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2024.01.30

健康の人から「便を移植する」と体に何が起るのか|腸内の悪い菌と戦う「IgA抗体」って何?


他人の便を移植することで健康になるだけでなく、性格まで変わるといいます(写真:metamorworks/PIXTA)

他人の便を移植することで健康になるだけでなく、性格まで変わるといいます(写真:metamorworks/PIXTA)

最先端の理系分野で活躍する10人の東大教授が、ビジネスやIT、国家、AIなど多岐にわたるトークテーマを繰り広げる『東大教授が語り合う10の未来予測』。その中から本記事では、新藏礼子教授(生命科学が専門)を中心に、腸内環境改善のカギを握るという「IgA抗体」について語り合う。腸内の“悪い菌”を退治するというIgA抗体はどうしたら増やすことができるのか。

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腸の中にはさまざまな細菌がいる

瀧口友里奈(以下、瀧口):最近は「腸活」という言葉が流行っているように、腸内環境への関心はすごく高まっていると思います。でも、IgA抗体というのはあまり一般的な用語ではないですよね。

新藏礼子(以下、新藏):まだ全然メジャーではありません。私たちの体には、自分で自分を守る調節機能があります。それを「恒常性維持(ホメオスタシス)」と言いますが、恒常性維持が乱れてどこかに皺寄せが来たときに病気になると私は捉えています。そして認知症・がん・心血管疾患などさまざまな病気に、腸内細菌の異常が関わっているといわれています。

私たちのお腹の中には、A細菌、B細菌、C細菌……とさまざまな腸内細菌が生き物として住み続けています。口から食べたものが腸に届くと、そのA細菌、B細菌、C細菌がそれぞれ違うものに変えます。その細菌が変えたものを消化して、腸から取り込みます。ですから、私たちに重要な作用を及ぼしているのは、腸内細菌なわけです。

私たちのお腹の中は、酸素がほとんどない低酸素環境です。ですから、腸内細菌はうんちになって外に出てきた瞬間に酸素によって死んでしまいます。そのため、これまで腸内細菌の研究はなかなか進みませんでした。

でも、次世代シークエンサーなどができたおかげで、腸内細胞の遺伝子を読むことができるようになり、「今、腸にどんな細菌がいるのか」「どんな代謝酵素を持っているのか」がわかるようになったんです。

また、遺伝子だけでなく、腸の中の代謝物を網羅的に解析する「メタボローム解析」の技術も進み、例えば「ある腸内細菌由来の代謝物を体の中に取り込むとリウマチになりやすい」とか、いろんなことがわかってきました。じゃあ、それがわかったらどう治療すればいいかというと、腸内細菌を変えればいいということになるわけです。

健康な人からうんちをもらう「便移植」

瀧口:すごく基本的な質問をしてもいいですか。腸内細菌って、よく耳にする「善玉菌」とか「悪玉菌」などのことだと思うのですが、「いい代謝物を作るのが善玉菌、悪い代謝物を作るのが悪玉菌」という理解で合っていますか。

新藏:はい。ただ、科学的な決まりはまだないんです。「この病気になる人は、この細菌が増えている」とか「この病気になる人は、この細菌が作る代謝物が増えている」といったことが少しずつわかっているという段階です。

だから、「いい代謝物を飲もう」「悪い代謝物だけを腸から取り除こう」といったことをいろいろと試しています。あと、聞いたことがあるかもしれませんが「便移植」という方法もあります。健康な人のうんちをもらってきて、それを飲むとか。

瀧口:便を移植するということですか。

新藏:はい。その便の中にはきっといい腸内細菌がいるので、それをそのまま移植するという方法です。腸の中は限られたスペースで、限られた栄養しかないので、それぞれの菌が陣地を取り合っている状態です。ですから、自分のお腹の中にいい菌がいっぱい住んでいる人は、外から悪い病原菌が入ってきても、いい菌がやっつけてくれて病気にならない。

反対に悪い菌が多い人にいくらいい菌を入れても、排除されてしまいます。そこで、私はIgA抗体で悪い菌を減らして陣地を作って、その後にいい菌を補充するというアプローチを目指しています。

瀧口:IgA抗体は、悪い菌をやっつける抗体なんですね。

新藏:そうです。私たちのお腹の中には、100種類以上の腸内細菌がいます。それと同じように、リンパ球から作られるIgAも何百種類とあります。

例えば、有名な免疫療法薬の「オプジーボ」を3~5g作ろうとするだけでも、工場で300L~500Lのタンクに入れて培養しなければなりません。ですが、私たちのお腹の中では、成人であれば1日に3~5gのIgA抗体を毎日分泌していて、腸内細菌と戦ってくれています。私たちの腸は、それくらいすごい量の抗体を作る工場なんです。

そして、そのIgA抗体には悪い菌だけをやっつけてくれるものと、乳酸菌やビフィズス菌などのいい菌を「あなたたちは、ずっとお腹の中にいなさい」と指示を出しているものがあります。私は、お腹の調子を悪くする悪い菌だけを選択的に抑制するIgAを取ってきて薬にしようと思っています。

加藤真平(以下、加藤):腸内について研究している先生方は、IgA抗体はご存じなんですか。

合田圭介:名前は知っています。ただ、本当に膨大な種類があるので、1個1個の機能などはわかりません。

新藏:おっしゃる通りです。IgA抗体がいいというのはわかっています。ですが、例えば悪い菌の代表である大腸菌と相互作用させたときに、IgA抗体が大腸菌に何をしているのかがわからないんです。細胞表面に着くということはわかっているんですけど、くっついた後に何をするのかがわからない。

ただ、世の中にはIgA抗体がない人がいて、そういう人はやはり腸内細菌があまりいい状態にはなっていません。今の研究ではIgA抗体が非常に重要な働きをしているということしかわからないんです。

便を移植されると、性格が変わる

合田:新藏先生にお聞きしたいんですが、便移植した後に、その人の性格が変わったという報告があるんですが、本当なんですか。

新藏:どうなんだろう。「本当かな?」とは思います。でも、違う菌が入ると、その菌の作った代謝産物が神経系にも影響を及ぼすことは十分に考えられます。腸内細菌を変えることができたら、いろんな病気に効果があると思うので、私は健康長寿のために腸内細菌をIgA抗体でよくして病気の発症をなるべく減らしたいです。それが夢ですね。

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提供元:健康の人から「便を移植する」と体に何が起るのか|東洋経済オンライン

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