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2017.11.24

地味に流行「トンチン年金」はおトクなのか│長生きすればするほど、おカネがもらえる


長生きするとおカネがかかる。だが「トンチン年金」は、長生きすればするほど、おカネがもらえるという(写真:すってぃ/PIXTA)

長生きするとおカネがかかる。だが「トンチン年金」は、長生きすればするほど、おカネがもらえるという(写真:すってぃ/PIXTA)

「トンチン年金の加入者が増えているそうですが、取材させてください」。このところ、ファイナンシャルプランナーである私のところに、立て続けにマスコミから取材依頼が来ています。実は、この年金、昨日今日の話ではないのですが、「世の中では注目されているのだ」と改めて感じたので、今回はこのトンチン年金についてお伝えします。

そもそも「トンチン年金」って、どんな年金?

ある女性週刊誌の記者さんは、「トンチン」って変な名前ですよね、と開口一番におっしゃいました。確かに、何も知らなければ、トンチンカンを連想してしまいそうです。まさか大手保険会社も扱っている年金商品だとは、まず思いつかないでしょう。

トンチン年金とは、その昔17世紀のイタリアの銀行家であるロレンツォ・トンティさんが考案したと言われています。トンチン年金より「トンティ年金」のほうが、おしゃれ感が出たのではないかとふと思ったりしますが、そもそもこの年金は、特定の年金保険の商品名ではありません。「トンチンさん(トンティさん)が考案した仕組みを使った年金保険」という意味です。

トンチン年金は、長生きすればするほど得をする年金保険です。1つのお財布にみんなでおカネを入れ、そこから年金を支給するわけですが、先に亡くなった方の支払った保険料の残額はそのままお財布に残るので、生き残った方の年金財源となる仕組みです。死亡保障はなく、解約時あるいは死亡時の払戻金を低くおさえ、終身年金の財源としています。

では早速、具体的な商品内容を見ていきましょう。

たとえば日本生命のホームページには「グランエイジ」という商品名のトンチン年金の事例が掲載されています。この例によると、「50歳の男性が60歳までの10年間月々10万1886円を保険料として払い込めば、60歳から毎年44万2000円の終身年金が確保できる」とあります。

この50歳の男性が10年間で支払う保険料総額は1222万6320円です。万が一60歳時点で死亡あるいは解約をすると、払い込み保険料のおよそ67.7%が払戻金となります。いわゆる死亡保険のような、大きな死亡保障はありません。

この年金は「5年保証期間付終身」ですから、仮に62歳で亡くなるとトータル5年分の年金221万円のうち、未受給分がご遺族に支払われます。つまり、「最初、確実に受け取れる額(=5年分)は、支払い保険料のわずか18%」という意味です。

「元が取れる」のは87.7歳以上

では、この年金の損益分岐点は何歳かというと、27.7歳分、つまり87.7歳で元本回収となり、それ以降は利息を受取り続けるという格好となります。「人生100年時代」、もし100歳まで生きれば1768万円の受け取り額となり支払った額の1.45倍の受け取り額となります。

この年金保険に加入したい人の人物像としては、亡くなったときに家族におカネを遺さなくてもいい人、たとえば遺族の生活に必要なおカネは別途用意してある、あるいはおカネを遺すべき家族がいない方が挙げられます。

また、長生きすることが前提の人も挙げられます。何しろ90歳くらいまで生きないと元がとれないわけですから、長生きが大前提です。やはりトンチン年金は人生100年時代にふさわしい新しいタイプの年金保険なのかもしれません。

しかし、このケースでは50歳から毎月10万円強の保険料の払い込みが必要です。現実問題として月10万円、年金保険の保険料として支払いが可能な方はそう多くはないでしょう。さらに受け取れる年金は44万2000円、終身とはいえ月換算すると、3万7000円程度です。たとえ100歳まで生きたとして、月4万円程度の年金があっても、住居の確保と基本的な生活資金の確保が伴わなければ、これだけで生活をするわけにはいきません。

ということは、どうやらトンチン年金ではなく、それ以外の老後の備えも考えてみる必要がありそうです。3つの別の選択肢を、これからお話をします。

さて、3つの別の選択肢とは:(1)投資信託の積み立て運用、(2)死亡保険の活用、(3)年金の繰り下げ受給(=受給時期開始を遅らせる)です。それぞれを、トンチン年金と比較もしつつ見てみましょう。

投資信託で成功なら10年後2300万円残る可能性も

まず(1)の投資信託の積み立て運用です。月10万円、50歳から10年間の積み立てが可能だとすれば、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を利用し、投資信託でおカネを準備するという選択肢もあります。あくまで過去の実績に基づいた試算ですが見てみましょう。

投資信託の評価で定評があるモーニングスター社の「つみたてNISA総合ガイド」を使うと、つみたてNISAの投資対象となっている投資信託のつみたてシミュレーションを見ることができます。

今回はモーニングスターの評価で5つ星を獲得している「セゾン資産形成達人ファンド」で試算してみます。過去の実際データをもとに月々10万円を10年間積み立てた場合の資産残高は2658万9000円と出ました。ここでは税金は考慮されていませんので、仮に投資元本1200万円との差分1458万9000円の利益に20.315%課税され、296万3755円が差し引かれたとしても、10年後には手元に約2300万円残る計算です。

さらに、NISAやiDeCoなどの非課税制度をうまく使えば、非課税メリットの恩恵をうける分、手元に残るおカネが増えますのでもっと大きな資産を作ることができます。なお、残念ながら、月々10万円を10年間非課税で積み立てをするには、一般NISA、つみたてNISA、そしてiDeCo、いずれの組み合わせでも、いささか規格不足となりますので、今回見てきた仮定の計算は、一般口座を利用して運用だと認識してください。

では、この2300万円を、先ほどのトンチン年金の「年間44万2000円」と比べてみましょう。もし、60歳から毎年この額を取り崩していくとすると、単純な割り算ですが2300万円あれば、52年間分もおカネがもつことになります。60歳から受け取りを始めても、十分100年時代を生き抜くことができますね。もし100歳までの40年間でこの資産をすべて取り崩すとすれば年間57万5000円と使えるおカネが増えるわけですから、老後のプラスアルファの資金としては、先ほどのトンチン年金より余裕が生まれます。

こうして見ると、同じ月10万円の積み立てを考えると投資信託で積み立てをして資産を増やすというのも選択肢です。トンチン年金は途中で死亡したら実際の掛金を割り込んだ払戻金しかないのに対して、投資信託であればそのときの残高ですから、運用がうまくいけばという前提はあるものの、それも加味すると、投資信託での運用のほうに分があります。

年齢差のある夫婦なら、死亡保険という選択肢も

しかし、「運用はどうしてもいや」という方もいるでしょう。過去の実績をいくら見せられても、元本保証がないものにおカネを預けるのはいやという人は、選択肢の(2)である保険を考えてみましょう。

たとえば配偶者がいる場合、それぞれが終身の死亡保障をかけておいて、「どちらかが先に亡くなればその保険金を年金として使う」ということもできます。死亡保険であれば、支払った保険料以上の保険金を必ず受け取れるわけですから、損益分岐点を待つことなく万が一のときにまとまったおカネを受け取ることができます。

聞くところによると、トンチン年金は女性の加入者が多いそうです。女性は男性よりも寿命が長く、歳をとって配偶者に先立たれた場合を想定して、自分1人になったときの生活資金を確保したいと考える人が多いのでしょう。しかし、今見たように、仮に年齢差のあるご夫婦で、夫に先立たれたあとの期間が想定される場合、夫の死亡保険で長い老後のおカネを準備するのも、選択肢ではないかと考えます。

さて、最後の(3)=年金の繰り下げ受給はどうでしょうか。前出のように、「そもそもトンチン年金で準備できる年金額は、十分な金額なのか」という点も考えるべきです。今回紹介した50歳男性の例は年間44万円の年金額でした。もちろん60歳まで保険料を支払ったのち、10年ほど受け取らずに据え置いて、年金額を大きくするといった設計もできるでしょう。しかし、現状の予定利率(=保険会社が設定している運用利回り)を考えると、それほど年金額が大きく成長するとは考えにくいです。

ではいくらのトンチン年金ならよいのでしょうか? こう考えると、やはりトンチン年金以外でどの程度の老後の収入があるのか(トンチン年金に加入するにしても、それを含めての老後の収入)を見積もったうえで判断する必要がありそうです。

ちなみに公的年金は、トンチン年金的な性格があることをご存じでしょうか。つまり、途中解約はできません。また死亡保障年金という意味では18歳未満の子供がいる場合や会社員の妻なら、遺族年金の形でそれなりに手厚い死亡保障がつきますが、1人の場合、死亡保障はありません。一方で、終身年金ですから長生きすればするほど得をします。つまり公的年金は「トンチン性」が高い「長生き保険」なのです。

さて、厚生労働省が発表している元会社員の老齢年金のモデルケース(65歳から受給)を見てみましょう。それによると、国民年金と厚生年金を合わせて約188万円です。もしこれを70歳から受給(5年繰り下げ)をすると、267万円もらえることになります。

改めて説明すると、ここでいう繰り下げとは、本来65歳から受給できる年金を、受給開始年齢を繰り下げることで年金額割り増しという特典を受けられる制度です。増額率は1月あたり0.7%、つまり5年繰り下げると42%の割り増しとなります。50歳以上の人なら、「ねんきん定期便」に老齢年金の概算が掲載されていますので、ぜひ確認しておきたい情報です。

繰り下げる場合、70歳までの生活資金が課題に

平成29年度における老齢基礎年金(国民年金)の満額は77万9300円です。これは20歳から60歳まで一度も未納がなかった方が受け取れる年金です。仮にずっと専業主婦だった人は、この金額をベースに繰り下げを行うこともできます。この場合、70歳まで繰り下げると約110万円の年金となります。もし共働きだった同い年の夫婦がそろって繰り下げをすると、2人分で合計約377万円の年金額を確保することが可能です。これが終身年金で確保できるというのは、精神的な大きな支えになるのではないでしょうか?

では、この夫婦で、夫が先立つことになったらどうでしょうか。この場合、夫の「繰り下げをする前の老齢厚生年金の75%」が妻の終身年金となります。この例だと、夫死亡後に妻が受け取る年金は、合計190万円程度となります。

もちろん、繰り下げを前提とすると70歳までの生活資金をどうするのか問題となります。退職金を取り崩す、働いて収入を得る、現役時代に貯蓄をして備える、など、複合的な対応が求められます。

ここまでお伝えしていくと、トンチン年金は確かに終身年金なので、人生100年時代には一見、とても魅力的に映ります。しかし、実際は「トンチン年金だけでは、老後の安心は手に入らない」との認識が必要です。できるだけ早くからiDeCoやNISA、あるいは保険といったほかの手段を使って複合的に備えていくこと、これが回答です。

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提供元:地味に流行「トンチン年金」はおトクなのか│東洋経済オンライン

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