2024.02.08
部屋で死亡も「低体温症」からわが身を守る室温は|明け方の温度に要注意、寝るときの靴下はNG?
冷えや「低体温症」から身を守る方法を、薬剤師が解説します(写真:プラナ/PIXTA)
中医学に「冬病夏治(とうびょうかち)」という言葉があります。
冷えの原因は夏の不養生?
これは「冬の病気は夏から対策、治療する」という治療原則を表す言葉です。また、「現在の生活の結果は、次の季節以降に現れる」ということも意味します。つまり、今起こっている冷えの原因は、夏に作られると考えるのです。
暑かった昨年の夏は、冷たい飲食物を摂取しすぎて胃腸を酷使し、また冷房で体を冷やす期間が長かったので、冷えを体に溜め込んでしまっているのです。
とはいえ、昨年の夏の生活は今となってはどうしようもないので、今から挽回するための対策をお伝えしましょう。
「黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)」の「四気調神大論篇(しきちょうしんたいろんへん)」には、四季の過ごし方が具体的に書かれています。ここで述べられている養生の原則は、現代の生活にも十分活用できるものばかりです。
では、寒い季節にはどんな対策が有効なのか、見ていきましょう。
(1)冬は「早寝遅起」が原則
黄帝内経素問では「自然界と同様に、人も冬はあまり活動的にならず、体力を温存し、春に備えるべきである」と説いています。
動物が冬眠するように、人も冬は最も睡眠を多くとらなければならない季節。ですので、「早寝遅起」が原則です。
早朝の寒い気を取り込まないよう、7時ごろに起きるのが理想。仕事や生活の都合上難しい場合は、夜更かしはせず、早めに寝て8時間くらいの睡眠時間を確保しましょう。
冬にしっかり睡眠をとらないと、睡眠不足により「腎(じん)」のエネルギーを消耗します。腎とは腎臓そのものだけではなく、免疫力や自然治癒力にも深い関わりがあります。
睡眠不足が腎の低下をもたらし、インフルエンザや風邪をひきやすくします。逆にこれらを予防したければ、しっかり眠ることが不可欠です。
健康相談にいらっしゃる方に睡眠時間をうかがうと、ほとんどの方が睡眠不足です。
睡眠中は疲労物質などの不必要なものを掃除して、体を修繕する時間です。そんな大切な時間が不足して迎える寝不足の1日は、マイナスからのスタートになります。結果的に自律神経が乱れ、さまざまな不調が現れたり、症状や持病が悪化しやすくなったりします。
どんな漢方薬や治療も、睡眠不足で自律神経が乱れていると効きにくいのです。
冷えを撃退する食事の摂り方
(2)寒さを避ける
前述したように、冬は「腎」の大敵です。特に冷えは腎の機能を弱らせてしまいます。
本来なら、冷え対策は春から秋に行うものです。この間に筋肉をつけることで、冷えにくく、熱を産生できる体を作っておくべきなのですが、今となってはそれもできません。あらゆる手段を使って、冷えから体を守るしかないのです。
●食べ物・食べ方の工夫で冷えを撃退
まずは、食べ物や食べ方の工夫で体を中から温めましょう。
<起床時>
朝起きたら白湯を飲むのをお勧めします。胃腸が温まり、精神的にも落ち着きます。冷たい水を飲む人が多いですが、この時期は体を冷やすのでお勧めできません。
冬の朝は1杯の白湯から(写真:kai/PIXTA)
<朝食>
朝食によく登場するパンやコーヒー、サラダ、フルーツ、ヨーグルト、青汁、スムージーといったメニューは、すべて体を冷やす性質を持ちますので、この時期には向きません。
この時期の朝食に向くのは、お粥です。卵や野菜を入れて雑炊にしてもいいでしょう。そして朝はお腹いっぱい食べず、余力を残して昼食を充実させるのが理想です。
おかゆや雑炊は別として、食事はしっかり噛んで食べることを心がけます。パンをコーヒーで流し込むように食べると、胃腸に負担がかかります。消化に使われるエネルギーの無駄遣いは「気」の消耗であり、体の冷えにつながります。
<昼食>
昼食は体を温める魚、肉、卵など、タンパク質を多く含む食材とともに、ご飯、味噌汁などをしっかり食べます。
昼食が充実していないと、夕方に空腹を感じ、甘いものをつい食べてしまいます。砂糖は血糖値を上げて一時的に幸せな気分になるので、体も温まる感じがしますが、その後、血糖値が急激に下がり、体が冷えます。急激な血糖の上昇と下降は、やはり「気」を消耗します。
昼食 には「焼き魚定食」のようなメニューが理想ですが、難しいときは味噌汁に魚を入れたあら汁や、肉を入れた豚汁とご飯でもいいと思います。
ゆで卵やサラダチキンを利用するのもお勧めです。
<夕食>
夕食はなんといっても「鍋」がお勧めです。
まずは魚や肉をしっかり食べ、次に野菜、最後にご飯を入れて雑炊にすれば、理想的なメニューになります。温かいものをゆっくり食べることにより、食べすぎを防ぐこともできます。
寝室での「低体温症」に注意
夏の熱中症や脱水を予防するためにエアコンをきちんと使う、という考え方は、もはや常識になったといえます。しかし、意外に知られていないのが、冬の低体温症や就寝中の冷えによる健康トラブルです。
低体温症とは深部体温(内臓の温度)が35℃以下になり、正常な体の機能を保てなくなる状態です。最悪の場合、意識障害などを起こして死に至ります。
室内で亡くなるというと夏の熱中症が浮かぶかもしれませんが、低体温症は日中は18℃以下、夜間は15℃以下の室温で発症しやすく、7割以上は室内で起こっています。その多くは65歳以上の人です。
冷えを自覚される方はとても多く、日中はさまざまな対策を講じている方がほとんどです。しかし、夜の寝室の環境にはほとんど無頓着で、せいぜい温かい布団や寝具を選ぶくらいです。
大抵は、「寝るまでエアコンをつけて部屋を温め、寝るときに切る」という感じではないでしょうか。
先日も、夜間頻尿と夜の咳で相談にいらした70代男性に寝室の環境を聞いたところ、「温度は計ったことがないし、布団は上質のものを重ねているから寒いと感じない」とのことでした。そこで温度計と湿度計をつけて、起床時の温度と湿度を確認してもらったところ、室温が13℃、湿度が35%でした。
15℃以下の室温だと、低体温症になる危険が大きいです。また、この方のように夜間頻尿で何度もトイレに行く場合、暖かい布団から出て寒い室内とトイレを往復することでヒートショックが起きやすくなります。
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が乱高下したり脈拍が変動したりした結果、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす現象です。大きな温度差は体へのダメージが大きく、特に高齢になると致命傷になりかねません。
寒暖差の大きい脱衣場や夜間のトイレで倒れて救急搬送される例は、とても多いのです。
また、吸い込む空気が冷たいのも体を芯から冷やす原因になります。
特に明け方は寒さが極まります。エアコンを付けっぱなしにすると乾燥で喉を痛めることが多いので、加湿器を併用するか、乾燥させずに部屋を温めるパネルヒーターを使うのがお勧めです。
寝室の環境の理想は、温度が18℃(16~19℃)、湿度が40~60%です。18℃というと日中では少し寒い設定温度ですが、布団をかぶってちょうどよい温度です。暖かすぎても寝汗をかいて結果的に冷えますので、このくらいがいいのです。
私自身も夜、寝るときは18℃設定にタイマーをかけて、パネルヒーターをつけておきます。すると、明け方から温度が徐々に上がり、朝は18℃くらいになります。布団は冬にしては薄いものを使っていますが、寒さで目が覚めることはなく快適です。
寒いからと寝ているときの靴下を履く方もいますが、足の指が自由に動かせなくなるうえ、血流が悪くなるのでお勧めしません。靴下で足がむれると冷えにもつながりがります。
思っていることを表に出さない
四気調神大論篇は、冬の対策の1つとして「心の持ち方」を指南しているのも面白いところです。それは「心(思っていること)を表に出さない」ということです。
計画していることや希望を、周囲にふれ回ったりせず、心に温存しておくべきということなのですが、これはずっと黙っているということではなく、自然界と同じで、春の芽吹きまで待つということです。
「もう欲しいものなどない。十分だというふりをしなさい」とあります。
冷え対策はただ温めればいい、ということではなく、さまざまな状況に合わせて対応していくことが大切。気をつけても対策を行っていても冷えがひどいという方は、思わぬところに冷えの原因を作っているかもしれません。これを機に見直してみてはいかがでしょうか。
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提供元:部屋で死亡も「低体温症」からわが身を守る室温は|東洋経済オンライン