしたい」と思うようになったのです。その友人が入ったホームの入居金は5000万円から1億円ほど。そこで「もし万が一介護状態になったらお世話をしてもらえるところはないか」と探しはじめ、セミナーにもいろいろ参加していたそうです。
友人のように元気な人が暮らすマンションタイプで習い事も続けたいので、駅に近いところで探しました。しかし駅近物件はなかなか高額で、しかもすでに定員いっぱいのところも多く、なかなか見つかりませんでした。たとえば見学に行ったある施設は「お手頃価格」でしたが、自分が元気なうちも介護状態の人と一緒に暮らすスタイルだったので、しっくりきませんでした。「とにかく駅近で習い事を続けたい」。ここは譲れない部分でした。そのため時間がかかっても極力希望にあったところを探すことにしたのです。
そんなとき、別の友人宅に、近所に新しくできる介護施設のパンフレットが投かんされました。友人から聞くと、それは百合子さんが探していたタイプの施設でした。高層部分が元気な方の住まい、そして、介護状態になったら、追加料金なしで下層階のお部屋へ移動して、面倒を見てもらうことができます。いつ体が動けなくなっても安心です。
なによりも、息子やお嫁さんに頼らなくてすみます。第1条件の「駅からの時間」も徒歩2分。見学に行くと、入居者向けに複数のカルチャー教室も用意されており、外出しなくても習い事ができそうです。理容室も大浴場もあり、自由に利用できます。食事はキッチンで作ることもできるので、お料理をしたい百合子さんにぴったりです。施設内のレストランでも自由に食事が楽しめます。応接室を借りれば、息子たちが来たとき一緒にくつろぐこともできます。もうすっかり気にいって、見学した施設に契約の予約を入れたのでした。
「介護型」と「住宅型」どちらがいいのか
一方、それと並行して所有する自宅とアパートの売却が進められました。幸い、駅近のアパートは売り出しから1カ月で、自宅も3カ月で売却できました。2つ合わせて6000万円の売却代金で、入居金は支払えます。一時金は2600万円のタイプ。月々16万円と食費(実費)の生活が始まることになりました。百合子さんの年金は月17万円ありますから、年金のなかで収まり、ほかに大好きな旅行や趣味も十分に楽しむこともできます。これで介護状態になったときの心配もいりません。引っ越しの日を迎えたときの百合子さんの明るい笑顔が忘れられません。
しかし、この百合子さんの例を読んで「介護ケア付き老人ホームって、やっぱり高すぎる!」と思っている方も少なくないと思います。高いところだと入居金に1億円かかるところもあり、都心の高級マンションが買える金額なので、「お金持ちしか入れないじゃないか」「そんなお金を払う価値があるのか」と思うのも当然です。ではその内訳はどうなっているのでしょうか。
老人ホームには大きく分けて介護型と住宅型があります。介護型は老人ホームに入居し、介護費用を入居一時金で支払います。そうすることで、将来介護費用が発生しても、料金は定額制になっているので負担が大きく増えない仕組みになっています。
それに対して、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった住宅型施設は、普通に生活するための住宅です。毎月13万〜16万円ほどで生活しているケースが多いようです。建物内にヘルパーさんがいる介護施設が入っているのが特徴です。月々の支払いには、介護費用などはいっさい含まれていません。一見、さほど高くないように見えますが、介護が必要になった場合、別にヘルパー代が必要になってきます。
適用される介護保険には上限があります。たとえばいちばん重い「要介護5」の場合、月額で約37万円使えます。地域によっても少し金額が異なります。その方の年金などの収入にもよりますが、もし1割負担したとすると、3万7000円ほどの自己負担です。
しかし、サ高住で介護ケア付き老人ホームと同程度のサービスを受けるには、月額50万円から60万円ほどの自己負担になるのが一般的です。介護保険から支払われる費用に比べて高額です。
このように比べてみると、すべて含まれている施設を選ぶほうが、結局は「おひとりさま」には安心かもしれません。住宅型施設の料金は安いですが介護費用は介護状態になってから別途必要になるため、将来的にいくらかかるかわかりません。介護度が高くなり長引いた場合、高額になることも十分に考えられます。
特定施設入居者生活介護の国の基準により、介護サービスは3人に対して1人のスタッフが担当します。先ほどご紹介した介護ケア付き施設では、居住者2.5人に1人、介護状態になってからは1.5人に対して1人のスタッフが面倒を見る手厚い体制がとられています。多くの方は、介護状態になってから入所する、介護ケア付き老人ホームを思い浮かべる方もいると思います。そういうところは部屋の広さが15㎡ほどと小さく、お風呂もキッチンもないことも少なくありません。
「値段も高いが、満足度も高い施設」の選択も
施設にもよりますが、元気なときに入る介護ケア付き老人ホームを選択すると、一般的にスペースは広く、マンションのように自立して生活できるようになっています。ホテルのような快適な空間で、晩年をゆったりと好きなことを楽しみながら過ごすことができる施設も少なくありません。1カ月の食費は毎食頼んでも追加費用は月額5万円ほどのところもあり、特に男性の一人暮らしの方が本当に喜んでいるそうです。一人だとつい食事も簡単になりがちです。バランスのよい食事をとり続けられるのは健康維持にもつながります。晩年を不安なく楽しむことができるなら、高額でも頑張って準備する価値はあるのではないでしょうか。
読者の皆さんは、自分の体が動かなくなったり、判断能力がなくなったとき、サポートしてくれる人はいますか。介護ケア付き老人ホームは、元気なときには自由で快適な暮らしができ、だんだん自分の体力や判断力が低下してきたときは、手助けしてくれるシステムになっています。自分の尊厳を保ちながら、老後を自由に楽しむことができます。そのうえ、一人で暮らすより防犯上安心ですし、いざというときに困ることもありません。その代わり金額が高額です。見てきたとおり、入居一時金も含めると、一時金は安くても3000万円から5000万円くらい。それにプラスして月々20万円前後はかかります。金銭的に恵まれていた百合子さんのような例を実現するのは、そう簡単ではありません。
「平成27年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータでみると、厚生年金の平均支給額は、男性16万6120円、女性では10万2131円です。ねんきん定期便などで将来の年金をシミュレーションして、見込み金額を試算してみてください。入居金+生活費が準備できれば、老後も安心です。一人なら50代前でも準備していけます。もちろんどんな道を選ぶかは自由ですし、介護ケア付き老人ホーム以外の選択もあります。ぜひ、読者の皆さん一人ひとりが未来をイメージしつつ、さまざまな準備を始めていただきたいものです。
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提供元:「介護付き老人ホーム」は本当に高すぎるのか|東洋経済オンライン