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2023.10.19

肥満の予防は「水を飲むといい」と言う科学的理由|最近の研究でわかってきた人体の仕組みとは?


肥満や糖尿病の予防に役立つ可能性を秘めた人体の仕組みとは?(写真:Graphs/PIXTA)

肥満や糖尿病の予防に役立つ可能性を秘めた人体の仕組みとは?(写真:Graphs/PIXTA)

人間の体には、いまだ解明されていない仕組みがたくさんあります。人体の謎を解き明かすことで、さまざまな体の問題に対して解決の糸口が見つかるかもしれません。例えば肥満や糖尿病は、現代に暮らすわれわれにとって無視できない悩みの種でしょう。数々の実験により明らかになった、肥満や糖尿病の予防・治療に役立つかもしれない人体の仕組みを紹介します。

※本稿は中尾篤典氏・毛内拡氏の新著『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』から一部抜粋・再構成したものです。

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糖尿病や肥満の予防には大量の水!?

さて、糖尿病や肥満を抑える魔法のような方法があるとしたらびっくりするでしょうか。

糖尿病の治療の基本は、糖分の摂取を控えることです。糖分といっても砂糖に限りません。ご飯、パン、めん、いもや果物にも多く含まれています。こうした食べ物の誘惑は至る所にあるため、現代社会では内臓に脂肪がつくメタボリックシンドロームや、肥満、糖尿病の予防は容易ではありません。

しかし、最近の研究で、水を飲んで脳から出るバゾプレッシンというホルモンを調整することが、糖尿病や肥満の予防・治療につながる可能性があることがわかりました。

モデルさんや女優さんが水を何リットルも飲んで体形を保つと聞いたことがありますが、彼女たちはこの働きを利用していたのです。

バゾプレッシンとは、抗利尿ホルモンとも呼ばれ、腎臓に働いて、本来尿で排泄される水を再吸収し、尿量を減らし体内の適度な水分量を維持する働きがあります。バゾプレッシンが分泌されないと、尿崩症といって薄い尿が限りなく出てしまい、脱水状態になってしまいます。

お酒に酔うと、トイレに何度も行って薄い尿が出る経験をお持ちでしょうが、あれはアルコールが脳に働いてバゾプレッシンの分泌が下がり、軽い尿崩症になっているという報告もあります。

バゾプレッシンのもう1つの作用

コロラド大学の研究チームは、マウスを使った実験で、砂糖水(果糖:フルクトース)を与えると脳のある部分が刺激されてバゾプレッシンが放出されるということを発見しました。

バゾプレッシンが出るならよいのではと考えてしまいますが、なんとこのバゾプレッシンは再吸収した体内の水分を脂肪として貯蔵し始めたのです。また、こうした作用はV1bというバゾプレッシン受容体を介して行われていることがわかりました。

バゾプレッシンは体内の水分を脂肪として貯蔵させる(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

バゾプレッシンは体内の水分を脂肪として貯蔵させる(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

以前から、肥満の人や糖尿病の患者の体内では、バゾプレッシンの値が高いことが知られていたのですが、遺伝的にV1bを持たないマウスで同じことを試してみると脂肪の蓄積が起こりませんでした。上記の結果から、肥満や糖尿病の病態にバゾプレッシンが深く関わっていることが明らかになったのです。

バゾプレッシンは、例えば砂漠に住むラクダなどの動物で活性化しており、コブに水を脂肪として蓄えるのにも、このホルモンが関わっているといわれています。

研究チームは、バゾプレッシンを出さないようにすれば、肥満や糖尿病の治療や予防になると考えました。つまり、体が水分を十分に維持できていればバゾプレッシンの助けを借りなくてもいいわけですので、そのためには単純に水を飲めばいいのです。

そこで研究チームは、マウスに水を十分に補給する水治療法を試してみたところ、メタボリックシンドロームから効果的にマウスを保護することができたのです。

この研究でわかったことは、砂糖、とくに果糖(果実やはちみつに多く含まれる糖)の摂取がバゾプレッシンを活性化させ、バゾプレッシンは体内の水分を貯蔵するために脂肪生成を促進させるということです。水分が再吸収されるため脱水状態は進み、その状態のバゾプレッシンをさらに活性化させます。

また、バゾプレッシンは血管を収縮させ、血圧を上げる作用もありますから、バゾプレッシンがどんどん出ている状態は、まさにメタボにまっしぐらな状態といえるでしょう。バゾプレッシンをブロックする最良の方法は水を飲むことである、と研究チームは結論づけています。

ここで得られた「渇きは肥満をつくる」という研究結果はマウスを使ったものですが、実際私たち人間でも同じことが起きる可能性は十分にあります。事実、スウェーデンで行われた31人の健康な成人で試したところ、他の食事は一切変えずに、飲み水だけを0.43リットルから1.35リットルに増加させるだけで血糖値が下がり、バゾプレッシンの値を反映する数値が減少することがわかりました。

このように、水分の十分な摂取はバゾプレッシンを抑制し、肥満やメタボリックシンドロームの予防と治療の両方に効果的である可能性が高いのです。

脂肪は減らし、消費カロリーは維持する

ダイエットをしたいと考えている人は数多くいると思いますが、失敗する人の多くは、減量のために必死に食事制限してもうまくいくのは最初だけで、すぐに体重が減らない停滞期が来て結局リバウンドしてしまいます。このリバウンドの原因は、体の防衛機能にあります。

現代の私たちの生活は飽食気味ですが、生物は歴史の中で飢餓に備えて体をやせさせないための機能を獲得してきました。

そのため、食事制限、すなわちカロリーを制限すると、体のほうはやせまいと防衛機能を働かせ消費するカロリーを減らしてしまうのです。せっかくカロリー制限してもダイエットの努力が相殺されてしまう停滞期とはこのような状況です。

摂取カロリーを制限したところで消費カロリーも減ってしまう(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

摂取カロリーを制限したところで消費カロリーも減ってしまう(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

この防衛機能は非常に強く、停滞期を突破してもその後も何度も発動します。そのため停滞期を抜けるにはその都度、さらなる食事制限の強化や運動の追加など新たな刺激を与えなければなりません。さらに食べる量を少しでも増やすと、体は即座に反応して、一気に脂肪を蓄えリバウンドしてしまうという最悪のサイクルに陥るのです。

最近、アメリカのミシガン大学の研究チームは、食事制限しても、体の消費カロリーが変化しない有機化合物「ツバスタチンA」を発見し、これにより、わずか数週間でマウスの体重を25%減少させることに成功しました。

30年前に発見された「夢のヤセ薬」の可能性

その研究の前に、今から30年ほど前にも「夢のヤセ薬」といわれた物質が発見された話をしましょう。

1994年、フリードマン博士は食欲と脂肪組織形成を制御するホルモン、レプチンを発見しました。レプチンが分泌されると食欲がなくなります。また、食事制限をすると体のほうはやせまいとして消費するカロリーを減らしてしまうと述べましたが、この消費カロリーのほうも減らなくなります。しかもレプチンが分泌されて減少するのは主に脂肪であり、筋肉量を維持したままの減量が可能になります。

フリードマン博士はその後レプチン受容体も発見しますが、このレプチン―レプチン受容体システムは、私たちが潜在的に持つ肥満を防止する機能であるといえます。

肥満およびそれに関連するメタボリックシンドロームは、現在世界的に最も重要な疾患の1つです。しかし、体重を制御する生物学的システムの詳細はほとんど知られていませんでした。

さまざまなダイエット法を試しては失敗することを繰り返していた人たちにとって、レプチン発見のニュースは朗報で、レプチンが発見された当初は「夢のヤセ薬」ができると期待されていました。

しかし残念なことに、レプチンにも限界があることが判明します。肥満患者の多くは、血中レプチン濃度が高いにもかかわらず、レプチンに対する反応がとぼしくなり、食欲が抑制されないのです。

肥満状態が続くとレプチンに対する反応が鈍り、食欲が抑制されにくくなる(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

肥満状態が続くとレプチンに対する反応が鈍り、食欲が抑制されにくくなる(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

つまり、食べすぎを続けて肥満状態になると、レプチンが分泌されても体が反応しなくなる「レプチンの鈍感化」が発生することがわかりました。レプチンに鈍感になると、外部からレプチンを取り入れても、太らない効果を発揮することができなくなります。

この状態を打破するには、レプチンに鈍感になった体に何らかの刺激を与え、再びレプチンに対する敏感さを取り戻す必要がありました。

レプチンの鈍感化を防ぐために

そこで、現代のツバスタチンAの話に戻ります。ミシガン大学の研究者たちは、「レプチンの鈍感化」を防ぐ方法を調べました。

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研究者たちはレプチンと相互作用する細胞内の酵素をリスト化。それらを阻害する薬をマウスにひとつずつ投与する地道な作業を繰り返し、ツバスタチンAを発見しました。これは私たちの身体のレプチンに対する敏感さを取り戻させ、体にもともと備わった肥満防止システムを再活性化させることができます。

ただ残念なことに、ツバスタチンAには無視できない毒性があり、すぐにでも夢のヤセ薬が即座に開発できるわけではなさそうです。研究者たちは今、ツバスタチンAの構造を参考にして、毒性を発揮せずにレプチンに対する敏感さを取り戻せる化合物を合成していくことを試みています。

食事制限や運動が理想的なことはいうまでもありませんが、なかなか食欲には勝てないものです。本来私たちに備わっている肥満を制御する能力を引き出してダイエットできれば、それはまさに夢の薬になるでしょう。

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提供元:肥満の予防は「水を飲むといい」と言う科学的理由|東洋経済オンライン

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