2025.01.31

「認知症予備軍」早期発見する重要な"8つのサイン"|「物忘れ」「料理の味が変わった」に要注意


認知症の兆候にいち早く気づく方法について解説します(写真:jessie/PIXTA)

認知症の兆候にいち早く気づく方法について解説します(写真:jessie/PIXTA)

高齢化社会の進展によって「認知症予備軍」と呼ばれる「軽度認知障害(MCI)」の人が増えています。MCIは進行して認知症に移行するリスクがある一方で、いち早く気づいて対策できれば、進行を遅らせることができます。
ではMCIを見分けるにはどうすればいいのか。認知症に詳しい伊藤たえ医師が解説します。

増え続ける認知症者数

日本の高齢化率が上昇するなか、認知症者数も増え続けています。65歳以上で介護・支援を必要とする認知症の方は2022年時点で約443万人、2030年には約523万人、2060年には約645万人になると言われています。

一方、同じように増加しているのが、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)の方です。2022年時点で約558万人、2030年には約593万人、2060年になると高齢者の数自体が減ることから認知症者数より減りますが、それでも約632万人になると推計されています。東京八王子市にある当院関連のクリニックでも、認知症やMCIを疑う方の来院は年々増えている状況です。

そもそも認知症とは、さまざまな要因により脳の働きが悪くなったり脳細胞が死んだりすることで、記憶や判断力に障害が起き、生活に支障をきたす状態のことを指します。

主な症状としては、記憶機能や言語、運動といった認知機能が低下する「認知機能障害」や、歩行や移動、食事といった基本的な身体動作、交通機関の利用や電話対応、買い物など生活関連動作の機能が低下する「生活機能障害」が見られます。

加齢により多くの方は「もの忘れ」を経験しますが、それはあくまでも体験したことの一部分を忘れることにとどまります。かたや認知症では、出来事自体の記憶障害が目立ち、体験したことすべてを忘れるのが大きな違いです。
例えば、朝ごはんのメニューを忘れるのは加齢が原因ですが、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるのは認知症によるもの忘れだと考えられます。

●認知症で低下する認知機能

・記憶機能
・見当識(時間や場所、人物などを認識する能力)
・複雑性注意(注意力の維持、振り分け)
・実行機能(計画の立案、実行)
・言語(言語の理解、表現)
・知覚・運動(正しい知覚、適切な道具の使用)
・社会的認知(周囲への配慮、表情の把握)

認知症には主に4つのタイプがある

MCIについて知る前に、認知症に関する正しい情報もお伝えします。実のところ認知症を細かく分類するとキリがなく、把握するのは大変なこと。その中で知っておきたいのは、次の4つのタイプです。

●アルツハイマー型認知症

認知症のうち、全体の約6〜7割を占めます。記憶をつかさどる海馬の萎縮から始まるため、もの忘れなどの記憶障害が起きます。他にも見当識障害、実行機能障害が主な症状です。

●レビー小体型認知症

脳細胞のなかにレビー小体と呼ばれる特殊なたんぱく質が留まることで、アルツハイマー型認知症と同様の障害、さらに幻視・パーキンソン病症状が表れます。アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症のタイプです。

●脳血管性認知症

血管が詰まり脳細胞が壊死したり、出血により脳細胞がダメージを追ったりすることで発症する認知症です。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが原因となるケースが大半となります。アルツハイマー型認知症と同じ障害や、身体麻痺、言語障害になることもあります。

●前頭側頭型認知症

前頭葉や側頭葉の変性・萎縮で引き起こされる認知症です。社会的認知障害や同じ行動の繰り返し、言語障害や記憶障害を引き起こしやすいのが特徴です。

ほかにも、正常圧水頭症やアルコール依存症、うつ病などに認知症を引き起こす可能性があるといわれています。これらに関しては、原因となる病気が改善することで認知機能も正常に戻るケースもあるようです。

アルツハイマー型認知症に対しては「アリセプト(一般名ドネペジル塩酸塩)」といった治療薬が以前から使われているほか、2023年12月にはアルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行を抑制する「レケンビ(一般名レカネマブ)」が日本で発売されました。
ただし、どの薬も症状の進行抑制の効果は期待できますが、完治に至るのは難しいとされています。よって認知症にならず、発症をできる限り遅らせるためには、MCIの段階で気づき対策を打つことです。

MCIを察知する8つのチェックリスト

MCIは、認知症と診断される一歩手前の状態を指します。もの忘れはあるものの日常生活に支障はなく、言うなれば健常と認知症の中間といったところでしょうか。ただし放置するのは危険で、1年で約5〜15%が認知症に移行すると言われています。

他方、1年で約16〜41%の方は健常な状態になることもわかっています。よって、認知症にならないためには自分自身や家族のMCIのサインを察知したうえで、行動改善に努めることが肝心です。

具体的には、以下の8つのチェックリストに該当する項目があれば、MCIを疑われます。

①もの忘れをするようになった
②物事を覚えるのに時間がかかるようになった
③料理の腕が落ちた、味付けが変わった
④掃除や洗濯といった家事がテキパキとこなせない
⑤時間・場所の把握が苦手になった
⑥薬の管理ができない
⑦気分が沈むことが多くなった
⑧頑固になった、怒りっぽくなった

何を話したかったかを忘れてしまうといった「もの忘れ」はMCIのサインです。同じ話・質問を何度もしたりするのも兆候と捉えてよいでしょう。水の出しっぱなしやコンロの火のつけっぱなしなどにも要注意です。

認知機能が低下すると、複雑・手間がかかることを避けようとします。もの忘れがあると調味料の入れすぎや入れ忘れによる味の変化、手の込んだ料理も面倒で作らなくなる傾向が見られます。

感情表現が乏しくなったり、気持ちが沈むことが多い、かたくなに心を閉ざしたり怒りっぽくなるのもMCIのサインです。認知症では社会的認知機能に障害が起きると述べましたが、その前兆が見られます。

これらに共通するのは、以前はできたことができにくくなった、感情のコントロールが難しくなったという点です。

それこそ周りから変化を指摘され、カッとなり怒ってしまったなら、MCIの疑いがあります。自身を納得させるのは難しいでしょうが、かかりつけ医など身近な医療機関を訪ねることです。

MCI予防・改善に効果的なものは?

MCIの予防・改善で最も効果的なのは、生活習慣病の予防・改善です。生活習慣病とは言わずもがな、食事や運動などの生活習慣を起因とした病気の総称で、糖尿病や高血圧、肥満、脳卒中、脳梗塞、脂質異常症などが具体的な疾患として挙げられます。

これらは認知症とも深くかかわっており、例えば糖尿病はアルツハイマー型認知症のリスクが2.1倍になるとも。中年期に高血圧の方は高齢期にアルツハイマー型認知症や血管性認知症になりやすいとも言われています。

多くの研究では中年期で肥満の方ほど認知症になりやすいことが報告されており、太らないことは認知症予防策の1つです。脳卒中の後は認知機能低下や認知症を発症するリスクが高く、中年期の総コレステロールが高いと、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなるとこも明らかになっています。

40代から対策するのがおすすめ

このように、生活習慣病の予防・改善が認知症は言うまでもなく、MCI予防にも好影響を及ぼすのです。高齢期を迎えてからでは大変なので、遅くとも40代から対策を始めることをおすすめします。

例えば、高齢者を対象とした調査では、週3回・週2時間以上といった定期的な運動は認知症リスクを抑え、反対に認知症になった方の13%は運動不足が関連されているとされています。定期的な運動をしている人とそうでない人が5年後に認知症になる原因を調査したところ、前者は後者より認知症リスクが31%低いことも示されています。

ここで言う運動とはウォーキングなどを指しますが、早歩きなどよりハードな運動を週3回以上継続している方は、運動習慣がない方に比べて50%も認知症になりにくく、散歩程度の運動でも週3回以上続けていると、運動習慣がない人に比べて33%認知症になりにくいことがわかっています。MCIの高齢者に対する有酸素運動や身体活動を促進した研究でも、実行機能や言語、処理速度などの機能向上に効果が見られました。

なお、運動中に計算したり、しりとりをしたりするなど脳に負荷をかけると、より効果的だとされているようです。このように、運動課題・認知課題を同時の行い心身の機能を高めるトレーニングを「コグニサイズ」と呼びます。

社会活動への参加もMCIや認知症の予防に有効とされています。退職時の年齢が1歳高くなるごとに認知症リスクは3%下がると言われ、地域コミュニティへの参加も生活機能低下に歯止めをかけます。読書やパズル、楽器の演奏といった手先や頭を使う活動、ボランティアへ参加してもよいでしょう。

食事もポイントです。脳の機能維持に栄養は欠かせません。

認知症の進行を抑制する食べ物は科学的に証明されていませんが、アルツハイマー型認知症者の脳内は酸化物が増加していることから、野菜や果物、魚といった抗酸化、抗炎症作用のある食品や栄養素が有効だと考えられています。また、MCIの高齢者は栄養不良の割合が高く、認知症発症前に体重低下などが報告されています。

重要なのは、バランスのよい食事を適量とることです。

他の病気が原因かもしれないので、まずは医療機関に相談すること。治る病気であれば早期発見・早期治療がものを言います。かかりつけ医や、認知症を早期に発見・治療するための「もの忘れ外来」にかかるのもよいでしょう。

地域包括支援センターに相談してみる

高齢者の健康面や生活全般をケアする「地域包括支援センター」でも認知症に関する相談を受け付けており、適切なサービスにつないでくれます。相談先がわからない場合は、電話などで行政に連絡すれば、同じく必要な保健医療サービスを紹介してくれます。

親にMCIや認知書の疑いがある場合、子どもから診療をすすめるのはセンシティブなことであり、喧嘩の原因にもなりかねませんが、放置してもよいことはありません。ひざを突き合わせて話をする機会を設けてください。親と離れて暮らしている場合も定期的に連絡を取って様子をうかがう、近所に頼れる人が住んでいるなら普段の様子を聞いてみるのもよいと思います。

改善が難しく認知症の発症が将来的に考えられるなら、医療はもちろん介護保険サービスの利用、さらにはグループホーム(認知症対応型生活介護)や特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど、認知症の方が入居できる施設の利用も選択肢に入れましょう。住まいも含め生活全般をどのようにすべきか、お互いの希望に沿うためにも、親子が事前に話し合っておくことも大切です。

(構成:大正谷成晴)

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提供元:「認知症予備軍」早期発見する重要な"8つのサイン"|東洋経済オンライン

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