2023.10.11
認知症の名医が教える簡単10秒「脳」チェック|元気な脳にUターンできるグレーゾーンとは?
物忘れが激しくなってきたことが不安と感じている方に、簡単に認知機能をチェックできる方法をご紹介します(写真:C-geo/PIXTA)
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「えっと、ほら、あの俳優さん……、誰だっけ?」
「簡単な漢字なのに、どうしても思い出せない」
「あれ? また同じものを買ってきちゃった!」
60代、70代のご高齢の方はもちろん、早い人は40代、50代から感じ始める物忘れの不安。自分の脳に「あれ? 最近おかしいぞ」と感じたとき、簡単に認知機能をチェックできる方法があります。認知症治療の第一人者として知られる朝田隆先生の著作『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』より、10秒でできる「グレーゾーンチェックテスト」を一部抜粋してお届けいたします。
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認知症の前に必ず訪れる「グレーゾーン」とは?
「認知症グレーゾーン」という言葉を知っていますか?
正式な病名はMCI(軽度認知障害)。
日常生活に大きな支障はないものの、本人やご家族にとっては、「最近ちょっとおかしいなあ」と感じるさまざまな警告サインを発する状態です。
正常な脳と認知症の間に位置する、言うなればグレーゾーン。
認知症になる人は、その前段階として、必ずこのグレーゾーンの状態を通ります。
日本の認知症患者は500万人を超え、認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の人も450万人以上とみられています。
しかし、すべての人が、必ずグレーゾーンから認知症に移行するとは限りません。現状を維持する人もいれば、適切な対応をとることで認知機能の低下をゆるやかにし、認知症への移行を遅らせることもできます。
さらには、従来の報告によれば、4人に1人は健常な脳の状態にUターン(回復)できることが分かっているのです。
一方でそのまま認知症に進行してしまう人もいます。
つまり、ここが認知症の分かれ道。
認知症は、高血圧や糖尿病と同じように、長い時間をかけて認知機能が衰えていき、やがて発症する生活習慣病の1つです。
脳の病的変化は、認知症になる20年も前に始まる
「高齢になってから突然発症する病気」
「防ぎようがない」
と思われがちですが、実は、脳の病的変化は、認知症にいたる20年も前からが始まると言われています。
つまり、70代で認知症発症する人は50代から脳の変化が始まっています。
一方で、少し前までは、脳の神経細胞は成人後に増えることはないと考えられていましたが、現在は脳の神経細胞は年をとっても増えることが分かっています。
生活習慣病は、早期発見、早期対応が回復のカギとなります。
それは認知症でも同じこと。
しかし、現実はどうでしょうか?
認知症の患者は、最初に自分で「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、平均4年もかかっていることが、世界的権威のある医学誌『ランセット』で2021年に報告されました。
その間に、病状はどんどん進行してしまいます。
どうかその「ちょっとおかしい」という感覚を大切にしてください。
もしそれが認知症グレーゾーンのサインだとすれば、健常な脳にUターンして戻ってこられる、最後のチャンスかもしれないのです。
そこで、脳の状態を簡単にチェックできるセルフチェックを用意しました。
「チューリップ、キツネ、ハトの回転テスト」です。
3つ合わせて10秒程度の簡単なテストですが、脳の頭頂葉の働きをチェックすることができます。
頭頂葉は、空間認識や物の形や動きの認知をつかさどるため、この機能が衰えると、道に迷ったり、リモコンの操作ができなくなったり、服をうまく着られなくなったりします。
そして、とりわけ「回転させる」という動きが苦手になってきます。
ただし、このチェックには、ひとつだけルールがあります。
それは、必ずチューリップ、キツネ、ハトの順に試すこと。
実はこれ、簡単な順です。
頭頂葉の衰えを10秒でセルフチェックできる方法
私のクリニックでこの3つのテストを認知症グレーゾーンの方に試すと、半分ぐらいの方は、どこかのテストでつまずいてしまいます。
それでは、トライしてみましょう。
<チューリップ回転テストのやり方>
(1) 両手の親指と小指、手首をつけてチューリップを作ります。
(2) チューリップの形をキープしたまま両手を離します。
(3) 左右の手をお互い逆方向に回転させて、左手の親指と右手の小指、左手の小指と右手の親指を合わせます。手を回転させる方法はどちらでも構いません。
(画像:『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』)
どうですか?
うまく手を回転させられましたか?
それでは、次は「キツネの回転テスト」です。
<キツネ回転テストのやり方>
(1) 左右の手で影絵のキツネの形を作ります。
(2) キツネの手をキープしたまま、左手の人差し指と右手の小指、左手の小指と右手の人差し指をつけます。
(画像:『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』)
この時、どちらかのキツネが自分の方を向き、もう片方のキツネが外側を向いている「逆さギツネ」になっているはずです。
しかし、頭頂葉の機能が衰えてくると、手を回転できずに、キツネが両方とも自分の方、もしくは外側を向いてしまうことが非常に多いのです。
<ハトの回転テスト>
(1) 胸の前ぐらいの位置で、両手の手のひらを開いて外側に向けます。
(2) 両手のひらが自分の方を向くように回転させながら、両手を交差させます。
(3) 親指と親指引っかけて、ハトの形を作ります
(画像:『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』)
脳が健常な状態の人にはとても簡単に思えますが、このハトのテストも、認知機能が衰えてくると②の手のひらを返すことができなくなります。
ハトの形が作れたとしても、手のひらが外側を向いてしまっていることが非常に多いのです。
あなたは無事にクリアできたでしょうか。
もしあなたや、あなたの親御さん、ご家族が3つのテストのどこかでつまずいてしまった人は、認知症グレーゾーンの可能性があります。
ぜひ早期に、専門のクリニックを訪ねてみることをおすすめします。
それと同時に、「脳にいい生活」を心掛けましょう。
毎日のちょっとした習慣を変えることで、認知機能の衰えをゆるやかにし、さらには健常な脳へのUターン(回復)への道が開けます。
「チューリップ、キツネ、ハトのテスト」を問題なくできたという人は、ひとまず安心です。
ただ先述の通り、認知症が発症する20年も前から脳の病的変化が始まっています。
ぜひこれをきっかけに、生活習慣の見直しをすることをお勧めします。
脳を元気にする生活を取り入れて
難しいことはありません。
たとえば、恋愛ドラマを見てドキドキするだけでも脳内ホルモンが分泌され、脳が活性化しますし、「回想法」といって、昔を思い出して語り合うだけで認知機能にいい効果があるという報告もあります。
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もちろん、食事、運動、睡眠など、日々の生活習慣の中にもそのヒントはあります。
地中海沿岸に位置する国(イタリア、ギリシャ、スペインなど)の伝統的な食事である地中海食を取っている人は、そうでない人に比べて、認知症のリスクが最大23%低くなったという報告がされています。
また、筋肉が動くときに分泌されるマイオカインという物質の中には、脳の神経細胞を増やす働きをするものが存在するという研究が報告されています。
国立長寿医療研究センターの研究では、75歳以上の人で見ると、23時以降に寝る人は21時から23時の間に寝る人に比べて認知症になる確率が約2倍も高かったと言います。
認知症グレーゾーンであるか否かにかかわらず、「最近、ちょっとおかしいなあ」と感じている方は、ぜひ「脳を元気にする生活」を取り入れてみてはいかがでしょうか?
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提供元:認知症の名医が教える簡単10秒「脳」チェック|東洋経済オンライン