2018.04.24
記憶力の衰えは睡眠で予防|効果的な生活習慣とは
「人の名前が思い出せない」「読んだ本の内容が思い出せない」など、記憶力の低下を感じることはありませんか? 一般的に記憶力は加齢とともに低下していくと考えられていますが、維持、もしくは向上させる方法はないのでしょうか。
今回は、脳内科医、加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳先生に、記憶力低下のメカニズムや予防法などについてお話をお伺いしました。
目次
ー記憶の種類
ー記憶力低下のメカニズム
ー記憶に支障を及ぼす障害
ー記憶力低下を予防する方法
記憶の種類
加藤先生によれば、記憶には「過去の物事を記憶するもの(過去の記憶)」と、「明日や未来を記憶するもの(創造的な記憶)」の2種類あるといいます。
過去の記憶
過去の記憶とは「過去の出来事」「勉強で必要な年号」「歌の歌詞やダンスの振り付け」など「起こったこと」や「存在しているもの」を覚える、そして必要な時にそれを「再生する(思い出す)」ことを指します。
「一般的にいわれている『記憶力』は、読んだ本の内容や前日の夕食のメニュー、教科書の内容など、物事を新たに覚えたり思い出したりする能力のことを指しています」(加藤先生)
創造的な記憶
創造的な記憶とは、新しい経験や予定、未来の記憶を作っていくことです。「仕事のスケジュールを立てる」「週末の計画を立てる」「将来の夢を思い描く」など、まだ起こっていないことに対し、自分がどうしていくのかを考えることです。
「脳は覚えた知識や経験から刺激を受け、成長していく器官です。“成長する”というのは、過去の出来事を脳内で処理し、新しい経験や未来を創っていけるということです。同時に“未来の記憶を先取り”し、その記憶を現実のものとするために、脳が成長しているともいえます」(加藤先生)
記憶力低下のメカニズム
記憶力の低下とは、物事が覚えられなかったり、覚えたことを思い出せなかったりすることを指します。つまり、前述した「過去の記憶」に関する働きが低下している状態といえます。ここでは、記憶力低下の原因について解説します。
生理現象
どのような人でも「物忘れ」は経験します。これは正常な生理現象で「生理的物忘れ」と呼ばれており、「覚えていたことがすぐに思い出せない」というケースが多く見受けられます。生理的物忘れが起こる主な要因は以下になります。
アウトプットした情報に頼りすぎている
スマホのメモ機能やパソコンを使ってアウトプットする習慣がつくと起こりやすくなります。
「アウトプットされた記憶ばかりに頼っていると、脳内で情報を整理する作業が行われないので、記憶が定着せず、記憶力が低下してしまうことがあります」(加藤先生)
思い出す必要がない生活が続く
「仕事など、その時その時の事柄に熱中していると、記憶した過去のことを振り返る時間も必然的に減ってしまうので、生理的物忘れの要因となります。同様に、年齢を重ねると、意味のない単語や名前などを丸暗記する『無意味記憶』よりも、何かに紐付いた(関係値のある)できごとを覚える『意味記憶』を必要とする機会が圧倒的に多くなります。これにより、関係のない情報を思い出す必要性が減るため、生理的物忘れが起こりやすくなります」(加藤先生)
睡眠不足
睡眠不足は、脳の覚醒障害を引き起こし、記憶力にも影響を与えます。
「脳、特に記憶の中枢といわれる海馬の正常な活動には、十分な酸素が必要です。睡眠不足になると、眠っているあいだに脳に送られるはずの酸素の量が不十分になり、海馬へ送り込まれる酸素の量も減ってしまいます。そのため、起きている間の働きも悪くなり、覚えたり思い出したりする記憶の整理がうまくいかなくなってしまうのです。睡眠時間は6~9時間くらいは確保するようにしましょう」(加藤先生)
認知症による脳の萎縮
認知症のおもな初期症状に、記憶力の低下が挙げられます。これは、神経細胞が破壊され、記憶を司る海馬の働きが低下することが原因です。これにより覚えることも、思い出すこともできなくなってしまいます。
「頭を強くぶつけるなどの外的ダメージが脳に影響し、認知症の原因になることがあります。これは『慢性外傷性脳症』といい、外的要因により頭部に強い打撃を受けると、脳にごくゆっくりとダメージが蓄積されていきます。10~20年後に認知症などといった形で、記憶力に影響する病気として発症する可能性があります」(加藤先生)
記憶に支障を及ぼす障害
子どもでは10人に1人、大人では20人に1人が持っている障害といわれるADHD(注意欠陥多動性障害)は発達障害の一種で、注意力が散漫になる特徴があります。そのため、やるべきことに集中できない、周りに意識がいかない、注意すべき点を見逃す、物忘れが激しくなるなど、記憶に関する問題も抱えがちです。
ADHDは遺伝性が指摘されている一方で、後天的にも起こる障害なので、完治させることは難しいですが、メモや手帳などにこまめにアウトプットする習慣をつけ、記憶すべきことを自分で管理できるようにすることで、症状を軽減して上手に付き合うことが可能です。
記憶力低下を予防する方法
「記憶力の低下を予防するには、脳の働きをよくすることが重要です。そのためには十分な睡眠をとり、脳の栄養状態を良好に保ってください。また、脳のトレーニング(脳トレ)などで、過去の記憶と創造的な記憶の両方を刺激し『記憶する習慣』 をつけることも大切です」(加藤先生)
ここでは、加藤先生がおすすめする記憶力の低下を予防するための睡眠、食事、脳トレを紹介します。
7時間以上睡眠をとる
記憶力の低下を防ぐという観点から睡眠時間を考えると、1日7~10時間の睡眠が必要になります。
「大人なら、是非7時間は眠ってほしいところです。小学校入学前の子どもは10時間以上睡眠をとり、かつ昼寝もしたほうが脳にはよいと考えられています。夜12時以降は脳の判断能力が落ちるため、日付が変わってから仕事や勉強を頑張っても、あまり意味がないという報告もあります。寝るべき時間に『さあ、寝よう!』と切り替え、朝や日中は脳がしっかり覚醒した状態で過ごし、やるべきことを実行することが重要です」(加藤先生)
「そのためには、十分な睡眠をとって、朝スッキリ起きることが大切です。家を出るまでに完全に目が冴えている状態になり、お昼には『一仕事終えたな』という満足感が得られるくらい脳が働くのが理想といえます」(加藤先生)
青魚や大豆を摂る
脳の働きの改善には、脳の栄養状態をよくする栄養素を摂取することも大切です。具体的には、青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、大豆などに含まれるレシチンなどです。
「これらの栄養素は、脳を構成する神経線維(しんけいせんい)の材料となり脳全体の成長に作用します。また、認知症の中で最も患者数が多いアルツハイマー型認知症などを引き起こす『アミロイドβ』や『タウ・タンパク質』といった物質の脳への蓄積を抑えるので、脳を正常な状態に保つことにも有効です」(加藤先生)
脳を鍛えるトレーニング
記憶力の低下を防ぐには、脳を鍛えるトレーニング「脳トレ」を意識的に行うとよいでしょう。以下で日常生活を送りながら簡単にできる脳トレを紹介します。
軽い運動をする
ランニングやウォーキングなどの軽い運動により血行が促進され、脳への血流が増えるとともに酸素や栄養素も十分に行き渡り、脳全体が活性化します。脳全体の活性化は、記憶の中枢を担っている海馬とも連動し、記憶力の低下を防ぎます。
「通勤や通学時に、普段使っていない道を選んだり、ランニングやウォーキングの最中にインターバルトレーニングとして簡単な筋トレを挟んだりするだけで、より高い効果が期待できます。また、ダンスの振り付けを覚えるのもよいでしょう」(加藤先生)
日記をつける
記憶力の低下を防ぐためには、覚えることのほかに、思い出す習慣をつけることも大切です。
「その日のできごとを思い出し、書き留める日記の習慣は、記憶力の低下を防ぐ脳トレになります。SNSに日記を投稿するのもいいですが、アウトプットした日常の出来事を順序立てて見返せるアナログの日記帳のほうが、より効果が期待できると思います。また、その日にあった出来事を思い出して(過去の記憶)書くだけでなく、手帳や日記帳にこれからの予定(創造的な記憶)を立てて書いておくことも効果的です」(加藤先生)
和食を用意して食べる
料理は、最も身近な「脳トレ」です。家族など食べる人の栄養を考え、冷蔵庫の食材を考慮しながらメニューを決め、出来上がりのタイミングを調整し、手先を使って調理するなど、脳トレの要素が詰まった行動です。
「和朝食は洋食よりも調理や盛り付けに手間と時間がかかります。忙しい朝、身支度を整えながらメニューを決めて調理をすることは、過去の記憶と創造的な記憶の両方を使うので、効果的な脳トレになるのです」(加藤先生)
また前述したとおり、和食のメニューに多く使用される青魚や大豆製品には、脳によい成分がたくさん含まれているので、積極的に食べるとよいでしょう。
<参照>
「楽しく簡単に脳が冴えわたる! 記憶力の鍛え方』加藤俊徳(宝島社)
photo:Getty Images
※体験談は個人の感想であり、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
提供元:記憶力の衰えは睡眠で予防|効果的な生活習慣とは|フミナーズ