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2023.10.07

【便秘】腸運動が停滞「便意をガマン」が招く問題|要注意!常習的に「強くいきむ」と心血管に負荷


お通じがないと何となくイライラ……。そんなときどうしたらいいのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)

お通じがないと何となくイライラ……。そんなときどうしたらいいのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)

国民生活基礎調査(2019年)によると、便秘を感じている人は国内に約430万人いるといわれる。ひと口に便秘といっても、そのタイプはそれぞれ。便秘が肌荒れや口臭・体臭に関係する、大腸がんの原因になるといった気になる話もよく聞く。

便秘治療に詳しい鳥居内科クリニック院長の鳥居明医師に、便秘のタイプやその原因、治し方のほか、便秘にまつわる話題の真偽などについて聞いた。

便秘とは、「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」(『便通異常症診療ガイドライン2023』より)を指す。

日常生活に支障があるかどうか

「便通は、人によって回数も量もまちまちで、毎日出ないと気持ち悪いと感じる人もいれば、1~2日出なくても平気な人もいます。ですから、毎日、便が出ないからといって、かならずしも便秘とはいえません。見方を変えると、2~3日排便がなくても、スッキリと出て、不快な症状がなく、日常生活に支障がなければ便秘ではないです」と、鳥居医師。

重症の便秘では、腹痛や腹部膨満感などの症状が続くだけでなく、便が出ないことで不安が強まり、活動性や労働生産性も下がる。QOL(生活の質)が大きく低下するケースも少なくない。

「原因はさまざまなので、まずは自分の便秘のタイプを知ることが大事。それによって解消法や治療法が変わってきます」と鳥居医師は言う。

便秘にもいろいろなタイプがあるが、女性や高齢の男性(75歳以上)で多いのは、何らかの理由(理由については後述)で大腸の動きが低下して、便の通過時間が長くなる「大腸通過遅延型便秘」だという。

本来、大腸は、小腸から送られた食物のカス(残渣:ざんさ)から水分を吸収し、便にするという働きがある。そして大腸で作られた便は、蠕動(ぜんどう)運動によって肛門側に押し出される。この蠕動運動が鈍くなることで、便の停滞時間が長くなるのが、このタイプだ。

その理由について、鳥居医師はこう説明する。

「まず、ストレスです。『腸は第二の脳』と呼ばれるほど、脳と密接な関係にあります。腸と脳は自律神経によってつながっていて、脳がストレスを感じると腸の働きにも変化が起きる仕組みになっています。そのため、緊張やストレスなどで交感神経が優位になって自律神経のバランスが乱れると、大腸の働きが低下し、腸の蠕動運動も鈍って便秘が生じます」(鳥居医師)

10代~40代ぐらいの女性は、女性ホルモンも原因となっている。

「女性ホルモンの1つプロゲステロン(黄体ホルモン)は、排卵から月経までの期間や妊娠期に分泌が盛んになりますが、腸の働きを抑える働きがあります。そのため、便秘が起こりやすくなるのです」(鳥居医師)

また、これは大腸遅延型ではないが、ダイエットなどで食事の量を減らすと、そもそもの便の量が少なくなる。結果、排便回数が減って便秘になることも、若い女性では多い。

高齢の男性の場合は、加齢が大きく影響する。

まず、大腸の蠕動運動が加齢の影響で起こりにくくなる。そして、便を押し出すときに使うのが腹圧だが、その腹圧をかける筋肉も減ってくるため、便を排出しにくくなる(このほかに、持病の治療のために飲んでいる薬の影響で便秘になることもある)。

便意を感じる力が弱まることも

一方、忙しさなどで、便意を感じたときにトイレに行かないことを繰り返していると、便意を感じる力が弱まっていくこともある。これが「排便困難型便秘」だ。

便が大腸に残ることで水分の吸収が進み、便が硬くなる。その結果、強くいきまないと出なくなり、排便に時間がかかるようになる。

女性のなかには、「恥ずかしいから」といった理由で、会社や旅先のトイレで排便できない人もいる。そういう人もこのタイプの便秘になりやすいので、要注意だ。

医師は「適度な運動は便秘薬に匹敵する」と話す(写真:編集部撮影)

医師は「適度な運動は便秘薬に匹敵する」と話す(写真:編集部撮影)

ストレスが過剰にかかっている人に心配される便秘が、過敏性腸症候群便秘型(以下、IBS便秘型)だ。腸と脳には密接な関係があるため、脳が強い不安やストレスを受けると、そのストレスが信号となって腸に伝わって、腸の動きが悪くなり、便秘が生じる。このタイプでは体質的に腸が過敏であることが多いため、強い腹痛を伴いやすい。お腹が痛くても便が出にくく、つらい思いをする人が多い。

このIBS便秘型の人の中には、腹痛が原因で排便中に「迷走神経反射」が起こり、倒れてしまうケースもあるという。迷走神経反射とは、ストレスや強い痛みが加わったときに、脳神経の1つである迷走神経が刺激され、一時的に心拍数や血圧が下がる状態をいう。

「IBS便秘型の腹痛は、若い人ほど強く出る傾向があります。重症の場合は腸閉塞と同じくらい苦しく、あまりのつらさに指で肛門から便をかき出す人もいるほどです。便秘による迷走神経反射とそれに伴う致死的不整脈で亡くなるケースもあります。たかが便秘と侮れません」(鳥居医師)

なお、便秘のなかには、まれに病気が裏に隠れている場合もある。大腸がんや甲状腺機能低下症、パーキンソン病、糖尿病のほか、レビー小体型をはじめとする認知症でも初期には便秘症状が見られるという。

薬による便秘もある。抗うつ薬やオピオイド鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、咳止め薬などで起こりやすい。

便秘で肌荒れ、大腸がんになる?

ところで、便秘にはいろいろな“ウワサ”がある。それについても鳥居医師に聞いた。

まずは「大腸がんになるのではないか」というもの。これについてはどうだろうか。

「便秘の人は大腸がんになりやすい、という因果関係の証明はされていません」と鳥居医師。ちょっと安心だが、別の病気とは関係はあるという。

「問題になるとしたら、循環器系の疾患や腎機能障害です。とくに、慢性的に4日以上便が出ない人は、排便時にいきむことが多い。日ごろから循環器系に負担をかけているので、循環器系の疾患にかかる割合が高まるようです。そして、歳をとれば誰でも腎臓の機能は落ちますが、慢性的な便秘によって腎機能障害が発症するケースも少なくありません」(鳥居医師)

便秘を原因として「肌荒れが生じる」「体に毒素がまわる」「口臭や体臭がキツくなる」「太る」という、ちまたのウワサも気になる。

「便秘で肌が荒れたり、体に毒素がまわったり、口臭や体臭が強くなったり、太ったりといったことはまずありません。あるとしたら、むしろ“便秘を引き起こすような偏った食生活や運動不足”がそうした症状を引き起こしているのではないかと思います」(鳥居医師)

便秘を何とかしたいと思っていても、どこで診てもらえばいいかわからないという人もいるだろう。鳥居医師がすすめる診療科は「消化器内科」だという。昨今は便秘治療に特化した「便秘外来」を設置している医療機関もある。

「便秘はどう困っているかによって対応が異なります。病院選びでは、患者さんの訴えをていねいに聞いてくれる医師のいるところがいいでしょう」(鳥居医師)

病院に行く前に、まずは市販の便秘薬を試してみたいという場合はどうだろうか。たくさんの便秘薬が発売されているが、選び方のコツや注意点を聞いた。

便秘薬には大きく分けて、水分量を増やし、便を軟らかくする非刺激性の薬(酸化マグネシウムなど)と、腸を刺激して動きを活発にする刺激性の薬(センナなど)がある。

「刺激性の薬を常用していると、徐々に効きにくくなって、使用量が増えてしまうことがある。できるだけ日常的には非刺激性の薬を使い、刺激性の薬はそれでも出ないときに一時的に使うようにしましょう」(鳥居医師)

新薬が続々登場し治療も個別化

しばらく市販薬を試しても便秘が改善しない場合や、便秘によって日常生活に支障がある場合は「迷わず、病院を受診してほしい」と鳥居医師。

「近年は便秘治療の新薬が続々登場し、それぞれの症状に合わせたオーダーメイド治療が可能になっています」(鳥居医師)

たとえば、「ルビプロストン(アミティーザ)」は便を軟らかくして排便を促す作用がある新薬だ。「リナクロチド(リンゼス)」はIBS便秘型にも効果があり、便を軟らかくすると同時に、腸の知覚過敏による腹痛も和らげる。「エロビキシバット(グーフィス)」は便を軟らかくする働きと腸の動きを良くする作用で、自然な排便を促す。

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漢方薬も有効だという。

代表的なものには、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)や潤腸湯(じゅんちょうとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)などがある。症状の違いに応じて選択されるが、潤腸湯は高齢者や体がやや弱っている人の便秘によく使われる。大建中湯はお腹の張りにおだやかによく効き、即効性もあるため、ほかの便秘薬と併用してよく使用されるという。

「便秘の原因をよく理解して、生活習慣を改善することも重要です。食物繊維が豊富な食材と適度な油分を摂り、こまめな水分摂取、適度な運動、ストレスの軽減も大切。生活改善に加えて、医師のもとで適切な薬をうまく使いこなすのが便秘解消のコツです」(鳥居医師)

(取材・文/石川美香子)

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鳥居内科クリニック院長
鳥居 明医師

医学博士。内科・消化器科・アレルギー科鳥居内科クリニック院長。日本内科学会認定医・日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医・日本医師会認定産業医・日本医師会認定健康スポーツ医。東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学院博士課程修了。神奈川県立厚木病院医長、東京慈恵会医科大学附属病院診療医長、東京慈恵会医科大学助教授を経て、鳥居内科クリニックを開設。現在、東京都医師会理事。
主な監修書に『図解よくわかる 過敏性腸症候群で悩まない本』(日東書院本社)。

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提供元:【便秘】腸運動が停滞「便意をガマン」が招く問題|東洋経済オンライン

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