2024.06.18
「すぐ疲れる」「だるい」と不調な人の意外な盲点|自分でもできる「慢性疲労」を解消する方法
(写真:プラナ/PIXTA)
なんとなくだるい、すぐに疲れてしまう。そんな不調がずっと続いていたら、「季節の変わり目だから」「気のせいかも」と決めつけて放置せず、「慢性疲労」の可能性も疑ってみてください。
慢性疲労はれっきとした病気であると述べるのが、これまで1000人を超える慢性疲労の患者を診察・治療してきた、医師の堀田修氏。コロナ後遺症ともかかわりが深い慢性疲労は
どのように生じて、どういった治療法、セルフケアがあるか、解説します。
※本記事は堀田医師の著書『慢性疲労を治す本: いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体』を一部抜粋、編集したものです。個別のケースで状況が異なるため、症状は主治医とご相談ください。
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「慢性疲労」の研究が世界的に進んでいる
日本で多くの方を悩ませている病気の1つに「慢性疲労症候群」があります。慢性疲労症候群では、日常生活が著しく損なわれるほどの強い全身倦怠感、慢性的な疲労感が休養しても回復せず、6カ月以上の長期にわたって続きます。
慢性疲労症候群という診断はついていなくても、慢性的な疲労感・倦怠感に悩まされたり、家事や仕事の後や、職場や家庭での些細な人間関係のストレスを受けたりした後に、強い疲労感が出て日常生活に支障をきたしている人は少なくありません。
2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって間もなく、感染後に長引く体調不良に苦しむ「コロナ後遺症」が注目されるようになりました。疲労感・倦怠感はコロナ後遺症における最も頻度が高い症状です。味覚障害や嗅覚障害などは通常の慢性疲労症候群ではほとんど認められませんが、「コロナ後遺症の中心となる症状は慢性疲労症候群そのものである」という見方も成り立ちます。
医学の世界では数年前まで慢性疲労症候群が注目されることはあまりありませんでした。ですが、コロナ後遺症が世界中で大きな問題になったことで「慢性疲労」に関する研究が一気に進みました。その成果の1つが疲労感の原因が脳の炎症であることの示唆でした。
迷走神経から脳へ炎症が広がり「慢性疲労」が生じる
この「脳の炎症」を含めた、コロナ後遺症が発症するメカニズムについては、主に以下の原因があるとされています(文献1)。
(1)ウイルスの持続感染
(2)腸内の微生物環境の異常
(3)自己免疫機序の誘導(自分の体の細胞を攻撃する抗体がつくられる)
(4)微小血栓の形成(細い血管で小さい血栓がつくられる)
(5)迷走神経の異常(炎症)
その中で、私がこれまで多くの患者さんの診療を通して、コロナ後遺症の中心的役割を果たしていると実感するのが、ウイルス感染によって引き起こされる「迷走神経の炎症」です。実際、コロナ後遺症の患者さんでは頸部の迷走神経が炎症のために肥厚していることがエコー検査で確認されています(文献2)。
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迷走神経は自律神経のうち副交感神経の約8割を占める、全身に分布する重要な神経です。迷走神経が炎症を起こすと副交感神経と交感神経とのバランスが崩れてしまい、体にさまざまな異常をきたします。
迷走神経は副交感神経として呼吸、心拍、消化管運動などにかかわっているため、迷走神経が炎症を起こすと、呼吸困難、動悸、胃もたれ、下痢、便秘、腹痛などの症状が現れます。
また、延髄の孤束核(こそくかく)に向かう迷走神経(求心性迷走神経)が炎症を起こすと、延髄からさらに大脳の視床下部や大脳辺縁系にまで炎症が広がり(「脳の炎症」です)、その結果としてめまいなどの自律神経系の障害や頭痛、倦怠感、疲労感、集中力の低下、記憶力の低下などの身体症状を引き起こします。
(出所)『慢性疲労を治す本: いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体』
「慢性疲労」のおおもとは?
では、迷走神経の炎症が始まる、つまり「火種」がつくられている体の場所はどこでしょうか?
(1)コロナ感染で炎症が生じる場所
(2)迷走神経が分布している場所
この2つを満たすことが条件です。そして、その場所こそが「上咽頭」です。鼻の奥で両側の鼻腔から入った空気が合流し、肺に向かって下方に方向を変える上咽頭は細い毛が生えた繊毛上皮で覆われており、ウイルス、細菌、粉塵などが付着しやすい場所です。
上咽頭で生じた火種が迷走神経という導火線を伝わり、延髄や大脳に到達して「脳の炎症」を引き起こしてしまうわけです。
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迷走神経の炎症を治すといっても、神経の炎症であるため一般的な抗炎症薬が効くわけではありません。迷走神経の炎症を抑える方法として海外で注目を浴びているものにVNS(Vagus Nerve Stimulation)と呼ばれる「迷走神経刺激療法」があります。
そして、この迷走神経を刺激する簡単で安価な治療法、それが「上咽頭擦過療法」(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)です。EATとは迷走神経が豊富に分布している上咽頭を薬液(通常は0.5%から1%濃度の塩化亜鉛溶液)を浸した綿棒で擦過する治療法です。
この方法は1960年代に東京医科歯科大学の初代耳鼻咽喉科教授である堀口申作氏によって始められた日本オリジナルの治療法で、耳鼻咽喉科医の間で一時期脚光を浴びました。しかし、残念なことに、(1)治療に伴う痛み、(2)低い診療報酬などの理由で、実施する医師が1980年代以降、ほとんどいなくなってしまいました。ですが10年ほど前から、腎臓病の1つであるIgA腎症などとの関連でこの治療の価値が見直され、最近になり再び注目を集めつつあります。
(出所)『慢性疲労を治す本: いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体』
自分でもできる「慢性疲労」を解消する方法
上咽頭を健康な状態に戻すうえでEATはもちろん重要ですが、セルフケアとして上咽頭を洗う「鼻うがい」「上咽頭洗浄」は炎症を抑え、ウイルス、粉塵、黄砂など、炎症を引き起こす原因から上咽頭を守るために役立ちます。
(出所)『慢性疲労を治す本: いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体』
鼻は自然に備わった空気浄化装置ですが、口から吸いこんだ空気は浄化作用を受けないまま、上咽頭を刺激してしまいます。そこで、口呼吸の習慣のある人は普段の呼吸を鼻呼吸に変える必要があります。そのために役立つのが舌位置アップのための「かにゆで体操」や就寝時の「口とじテープ」(マウステープ)です。
微小循環の障害で生じた瘀血(おけつ。炎症物質が含まれる汚れた血液)は健康の土台が傾く原因となるため、取り除く必要があります。上咽頭の瘀血はEATで取り除くことができますが、全身の瘀血を取り除くためには「パワーかっさ」(強めのかっさ)が有効です。また、「パワーかっさ」は自律神経システムにも好影響を与えます。
慢性疲労を訴える患者さんの自律神経の状態は、単に交感神経と副交感神経のバランスが崩れているだけでなく、交感神経レベルと副交感神経レベルがともに低下した状態と言えます。自律神経システムが健康な状態とは、交感神経と副交感神経(約80%が迷走神経)の両方が適度に緊張しており、ゆったりとしているけれども適度な緊張感と集中力があります。
交感神経レベルが高くて副交感神経レベルが低い状態の典型が「闘争」と「逃走」です。喧嘩しているとき、火事や突然の自然災害などで急いで危険な状態から逃げ出しているときなど、瞬発力と集中力が高まった状態ですが、同時にストレスが大きい状態です。交感神経レベルが低くて副交感神経レベルが高い状態は、まったりとリラックスした状態ですが、意欲や活力は乏しい状態です。
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「慢性疲労」は交感神経レベルも、副交感神経レベルも低下した不安定な状態です。動悸、イライラ感、不眠、不安などの症状は副交感神経レベルが極度に低下しているために交感神経系が相対的に優位になることで生じます。
「慢性疲労」から解放されるセルフケア
この状態では副交感神経レベル、あるいは副交感神経レベルと交感神経レベルをともに高めることが必要な治療となります。EAT、頭部の治療ポイントを中心とした「鍼治療」(YNSA)、皮膚に刺したときに出血しない程度に尖った金属棒で治療ポイントを突っつく「チクチク療法」(無血刺絡療法)には直接迷走神経を刺激して副交感神経レベルを高める作用があります。自然塩を溶かした塩水を飲む「塩水療法」にもこの作用がある程度期待できます。
低温サウナを利用して体を温める「和温療法」は副交感神経レベルのみを高める治療法で、副交感神経レベルが特に低くて交感神経優位の状態の患者さんにおすすめです。
(出所)『慢性疲労を治す本: いつまでも消えないつらい疲れ・だるさの正体』
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こうしたさまざまな治療法、セルフケアを組み合わせることで、1人でも多くの方が「慢性疲労」から解放されることを祈念しています。
参考文献
1. Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol (2023). https://doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2
2. Lladós G et al. Clin Microbiol Infect (2023). https://doi.org/10.1016/j.cmi.2023.11.007
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提供元:「すぐ疲れる」「だるい」と不調な人の意外な盲点|東洋経済オンライン