2023.08.19
「冷えたビール、涼しい部屋」が血圧に危ないワケ|ミスター血圧に聞く「夏にやってはいけない事」
夏は血圧対策を怠りがち。「ミスター血圧」こと渡辺尚彦先生が、夏だからこそ気をつけるポイントをご紹介します(写真:jessie/PIXTA)
暑い夏、血圧は下がりやすくなると言われています。暑くなると、体は体温を下げるために体内の熱を発散しようとします。すると血管が広がって、血圧が下がるからです。実際に、お風呂上がりに血圧を測る習慣がある人が、健康診断の時に血圧が高いと感じることが多いのもそういう理由です。反対に寒い冬は、血圧が上がりやすくなる傾向にあります。
とかく夏は血圧対策を怠りがち。暑い夏ならではの意外な落とし穴がある、と指摘するのは、自身も36年間24時間測り続ける「ミスター血圧」こと渡辺尚彦先生。渡辺先生の近著『ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳』から一部抜粋・再編集して、夏だからこそ気をつけるポイントをお伝えします。
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ビールの一気飲みは心臓にアブナイ?
ビールが美味しい季節です。たくさん汗をかいたあとに冷えたビールをごくごく飲むのは格別ですね。でも、ちょっと待ってください。高血圧専門医の立場から申し上げると、暑いときに冷たいビールを一気に飲むのはとても危険なことなのです。
冷たいビールは喉ごしも最高です。シュワシュワな炭酸が喉を通るときの、なんともいえない爽やかさ、清涼感。それがキンキンに冷えていたら、いうことなし。でも、そのキンキンに冷えたビールが喉だけではなく、心臓も冷やしていることをご存じですか。
喉の先には、食道があります。食道は長さ約25センチ、太さ2~3センチの管状の器官で、厚さは4ミリほどしかありません。心臓の位置は、その食道のすぐ前面、胃の手前のあたりです。だから、冷えたビールが喉から胃まで流れ込むと、食道のすぐそばにある心臓も一緒に冷やされてしまうのです。
では、心臓が急に冷やされるとどうなるか。心臓が冷えるということは、心臓の血管が縮むということ。当然、血管が縮むと血圧が上がります。急激に血圧が上がると、次のような症状が出てしまいます。まず頭が重く感じます。頭痛やめまいが起きます。動悸が激しくなったり、吐き気が起きたり、手足のしびれが出たりすることもあります。場合によっては、呼吸が苦しくなります。
しかも、夏の暑さと冷えたビールの組み合わせが、さらに恐ろしいことを引き起こします。先ほどお話ししたように、夏は血圧が下がりやすくなっています。気温が上がることで血管が拡張すること。それにくわえて、体温を調整するために熱を体の外に逃がさなければならず、そのときにも血管が開きます。同時に体の水分が外へ出ていき、体内の水分が減っていきます。体内の水分が減ると血液の水分量も少なくなるため、血液が濃くなり流れが悪くなって、血圧がさらに下がりやすくなります。
もともと血圧が下がりがちな夏に、突然キンキンに冷えたビールを飲むと血圧は急上昇します。血圧の急上昇を繰り返すと、もっと恐ろしいことが起きます。脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まるのです。だから夏、暑いからといって、冷たいビールの飲み過ぎや氷の食べ過ぎは、絶対に避けてください。冗談ではなく、命を縮めてしまいます。
血圧はほんのちょっとしたことでも上昇する
暑いところから冷房の利いたお店や部屋に入って急に体を冷やしても、血圧が上がって、狭心症のリスクが高まります。
私の患者さんに血圧を日常的に測ってもらっている人がいるのですが、こんな経験を話してくださいました。夏の暑い日、買い物に行ったスーパーで、冷凍食品コーナーに立ち寄ったとき、「ちょっと寒いな」と思って血圧計を見たら、上の血圧がいきなり192まで上がっていたそうです。ふだんの生活のなかで、暑い場所から寒い場所に移動しただけで、血圧は急上昇するのです。
このように、人の血圧は敏感です。ちょっとしたことで、すぐ上がります。たとえば、よく知られているのが、白衣を着たお医者さんを見ただけで血圧が上がる「白衣高血圧」です。反対に、診察室では正常血圧なのに、自宅で測ると高くなる「仮面高血圧」の人もいます。そういう人は、一般的に早朝や仕事中に高くなる傾向があります。花粉症の人は花粉の時期になると、鼻が詰まって血圧が高くなります。
こんなに敏感な血圧ですから、もちろん測り方によっても数値が変わります。一般的に血圧は、家や病院で安静にして測ることになっています。でも、そもそも血圧は常に変化するもの。冷房の利いた部屋に入っただけでも血圧は上がります。トイレで用を足しただけでも、お風呂に入っただけでも急上昇します。また、前日の夕食で塩分を摂り過ぎたとか、汗をかくのがイヤだから水分を控えたとか、そんなことでも血圧は変化します。
そして、どんなときに、何をすると、どれくらい血圧が上下するのかは、人それぞれです。とくに「何を食べたか」ということの影響は大きく、翌日の血圧に影響します。
血圧コントロールの第一歩は「測るだけ」
どんなときに、何をすると、どれくらい血圧が上下するのか。これを正確に知るために、私は365日24時間、血圧計を腕につけて血圧を測る生活を、もう35年以上続けています。24時間測り続けると、実にいろいろなことがわかってきます。
私の患者さんにも、できれば毎日、朝晩測って血圧の変化をみて、自分の血圧の傾向をつかむことをお勧めしています。私のように24時間計測する必要はありませんが、長期にわたってしっかり測り続ければ、いつ何をしたときに血圧が上がるのかわかるようになるので、自分の血圧をコントロールできるようになります。だから患者さんには毎日朝晩測って手帳につけてもらっています。ちゃんと記録している患者さんは、だいたい半年ぐらいで血圧が安定してきます。
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「レコーディングダイエット」というダイエット法があります。体重を計るだけの非常にシンプルな方法です。家計簿をつけると、それまで意識していなかった無駄遣いに気がつくのと同じように、毎日体重を量っていると、太る原因になっている食事の習慣や生活スタイルがはっきりと見えてくるというものです。レコーディングダイエットで本当に減量できたという人は少なくないようです。
運動や食事制限がツラくて減量をあきらめていた人も、「量るだけ」なので毎日ラクに続けられること、そして、自分で問題点に気づいてモチベーションを上げていけることが成功のカギなのでしょう。
血圧のコントロールも、レコーディングダイエットと同じです。「測るだけ」でコントロールできるようになります。健康診断で血圧が高いから食生活を変えるようにとお医者さまから厳しく指導をされ、がっくりしている人もいるのではないでしょうか。そんな人には、ぜひ血圧のレコーディングを始めてほしいと思います。
やり方はシンプル。とにかく測って書くだけです。まずは3日、それができたら3週間、続いたら3カ月、気がついたら1年……。そんなふうに続けられるといいですね。はじめは朝1回だけでも測ってみてください。週に1日、休日に1回、測るだけでも、血圧が毎回変化することに気がつきます。そこで、なぜ血圧が上がったり下がったりするのかを考えてみてほしいのです。
もし途中で挫折してしまっても大丈夫。またやる気が出てきたら、その日から始めればいいのです。頑張りすぎないことも、継続の秘けつです。明日の朝からでも血圧を測ってみましょう。きっとみなさんの血圧コントロールの強い味方になってくれるはずです。
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提供元:「冷えたビール、涼しい部屋」が血圧に危ないワケ|東洋経済オンライン