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2023.09.01

精神科10年通院うつ病患者を治した"意外な治療"|高血圧や気管支喘息の原因は「無呼吸症」かも?


さまざまな体調不良や症状の原因は、睡眠時無呼吸候群かもしれない。とくに注意が必要な人へ、現在の治療法を紹介します(写真:yokaew/PIXTA)

さまざまな体調不良や症状の原因は、睡眠時無呼吸候群かもしれない。とくに注意が必要な人へ、現在の治療法を紹介します(写真:yokaew/PIXTA)

寝苦しい夜が続いている。夜中に目が覚める方も少なくないだろう。ただ、それは熱帯夜のせいではなく、睡眠時無呼吸候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS)のせいかもしれない。そして、それこそがさまざまな体調不良の諸悪の根源であることに、気づいていない人が多すぎるようだ。

SASの治療で「10年来のうつ」が改善

SASは、夜間の就寝中に呼吸が何度も止まったり浅くなったりして、眠りが浅くなる結果、体調不良を引き起こすものだ。日中の眠気や疲れやすさ、頭痛などに加え、うつ症状、高血圧、糖尿病など、症状はさまざまだ。

睡眠時間は足りているはずなのに、実際は質や量が不十分なために起きる。

ところが、医師がSASに詳しくないために、適切な診断と治療の機会を得られないケースが多発しているようだ。

私が最近担当した高血圧の患者さんも、「うつ病」との診断を受け、総合病院の精神科で10年以上治療を受けていた。

ナビタスクリニックではまず、高血圧の初期スクリーニング、つまりほかの病気によって血圧が上がっている「二次性高血圧」と、とくに原因の特定できない「本態性高血圧」を鑑別するため、検査の一環でSASの有無をチェックした。

その結果、重症のSASが見つかった。説明のうえで、いわゆるCPAP(シーパップ、Continuous Positive Airway Pressure、持続気道陽圧換気)治療を開始した。

すると翌月、さっそく患者さんから「すこぶる体調がよくなった」との報告を受けたのだ。抗うつ薬を飲まなくても気分がよくなったという。それでも一応、精神科の主治医と相談のうえで最低量の抗うつ薬を、さらに半分にして継続しておく方針となった。

私は、患者さんのQOLを大きく向上できた喜びとともに、10年以上にわたるご本人の苦しみを思うとなんだか申し訳なく、複雑だった。高血圧がなければ出会わなかった患者さんだ。そういう“うつ”患者さんはきっと世の中にゴマンといることだろう。

低酸素が「心血管病」、口呼吸が「喘息発作」を引き起こす

うつだけではない。最新研究でも、SASだと就寝中の低酸素と呼吸の乱れが、心血管病のリスク因子になると報告されている。要するに、ずっと息こらえをしているような状態なのだ。交感神経が緊張し、血圧や血糖値が高くなり、血管の老化も早まる。長期的には認知症のリスクも上昇するので、まるでいいことがない。

最新研究 ※外部サイトに遷移します

また、「私は気管支が弱い」「私は喉が弱い」などと感じている方も一度、SASを疑ってみるといいだろう。

とくに、「気管支喘息」できちんと治療を受けているのに安定しない人は、SASの検査をお勧めしたい。

喘息とSASが関連することは、すでに数々の報告で明らかにされている。

数々の報告 ※外部サイトに遷移します

鼻は、空気中のチリなどのフィルター機能と、温度や湿度の調節機能を兼ね備えている。だが、SASの人は寝ている間、「口呼吸」になっていることが多い。口呼吸では鼻を通さず空気を吸うので、気管支の粘膜が乾燥し、アレルギーの原因物質が付着したり、低温刺激をうけたりして、炎症が起きる。

喘息に対しては基本、副腎皮質ステロイドと気管支拡張薬の合剤を吸入して、発作を起こさないようにする治療が行われる。そうした治療を受けていても喘鳴(気道が狭くなり呼吸時にヒューヒュー音がする)があり、夜中にたびたび咳き込むようなコントロール不良の方は、SASの検査を受けてみるといいだろう。

SAS治療を開始したら喘息の症状が非常に安定した、という方は多い。

「喉の風邪」「いびき」「肥満」の人も要注意

また、口呼吸だと、喉が乾燥して痛くなりやすい。大人なのに1〜2カ月おきに風邪で受診する人がいるが、喉が乾燥して、異物を排除する粘膜の「せん毛」の働きが落ち、感染しやすくなるためだ。CPAP治療を始めたところ、ほとんど風邪をひかなくなった、というケースにもしばしば遭遇する。口呼吸の悪影響はそれほど大きい。

口呼吸なら、口が渇いて気づきそうなものだが、患者さんの多くは「いいえ、朝起きた時も口の中は乾いていないので、私は口呼吸になっていないと思います」と言う。

わからないのも致し方ない。睡眠はざっくり、体は寝ているが脳が起きているレム睡眠と、体も脳も寝ているノンレム睡眠に分けられる。ノンレム睡眠のときは、舌がノドに落ち込み、無呼吸が生じやすい。覚醒するまでには体が起き始め、筋肉の緊張が戻り、舌の垂れ込みも改善し、口を閉じて鼻で呼吸できるようになる。起きたときにはもう口を閉じているから、渇きを実感しないのだ。

ここまで読んでもまだ、ひとごとくらいに思われているかもしれない。要するに、「自分はSASだ」と自分で気づくことは難しい。

だったら「いびき」はどうだろう? いびきの原因は舌の付け根の落ち込みなので、大きないびきはSASのサインでもある。CPAP治療をするといびきが小さくなるので、寝室を同じくする家族等には大いに喜ばれる。

また肥満気味の人も無関係ではない。SASでは慢性的な睡眠不足状態となり、睡眠不足だと食欲抑制ホルモンの分泌が低下するため、太りやすいからだ。

SASを治療すれば、日中の眠気や頭痛、肩こりなどが改善し、仕事の能率が上がるばかりか、やせやすくなるなど美容上のメリットもある。

●このような症状があれば、SASを疑おう

寝ている間

・いびきをかく(ただし、いびきの少ないSASの方もいる)
・いびきが止まり、大きな呼吸とともに再びいびきをかき始める
・呼吸が止まる
・呼吸が乱れる、息苦しさを感じる
・むせる
・何度も目が覚める(お手洗いに起きる)
・寝汗をかく

朝起きたとき

・口の渇きやノドの痛み
・頭痛がする
・疲れがとれておらず、熟睡感がない
・すっきり起きられない
・身体が重い

日中起きているとき

・やたらと眠い
・だるい
・集中力が続かない
・いつも疲れている

何科を受診? 気になる費用は?

さっそく自分がSASでないか調べてみたい、治療したい、という人は、睡眠医学の専門家や、知識のある内科や耳鼻科の医師を受診しよう。医療機関のホームページなどで、SASの診断やCPAP治療を行っているか調べるといい。

SASの検査には、簡易検査と精密検査(Polysomnography、PSG)の2種類がある。健康保険を使って3割負担だと、自己負担額は簡易検査が2160円、精密検査は1万1250円だ。

10秒以上呼吸できていない状態を無呼吸、呼吸が浅くなっている場合を低呼吸と呼び、1時間当たりの無呼吸や低呼吸の回数(Apnea Hypopnea Index、AHI)によってSASの重症度を診断する。

簡易検査でAHIが40以上あれば、CPAP治療を開始する目安となる。40を超えないもののSASが強く疑われる場合は、さらにPSGを行う。PSGではAHI20以上が治療開始の基準だ。先のうつ症状の患者さんは、PSGでのAHIが60超で、重症の基準である30以上を大きく上回っていた。

医師が検査をオーダーすると検査機器が家に送られてくるので、自ら装着して検査し、返送する。検査機器といっても大仰なものではなく、誰でも説明書に従って装着し、検査を実施することが可能だ。後日、解析された結果が医療機関に届く仕組みだ。ナビタスクリニックでも在宅検査サービスを利用しているので、速やかに検査し、治療を開始できる。

精密検査であるPSGは、以前は病院への検査入院が必要で、長い検査待ちが生じていた。今では、どちらの検査も自宅で行えるようになっており、とても便利になった。

CPAP治療では、鼻や口にマスクを装着したまま就寝する。眠っている間も気道の中につねに圧力をかけておくことで、舌が垂れ込んで気道が閉じてしまうのを防ぎ、無呼吸を防ぐ。圧力がかかっていて苦しくないか?とはよくいただく質問だが、いまの機械は優れており、息を吐くときには、すこし圧が下がって呼吸しやすくなっており、不快感は極めて少ない。

機械は医療機関を通じてリースする形となり、リース料は外来での診察代に含まれているので、医療費のほかに特別な費用がかかることはない。治療代は3割負担で4050円となり、そのほかに再診料がかかる。最新のCPAP治療機器はモデムが内蔵されていて、医師が治療データを遠隔モニタリング可能だ。

基本的には毎月通院して治療状況の確認を受けるが、通院が難しい場合は、3カ月分までは健康保険の支払い対象となる。また、忙しい人はぜひ、オンライン診療で対応している医療機関を選ぼう。足を運ぶ頻度が大幅に減らせて、継続しやすくなる。

まだまだ埋もれているSAS患者

SASについて、世間の認知が上がったとはいえ、正しく診断されていない方が多い。日本呼吸器学会によると、SASは成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられ、男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加する。ほかの推計では、日本にはSAS患者が940万人いるが、CPAP治療を受けているのは65万人に過ぎない。つまり、ほとんどのSAS患者は正しい診断や治療を受けていないことになる。

日本呼吸器学会 ※外部サイトに遷移します

ほかの推計 ※外部サイトに遷移します

原因の1つには、医師がSASやCPAP治療について知識がないことが要因だ。医師が初期研修や後期研修でSASの診断や治療を手掛けている医療機関で研修しないと、見たことがないからわからない、ということになる。高血圧の治療を受けているけどSASの検査を受けたことがない方はもちろん、鼻炎や喘息の治療を受けているけどよくならない、などの方も検査を受けたほうがいいだろう。SAS検査や治療を手掛けている医療機関を集めたサイト(睡眠時無呼吸なおそう.com、無呼吸ラボ)もあるので参考にしてほしい。

睡眠時無呼吸なおそう.com ※外部サイトに遷移します

無呼吸ラボ ※外部サイトに遷移します

記事画像

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提供元:精神科10年通院うつ病患者を治した"意外な治療"|東洋経済オンライン

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