メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2023.06.06

「和食より地中海食が良い」が科学的でない理由|間違いだらけの「エビデンスのある健康的食事」


「地中海食」は体に良いエビデンスがあると言われますが、和食をやめて地中海食を食べるべきなのでしょうか?(写真:vaaseenaa/PIXTA)

「地中海食」は体に良いエビデンスがあると言われますが、和食をやめて地中海食を食べるべきなのでしょうか?(写真:vaaseenaa/PIXTA)

「体に良い食事」と言ったときに、「有名人が良いと言っていた」といった理由でなく、「最新の研究の結果、体に良いとわかった」など、科学的根拠(エビデンス)を重視する人が多くなってきました。個人の経験談でなく、研究結果からの結論にもとづく流れは一見良さそうですが、残念ながら一口に「エビデンスがある」と言っても、その中身は様々で、誤解している人もいるといいます。ハーバード大学で生活習慣病や予防医療を研究している医師の浜谷陸太氏が、「本当に信頼できる健康法」を教えます。

地中海食が脚光を浴びている

「科学的根拠」「エビデンス」という言葉が世の中に浸透してきています。「ハーバード大の研究では……」というような引用が、至る所で聞こえる時代です。特に、どういう食事をとれば健康になれるかという「エビデンス」には興味をひかれる方が多いのではないでしょうか。

食事でいえば、地中海食(地中海式食事)が脚光を浴びています。豆、野菜、果物、魚介、オリーブオイルなどがメインで、肉は少なめ。確かに健康に良さそうですね。日本といえば和食ですが、よく「地中海食が一番エビデンスがある」「和食は(健康に良さそうだけど)エビデンスがない」という表現を耳にします。

それ自体がすごく誤りなわけではないですが、もし「地中海食>和食」のような認識でしたら、それは科学的とは言えません。また、そう受け取られるような表現は、科学的なコミュニケーションとしてはバツです(大変恥ずかしながら、自分も以前はそのような表現をしていたのでとても反省しています……)。

では、最も健康に良い食事とはどういったものでしょうか。食事の科学の一端に触れて考えてみましょう。

くじ引きで地中海食を5年続けた結果

西洋医学で一番信頼性の高いエビデンスは、ランダム化試験によるとされます。例えば、くじ引きで薬を飲むか飲まないか決め、1年後にどうなったのか(生存率の違いなど)比較します。薬を飲むかどうかがランダムに決まるので、もし生存率に差があれば、それは薬の効果なんだろう、というわけです(因果関係ということ)。

これを食事で検証した研究があるのです。くじ引きで地中海食をするかしないか決め、なんと5年間もフォローしました。結果、心血管病リスクが30%(※1)、糖尿病リスクが50%も減った(※2)という驚きの結果でした。どんな薬でもこんなに強力な効果が示されることはまれです。

「地中海食が最強の食事だ」という、よく聞く“科学的な”主張は、主にこの研究結果に基づいています。このもっともらしい主張、何か問題があるのでしょうか?

問題点1:日本人での研究ではない

実はこの研究は、スペインの心血管病リスクの高い方を対象としています。結果、95%以上が白人で、平均年齢は67歳なのでした。日本人とはそもそも体質も違えば、もともと食べているものも違います。この結果がどれほど日本人に当てはまるのか、かなり疑問ではないでしょうか。

さらにいえば、この研究の対象者は、なんと平均BMIが30、腹回りがなんと平均100cmでした。日本人でこのレベルの肥満の高齢者、というと、なかなか周りにいませんよね。

いくら効果があったといっても、日本人であるあなたに当てはまるとは言い難いわけです。

問題点2:実は地中海食を検証した研究でない

くじ引きで地中海食に当たらなかった人たちは、どんな食事をしていたのでしょうか。研究では、「脂質、オリーブオイル、ナッツ」を避けるように指導されました。

でもかたや、くじ引きで当たった人たちは健康に良いといわれている地中海食を毎日食べていることを知っているわけです。彼らも自然と地中海食を意識し、実際に豆、野菜果物、魚介などをきちんと摂取していたのでした。

結果、くじ引きの群間で最も異なったのは、オリーブオイルの使用量とナッツの消費量でした(※3)。ですので、この研究をもって「地中海食の効果」と断定するのは、少し強引なのです。

問題点3:和食と比較しているわけでない

やや強引ですが、仮にこの研究結果が日本人にも当てはまるとしましょう。それでも、地中海食が和食より健康効果が高いかどうかはわかりません。当然ですよね、和食と比較しているわけではないのですから。

間接的にも、

地中海食→ランダム化試験のエビデンスがある

和食→ランダム化試験が行われていない

という事実をもって、「地中海食>和食だ」と結論できるわけありません。

事実、和食に関するエビデンスは、地中海食ほど豊富にはありません。でも、ランダム化試験がないからといって、和食に健康効果が見込まれないかというと、そんなことは決してありません。

魚、発酵性大豆製品(味噌や納豆)、海藻、緑茶など、和食の構成要素は健康に良いものですし、常識的に和食が日本が世界的な長寿を達成している大きな要因なのは間違いありません。精力的に研究して日本からエビデンスを発信している研究グループもあります(※4、※5)。

地中海食が日本人の食習慣になりうるかというと、それはそれで疑問です。外食で好んで地中海食料理屋さんに行く方、5年間地中海食だけを食べてくれと言われて「ぜひやりたい!」と思う方、どれほどいるでしょうか。地中海食はスペインでこそ非常にポピュラーですが、日本人一般にすごくフィットした食事法とはとても言えないかと思います。

地中海食が好きであれば、それは間違いない、良い選択です。一方、例えば和食が好きな方は、無理してそれを地中海食にする必要はありません。より健康効果を狙いたいなら、和食の欠点(塩分が高いことなど)をどう補うか考えたり、料理の際には健康に良い油(オリーブオイルや菜種油)を使うことを心がけると良いかと思います。

「エビデンス」にだまされないために

社会学者が物理学のことをどれほど知っているでしょうか。さっぱりわからないと思います。同じように、「どうやって健康になれるか」という分野も確立した研究領域で、その専門家が世界にはたくさんいます(疫学、疫学者といいます)。

なおこれは医学部で習うような医学とは異なる学問です。でも不思議と、疫学を習ったことすらない人が、食事法などについて「エビデンス」を語る機会が多くあるのです。

「健康法」について、一般的にどの識者の言うことが信頼できるか判別することは、難しいかと思います。最後に、それを見分けるヒントを3つ紹介します。

信頼できる「健康法」チェックリスト

1 医師、医学博士は「予防の専門家」ではない

医師はとても権威性の高い業種ですが、「病気の治療」の専門家です。予防については、疫学がその学問領域です。医学博士は日本特有の資格で、一般的には疫学のトレーニングとは無関係です。稀に、疫学系のトレーニング(大学院など)を受けずとも自主的に勉強し、非常に疫学知識の深い医師の方がいらっしゃいますが、例外的です。

2 極端な意見はたいがい怪しい

極端な意見は目をひくし、SNSでバズりやすかったりします。でも病気の予防の研究は非常に複雑で、そんな簡単に白黒つきません。食事についても「〇〇は悪い!」と断言しているような言説は、たいていきちんとした科学的根拠に基づいていません。

3 インフルエンサーであることは情報の信頼性を担保しない

インフルエンサーであることはファンが多いことを意味しますが、当然のことながら科学の理解度とは無関係です。

読者の皆様が「エビデンス言説」に惑わされることなく、自分に合った方法で健康を手に入れることを、強く願っています。

【参考文献】

1. Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, et al. Primary Prevention of Cardiovascular Disease with a Mediterranean Diet Supplemented with Extra-Virgin Olive Oil or Nuts. N Engl J Med. 2018;378(25):e34. doi:10.1056/NEJMoa1800389
2. Salas-Salvadó J, Bulló M, Babio N, et al. Erratum. Reduction in the Incidence of Type 2 Diabetes With the Mediterranean Diet: Results of the PREDIMED-Reus nutrition intervention randomized trial. Diabetes Care 2011;34:14–19. Diabetes Care. 2018;41(10):2259-2260. doi:10.2337/dc18-er10
3. Appel LJ, Van Horn L. Did the PREDIMED Trial Test a Mediterranean Diet? N Engl J Med. 2013;368(14):1353-1354. doi:10.1056/NEJMe1301582
4. Gabriel AS, Ninomiya K, Uneyama H. The Role of the Japanese Traditional Diet in Healthy and Sustainable Dietary Patterns around the World. Nutrients. 2018;10(2):173. doi:10.3390/nu10020173
5. Yatsuya H, Tsugane S. What constitutes healthiness of Washoku or Japanese diet? Eur J Clin Nutr. 2021;75(6):863-864. doi:10.1038/s41430-021-00872-y

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

日本人がやりがちな「寿命を縮める」3大悪習慣

「朝食を食べない派の人」が招く超危険の正体

「糖質制限ダイエット」を勧めないこれだけの理由

提供元:「和食より地中海食が良い」が科学的でない理由|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

干し柿の栄養は健康と美容に効果的!食べすぎによる注意点も詳しく解説

干し柿の栄養は健康と美容に効果的!食べすぎによる注意点も詳しく解説

ワインは高カロリーで低糖質〜ダイエット中の楽しみ方やおつまみも紹介〜

ワインは高カロリーで低糖質〜ダイエット中の楽しみ方やおつまみも紹介〜

オリーブオイルのカロリーは高いから太る?〜ダイエット効果についても解説〜

オリーブオイルのカロリーは高いから太る?〜ダイエット効果についても解説〜

肝臓から脂肪を落とす「朝のみそ汁」有効な摂り方|医師が解説「やせない人は肝機能に問題あり」

肝臓から脂肪を落とす「朝のみそ汁」有効な摂り方|医師が解説「やせない人は肝機能に問題あり」

戻る