2023.10.03
「1人を楽しめる人」は認知症が進まない深い理由|65歳以降の夫婦関係は「つかず離れず」が理想
65歳以降になったら夫婦関係を見直し、1人暮らしを経験するのも大切です(写真:ほんかお/PIXTA)
65歳以下の人がうつ病になる割合はおよそ3%。それが定年を迎える65歳以降になると5%に急増するといわれています。老後への不安やストレス、加齢とともに幸せホルモン・セロトニンが分泌されにくくなること、感情をコントロールする前頭葉が萎縮することなどがその原因です。
しかし人生100年時代では、65歳はまだ後半が始まったばかり。いわば人生の黄金期です。
ベストセラー『80歳の壁』の和田秀樹さんが、不安やストレスのもとを消し去り、心を若く機嫌よく保つことで、うつや認知症を寄せつけないための《50の「気づき」》を提言する新刊『65歳から始める 和田式 心の若がえり』より、一部を紹介します。
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夫婦の関係を一度リセットする
◎ストレスを抱えながら付き合い続けるのは人生のムダ
うつ病など心の病の原因は、およそ4割が対人関係にあるとされています。老人性うつを防ぐ、あるいは改善していくには、対人関係を見直していく必要があります。そういう意味で、現役をリタイアしたあとは、わずらわしい人間関係を解消するのに、最適な時期です。
ところが、定年退職したのちも、現役時代の人間関係を変えられない人がいます。
上司と部下の関係は、会社を離れればもう終わりです。それなのに、元上司に気を遣うようなことを今も続けていませんか。こちらが元部下という態度を続けていると、相手は永遠に「元上司」という態度でやってきます。これは相当なストレスです。
ですから、ストレスを感じる人とは、ダラダラと付き合い続けないようにしましょう。「この人とはもう十分」と思ったら縁を切れるのも、自由に生きられる65歳以上の特権。一緒にいると居心地よく、楽しい人との付き合いを大事にしたほうがよいです。
もう1つ、65歳以降になったら見直したほうがよいのが、「夫婦関係」です。
理解する必要があるのは、男女の体の仕組みです。男性は加齢とともに男性ホルモンの分泌が減り、活動意欲も停滞します。一方、女性は閉経後から男性ホルモンの分泌が増えて、活動意欲も社交性も高まっていきます。
ところが、現在の高年世代の男性は、家事をあまりせず、妻任せにしている人が目立ちます。妻は社交性が増していてどんどん外に出て行きたいのに、「家のこともせずに、出かけてばかりいる」と夫に恨みごとをいわれ続ければ、「いい加減、別の人生を歩みたい」と思うようになって当然です。
人生100年時代といわれる現代です。「残りの人生も、この人の面倒を見ながら生きていくのか」と思えば、「離婚」の2文字が頭に浮かびます。しかし、リタイア後は妻とゆっくり過ごそうと思っていた夫は、「裏切られた」との思いに陥るでしょう。
ガマンの毎日は人生の無駄遣い
お互いを理解し合えていない状態で夫婦関係を続けても、幸せな晩年が過ごせるでしょうか。家という場所が、ストレスの原因になったときの精神的負担は計り知れません。何より、我慢しながら毎日を過ごすのは、人生のムダ遣いです。
◎「つかず離れず婚」が心を健康にする
熟年離婚や卒婚は、よく考えてみると、起こるべくして起こる現象といえます。
そもそも一夫一妻制は、人間の自然な本能に沿った制度ではなく、人類が社会化するにつれて、さまざまなルールとともに生まれた制度です。子孫を残し、子育てをしていくという本能を、高度化した人間社会に定着させるために、一夫一妻制が合理的であっただけのことです。
それも人生50年の時代であれば、問題は起こりませんでした。しかし、寿命が大幅に延びたうえに、価値観が多様化した現在、人生100年を添い遂げるべきとする従来の婚姻制度には、明らかに無理があります。
それならば、子育てが終わってからの夫婦関係は、もっと自由でよいのではないでしょうか。
現役をリタイアする65歳からは、夫婦関係を一度リセットするよい機会です。お互いに精神的に自立し、第二の人生を歩んでいく関係性を新たに築いていくチャンスです。どちらかが介護の必要な体になってからでは、リセットは難しくなります。
離婚の道を選ぶにしても、憎み合って別れるのでないのならば、ときどき会って食事をするといった、よき友人のような関係を築き直すこともできます。
夫婦関係を続ける場合には家事の分担はもちろんのこと、お互いに相手を束縛することなく自由に生きていくことが、心の健康にとって大切です。
それぞれ好きなものを食べ、好きなところへ出かけ、好きな仲間と交際し、ときには一緒に外食を楽しむ――。そんな「つかず離れず婚」こそが、65歳以降のよき夫婦のあり方ではないでしょうか。
◎一人暮らしは認知症を予防する最高の方法
人生を楽しむうえで、高年者の思考を邪魔するのが、「孤独」への恐れです。高年になると、「一人ぼっちにはなりたくない」「孤独死したらどうしよう」という発想が強くなります。これも予期不安が起こす恐れです。
現在、一人暮らしの65歳以上の高年者は、日本では670万人を超えています(少年、青年、中年を経て緩やかに移行していった先にあるという意味で、ここでは65歳以上の人々を高齢者ではなく「高年者」と呼びます)。単身の高年者が大きな事件・事故などを起こすと、高年者の孤立や孤独の問題がメディアで大きく取り上げられます。しかし、実際には、独居の高年者全員が孤独感に苛まれているわけではありません。
一人暮らしで誰にも看取られず、何日も経ってから発見される、という「孤独死」を恐れる人も多いでしょう。しかし、よくよく考えてみれば、数日経ってから発見されるということは、死ぬ直前まで元気だった可能性が高いわけです。
今は、要介護認定を受けた高年者であれば、ほぼ例外なく、なんらかの福祉サービスとつながっています。日常的な支援が行われているので、体調が悪ければすぐに病院に連れて行かれて、孤独死はなかなかできないのです。
孤独死したということは、自殺などのケースを除き、理想の生き方とされる「ピンピンコロリ」が実現できたということ。直前まで寝たきりにもならず、元気に生き、眠るように最期を迎えるという、なかなかできない死に方ができたわけです。
一人暮らしの人ほど認知症は進まない
皆さんは「認知症になりたくない」とおっしゃいますが、一人暮らしは認知症予防の最高の方法です。私は、一人暮らしを続けている認知症の患者さんもおおぜい診ていますが、独居の人ほど、認知症の症状は進みにくいと思っています。
一人暮らしをしていれば、日々の生活で頭をフル回転させながら過ごすことになります。必要に迫られて買い物に行って、毎日、料理を作り、食事をして、皿を洗う。ゴミを出しに行き、洗濯をし、掃除をする。このように、家の中にはやることがたくさんあります。そのすべてが、心身、そして脳によい刺激を与えてくれます。
◎孤独の楽しみ方を少しずつ覚えよう
「認知症になると1人で生活できなくなるのでは」と思う人も多いのですが、不思議なことに、認知症になると、生きるための防御反応が高まります。そのため、「自分で買い物に行って、食事を作らなければ死ぬ」と脳がよく認識しているのか、意欲がなくても買い物には行くし、おなかが空いたら料理を作ります。
「計算ができなくなるから、買い物もできなくなるだろう」と不安になる人もいますが、これもいらぬ心配です。認知症になると、自分の身を守るために、より安全に振る舞おうとする傾向が強くなるからです。
計算が間違っていたら恥ずかしいし、店員からとがめられるのも怖いため、お店ではとりあえず、お札を出すようになります。なんでもお札で買い物するようになるので、財布が小銭だらけになります。それでも、上手に買い物をしている証です。
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私は、一人暮らしを無理にお勧めしているわけではありません。家族と一緒にいることが幸せな人もいれば、1人が好きな人もいます。配偶者と死別して1人になる人もいます。「みんな違って、みんないい」のです。
ただし、老人ホームなどへの入居を決めない限り、高年になれば子どもは巣立ち、親や配偶者と死別し、独居になる可能性は高まります。
孤独への不安感が強い人は、孤独の楽しみ方を少しずつ覚えておくとよいのではないでしょうか。予期不安にかられてビクビクするくらいなら、予行演習しておきましょう。
一人旅をする、ウィークリーマンションで1週間暮らしてみるなど、不安に思っていることが、実際にどの程度のものかを体験してみると、「1人でもけっこう楽しめるし、大したことはないな」とわかるはずです。
実践こそが予期不安を解消し、心の余裕を増やす最良の方法といえます。
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提供元:「1人を楽しめる人」は認知症が進まない深い理由|東洋経済オンライン