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2017.09.08

禁煙が全くできない人が知らない3つの依存│体、心、習慣・・・それぞれ対処法は違う


禁煙に「意志の力」は必要ありません(写真:Graphs / PIXTA)

禁煙に「意志の力」は必要ありません(写真:Graphs / PIXTA)

今秋から、いくつかの銘柄でタバコの値上がりが予定されています。今回は大幅な値上げではありませんが、いつか訪れるかもしれない「1箱1000円時代」に突入する前に、禁煙しようと思っている喫煙者もいるでしょう。

とはいえ、いざタバコをやめようと決意しても、なかなか続かない。「自分は意志が弱いから仕方がない」と、いつしかあきらめてしまう――。そんなヘビースモーカーは少なくありません。

禁煙を邪魔する3つの「依存」

私は18年以上にわたり、禁煙外来で禁煙指導を行ってきました。拙著『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』でも詳しく解説していますが、禁煙には「意志の力」はいっさい必要ありません。

『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』 ※外部サイトに遷移します

禁煙にはまず、「体の依存(身体的依存)」「習慣依存」「心の依存(心理的依存)」の3つのうち、自分がどの依存に陥っているかを認識する必要があります。そして、これら3つの依存と対処法を把握し、適切に行動することによって簡単に禁煙できるようになるのです。

意志や根性だけで禁煙を成し遂げようとするのは、1人で武器ももたずに依存という名の3人の「敵」に立ち向かっていくようなもの。賢い人は、相手の弱点を見つけて武器を使って闘います。

体の依存度が高い人、習慣の要素が強い人、心の依存度が高い人とでそれぞれ適切な武器や対処法が違うのです。その人に合わせて、バランスよく対処することで、禁煙成功率は確実に上がります。

それぞれの「敵」と武器について、見ていきましょう。

タバコの煙には依存性毒物のニコチンが含まれています。ニコチンが体の中からなくなっていくと禁断症状(医学的には離脱症状といいます)が出るようになった状態を、「体の依存」と呼びます。

具体的には、タバコを吸わないでいると、不安になる、イライラする、落ち着かない、集中できない、眠気を感じる、ストレスを感じる、吸いたい気持ちを抑えられない……といった症状です。

自然なドーパミンやセロトニンが出なくなる

また、ニコチン依存症は、「脳の変性疾患」ともいわれています。ニコチンが少しずつ脳の構造を変え、依存症の脳にしてしまうのです。

脳に入ったニコチンは、中脳の腹側被蓋野の「アセチルコリン受容体」にくっつき、その信号が伝わり大脳の側坐核で、「快感ホルモン」「やる気ホルモン」であるドーパミンが放出されます。

本来、「アセチルコリン受容体」は、アセチルコリンという脳内物質がくっつくべき場所です。つまり、喫煙者の脳では、ニコチンがアセチルコリンの役割を乗っ取ってしまっているのです。しかも、ニコチンは注射より速いスピードで脳に届きます。こうして、タバコを吸うと手っ取り早くドーパミンが放出され快感が得られるので、いつしかタバコに依存してしまうようになるのです。

こうして、本来人間の体には存在しないはずのニコチンがドーパミン放出を支配し、さらに、ドーパミンが出たあとに分泌されるセロトニンも、ニコチンの影響を受けてしまいます。その結果として、ニコチンがないとドーパミンやセロトニンが出にくい体になってしまうのです。

逆にいうと、タバコに変わるほかの自然な方法でドーパミンやセロトニンを出せるようにすれば、ニコチン依存症の魔の手から逃れられるということになります。

どうしたら自然にドーパミンが出るようになるのでしょうか? 私がいちばんおすすめするのは、「運動すること」です。近年の研究で、運動すると、禁煙に直接的によい効果があることがわかってきました。

『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョンJ.レイティ エリック・ヘイガーマン著 野中香方子訳 NHK出版)では、運動をすると、吸いたいという強い気持ちが50分間抑えられ、タバコの本数が減るという研究結果が紹介されていました。さらに、激しい運動であれば、たった5分でも効果があるそうです。

激しい運動でなくても、ゆっくりと走るジョギング程度でかまいません。まずは、1日5分、家のまわりを走ることでもいいのです。

また、人から褒められたり、自分を自分で褒めたりするのも、ドーパミン放出にとってよい方法です。

一方のセロトニンを自然に分泌する方法としておすすめなのが、「朝、日光を浴びること」と「リズム運動」(リズミカルな運動で、ウォーキングやジョギング、簡単なステップなど)をすること。「朝日を浴びながらジョギングをする」というのは、この両方を取り入れられる、とてもよい方法です。

これらを生活習慣に取り入れながら、あわせて禁煙外来に通う、禁煙補助薬を服用するなどすれば、体の依存からは逃れられるはずです。

喫煙が生活の中に組み込まれている状態

「習慣依存」とは、喫煙が「寝起きの一服」「食後の一服」というように、生活の中に習慣として組み込まれている状態のことです。

ヘビースモーカーに多いのは、同じ場所で同じ時間にタバコを吸う傾向。ある特定の人と一緒にいるときや、手持ちぶさたのときなどに吸わなければ、しっくりこないし、つらく感じる。それが、習慣依存です。

習慣は、心理学でいう「条件づけ」によってつくられています。「パブロフの犬」という言葉があります。犬にエサを与えるときにいつもベルを鳴らすようにしていたら、ベルの音を聞くだけで自動的によだれが出るようになった、というものです。それと同じで、いつもタバコを吸う時間に、いつも吸っている場所にいると、条件づけされているので、タバコが吸いたくなるのです。

たとえば、タバコを吸うときには一緒にコーヒーを飲むという人も多いと思います。すると、コーヒーとタバコが結びつき、コーヒーを飲むとタバコが吸いたくなります。食後にいつもタバコを吸っていると、食事とタバコが結びつき、食後の一服ができなければ、食事に満足しない状態になってしまいます。

また、楽しくくつろいだ状況で吸うことが多ければ、楽しさとタバコが結びつき、楽しいときには喫煙したくなるよう「条件づけ」されます。こうして、習慣依存は形成されてしまうのです。

どうすれば、習慣依存から逃れられるのでしょうか?

簡単なことです。今までタバコとセットになっていた環境やモノ(トリガー=引き金といいます)を遠ざけるだけです。すると、トリガーとタバコの結びつきがゆるやかになり、習慣の力は自然に弱まっていきます。

そのために必要なのは、「レコーディング禁煙」。思い立ったらいきなり禁煙するのではなく、まずは2週間ほど、自分の喫煙状況をメモするというやり方があります。

具体的には、「タバコを吸いたくなったときの時間」「1日に吸った合計本数」「吸ったときの状況(場所、そのときの気持ち、誰と一緒にいたか)」などを綴ります。すると、喫煙者にとって吸いたい気持ちを引き起こす「トリガー」が何か、わかるようになります。

あとは、その条件を遠ざけるだけです。たとえば食後に吸いたくなるなら、あらかじめ禁煙席に座る。飲み会で吸いたくなるなら、しばらく酒席には出ない……。

もしくは、喫煙習慣をほかの行動で置き換えることができるようになると、習慣の力は低下していきます。たとえば、タバコを吸いたくなったら代わりにガムをかむ、水を飲む、などがあげられます。また、深呼吸や最近話題の「マインドフルネス瞑想」も、置き換える行動としておすすめの方法です。

3つ目の「心の依存」とは、何でしょうか? 一言でいうと、タバコに対する 「認知のゆがみ」がある状態です。認知のゆがみとは、わかりやすくいうと「考え方のくせ」あるいは 「心のくせ」です。

タバコへの「ゆがんだ認知」を正す

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『頑張らずにスッパリやめられる禁煙』(サンマーク出版)。クリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

タバコに関する認知のゆがみは、大きく分けて3つあります。1つ目は、タバコの害を実際より小さく考えるくせ。2つ目は、タバコを吸うとストレスやイライラを解消できるなどよいこともあると思うくせ。3つ目は、禁断症状を耐えられないものだと思うくせです。

タバコの害を小さく見積もることは、リスクに対する「喫煙者の非現実的な楽観主義」と呼ばれます。これだけタバコには害があるといわれても自分だけは病気にならない、大丈夫だと思い込むのは非喫煙者には理解ができないのですが、喫煙者にとってみれば、そう考えるのがくせになっているので、なかなか直せないのです。

また、タバコを吸うとストレス解消できるのは事実だと考える人もいるでしょうが、私はそうではないと声を大にして言いたいと思います。タバコは実は、ストレスを減らすどころか、どんどん増やしてしまいます。たしかにタバコを吸えば、禁断症状としてのストレスは解消され、落ち着きます。しかし、それは一時的なもの。ニコチンが切れてしまえばまたストレスがくり返されるようになる、という無限ループに陥ります。

禁断症状も、実はそれほど恐ろしいものではないのですが、以前に禁煙に失敗したことがあるとそのときのことを思い出して大きな恐怖を覚え、とても耐えられないと思い込んでしまうのです。でも、先述したように、「体の依存」は、禁煙外来に通ったり、運動習慣を身につけたりといった適切な対処をすることによって必ず乗り越えることができます。

喫煙したとしてもたいした害はないどころか、タバコはストレスを解消してくれる好ましいものだと思う。逆に、禁煙することがとても恐ろしく、不安に感じるようになる……。こうした認知のゆがみが、どんどん心の依存を強くしていってしまうのです。

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?

1つ目は、先述したように、実際にタバコを吸うことで、ニコチンの禁断症状が一時的にとはいえやわらぐので、喫煙はよいものだと錯覚するため。2つ目はタバコ会社の宣伝・広告や喫煙に寛容な社会によって洗脳されるため。3つ目は、人間には「自分を正当化する方向へ考えを変える」という傾向があるため、などが考えられます。

心の依存は恐ろしいことに、禁煙に成功して数カ月から数年たっても、ふと吸いたい気持ちが出現し、再喫煙してしまう人もいるくらい強いものです。ただし、本当に心の依存から抜け出せていたら、そのような場面でも再喫煙をしないですみます。心の依存は手強いものですが、これらの「認知のゆがみ」を直せば、必ず脱却できます。まずは、こうした「認知のゆがみ」があることを理解し、認めるだけでも禁煙成功に近づきます。

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【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します

全面禁煙は経済損失と考える人の残念な論理

喫煙者の「口の中」で一体何が起きているのか

禁煙がいつまでもできない人に共通する思考

提供元:禁煙が全くできない人が知らない3つの依存|体、心、習慣…それぞれ対処法は違う|東洋経済オンライン

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