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2023.08.23

【蜂刺され】アナフィラキシー死から身を守る術|アウトドアでは注意「刺されないポイント」3つ


蜂刺されによるアナフィラキシーショックに気をつけたい(写真:minianne/PIXTA)

蜂刺されによるアナフィラキシーショックに気をつけたい(写真:minianne/PIXTA)

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夏休みも本番。山登りやキャンプを計画している人もいるのではないだろうか。だがそこで気をつけたいことの1つが蜂刺されだ。野山にいるスズメバチやアシナガバチに刺されたことで、アナフィラキシーという急性のアレルギー反応が起こり、急激な血圧低下などで死に至ることもある。
そもそも、なぜ蜂に刺されると、アナフィラキシーが起こるのか、国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏医師に話を聞いた。

夏から秋ごろにかけて、よくニュースで報じられるのが、蜂刺されによるアナフィラキシーショックだ。

アナフィラキシーショックとは?

アナフィラキシーとは突然、じんましんなどの皮膚症状、くしゃみや息苦しさといった呼吸器の症状、嘔吐や腹痛など消化器の症状が、複数かつ同時に起こる状態をいう。なかでも血圧が低下し、意識を失うなど生命の危機につながるような状態を「アナフィラキシーショック」と呼ぶ。

蜂の毒にはアレルギー反応を起こすアレルゲンが含まれている。

そのため、蜂に刺されて蜂毒が血液中に入ると、アレルゲンを無毒化するために「IgE(アイジーイー)抗体」と呼ばれる、免疫グロブリン(タンパク質の一種)が作り出される。このIgE抗体は刺された直後ではなく、できるまで4~5週間くらいかかるという。

そして、2回目以降に蜂に刺されて再び蜂毒(アレルゲン)が体内に入ると、IgE抗体がマスト細胞(肥満細胞)にくっつき、細胞内にあるヒスタミンやセロトニンなどの生理活性物質(生体内のさまざまな生理活動を調節したり、影響を与えたりする)が一気に放出される。その結果、冒頭で挙げたような全身症状が引き起こされる。

2回目以降の蜂刺されは、特に気をつけたほうがよいというのは、こうした理由からだ。

「抗体ができる前に刺された場合は、刺された時期によって症状が出る場合もあります。また、最初に蜂に刺されたときと、2回目以降で刺されたときの、間隔が空いていたとしてもアナフィラキシーは起こります。1回刺されると、記憶として細胞に残っているためで、ある程度間が空いていたとしても、リスクがあることには変わりありません」と海老澤医師は話す。

刺されると危険な蜂の種類は

このほか、蜂刺されとアナフィラキシーの関連について、海老澤医師に聞いた。

■刺された蜂によって、危険性は異なるのか?

1度目はスズメバチで、2度目はアシナガバチ(あるいはその逆)に刺されたとしても、アナフィラキシーは起こる。これは、アシナガバチとスズメバチにはアンチゲン5など、共通する成分があるためだ。またミツバチは、スズメバチやアシナガバチと比べると、アナフィラキシーのリスクは低いものの、ゼロとはいえない。

■蜂刺されのアナフィラキシーは、食物や薬物などほかの原因によるものと違いがあるのか?

アナフィラキシーの原因には蜂刺され以外にも、食物や薬物によるものなどがある。最近では、新型コロナウイルスのワクチンで起こるアナフィラキシーで、この名前を知った人も多いのではないだろうか。

蜂刺されによるアナフィラキシーは他の原因と比較して重症化しやすく、発症するまでの時間も短いことがわかっている。海外の研究によると、心停止まで食物は平均30分、毒(昆虫によるもの)は15分、薬物は5分とされている。

一般社団法人日本アレルギー学会の『アナフィラキシーガイドライン2022』では、2020年にアナフィラキシーショックで亡くなった人のうち、詳細不明を除いて、最も多い割合を占めるのが蜂刺されだった。

2020年は蜂刺されによる死亡が最多(『アナフィラキシーガイドライン2022』より)

2020年は蜂刺されによる死亡が最多(『アナフィラキシーガイドライン2022』より)

■蜂刺されで、注意が必要な職業は?

蜂刺されによるアナフィラキシーで特にリスクが高いのが、山中などで仕事を営む人たちだ。

「林業に携わっている人、電気工事や、ゴルフ場で働いている人は注意が必要です。年齢はどちらかというと高齢者が多く、男性が圧倒的に多いです。職業環境が理由でアレルギー疾患が生じることを、『職業性アレルギー』と呼んでいます」(海老澤医師)

上記の職業以外でも、山中でのBBQやハイキングでは蜂に遭う可能性があるため、十分に気をつけたほうがよい。

■蜂以外で注意しなければいけないのは?

虫刺されによるアナフィラキシーは、アリやムカデでも起こりえる。ただし、アナフィラキシーを引き起こすアレルゲンを持つアリやムカデは、海外から輸送されるコンテナの中から見つかる程度で、日本に上陸していないケースも多い。こちらについては、あまり心配はいらないようだ。

蜂に刺されたらどうする?

では、実際に蜂に刺された場合は、どのように対処するとよいのか。1度目と2度目以降で紹介しよう。

初めて蜂に刺されると、刺された箇所に激しい痛みが出て、赤く腫れる。

針が残っている場合は、ピンセットで針を抜く。そして、すばやく手で傷口から蜂毒を絞り出し、よく洗い出す。その後、もし持っていればドラッグストアや薬局などで市販されている虫刺されの薬(抗ヒスタミン軟膏やステロイド軟膏)を塗って、保冷剤などで冷やす。

局所の腫れがひどいなど、刺された部位にとどまらない、なにかしらの症状がある場合には医療機関でも診てもらったほうがよいだろう。

また、刺された患部から離れた場所に症状が出たり、全身に症状が出たりする場合は、すぐに医療期間を受診したい。これは、蜂毒が全身に及ぶことで、アナフィラキシーのような症状が出ることもあるためだ。

「蜂毒には、ヒスタミンや、セロトニンなどの激しい痛みを起こすもの、ホスホリパーゼA1といった血液低下を引き起こす成分もあります。なかでもスズメバチとアシナガバチは、危険性の高いさまざまな毒を持っているので、注意が必要です」(海老澤医師)

刺された後、症状が治ったからといって安心はできない。先にも述べたようにIgE抗体が体の中に作られているからだ。

「そのリスクを診るためにも、1カ月後を目安に、アレルギー専門医に血液検査で調べてもらうといいでしょう」(海老澤医師)

検査を希望する場合は、アレルギー専門医に診てもらったほうがよい。アレルギー専門医の資格を持っていれば、皮膚科医に限らなくても大丈夫だという。

2度目以降は、じんましんや腹痛、息苦しさなどのアナフィラキシーや、血圧低下などのアナフィラキシーショックが起きる可能性が高まる。

2度目に刺されたら、すぐに救急隊員を呼ぶ。救急車がくるまで、患者を仰向けに横たわらせる。呼吸困難や嘔吐がある場合は、楽な体位にする。下肢(脚部)を挙上させる。突然立ち上がったり、座ったりすると、数秒で急変することがある。

アナフィラキシーは、ショック状態になれば命にもかかわる。

それを予防するために、1度蜂刺されに遭った場合は、エピペンを処方してもらうことが重要だ。エピペンとは、医師の治療を受けるまでの間、アナフィラキシーの症状を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤(アドレナリン自己注射薬)のことをいう。

エピペン注射液。黄色が0.3mg、緑色が0.15mg(写真:ヴィアトリス製薬株式会社提供)

エピペン注射液。黄色が0.3mg、緑色が0.15mg(写真:ヴィアトリス製薬株式会社提供)

食物アレルギーなどによるアナフィラキシーでも使われている。

2011年9月から保険適用され、3割負担だ。自己注射のため、使い方がわからないといざというときに使えない。そこで、処方の際には医師や看護師から使い方について説明を受けることになっている。またエピペンガイドブックにも、使用方法が載っているため参照してほしい。

エピペンの自己注射の様子(写真:ヴィアトリス製薬株式会社提供)

エピペンの自己注射の様子(写真:ヴィアトリス製薬株式会社提供)

なお、エピペンは、登録された医師しか処方できないので、処方してもらう際はウェブサイトで確認を。

蜂に刺されないポイント3つ

もちろん、蜂に刺されないよう、日頃から心がけておくことも大切だ。山中に行く際には、リスクをきちんと理解したうえで、行動することを心がけたい。

蜂に刺されないためのポイント

・黒いものを攻撃する傾向があるため、白い服装や帽子を身に着けることを心がける

・蜂の巣を見つけたら近づかない

・蜂が高い羽音を出して、飛び回って威嚇してくると、大変危険な状態。スズメバチはアゴをカチカチと鳴らして仲間を呼び寄せる

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アナフィラキシーの再発防止策として、欧米を中心にアレルゲン免疫療法と呼ばれる治療法が行われているケースもある。

「蜂毒を体内に少しずつ入れることで、体を慣らしていく治療法です。日本ではまだ保険適用のメドが立っていませんが、今後日本でも保険対応となり、普及していくとよいと思っています」(海老澤医師)

(取材・文/若泉もえな)

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国立病院機構相模原病院臨床研究センター
海老澤元宏医師

1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立小児病院医療研究センターレジデント、ジョンズ・ホプキンス大学臨床免疫学教室留学を経て、2000年より国立相模原病院小児科医長、2001年同臨床研究センター病態総合研究部長、2003年より同臨床研究センターアレルギー性疾患研究部長。現在は国立病院機構相模原病院臨床研究センター長。

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提供元:【蜂刺され】アナフィラキシー死から身を守る術|東洋経済オンライン

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