2024.08.29
「夜、トイレのため目が覚める」が超キケンな実態|夜間頻尿が大病のシグナルになっているかも
歳とともに増える悩みごとのひとつに、夜間のトイレの多さがあります(写真:プラナ/PIXTA)
脳神経内科が専門の医学博士で、老人医療・認知症問題にも取り組む米山公啓氏による連載「健康寿命を延ばす『無理しない思考法』」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。
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夜、トイレのために目覚めることはありませんか?
歳とともに増える悩みごとのひとつに、夜間のトイレの多さがあります。
夜、1回か2回起きてトイレに行くのはなんとか我慢できますが、3回4回になってくると眠れませんし、翌日にも影響してきます。
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夜間のトイレの回数が増えるのは、意外なことも影響していて、医師でもわからないこともあるのです。
とはいえ、もし夜間頻尿の自覚が少しでもあるなら、真剣に考えておく必要があります。夜間頻尿が大病のシグナルになっている可能性もありますし、その原因によっては治すことができるからです。
1)寝る前の一杯の水
脳卒中や脱水症状の予防のために、「寝る前の一杯の水はからだにいい」と思っている人が多いようです。
しかし、寝る前に水を飲むことで脳卒中の予防になるという事実はなく、あくまでも気分的なことのようです。逆に、夜間頻尿という視点から見ると、寝る前に水を飲むという習慣は直接の原因につながります。加えて、日中の水分摂取過多も夜間頻尿の原因になるので、必要以上の水分摂取を控えることも大切です。
2)降圧薬で夜間頻尿
これは、内科医でも見落としている場合が多いことです。
血圧を下げるために処方される降圧薬としてよく使われているのはカルシウム拮抗薬なのですが、これは夜間頻尿を引き起こします。
カルシウム拮抗薬を飲んでいる場合、その14%に下肢にむくみが出ると言われています。そして横になって寝ていると、むくみとして脚にたまっていた水分が心臓に戻ってくるので、夜間多尿の原因になるのです。
またカルシウム拮抗薬は、それ自体が腎臓の血流量を増やすということもあり、夜間多尿の原因となります。
このことを内科医が意識していないことが多いのです。当然患者さんは、降圧薬で夜間多尿になると思っていないので、原因がわからないままになってしまいます。カルシウム拮抗薬を使うと夜間頻尿になる場合があると、主治医はきちんと説明すべきです。
またそれとは逆ですが、高血圧症で使われてきたサイアザイド系利尿薬は、夜間の多尿を改善することがわかっています。
3)糖尿病の治療薬が夜間多尿に
最近糖尿病の治療薬として、SGLT2阻害薬が使われるようになりました。この薬は尿中に糖分を排泄して血糖値を下げようとする薬です。この効能によって多尿がもたらされ、夜間頻尿の原因となります。このことを主治医は患者さんに十分説明しなければいけません。
心不全に気づくシグナルのひとつにも
4)高血圧症と心不全
高血圧症の方の体内では、塩分を排泄しようという働きが機能しています。結果として尿量を増やして塩分を排出しようとするので、夜間頻尿につながります。前述したように降圧剤も種類によっては夜間頻尿になるので、高血圧症の方で夜間頻尿に悩まされている方の場合は、その症状自体と薬の効果という2つの要素が関係している場合もあります。
心不全では、日中は脚に水がたまってむくみとなっていますが、夜横に寝ていると水分は心臓に集まってきて、この水を排出するために夜間頻尿となります。
心不全はその予兆が早期発見できない病気ですが、夜間の多尿が心不全に気づくためのシグナルのひとつだと理解しておく必要があります。
5)不眠症と夜間頻尿
眠れないと、それだけで夜間にトイレに立つ回数も増えると言います。ちょっとした尿意で目が覚めてしまい、それが不眠の原因ともなっているというケースも少なくありません。なので、ちょっと意外なのですが、睡眠薬をきちんと飲むことで、夜間の多少が治ってしまう場合もあります。
6)意外な食生活の影響
からだにいいからと野菜をたくさん食べていると、その野菜の水分の影響で夜間頻尿になってしまうこともあります。
こういった日常の行動と夜間頻尿を結びつけて考えることはほぼないので、よほど主治医とコミュニケーションがとれていなければ、なかなか気がつかないものです。
それに加えて、夜間頻尿は泌尿器科の問題と考え、すぐに泌尿器科に紹介状を書いてしまう医師も多いものです。それにより、夜間多尿の原因となっている重大な病気を見落としてしまう危険もあります。
7)夜間頻尿が意外なことに関係する
尿意のために夜中に起きると、暗いなか寝起きのおぼつかない足でトイレまで歩くことになりますが、それで転倒して骨折してしまう事故は珍しくありません。
大腿骨を折ってしまうとしばらく寝たきりになり、そのまま運動機能も落ちてしまう――高齢者ではよくあることですが、その原因も夜間頻尿がからんでくるのです。夜間頻尿が原因となって骨折し、運動機能にまで影響する可能性があるわけです。
このように、夜間頻尿は様々な病気・事故と関係が深い、私たちにとって身近な症状と言えます。たとえばその症状は、前立腺肥大、肥満、睡眠時無呼吸症候群などと関係が深いことがが一般に知られています。
ただし前立腺肥大は、以前は夜間頻尿と結びつけられていましたが、実際にはそれほど関係は強くないようです。睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、CPAPという治療を続けていたら、一番はっきりしたのは、夜間頻尿が治ったことだと言っていました。
歳のせいと諦めずに、主治医としっかり話し合いを
いずれにしても、夜間頻尿というのは、単に年齢的な変化ということではなく、さまざまな病気が原因になっている可能性があるわけです。
さらにその原因となる病気は、泌尿器科の病気だけでなく、内科系の病気や治療薬も関係してきます。各診療科にまたがる病気であるために、そこが診断を難しくしてしまうのです。
やはりこういうときに役立つのは、長年患者さんを診てきた主治医の役割が大きいように思います。少なくとも歳のせいと諦めずに、主治医としっかり話し合いをして、原因を考えていくことが大切でしょう。
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提供元:「夜、トイレのため目が覚める」が超キケンな実態|東洋経済オンライン