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2024.03.13

「手の震え」原因は緊張からくるものだけじゃない|「日常生活で困ることが多い」ならまずは受診を


緊張や興奮による震えと病気による震えは、どんなふうに違うのでしょうか(写真:タカス/PIXTA)

緊張や興奮による震えと病気による震えは、どんなふうに違うのでしょうか(写真:タカス/PIXTA)

大事なプレゼンテーションでポインターを持つ手が震える、会食の場でグラスを持つ手が小刻みに震える……。緊張する場面ではよくあることだが、病気、特に脳や神経の病気のいち症状として表れることもあるという。
病気による震えは緊張によるものとどんなふうに違うのか、上用賀世田谷通りクリニック院長の織茂智之医師(脳神経内科)に話を聞いた。

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緊張や興奮、疲れで小刻みに

日々、何気なく行っている「手を動かす」「指を曲げる」という動作。順序立てて説明すると、こんな感じになる――。

まず「動かそう」と脳からの指令が出ると、それが神経を通じて骨格筋に伝わり、動かす目的に応じて筋肉が縮んだり、緩んだりする。それに伴って関節も動き、手の動きにつながる。

対して、「手の震え」は、「自分の意思とは関係なく小刻みに動く状態。主に左右の水平方向に、速く動くのが特徴です」(織茂さん)。

織茂さんによると、精神的な緊張や興奮、疲れによって手が細かく震えるのは正常な反応で、医学的には「生理的振戦(しんせん)」と呼ぶ。関わっているのは自律神経だ。

自律神経には、体が活発に動くときに優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経があり、お互いにバランスを取り合っている。

「精神的な緊張で震えるのは、交感神経が過剰に興奮するから。筋肉に収縮指令が伝わり、複数の筋肉が交互に収縮して震えが顕著になるのです」と織茂さんは説明する。

自律神経のバランスのイメージ(画像:suma/PIXTA)

自律神経のバランスのイメージ(画像:suma/PIXTA)

病気が原因で起こる「震え」も

緊張した時の一時的なものではなく、震えが日常的にあると、生活にも支障が出るため、困る場合もあるだろう。

実際、織茂さんのクリニックには、「字を書くときに震えるので、字が書けない」「コップを持つと、こぼれてしまう」「スマートフォンのボタンをうまく押せない」と言って受診する人が多いそうだ。

「字が書きにくいなどと受診する人のなかには、何らかの病気で震えが表れていることがあります」と織茂さん。つまり、震えが「メンタル」の問題ではなく、「脳」の問題で起こることもある、ということだ。

具体的にはパーキンソン病、本態性振戦、それにホルモンが関わる甲状腺機能亢進(こうしん)症などで、20~30代の比較的若い年齢でもかかる病気もある。

代表的な病気を簡単に紹介すると――。

・本態性振戦

本態性振戦は「原因不明の震え」という意味の病気。

手以外では声が震えたり、頭が横に揺れたりすることもあるが、震え以外の症状はないのが特徴だ。命に関わる病気ではなく、人口の2.5~10%が持っているともいわれ、決して珍しくはない。

60歳以降、年齢を重ねるにつれて発症しやすくなるが、20代にも発症のピークがある。「若くして発症する人は、家族に同じ病気の人がいるケースが多い」(織茂さん)という。 

本態性振戦の患者が描いた「渦巻き」(写真:織茂さん提供)

本態性振戦の患者が描いた「渦巻き」(写真:織茂さん提供)

・パーキンソン病

パーキンソン病は脳の神経細胞が減少し、動作が遅くなったり、体のバランスがとりにくくなったりする病気だ。50~60代で発症することが多い。

女性に多い「手が震える」病気

・甲状腺機能亢進症

“のど仏”の下あたりにある甲状腺という器官が甲状腺ホルモンを過剰に産生することで生じる。甲状腺を刺激する物質が体内で余計に作られることなどが原因だ。

甲状腺ホルモンは体の機能を活性化する働きがあるため、増え過ぎると交感神経が興奮し、手が震える。震え以外に、脈が速い、体重が減る、汗をかきやすいなどの症状も表れる。

甲状腺機能亢進症の代表例であるバセドウ病は、女性が男性の3~5倍で、特に20~30代女性の発症が多いとされる。

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病院に行ったらよいのかわからない。受診するとしたら何科に行けばよいのだろうか――。そう迷っている人もいるかもしれない。織茂さんに聞くと、受診の目安は次のようなときなので、参考にしてほしい。

また、受診先としては、脳神経内科や脳神経外科などが考えられる。

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病院で行われる治療

では、病院ではどんな治療をするのだろうか。

本態性振戦では、交感神経の興奮を抑える飲み薬などを使う。

震えが完全に消えることは難しいものの、「10あった症状を4~5、あるいは3程度まで軽くすることは可能」と織茂さん。そのくらいの改善度合いであっても、日常生活の負担は随分軽くなるという。

飲み薬が効かず、震えのために服のボタンを止めづらいなど、日常生活への影響が大きい重症例には、医療機器やそれに脳の手術を組み合わせた治療法がある。病気の原因はわかっていないが、脳の神経活動に異常が生じていることから、それを調整しようというコンセプトだ。

具体的には、脳の特定部位に細い電極を埋め込んで一定の刺激を与え続ける「脳深部刺激療法」や、脳の一部に超音波を当てて熱でダメージを与える「集束超音波治療」で、いずれも健康保険が適用される。

パーキンソン病では、脳内で不足するドパミンを補うために、「ドパミンの素」となる成分の飲み薬を使うのが、標準的な治療だ。

症状をコントロールできなくなってきたら、別の薬を追加するなど段階的に治療を進め、脳深部刺激療法なども考慮される。

甲状腺機能亢進症による手の震えは、甲状腺ホルモンの産生を抑える飲み薬などを使う。完治が可能だという。

「医学は進歩しています。手の震えは、専門医による適切な診断のもとで適切な治療を続ければ、症状を軽くして、生活に支障を来すことを防げるでしょう。原因の病気によっては、その治療で完全に良くなることもあります」(織茂さん)

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緊張による震えの対処法

では、精神的な緊張で起こる生理的振戦に悩む場合は、どうしたらよいだろう。「そのときは、へその下を意識して、大きく深呼吸をしてみてください」と織茂さん。一般的にとられる対応だが、理論的にも説明がつくという。

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震えを抑える、あるいは起こらないようにするには、副交感神経を優位にする必要があるが、ゆっくりとした腹式呼吸で横隔膜を動かすことで、副交感神経が優位になるそうだ。

さらに織茂さんは、「緊張しないように、本番を想定したトレーニングを積むのもよい。それから、むしろ緊張するのは当たり前と考えるのも1つの方法です」とも言う。

関連記事:【あがり症・対策編】緊張和らげる即効ストレッチ ※外部サイトに遷移します

(取材・文/佐賀 健)

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上用賀世田谷通りクリニック院長
織茂智之医師

1980年、信州大学医学部卒業。東京医科歯科大学、米ロチェスター大学などを経て1994年から関東中央病院神経内科(現・脳神経内科)に勤務し、パーキンソン病、本態性振戦、認知症、脳卒中、頭痛、てんかんなどの診療に当たってきた。2021年に上用賀世田谷通りクリニックの院長に就任し、より地域に根差した医療に取り組む。

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提供元:「手の震え」原因は緊張からくるものだけじゃない|東洋経済オンライン

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