2024.09.25
「高くても低くてもダメ」血糖値の正しい整え方|人格破綻まで招きかねない「低血糖」の恐怖
血糖値は、下げすぎても深刻な問題につながる危険性があるという(写真:tokomaru7/PIXTA)
健康診断の結果が出るたびに一喜一憂する人も多い「血糖値」には、完全に解明されていない部分がたくさんある一方で、明らかになっている事実も枚挙にいとまがないと、糖尿病専門医の矢野宏行氏はいいます。
血糖値や糖尿病について、まだまだ誤った知識が蔓延している中、矢野氏が特に懸念している「低血糖」の知られざる危険性とは、いったいどんなものなのでしょうか。
※本稿は、矢野氏の著書『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』から、一部を抜粋・編集してお届けします。 ※外部サイトに遷移します
百害あって一利なしの「血糖値スパイク」
みなさんは血糖値の変動にどんなイメージをお持ちでしょうか。
「食事や運動、ホルモンのバランスなどによって数値が変わるのは知っているけど、何十も変わるのもではないでしょう。だいたい1桁範囲内の変動じゃないの?」
このように考えている人はけっこういるはずです。しかし、それは大間違いです。健康な人でも10や20はすぐに変動します。
食事のあとは、もっと上がります。糖尿病患者のなかには、食後に100以上変動する人もいます。まさに二次関数のグラフのように、急上昇していくのです。
そして当然のように、血糖値が上がるとインスリンがフル稼働し、しばらくすると食前と同じくらいの数値にまで下がります。場合によっては、それよりもさらに、必要以上に下がってしまうこともあります。
このように、血糖値は1日中めまぐるしく上下動しているのです。この現象を「血糖値スパイク」といいます。血糖値スパイクは、百害あって一利なし。人間の体にさまざまな不調をきたします。日中でも眠くなったり、集中力が落ちたり、イライラしたり。生活に与える悪影響は計り知れません。
血糖値スパイクは一時的に低血糖の状態をつくるので、糖新生(最低限の血糖値を維持するために筋肉や脂肪から糖質をつくってくれる、人間の体に備わっているシステム)も活発にします。糖新生には、グルカゴン以外にもアドレナリンやコルチゾールといった副腎ホルモンが関係していますが、頻繁に糖新生に駆り出されていると、いざというときに、ほかで必要とされている場所で働いてくれなくなります。
これが副腎疲労につながり、自律神経の乱れをもたらし、恒常的に疲労、倦怠感、ストレスを感じるようになります。それが過食や運動不足をまねき……。というように、まさに負のスパイラルに陥ってしまうのです。
血糖値スパイクによる弊害はまだまだあります。どんどん紹介していきましょう。
高血糖は「白髪・薄毛・しみ・しわ」の原因にもなる
血糖値スパイクは、血糖値が高くなりすぎる状態と、低くなりすぎる状態を、両方つくります。どちらも、いいことはありません。本項では、高血糖のデメリットのうち、世間の関心が非常に高いテーマに言及していきましょう。
俗に「美容と健康」はワンセットで扱われることが多いですが、じつは高血糖は健康だけでなく美容にも大きく影響します。もちろん、みなさんにとって好ましくない方向に、です。
高血糖が続くと、体の中でたんぱく質と糖質が結合し、体温で熱せられることによって「糖化」という現象が起こります。糖化が起こると、多くのAGEs が発生します。AGEsはAdvanced Glycation End Products の略称で、日本語では「終末糖化産物」と表現されます。
これはいわば、たんぱく質と糖質が加熱されることによって生じる、おこげのようなものです。まさにおこげのように、褐色の姿をしています。このAGEsは、蓄積した場所の老化をまねく、とても迷惑な物質です。
例えば頭皮にAGEsが溜まると、毛根細胞に作用して、白髪や薄毛の進行を早める原因になります。溜まる場所が顔や体の皮膚であれば、皮膚のコラーゲンの弾性化が低下し、しみやしわがどんどん増えていくことになります。そう、高血糖が続くとAGEsが増大し、驚くべきペースで老けていってしまうのです。
もちろん、美容だけではなく健康に与える影響も大きく、AGEsが骨に溜まれば変形性関節症や骨粗しょう症、血管に溜まれば動脈硬化や心筋梗塞、脳に溜まれば脳梗塞や認知症などにつながります。
AGEsを増やさないためには、血糖値を下げること、ならびに血糖値スパイクを起こさないことが大切。これを肝に銘じましょう。
じつは「低血糖」も健康に深刻なリスクをもたらす
高血糖は絶対に避けたいですし、本稿のメインテーマは「血糖値を下げる」です。しかし、ものには限度があります。下げすぎてもまた、問題が発生するのです。もちろん、血糖値スパイクが激しすぎて、著しく血糖値が下がってしまうのも看過できません。
これまで世に出てきた糖尿病に関連する本で、低血糖の危険性を強調しているものは、ほとんど見当たりませんでした。でも私は、じつは低血糖ほど体に良くないということを、アピールしていきたいと思っています。
低血糖が死亡リスクを上げるとか、低血糖が原因で不整脈や心臓の病気につながるとか、そういった指摘もされ始めてきていますので。
低血糖になると、体から活力が失われます。冷や汗が出たり、手足が震えたり、動悸がしたり、倦怠感に包まれたり、眠くなったり。誰もが、けだるさや調子の悪さを感じるでしょう。
そして、血糖値が下がりすぎると、意識障害やけいれんを起こし、最悪の場合、昏睡状態に陥って倒れてしまいます。ただたんに「調子が悪いな」では済まされないのです。
昏睡状態で倒れるまでに至らなくても、低血糖が長く続くと、糖新生が活性化して副腎ホルモンが足りなくなり、副腎疲労を引き起こします。また、コルチゾールなどの副腎ホルモンを体が必要としているときに出なくなってしまうこともあります。
また、糖新生が亢進すると、脂肪と一緒に筋肉も溶かしてしまうので、筋肉が失われることになります。筋肉量の減少は、運動能力の低下や寿命の短縮につながることが明らかなので、軽く扱うことはできません。低血糖は本当に怖いのです。
以前、次のような興味深い論文を目にした記憶があります。凶悪犯罪者ばかりが収監されているアメリカの刑務所で、囚人たちの血糖値の変動を測定する調査が行われたそうです。
結果は、平均的な数値よりもはるかに上下動の幅が大きかったといいます。囚人たちは、血糖値スパイクによって高血糖と低血糖をくり返していたようなのです。
人格をも破綻させかねない「低血糖」の恐怖
この論文を目にしたときは、思わず「なるほど」とひざを打ってしまいました。なぜなら、低血糖がもたらす症状のなかには、不安、抑うつ、焦燥、混乱、異常行動などが含まれるからです。もちろん個人差はありますし、上下動幅の大きい血糖値スパイクが起こっている理由は定かではありませんが、凶悪犯罪者が総じて同じような状態にある可能性が高いことは、間違いないのでしょう。
低血糖は人格をも変えてしまう――大げさに表現すると、そういうことがいえるのかもしれません。
糖質や血糖値の研究者のなかには、いわゆる「キレやすい子ども」が増えたのは、糖質の摂りすぎが大きく関係していると主張する人もいます。糖質の過剰摂取は高血糖をつくりだし、それが血糖値スパイクを生みます。
そして血糖値が乱高下することにより、低血糖にもなります。もしかしたら、子どもの狂暴化は、そこに端を発しているのかもしれないということです。
また、糖質の摂りすぎが発達障害に影響するという説もあります。ごはんやお菓子の食べすぎは、肥満だけでなく、人格を変えたり、発達障害になったりする要因になるかもしれないと考えると、ちょっと怖いですよね。
まだまだ研究途上の分野であり、あくまで可能性が示唆されている段階ですが、血糖値と性格がまったく無関係ではないことは、論をまたないでしょう。
一般的に、血糖値スパイクは活発に体を動かしている日中に起こりやすい――そう認識している人は多いでしょう。もちろん、その認識は間違っていません。
では、安静にしているときや睡眠時に血糖値スパイクは起こらないかというと、さにあらず。食事(おもに夕食)のタイミング、摂取する糖質の量によっては、寝ているときにも血糖値スパイクは起こります。
最悪なのは「糖質たっぷり」の遅めの食事
いちばんダメなパターンは、糖質たっぷりの料理を、遅めの時間帯に食べること。例えば、22時に夕食をとって、0時に床に就いたとします。すると、食べてからだいたい3時間後、深夜1時ごろに血糖値が急下降し始めるのです。
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血糖値スパイクの上下動の幅が小さく、ゆるやかに下がっていくのなら問題ありませんが、急激に、しかも下がりすぎてしまうと、体にさまざまな不調をきたし、不快感を覚え、それに耐えられずに目を覚ましてしまうケースがあります。寝ているときに血糖値スパイクが起こると、睡眠障害につながってしまうのです。
ならば、血糖値が下がりすぎなければいいかというと、そうともいいきれません。糖尿病の患者さんは通常の空腹時血糖値が高いので、あまり下がらずに高いまま目を覚ますと、そこから1日をスタートさせなければならないからです。
朝の血糖値が80からスタートする人と、150からスタートする人とでは、その後同じ食事をとっても上昇の波の大きさが変わってきます。だから目覚めのときは、低血糖にならないレベルの低い数値にとどまってくれているのが理想的といえるのです。
ベストは、睡眠時(とくに0時から6時くらいまで)は血糖値スパイクを起こさずに、できるだけフラットな血糖値でいられること。これが個人的に最も注目している点であり、目下の大きな課題でもあります。
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提供元:「高くても低くてもダメ」血糖値の正しい整え方│東洋経済オンライン