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2024.08.16

「認知症とお金」症状が進んだ時の医療・ケア費は?|骨折や脳卒中などを合併したら負担はさらに増


(写真:hellohello/PIXTA)

(写真:hellohello/PIXTA)

今から16年後の2040年。65歳以上の6人に1人が認知症になると推計されている。最も多いタイプのアルツハイマー病でいえば進行抑制薬は使えるようになったが、進行した人を「治す」方法の開発はまだ先になりそうだ。

認知症になると、感染症や脳・血管の病気、あるいは骨折で入院するリスクが高まり、より医療費がかかるという現実もある。トータルで見て認知症のケアにいくらかかるのか、専門家に聞いた(知っておきたい「認知症とお金」を2回にわたってお届けします。今回は2回目。1回目はこちら)。

1回目はこちら ※外部サイトに遷移します

身近な病気になった認知症

「私が大学生のころ、認知症といえば『遠くのおじいさん、おばあさんのこと』で、イメージしづらい病気でした」

そう振り返るのは、東京大学大学院特任准教授で公衆衛生学と医療政策を研究する五十嵐中(あたる)さんだ。それが今では自分の家族や親族、あるいは知り合いなど、身近な病気として実感するようになった。

認知症は、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる時期から、年単位の時間をかけてゆっくりと進行する場合が多い。認知症に移行すると症状は軽度、中等度、高度と進んでいく(※外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

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MCIの時期は記憶力などが低下しても日常生活にあまり支障はなく、そこから認知症に進む人もいる一方、正常に戻る人もいることが知られている。病気が進んだとしても、本人にはできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で安心して暮らすことが求められている。

そして自分らしく暮らすためには、どうしても医療、介護、生活にかかる費用が必要になってくる。

医療費よりもケアにかかる費用が増

では、認知症になるとどれくらいの費用負担が発生するのか。

五十嵐さんのまとめでは、中等度の認知症で在宅ケアを受ける場合、診察、投薬、検査などにかかる医療費にざっと月間3万5000円、ヘルパーや入浴介助など頼んだときに生じる公的介護費に11万円、それ以外のインフォーマルケアコスト(公的な制度を使わないケア)に22万円がかかる。合計で月間37万円ほどだ。

同様に、高度認知症になると、医療費が4万6000円、公的介護費が17万円、インフォーマルケアコストが31万円、合わせて月間52万円かかる(MCIと軽度認知症については1回目をご覧ください)。

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いま紹介した金額は、いずれも健康保険や介護保険が適用される前の金額。医療費と公的介護にはそれぞれ公的保険が適用されるので、自己負担は1~3割となる。

このほか、ひと月の医療費の自己負担が、年齢や収入に応じて設定される限度額を超えたぶんは、あとで払い戻される制度(高額療養費制度)もある。高額な介護費用と合算して限度額を設ける制度(高額医療・高額介護合算療養費制度)もあるため、実際に支払うのは1~3割よりも少ない。

ポイントは、認知症が進行していくほど、医療費よりも介護、ケアにかかる費用や手間の問題が大きくなるということだ。実際、先の図を見るとインフォーマルケアコストや、ヘルパーなどによる公的な介護費のほうが圧倒的に多くなる。

その背景には、認知症の進行に伴う症状の変化がある。認知症が進むと自分でできることが少なくなるため、日常生活におけるさまざまな場面で介助が必要になるケースが増えるのだ。

公的な制度である介護保険は2000年から始まった制度で、市町村が認定した要介護度に基づき、利用者はニーズに応じたサービスを受けられる。通常は、要介護度をもとにケアマネジャーが通所介護(デイサービス)や訪問介護といったサービスケアプランを作成し、それにそった介護サービスを受けることが多い。

家族介護の負担が大きい日本

ただし、介護サービスは内容や回数などに限りがあるため、そこに当てはまらない介助に関しては、「インフォーマルケア」として誰かが担う必要が出てきてしまう。

厚生労働省の調査(2022年国民生活基礎調査)によると、要介護者(認知症以外を含む)を介護しているのは、同居の家族・親族が5割弱。別居の家族らを含むと、ほぼ6割で家族・親族が担っていることになる。

加えて、介護する人の半数以上は60歳以上である。「介護を担う人の多くはすでにリタイアしているか、そもそも働いていない可能性があります」と五十嵐さんは言う。

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もう1つ、認知症が進むほど深刻になってくるのが、認知症があることで心身にさまざまな問題が起こる、という点だろう。

20年にわたり高齢者の在宅医療に取り組む、たかせクリニック(東京・大田区)理事長の髙瀬義昌医師によると、認知症の高齢者では感染症、脳卒中、骨折などで入院するリスクが高まる。入院が長引いたり、体が動かない期間が延びたりすると、認知症が悪化する「負のスパイラル」に陥りかねないという。

注意したい感染症は、誤嚥(ごえん)性肺炎。口の中にいる細菌が、誤って唾液とともに肺のほうに入り込んで起こる肺炎だ。

また、脳卒中は長年の高血圧などで傷んだ血管が破れたり詰まったりして生じる。骨粗鬆症で骨がもろくなっている人に転倒や尻もちで生じる骨折も、高齢者では寝たきりや要介護につながりやすい。

こうした病気がひとたび生じると、思った以上に高額な医療費がのしかかる。全日本病院協会や一部の公的病院の公表値によると、誤嚥性肺炎の入院は1回約100万円。脳卒中は約200万円、骨折すると約200万円かかる(いずれも保険適用前の金額)。

こうした治療費が、もともとの認知症にかかる費用にプラスされるため、その負担はかなりのものだ。

髙瀬さんは、血圧の管理や骨粗鬆症の治療、栄養や水分摂取への配慮、そして使用する薬の適正化が必要だと説く。感染症とその後におこる問題の負のスパイラルを予防するために、各種のワクチンを勧めている。

「大人向けのワクチンも種類がそろってきました。インフルエンザ、新型コロナウイルス、肺炎球菌、帯状疱疹、RSウイルス、それぞれに対するワクチンです」(髙瀬さん)

インフルエンザワクチンを毎年数千円の自費で接種する人は多いだろう。帯状疱疹ワクチンの最新型は、一度の接種(間隔を空けて2回が1セット)で効果が10年以上続くとされるが、2回分で4万5000~5万円。2024年に登場したRSウイルスワクチンは、1回2万5000円程度とみられる。

このように、ワクチンは健康保険が使えず原則自費になるため、その値段は高めだ。ただ、ワクチンによっては自治体の助成が受けられるものもあるので、住んでいる地域の役所などに問い合わせるといいだろう。

在宅医療や訪問看護にかかるお金

ところで、認知症が進行すると病院に通院することが難しくなるため、自宅に医師や看護師に来てもらう在宅医療や訪問看護が必要になってくる。

在宅で訪問診療を受ける場合、いったいいくらぐらいかかるのだろうか。

髙瀬さんは、「1カ月に2回医師が訪問する一般的なケースで、窓口負担割合が1割の方の場合、負担は月7000円程度から、と患者さんには説明しています」と言う。

看護師などが訪問する訪問看護は、介護保険で利用すると、30分以上60分未満の場合、1割負担では800~900円となる(地域や事業所によって異なり、ほかに交通費などが加算される)。

一方、訪問介護は、都内のケアマネジャーによると、要介護1(日常生活に部分的に介助を必要とする)の場合、月15万円程度分の介護サービスの枠があり、1割の自己負担でデイサービスに週4回通い、福祉用具を借り、週1回の訪問介護を受けられるという。

要介護5(寝たきりで食事や排泄にも介助が必要な状態)の場合は、月40万円程度の枠で、訪問介護を1日2回、デイサービスに週2回、看護師や理学療法士による訪問看護を週2回、利用することが可能だという。

ここに示した枠は上限値で、利用者の状態やニーズによって提供サービスは異なるが、いずれも自己負担があることから、「家族の介護負担は増えても費用を切り詰めたい」と、利用を控える声も聞くそうだ。

認知症に備えていくら必要?

では、認知症に備えていくら用意しておけばよいのだろうか。研究者の五十嵐さんに聞いてみた。

「認知症になってから平均寿命まで生きたと仮定すると、ケアの費用はトータルで約2500万円と試算されます。このうち医療費と公的介護費が合せて1100万円、インフォーマルケアコストが1400万円です。公的保険が適用される1100万円について自己負担分を用意するという意味では、その1~3割の110万~330万円となります」

30代、40代であれば、あと何年以内に数百万円を貯めておかなければならない、ということではない。将来、社会の仕組みや医療費にかかわる制度、医療そのものが変わることは十分にありうる。

ただ、こうしたことを知っておくことで、認知症医療の恩恵を受け、自分なりの生活を送るためには費用がかかりそうだという腹積もりはできる。

若年性認知症の当事者、藤田和子さん(一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ代表理事)は、認知症になったあとに看護師の仕事を辞め家族の経済状況も変わったため、金銭的な感覚を全面的に見直す機会があったという。

「貯蓄は必要ですが、“あるもので何とかする力”をつけることも大切です。やりくりをして暮らせば、ちょっとした買い物が『小さな幸せ』になるものです。あるもので、あきらめずに暮らす、ということですね」(藤田さん)

認知症にかかる人が増えている今、認知症とお金の問題は避けて通れない問題だ。お盆休みで実家に帰省している人、家族で集まっている人もいるだろう。まさにいまが認知症やお金について家族で話し合う、いいタイミングかもしれない。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

「認知症とお金」早期治療・ケアで必要な金額は?

多くの大人が決して言わない「残酷なお金」の現実

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提供元:「認知症とお金」症状が進んだ時の医療・ケア費は?|東洋経済オンライン

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