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2018.07.18

日本のエリートに欠ける「本質」見抜く力の源|徹底的に思考して言葉にすることが必要だ


先が不透明な時代を生き抜くには、これまでとは違う能力が必要です(写真:jacoblund/iStock)

先が不透明な時代を生き抜くには、これまでとは違う能力が必要です(写真:jacoblund/iStock)

今、私たちはどんな時代を生きているのだろうか。そんな問いを投げかけなければいけないほど、時代の変化は速い。

今世紀に入って、テロとの戦いやグローバリズムが急速に進み、従来の政治・経済の体制が揺らぎ始めている。インターネット上の情報は秒速よりも速く更新され、AI(人工知能)は指数関数的に進化している。これらのせいで、先の読めない不確かさが蔓延している。

そんな時代を生き抜くためには、これまでとは違う能力が求められる。とりわけ、時代を切り開こうとするビジネスパーソンにとって、そうした能力を身に付けることは喫緊の課題だといっていいだろう。拙著『ビジネスエリートのための! リベラルアーツ 哲学 』でも触れているが、具体的には、

・混沌とした時代を分析する力
・正解がない中で決断する力
・難問を解決する力
・新しい価値を生み出す力

などが挙げられる。これらの力を鍛えるためには、まず確かな知識を身に付ける必要がある。そのうえで、その知識を自由自在に活用し、自分自身で思考することが求められる。ひと言で言うと、今私たちに求められているのは、そんな確かな知識をベースにした強靭な思考力にほかならない。その思考力を形づくるベースを「教養=リベラルアーツ」と位置づけていいだろう。

『ビジネスエリートのための! リベラルアーツ 哲学 』 ※外部サイトに遷移します

現代の教養「リベラルアーツ」

それは表層的な知識やちょっとした計算能力のことではない。従来、優秀なビジネスパーソンに必要とされてきた、英語やIT、会計の知識などは、やがてAIに取って代わられる可能性が高い。

また、MBAなどで学ぶフレームワークやロジカルシンキング、戦略やマーケティングの手法は、効率よく業務をこなすためには確かに役立つツールだが、そこから大胆な発想やイノベーションはなかなか生まれてこない。そんなとき威力を発揮するのが、確かな知識とそれをベースにした強靭な思考力だ。

特に欧米では、大学の4年間をかけて、このリベラルアーツをみっちり学ぶ人も多い。アメリカにはこれらを学ぶことが目的のリベラルアーツ・カレッジも数多くあるほどだ。仕事に用いる知識やスキルである、法律、経済、会計、経営などは、その後の大学院で学ぶのである。

ちなみに教養とは、決して知識を丸暗記していることではない。難解なラテン語の詩の一節を口ずさめるとか、中世のマニアックな楽曲を知っているとか、そういうことでもない。

教養とは、何らかの物や事柄について考えるための基礎となる知識や思考の型のことだ。多様な文化や歴史を知り、世界について考えるための力であり、5年、10年先まで見渡すことのできる思考のベースとなるものを指す。これからのビジネスパーソンに必須のリテラシーであるといってよい。その基礎にあたるのが、哲学だと私は考えている。

そもそも古代ギリシアの哲学者、アリストテレスが示したように、哲学はもともとあらゆる学問の母であった。

「哲学する」とは何か?

そもそも哲学とは何なのか? ひと言で言うと、哲学とは物事の本質を探究する営みである。つまり、自分を取り囲むこの世界を、言葉によって理解し、意味づけるための道具だといってよい。とりもなおさずそれは、概念の創造であり、ひいては世界そのものを創造することでもある。それを思考という動作を徹底的に繰り返すことで成し遂げるのである。それをやるためには、最低限の知識が必要になる。ただし、哲学史や哲学用語を学ぶことが、ゴールではないので、注意が必要である。

私は大学で1年生に哲学を教えるときにも、哲学そのものを学ぶのではなく、「哲学する」ことを学ぶのだと強調するようにしている。なぜなら、彼らは哲学というとすぐに暗記科目だと思い込むからである。おそらく高校の倫理がそうだったから、同じように考えてしまうのだろう。

しかし、哲学は高校で習う倫理とは180度異なる科目である。なぜなら、高校の倫理が知識を身近にするのに対して、哲学はむしろ「疑う学問」だからだ。これが哲学するということの最初の意味である。

「哲学を学ぶ」というのであれば、別に知識を伝えてそれを知ってもらえば十分である。しかし、「哲学することを学ぶ」ためには、それではいけない。物事の本質を探究するためには、そのためのプロセスを修得してもらう必要がある。それは、

「疑う」
「関連させる」
「整理する」
「創造する」

というプロセスにほかならない。さらに付け加えるなら、最後にその思考の結果を

「言葉にする」

ことである。

では、忙しいビジネスパーソンが「哲学する」ためにはどうすればよいのか? 方法はいろいろある。

今すぐ「哲学する」ための方法いろいろ

(1)通学で

哲学するために学ぶには、かつては大学の教養科目で選択するか哲学科を専攻するしかなかったが、最近は変わってきた。大学の社会人向け講座やカルチャーセンターでの講義もあれば、私もときどき開催する「哲学カフェ」のようにカジュアルに参加者と議論する場もあるし、個人が行っている哲学塾もある。

(2)独学で

哲学するための基礎に欠かせないのが独学だ。哲学は独学に向いている。なぜなら、実験器具もいらないし、場所も問わないからだ。極端な話、頭だけあれば誰でもすぐに始められる。考えればいいだけだから。

基本は、

「本を読む」
「考える」
「言葉にする」

の3つを繰り返していけばいい。本を読んで知識を得たり、疑問を持ったりする。それを題材にしたり、きっかけにしたりして考える。そのうえで、考えた内容を一度言葉にしてみる。あとは、そのおのおののプロセスをいかに深くやれるかだ。特に考えるという部分が深くなると、より哲学の営みに近づいていくわけである。

たとえば、数ページ本を読んだとしよう。手元にあるラッセルの『幸福論』の最初のほうを読んでみると、健康で食べ物が十分あっても、現代社会の人間は幸福ではないと書いてある。そこで、これはなぜなのかと考えてみる。そして、おそらくほかに欲望があるからだとか、自分が満たされていることに気づいていないからだと思ったら、そのことを一度言葉にしてみる。こうした作業を繰り返していけばいいのだ。

(3)日常の暮らしの中で

もちろん哲学は学ぶのがゴールではない。人生のあらゆる場面で役立つのが哲学だ。そもそも、私たちはあえて「哲学する」ことを意識しなくても、哲学していることも多い。物事についていろんなシナリオを考えるとき、私たちは頭の中でシミュレーションを行う。これは思考実験と呼ばれるものだ。

そして、哲学はもちろん人生相談などにも使える。私もよく悩み相談の本を書いたり、テレビで哲学を使った悩み相談の番組をやっていたりする。そもそも自由とは何か、愛とは何かという哲学の古典的な問いは、人生に関する問いだった。なかでも手軽なのが、名言や格言をきっかけにすることである。

また、本について言えば、哲学ジャンルに限らず、哲学するのに役立つものはたくさんある。映画だってそうだ。要は考えるための材料さえあればいい。哲学はなんでも対象にできるので、その意味ではどんなものでも哲学するための材料になりうる。

「英語」「プログラミング」、そして「哲学」

2022年から「公共」という科目が高校教育に導入されることが決まっている。これは全員必修で、名前のとおり公共社会における担い手を育てるための科目だ。18歳選挙権に対応するための、主権者教育だと思われるかもしれないが、意外にも哲学を重視している。

歴史上の哲学者の考えをもとに、自分たちで思考する訓練などをやるようである。具体的な内容はこれから決まっていくわけであるが、少なくとも日本国民が哲学の素養を身に付ける可能性は高まったといっていいだろう。

大学受験の必須科目に哲学の論文が位置づけられているフランスにはまだまだ及ばないが、これは大きな変化である。つまり、近い将来新社会人は哲学の素養をある程度身に付けていることになる。

社会のニーズが変われば教育は変わる。そしてすでに教育を終え、社会に出ている人間はつねに自分で自分を磨いて時代についていくよりほかない。これは従来の英語やプログラミングとまったく同じ理屈だ。「哲学する」ことは何歳からでも始められる。むしろ、実社会で多くの経験を積み重ねているビジネスパーソンこそ、哲学する対象には事欠かないはずである。

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『ビジネスエリートのための! リベラルアーツ 哲学 』(すばる舎) クリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

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提供元:日本のエリートに欠ける「本質」見抜く力の源|東洋経済オンライン

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