2023.07.12
簡単で肉汁もソースも旨い「チキンソテー」作る技|「鶏もも肉の皮」を上手に使って絶妙な焼き加減に
ジューシーでソースもおいしい「チキンソテー」の作り方を伝授します
料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作る方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。
今回はジューシーでソースもおいしい「チキンソテー」の作り方です。
『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』 ※外部サイトに遷移します
「焼きすぎ」「生焼け」の失敗が多い
今日はチキンソテーを作ります。チキンソテーの理想は「皮はカリっとしていて、中はジューシーな仕上がり」。家でつくると焼きすぎたり、生焼けだったりという失敗が多いそうです。
肉をジューシーに焼き上げる原則は加熱しすぎないこと。加熱しすぎると肉のタンパク質が収縮するので硬くなるうえ、うま味を含んだ肉汁が外へ出てパサパサになってしまいます。ただ、加熱しすぎを恐れると、生焼けだったり、皮がぐにゃぐにゃになってしまったりとうまくいきません。
コツはただ1つ。「皮」を上手に使うことです。鶏もも肉を加熱する場合、中心温度が70〜75℃くらいになるのがベスト。皮は天然の断熱材なので、皮を通して加熱すれば火の通りが穏やかになり、ゆっくりと温度が上がります。温度が上がる速度がゆるやかであれば、火の通しすぎが防げる、というわけ。
チキンソテーの材料(2人分)
鶏もも肉 1枚(300g)
塩 重量の1%
レモン汁 小さじ1
オリーブオイル 大さじ1
長ネギ 1本
今回は一般的にスーパーで売られている鶏肉=ブロイラーを使います。ブロイラーとは品種ではなく、食肉専用として大量飼育された鶏肉の総称で、飼育日数が短く、ほとんど運動しないまま出荷されます。ほかに日本では地鶏が売られていますが、こちらはコラーゲンやグリコーゲンが多く、うま味が多いのが特徴。ただし、焼きすぎると硬くなります。
鶏もも肉は国産がベターです
どちらがいいか、という話ではありませんが、ブロイラーは地鶏よりも水分が多く、筋肉組織が地鶏よりも発達していないため、焼きすぎても硬くならないという特徴があります。はじめはブロイラーで焼く練習を重ねたほうが料理は上達しやすいでしょう。
はじめの下処理として身側にレモン汁小さじ1をふりかけます。レモン汁をふってもすっぱくなることはないので安心してください。レモン汁は酸性の液体で、肉をジューシーにする働きがあり、鶏特有のにおいを軽減する働きがあります。レモン汁がなければ同量の酒でも結構です。
レモン汁は省略することもできます
両面に塩をふります。身側に4割:皮目に6割という具合に気持ち皮に多めにふりましょう。塩加減は好みで調整できますが、0%はおすすめしません。塩をふることで肉の保水力が上がり、焼き上がりがジューシーになるからです。
重量の1%なので、今回の塩は3g=小さじ1/2です
皮目に塩をふったら、そのまま10〜15分置きます。塩をふってから時間を置くと、水分が出てきます。
塩をふったら水が出てくる→仕上がりがぱさつくのでは? と心配になるかもしれませんが、ここで浮き出てくるのは自由水。どちらにせよ加熱によって失われる水分なので心配する必要はありません。むしろ塩をふることで結合水が増えるので、肉の多汁感は向上するのです。
風通しがいい場所に置きましょう。ラップなどをかける必要はありません
皮目に浮き出てきた水分をキッチンペーパーでしっかりと拭き取ります。水分が残っていると油が跳ねて危ないですし、焼きムラの原因になるのでこの作業は省略できません。
身側の水分はそのままで大丈夫です
鶏の皮は50%の水分、40%の脂肪、そして3%のコラーゲンで構成されています。鶏の皮をパリッと焼き上げるには加熱によって脂肪分を溶かし、コラーゲンをゼラチン化させ、そのうえで水分を減らす必要があります。
塩をふってあらかじめ水分を出しておけばこの工程を効率よく進められます。理想はさきほど塩をふってから冷蔵庫でラップをかけずに一晩、置いて、皮目の水分を蒸発させる方法ですが、さすがに前日からチキンソテーを準備する人もいないと思うので、今回はこちらの拭き取る方式を採用しています。
フライパンにオリーブオイルをひき、鶏もも肉を置きます。皮をなるべく伸ばすようにするのがコツです。
24cmのフッ素樹脂加工フライパンを使っています
中火にかけて焼きはじめます。周りで付け合わせのネギを焼きましょう。はじめはフライパンに収まらないかもしれませんが、焼いているうちに鶏が縮むので、空いたスペースに入れてください。
一緒にネギを焼くことでフライパンの急激な温度上昇が抑えられます
中火にかけて2分ほど経つとパチパチと音がしてきます。そうしたら火を弱火に落とし、さらに8分加熱します。途中で長ネギを裏返し、全面を焼いてきましょう。
側面を観察すると鶏肉が白くなっているのがわかります。半分まで白くなったら裏返す目安です。鶏肉を焼くときは「ふたはしません」。ふたをすると空気の対流熱で、全面から加熱されるので、火が通りすぎるリスクが上がりますし、全面が白くなるのでどこまで火が通ったかわかりづらくなるからです。
焼き上がった長ネギからバットなどに取り出しましょう
裏返して、弱火のままさらに3分焼いていきます。フライパンの側面や溜まった油を上手に使って、全面を焼いていきましょう。さきほどまでの加熱で肉の温度が上がり、火が通りやすくなっているので、身側を加熱する時間は短め。身と皮は違う性質の肉ですから焼き具合も変える必要があります。鶏肉を焼くのは皮と肉という2種類の肉を焼く作業なのです。
フライパンを傾けると側面も上手に焼けます
最後に皮目をカリッと焼くために火を中火に強めて、もう一度皮目を1分ほど焼きます。
焼き色が浅い場所がある場合はトングで軽く押さえると焼き色がつきます
取り出しました。バットなどで休ませると中心温度はさらに上がりますし、温度が維持されるので安全性も担保できます。
皮目は高温で焼くことでカリッと感が出ます
まな板でカットします。包丁を大きく動かすようにするときれいに切れるでしょう。
角切りにしてもいいでしょう
鶏の脂を吸い込んだネギが絶品です。仕上げに胡椒をふってもいいですし、山椒の粉も抜群に合います。シンプルに焼き上げた鶏肉はそれだけでごちそう。以前は中心温度で68℃くらいがベストだと思っていたのですが、最近は75℃くらいが歯切れがよく、おいしいように思います。何度か焼いていれば次第にコツが掴めるはずです。
よく冷やした白ワインと最高の相性です
ちなみに鶏肉を焼いたコンロは油跳ねがあるので、料理が終わったらすぐに掃除するようにしましょう。最近は使い捨てのシートタイプのガスコンロ用クリーナーが売られているのでそれを使うと便利です。
今回はシンプルに鶏肉を味わうので肉の重量の1%の塩をふりましたが、ソースを添えるのであれば0.5%がベター。後の手順は同様に鶏肉を焼き終えたフライパンを使って、赤ワインソースを作ります。
赤ワインソースの材料
マッシュルーム 3〜4個
小麦粉 小さじ1
赤ワイン 100ml
しょうゆ 大さじ1
みりん 大さじ1
バター 10g
鶏肉を焼いたフライパンはすぐに洗わずに、油を小さじ1ほど残し中火にかけ、マッシュルームのスライスと小麦粉を軽く炒めます。
オリーブオイルを小さじ1ほど足してもいいでしょう
赤ワイン、しょう油、みりんを加え、混ぜながら中火で煮詰めていきます。
このソースにはシラーという品種を使った赤ワインが合います
鶏肉を休ませているときに出た肉汁も忘れずに加えましょう。
肉汁をフランス語でジュといい、これが味の決め手です
適度な濃度がついたらバターを入れ、フライパンをよく揺すって溶かし込みます。これで赤ワインソースの出来上がりです。
溶かし込んだバターを乳化させる作業をフランス語でブールモンテといいます
さきほどは和風の仕立てでしたが、ソースをかけると洋風になります。焼鳥には好みでレモン汁を搾りますが、鶏肉には酸味が合うので、赤ワインのソースを添えると味の輪郭がはっきりし、料理のグレードが1段階アップします。ただ、それも上手に焼き上げた鶏肉があってこそ。何度か焼いてみて、焼くコツを習得しましょう。
洋風料理はナイフとフォークで食べるので肉は大きいまま盛り付けます
(写真はすべて筆者撮影)
これまでに紹介した料理の記事 ※外部サイトに遷移します
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:簡単で肉汁もソースも旨い「チキンソテー」作る技|東洋経済オンライン