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2023.06.12

「高齢一人暮らし」を満喫する人の"幸福な生き方"|これから「ご褒美の人生」をどう楽しく生きるか


高齢になってからの一人暮らし。寂しい生活なのではなく、「ご褒美の人生」と考えてみては(写真:elise/PIXTA)

高齢になってからの一人暮らし。寂しい生活なのではなく、「ご褒美の人生」と考えてみては(写真:elise/PIXTA)

ネガティブな意味で使われることの多い「独居老人」という言葉。独身率が高まり、高齢化が進むにつれて、一人で暮らす高齢者も多くなっていくでしょう。はたして、高齢の一人暮らしは「孤独」なのでしょうか?

「寂しくなんかない」と断言するのは、“高齢者専門の精神科医”和田秀樹氏です。年を経て過ごす一人の時間の楽しみ方を伝授します。

本稿は、『心が老いない生き方』(ワニブックスPLUS新書)より一部抜粋・再構成のうえお届けします。

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一人で飄々と生きる、面白おかしく老いていく

都会でも地方でも、一人暮らしの老人は大勢います。

「寂しいだろうな」

「家族もいないのは可哀そうだな」

「何もかも一人でやるんだから大変だろうな」

ついそんな同情の眼で見てしまいがちですが、本人はどんな気持ちだと思いますか? たとえば地方の古い家に住むおばあちゃんです。夫に先立たれ、子どもたちは遠く離れた都会で暮らしています。孫を連れておばあちゃんのもとに帰ってくるのは年に一度か二度、お盆と年末年始、くらいなものです。

寂しくないのか?

寂しくなんかありません。隣近所にも同じ境遇の仲良しがいるからしょっちゅう、顔を合わせてお茶を飲んでいます。自分が高齢になってみると、同じような境遇の同世代にいままで感じなかった親しみが自然に生まれてくるのだそうです。終(つい)の友だちという感覚です。

一人暮らしは可哀そう?

本人は自分を可哀そうとは思っていません。誰にも気兼ねしないで、朝起きて夜寝るまで、自分のペースでゆったりと暮らせるのです。のびのびと、心底くつろいで暮らしている老人がほとんどです。

一人じゃ大変?

一人暮らしはできることをやるだけです。夫あるいは子どものための家事というのは、「なんと世話の焼けたものか」と一人になって気がついたそうです。たまに子どもたちが帰ってきて賑やかになると、「早く一人に戻りたい」と思うそうです。

一人でものんびり朗らかに暮らしている高齢者に共通するのは、自分の老いを面白おかしく受け止めているということです。

「ほんとにもう、すぐに忘れてしまうなあ」

「一日はあっという間に終わってしまうけど、その割にボーッとしている時間がほとんどだな」

「90歳は卒寿か、人生卒業か、なんにも卒業できてないな」

そんな調子でため息つきながらも、日々、飄々と生きている一人暮らし老人が多いのです。

映画館の暗闇は「一人の老い」を幸せにしてくれる

わたしは映画が好きですし自分でも撮りますし、これからもまだまだ映画作りを続けたい気持ちがあります。それで少し映画の話をさせてもらいます。

地方で暮らす高齢者の方はよく「映画館のある都会が羨ましい」と言います。地方には映画館のない町が増えていますから、あの暗闇の中で大きなスクリーンで映画を観たいと思ってもそれができないのです。

その点、東京のような大都会にはミニシアターも含めて映画館がたくさんあります。大手が配給する映画は、たとえばアニメ映画のように若い世代を中心に観客が押し寄せて大ヒットしますが、じつは高齢者を中心とした古い映画ファンにも十分に観ごたえのあるドキュメンタリー映画のような作品が毎日、どこかの劇場でひっそりと上映されています。

そういう映画を思いつくままに観て歩くのを楽しみにしているのはおもにシニアのファンのようです。高齢の映画ファンほど、「いまの映画はつまらない」とか「うるさいだけで面白くない」と敬遠しがちですが、大ヒットする作品ばかりがニュースになるのでそう感じるだけで、じつはアートフォーラムのようなミニシアターではインディペンデント系のように話題にはならなくても古い映画ファンを満足させる作品がどこかで上映されています。

ミニシアターですから座席数もたいていは100席足らずの小さな空間です。でもやはり映画館には違いありません。あの暗闇も、迫ってくる大きなスクリーンも音響もそのままです。そこに一人で座り込んで過ごす1時間か2時間は、きっと至福の時間になると思います。

一人で観に来るからこそ一人で没頭できる、映画が好きで良かったと満足します。映画を観終わったら繁華街をぶらぶら歩くのもいいし、余韻に浸りながら静かなバーでお酒を飲むのもいいでしょう。自宅のテレビで映画を観ているだけでは決して味わえない幸福感に包まれます。

「一人で楽しむ老いはいいな」

都会の老いの孤独にも幸せの種はきっと見つかります。むしろ都会でなければ見つからないものがあるはずです。映画館の暗闇もその一つ、寄席の落語や老いた芸人たちの飄々とした芸、一人で出かけるなら場所はいくらでもあるのです。 

風来坊な老人になってフラフラと食べ歩く

もう1つ、都会ならではの楽しみがあります。交通網が発達して日帰りで近在の町に出かけるには都会ほど便利な場所はないからです。

たとえば朝の通勤ラッシュを外して電車に乗っても、東京なら千葉や神奈川、あるいは茨城まで足を延ばすのは日帰りで十分に可能です。

とりあえず「海のほうへ行こう」と目的地だけ決めて電車に乗れば、港町で昼ご飯を食べることができます。漁師町の小さな食堂で新鮮な魚料理、といっても焼き魚定食ぐらいなら気安く味わえるのです。

あるいは北関東まで出かけて餃子を食べてもいいし、ラーメンならそれこそどこに出かけても、行き当たりばったりのラーメン屋でその町独特のスープや具の入った地元のラーメンが味わえます。たまには贅沢を決め込んでウナギもいいでしょう。

『孤独のグルメ』を気取るまでもなく、一人暮らしの高齢者こそ一人ご飯は自然体で楽しめる世界だということです。

自分で料理して自宅で食べるのが高齢者の自立した生活にはいいと言われますが、味気ないし義務でボソボソ食べるような昼ご飯にしかなりません。家族や同居している人間がいると、やれ「そんな脂っこいものばかり食べて」とか「齢なんだから外食ばかりしてないで」と言われそうですが、一人なら遠慮は要りません。

それに日帰りの小さな移動でも歩き回ります。いろんな風景も目にするし、人間にも会います。どんな小さな町に行っても働いている高齢者はいるし、マイペースで暮らしている同世代が大勢います。そういう仲間たちに会えば、「まだまだ楽しまなくちゃ」という元気が出てきます。

それに何といっても、行き当たりばったりの店で美味しいものに出会うと嬉しくなります。「次は山のほうに出かけて蕎麦でも食べてくるか」という広がりが生まれます。ほんの日帰りの昼飯の旅でも、一人の世界がどんどん広がってくるのです。

もうここからは「ご褒美の人生」

高齢になってからの生き方をあれこれ提案してきたわたしが、こんなことを書いてしまったら大胆に思われるかもしれませんが、毎年毎年、「もう〇歳になったのか」とか「あと〇年で何歳か」と自分の齢を数えるような生き方はそろそろ終わりにしてみませんか?

長生きできるのは文句なしに幸せなことです。その長生きが、いろいろ悩みや不安の種をもたらしているとしても、生きている間は自分の人生を楽しむしかありません。

そこでもう、「ここからはご褒美」と割り切ってみましょう。ずっと頑張ってきて、やっと自由が手に入ったのです。そのご褒美をプレゼントしてもらえたと考えれば、あとその人生を自分でどう楽しみ尽くすかということだけです。あと5年生きるか50年生きるか、もっともっと長生きできるかそれはわかりません。

でもご褒美と受け止めれば遊び暮らしてお金を使い果たすもよし、バカなことに時間を浪費するのもよしでしょう。まわりや世間がどう思おうが、「いまは自分のご褒美の時間を楽しんでいるだけだよ」と胸を張っていいはずです。

心の自由も同じです。ご褒美の時間と考えれば、何も制約するものはありません。誰にも気兼ねは要りません。子どもにも夫や妻にも気兼ねしなくていいはずです。ご褒美だから飾っておかなくてもいいプレゼント。でも幸運にも分けてもらえた人生だから全部、自分の楽しみに使ってしまえ!

定年まで勤めあげたある高齢の男性がこんなことを言ってました。

「現役のころはボーナスを貰ってもローンや貯金に消えるからちっとも嬉しくなかった。有休を取っても家族サービスで使ってしまった。ほんとは働いているご褒美だから、全部自分のためだけに使ってみたかった」

現実には家族がいれば許されません。でも一人になったらもう、使い切って心ゆくまで楽しみ尽くす。そんな気概こそ、これからの人生には大切になってきます。そのとき初めて、一人の身軽さがありがたく思えるような気がします。

この境地は難しいかもしれません。ただ、最後の最後で迎えるかもしれない場面と考えれば、頭のどこかに留めておいても無意味ではないと思います。

「一人ぼっちにはなりたくない、老いてもそばに頼れる人がいてほしい」

かりにそう考えている人がいたとしても、その頼れる人をいまから探そうとはしないし、探す気にもなれません。そもそも簡単には見つかりません。

一人になって「ああ、せいせいした」と思えるかどうか

わたしは高齢になってからの人間関係というのは、「ガラガラポン」だと思っています。積み重ねてきたいろいろなもの、人間関係だけでなく仕事の交渉とか企画とか、すべていったん白紙に戻して一からやり直すことをガラガラポンとよく言いますが、いったん全部白紙に戻すというのは簡単なようで難しいことです。もったいないとか「せっかくここまで」という気持ちがどうしても働いてしまうからです。

まして人間関係というのは相手との関係ですから自分から切ってしまうのは難しいです。親しい人や長い付き合いの人との関係を白紙に戻すというのは簡単ではありません。自分からわざわざそんなことはしたくありません。

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でも高齢になると、それができてしまいます。あんなに仲が良かったグループが自然消滅したり、一人欠け二人欠けして遠ざかっていきます。みんなそれぞれ自分の老いを見つめて静かな暮らしを送り始めたということです。そこでジタバタしても始まりませんね。むしろ、「ああ、せいせいした!」と思えるかどうかです。

「わたしもいよいよ一人だ。ここからは残りの人生、自分のペースで楽しんでいこう」

そう腹を決められるかどうかではないでしょうか。腹を決めてしまえば、気持ちの負担にならない人間関係や、「この人、感じいいな」と思えるような人とだけ付き合って、あとは自分の好きなことだけやっていけば心の自由を失うことはありません。心の自由さえ失わなければ、老いに逆らわず静かに暮らすようになっても寂しさは感じないと思います。

「自分一人の時間が欲しい」というのは、ほとんどの人にとっていままでの人生で何度も願ってきた夢でした。老いはその夢を誰にでもプレゼントしてくれるのです。

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提供元:「高齢一人暮らし」を満喫する人の"幸福な生き方"|東洋経済オンライン

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