メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2023.06.28

日本でも承認「肥満治療薬」にあるこれだけの課題|「オルリスタット」薬局販売のメドが立たず


承認された肥満治療薬はどんな薬なのでしょうか(写真:Luce / PIXTA)

承認された肥満治療薬はどんな薬なのでしょうか(写真:Luce / PIXTA)

日本でも肥満治療薬が薬局で買えるようになる――。そう期待していた人にとっては残念な状況に陥っている。そう、大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ(一般名:オルリスタット)」の話だ。

オルリスタットは2022年11月28日、厚生労働省の専門家部会によって薬局で買える要指導医薬品として承認。それを受け、同社は2023年2月に製造販売承認を取得した。

製造販売承認の取得を公表した大正製薬のリリース(2023年2月17日)。「発売時期や製品概要等詳細につきましては、準備が整い次第、改めてお知らせします」としていた(写真:編集部撮影)

製造販売承認の取得を公表した大正製薬のリリース(2023年2月17日)。「発売時期や製品概要等詳細につきましては、準備が整い次第、改めてお知らせします」としていた(写真:編集部撮影)

ところが、5月になって「(発売まで)もう少しかかる」との見解を示した。現時点(6月中旬)でもまだ販売のメドは立っていない。発売時期を明確にしなかった理由として、同社は「適正使用に向けた活動」と「安定供給の準備」の2つを挙げている。

そもそもオルリスタットとはどんな薬なのか。みいクリニック理事長の宮田俊男医師によると、「それほど新しい薬ではない」という。

1997年にアルゼンチンで初めて承認され、その2年後にはアメリカFDA(食品医薬品局)から抗肥満症薬として認可。以来、ヨーロッパや中国、韓国など多くの国で使われている。

現在、100カ国以上が120ミリグラムのオルリスタットを病院で処方する医療用医薬品として、70カ国以上が60ミリグラムのオルリスタットを薬局で買える一般用医薬品として販売している。

スウェーデンから有効性を示すデータ

効果についても、海外の臨床試験で報告されている。

例えばスウェーデンで実施された試験は、約3300人の肥満の人(BMI30以上。日本だと25以上で肥満となる)が被験者となり、生活習慣の改善+偽薬群と、生活習慣の改善+オルリスタット投与群に分けて4年間追跡調査している。

最終的には、生活習慣の改善+オルリスタット投与群の体重は、生活習慣の改善+偽薬群より2.8キロ多く減量でき(有意差あり)、糖尿病の発生が31%減少した。

オルリスタットが肥満を解消するメカニズムは、意外とシンプルだ。

ふつう、人間が食べ物から摂ったアブラ(油・脂)は、小腸から分泌されるリパーゼという脂肪分解酵素によって分解されて、体内に吸収される。

ところが、オルリスタットはこのリパーゼの分泌を抑えるため、アブラが分解されない。結果的に吸収が抑えられて、そのまま体外に排出される。まさに、“食べたことをなかったことにする”メカニズムを持つ薬といえるだろう。

大正製薬のホームページによると、オルリスタットの効能・効果は「腹部が太めな人(男性が腹囲85センチ以上、女性が90センチ以上)の、内臓脂肪および腹囲の減少」で、決められた量(1カプセル・60ミリグラム)を1日3回、食事中または食後1時間以内に水かぬるま湯で服用する。

また薬の服用に加えて、食事・運動の改善を行うことを推奨している。

わかっている主な副作用は下痢と油性の軟便。摂取したアブラがそのまま便になって出るというイメージだ。

実は、筆者は過去に1回だけこの薬を試したことがある(服用したのは同じ系列のゼニカル)。そのときのことはよく覚えている。このときはあえて脂っぽい料理を摂ったということもあるが、用を済ませてトイレの水を見ると、表面にギラギラとアブラが浮いていて、ギョッとした。

このほかの注意点として、宮田医師は、「服用することでβカロテンやビタミンDなど脂溶性ビタミンの吸収が抑えられる問題がある」と指摘する。服用する際は、マルチビタミンなどの併用が必要になるとのことだ。

オルリスタットが認められたのはなぜか

先ほどオルリスタリットは100カ国以上の国で使われていると紹介したが、日本ではこれまで承認されてこなかった。

2013年に武田薬品がオルリスタットと同系列のセチリスタット(オブリーン)を発売しようとしたが、結局、臨床試験で体重変化率が少なかったなどの理由で、保険適用に向けた承認手続きを断念したという経緯がある。

なぜ今回、オルリスタットが認められたのか。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 (要指導・一般用医薬品部会)の内容が明らかでないため推測の域を出ないが、かつて厚労省医政局、医薬局などに所属していた宮田医師はこう話す。

「実際のところ、臨床試験の結果で有効性・安全性のちゃんとしたデータが出ているわけです。一定の基準を満たしているので、それ(大正製薬の申請)を承認しないのは、行政として難しいということだと思います」

宮田医師は、今回は医師が処方する医療用医薬品ではなく、薬局で発売する要指導医薬品であることも、承認に至った一因だと話す。

その背景にあるのは「セルフメディケーション」の広がりだ。

セルフメディケーションとは、WHO(世界保健機関)の定義によると「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な体の不調は自分で手当てすること」を言う。

コロナ禍では、感染者のうち症状が軽い人、重症化のリスクがない人は、自宅で待機する措置がとられた。その際に、薬局などで医薬品(コロナ感染なら解熱薬や鎮痛薬など)を購入し、自分で対処していた。結果的にコロナ禍でその流れは加速したと、宮田医師は見ている。

みいクリニック理事長の宮田俊男医師(写真:宮田医師提供)

みいクリニック理事長の宮田俊男医師(写真:宮田医師提供)

「これまでセルフメディケーションが進まなかったことで、別の問題が表面化していました。個人輸入やオンラインの自由診療で抗肥満薬を入手して、使う人が増えてしまったのです。厚労省としては、個人輸入を野放しにしておくより、医薬品としてきちんと管理したほうがいいわけで、そういう意図もあるのではないでしょうか」(宮田医師)

オルリスタットが購入できる条件

ところで、薬局で私たちが買える薬には、大きく2種類あることをご存じだろうか。

1つは「一般用医薬品」で、もう1つは「要指導医薬品」と呼ばれるものだ。今回、オルリスタットは後者、要指導医薬品の位置づけになる。

要指導医薬品のほとんどは、医師が医療機関で処方する医療用医薬品のなかから、有効性と安全性が認められて、市販薬に転用されたスイッチOTC(Over The Counter:薬局のカウンター越しで購入できる薬)だ。

対して、オルリスタットは医療用医薬品から転用されたのではなく、医療用医薬品での使用経験を経ないで薬局で販売されるダイレクトOTCになる。このタイプ、つまりダイレクトOTCは非常に少なく、脱毛症外用薬のリアップ(ミノキシジル)など、2、3種類しかない。

さらにオルリスタットの場合は、「3カ月以上、生活習慣改善の取り組みを行っていること」や、「体重や腹囲などを1カ月以上(少なくとも直近1カ月)記録していること」、「定期的に健康診断を受けていること」などの購入の条件があり、薬剤師はそれらを確認したうえで販売することになる。

今回のオルリスタットの承認について、薬局経営にも関わるファルメディコ(大阪市)代表取締役の狭間研至医師は、期待する一方で難題が多いと考える。

まずその期待だが、「何よりご自身の体型管理も含め、国民が自分の責任のもとで健康管理を行っていくセルフケア、セルフメディケーションへの第一歩。もう1つは、国の方針である、『軽い病気は自助で、重い病気は公助で』という社会保障制度のあり方からいっても意味がある」と言う。

ファルメディコ(大阪市)代表取締役の狭間研至医師(写真:挟間医師提供)

ファルメディコ(大阪市)代表取締役の狭間研至医師(写真:挟間医師提供)

そして、難題は「正しい使い方について、薬剤師がしっかり指導できるか」という点だ。

薬局にいる薬剤師について多くの人がイメージするのは、医師が処方した処方箋をもとに薬を提供し、飲み方や副作用などについて説明する人、ではないだろうか。健康問題について相談したり、そうした相談ごとに対して適切な薬や生活習慣の是正についてアドバイスしたり……という感じではない。

狭間医師は「実際、薬剤師自身もそう思っていることが大きな問題」と話す。

「今後、薬剤師に求められるのはそういう業務ではありません。今回のオルリスタットを例に挙げれば、『やせたい』と言って薬を買いに来たお客さまに対して、その薬がその人にとって有益かどうかを、これまでその人が行ってきた運動や食事の改善、腹囲などを総合的に加味して、専門的な視点で薬を出す。しかもそれを長期的にフォローすることも大切です」

腹囲の測定や、肥満の判断はどうする?

薬局での販売では、次の点にも疑問が残る。

1つは、腹囲の測定。「腹部が太めな人(男性が腹囲85センチ以上、女性が90センチ以上)であること」を薬の適応としているが、薬局でどうやってそれを確認するのか、現場で測定することがはたしてできるのか。

そしてもう1つは、適正な人に販売できるかという点だ。買いに来た客が「本当の肥満」なのか、それとも“何らかの病気でむくんでいて太っているように見えている”のか、あるいは病気が原因で太っているのか。それらをどうやって見極めるのだろうか。

これについて、狭間医師はこう述べる。

「これは薬剤師の業務だけでなく、薬局の仕組みから考え直す必要があります。例えば、測定をするのであれば、ほかのお客さまがいる前で測るわけにはいきませんから、そういうスペースを作る必要もあります。そういうことも含め、薬局が単に薬を売る場所でとどめるのか、それとも総合的に皆さまの健康をサポートするヘルスケアステーションに変えていくのか、そこは薬局の取り組みにかかってくる部分でしょう」

わが国の健康施策事業である健康日本21(第二次)の目標項目の1つに、「メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の減少」がある。だが、昨年10月に発表された第二次の最終評価では、「悪化している項目」の1つに挙がっていた。

前出の宮田医師は産業医として会社員の健康に携わっているが、「20代、30代の肥満者は実際、増えています。中性脂肪とかが明らかに高い人も本当に多い」と嘆く。

こういう人たちのセルフメディケーションの1つとして、内臓脂肪減少薬を使っていくのは悪くないのではないかと思うが、宮田医師はこう語る。

「本当は望ましいですが、現実には難しいです。まず、医師会がこういうセルフメディケーションの領域に対して前向きではなく、まだ肥満症に対する薬の使い方に対するコンセンサスが得られていないのです。少なくとも、肥満領域に関して生活習慣病を専門とする医師は、オルリスタットを勧めたりはしないでしょう」

他の肥満治療薬は薬価収載が見送られる

実は今年に入り、オルリスタットとは違う作用機序で内臓脂肪減少をもたらすGLP‐1受容体作動薬のセマグルチド(ウゴービ)が、肥満症の適応として健康保険が認められた。

だが、5月の段階で薬価収載が見送られている。過去にはコレステロールを下げる生活習慣病治療薬として初めてスイッチOTCとなったイコサペント酸エチル(エパデール)も、「販売基準が厳しすぎて広がらなかった」(前出・狭間医師)という。

薬を飲めばやせられる、とばかり薬に頼って暴飲暴食するのはもってのほかだが、どうしても仕事の付き合いや別の理由で、食事や運動での対策が十分に取れない人たちもいるのは事実だ。だが、日本での肥満症対策は、今後もしばらくは「食事+運動をがんばるしかない」ということのようだ。

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

「マスクは無意味」の議論にもう意味がない理由

【治らない副鼻腔炎】実は指定難病、嗅覚低下も

【男性更年期】30代でも発症、気付きのサイン6つ

提供元:日本でも承認「肥満治療薬」にあるこれだけの課題|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

【医師監修】食後のふらつきは血圧低下が原因?病気の可能性や対策法もご紹介

【医師監修】食後のふらつきは血圧低下が原因?病気の可能性や対策法もご紹介

「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ|ダメージを受けてもほとんど症状が表れない

「寿命を決める臓器=腎臓」機能低下を示す兆候5つ|ダメージを受けてもほとんど症状が表れない

【医師監修】脂質異常症と動脈硬化の関係~メカニズムや予防方法についても解説~

【医師監修】脂質異常症と動脈硬化の関係~メカニズムや予防方法についても解説~

命に関わる心疾患は、予防が大切!今すぐできる生活習慣改善とは?

命に関わる心疾患は、予防が大切!今すぐできる生活習慣改善とは?

戻る