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2023.05.26

「今日何を食べたいのか」腸が操っている驚く事実|腸内細菌が人の食べ物に対する欲求に影響与える


自分の意志で何を食べたいのか決めていると思いきや…(写真:ナオ/PIXTA)

自分の意志で何を食べたいのか決めていると思いきや…(写真:ナオ/PIXTA)

人間の行動は脳がコントロールしていると思われがちですが、腸(腸内細菌)が決めている部分があるとわかってきました。腸に関する国内外の最新研究を基にパフォーマンスを高める方法を紹介した書籍『すごい腸とざんねんな脳』より一部抜粋・再構成してお届けします。

『すごい腸とざんねんな脳』 ※外部サイトに遷移します

今日は「脂のこってりしたものが食べたいな」とか、「あっさりした食事がしたい」という考えは、自分の意思で行っていると思っている人も多いでしょう。しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら腸が決めているという研究結果があるからです。

人の消化管には1000種以上の腸内細菌が生息しており、腸内細菌は人が摂取した食べ物からエネルギーを得て生きています。また、人間に共生している腸内細菌はエネルギーを与えてもらうのと引き換えに、消化を助けたり、悪玉の腸内細菌を退治したりしてホスト(人)の体調を整えてくれていることも知られています。

普段は腸内細菌の存在を意識することはありませんが、人間と腸内細菌は持ちつ持たれつの関係を保っているというわけです。このように、人にとってありがたい存在の腸内細菌ですが、人の体調を管理してくれているだけでも人の食べ物の選択をも管理している可能性を、カリフォルニア大学のマーレイ教授らの研究グループが指摘しています。

それによると、腸内細菌は猛烈な生存競争をしており、細菌同士の生存競争の過程で人の食べ物に対する欲求にも影響を与えているとのこと。具体的には、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に勝つために、自分がより成長できる栄養素を摂取するよう人間に働きかけたり、逆にライバル種の腸内細菌が欲する栄養素を抑制するよう働きかけたりと、「綱引き」を行っているとしています。

この綱引きでは、腸内細菌は宿主の味覚を感じる味覚受容体を変化させて特定の食品をよりおいしく感じさせたり、空腹を誘発するホルモンを出したり、食べ物の摂取を抑制するように迷走神経を操作したりするとのことです。

さらに、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に打ち勝つために、宿主の健康増進よりも自らの種の繁栄に有利になるように働きかけることさえあると指摘しています。つまり、高脂質の食事を餌にしている細菌が、あなたの食欲を操ることすらあるのです。

食べ物に腸が影響される

私たちが何を食べるかによって胃腸の中の腸内細菌の状態が変化することがわかっています。どの腸内細菌が多いか少ないかによって、活性化される遺伝子や吸収される栄養素が変わってくることも判明しています。無菌のマウスでは食べた脂肪の吸収が悪くなるようです。

さらに、食べ物と腸内細菌の関係は一方通行ではなく、「食べ物に細菌が影響される」だけでなく、「細菌の状態によって食べたいものが変わる」のですが、これまで、実際のところどのようにして腸内細菌が私たちの食べるものに影響を及ぼしいるのかはわかっていませんでした。

マウスの胃に直接エサを注入して摂食行動が味覚の影響を受けないようにした実験により、内臓が脳と連携して何を食べるかを決定するメカニズムの詳細が明らかになりました。

研究チームはキイロショウジョウバエの食習慣を研究することで、特定の種類の腸内細菌叢が宿主に足りない栄養素を検知し、どのくらいの量の栄養素を摂取すべきかを測定するということを発見しました。

チームは、まずグループ1のハエに必須アミノ酸をすべて含んだショ糖の溶液を与え、グループ2のハエにはいくつかの必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。必須アミノ酸はタンパク質の合成に必要な物質なのですが、体内で作り出すことができないので、体外から取り入れるしかないものです。

そして3つ目のグループのハエには、どの必須アミノ酸が腸内細菌によって検知されているのかを明らかにすべく、1つずつ必須アミノ酸を取り除いた餌を与えました。

それぞれの餌を与えられたハエは、72時間後、プロテインを豊富に含んだイーストと通常のショ糖溶液が餌として与えられました。すると、必須アミノ酸を欠いた食事を行った2つのグループのハエは、足りない栄養素を補うべくイーストを強く求めるようになっていました。

しかし、その後、研究者らがラクトバチルス・プランタルム、ラブレ菌、アセトバクター・ポモラム、コメンサリバクター・インテスティニ、エンテロコッカス・フェカリスという5種類の腸内細菌をそれらのハエの消化器官内で増加させると、必須アミノ酸を制限した餌を行っても、ハエはイーストを求めないようになったそうです。

この時、特定のバクテリアを取り除いたハエの必須アミノ酸レベルは低いままで、ハエやバクテリアが自分で足りない必須アミノ酸を作り出したということはありません。にも関わらず、「必須アミノ酸がなくても問題ない」と消化器官の細菌が宿主の脳に伝えているかのような働きが生まれていたわけです。

5種類の細菌のうち影響力が大きいのはラブレ菌とアセトバクターで、この2つの細菌の量を増やされたハエはタンパク質への渇望が抑えられ、糖をより強く求めたそうです。通常であればアミノ酸の欠乏は細胞の成長や再生が阻害され、ゆえに生殖能力も落ちるのですが、この細菌を増やされたハエは、機能を回復させたとのことです。

腸内の細菌が宿主の脳に情報を送っている

続いて、研究チームは、アミノ酸の一種であるものの必須アミノ酸ではないチロシンを生成するのに必要な酵素をハエの体内から取り除きました。これによって、ハエは必須アミノ酸のようにチロシンを食べ物から取り入れる必要があるのですが、体内のラブレ菌とアセトバクターを増やしても、ハエが食べ物からチロシンを求めることを抑制することはできませんでした。つまり、ハエの腸内細菌叢は必須アミノ酸の摂取だけを検出できるようになっていたわけです。

今回の研究によって、宿主である生物と体内の細菌の間に独特の進化があることが示されるとともに、腸内の細菌が宿主の脳に情報を送っていることを強く示す事象が確認されたことになります。細菌は「宿主が何を食べているか」によって食事を左右し、また宿主が社会的であったほうが繁殖範囲を広げていけるので、「必須アミノ酸しか検知しない」といったシステムには、細菌が進化するにあたっての理由が何かあるのかもしれません。

男性の読者だったら、よくご存じかもしれませんが、毎朝、駅や会社の男性の個室トイレは満室状態が続いています。個室トイレの数が少ないわけではありません。実は男性は腸が弱く、ストレスの影響が腸に出ることが多いのです。腸内細菌の種類も性別で違いがあり、その反応も性別によって変わります。

うんちの状態(便性状)別に腸内細菌叢解析結果を見てみましょう。便性状の分類には、視覚的に便性状を7段階に分類するブリストル便性状スコア(BristolStool FormScore; BSFS)がよく使われています。

これは、Type1(兎糞状の硬便)、Type2(ソーセージ状の硬便)、Type3(表面にヒビ割れを伴うソーセージ状のやや硬い便)、Type4(表面がなめらかなソーセージ状便:普通便)、Type5(やや軟らかい半分固形の便)、Type6(泥状便・小片便)、Type7(水様便)のように分類されます。これらの便性状は腸管通過時間を反映し、便回数頻度と合わせて腸管運動機能を推定するのに役立つ指標となっています。

うんちの状態を見れば生活の質がわかる

実は、うんちの状態が生活の質(QOL)を示しているという研究もあります。Type4のQOLが最も高く、硬い便になるに従いQOLが低下するだけでなく、軟かい便になるに従い同様にQOLは低下するようです。そこで私たちは、277名の日本人健常者の腸内細菌叢を解析し、BSFSとの関連について報告しました。

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興味深いことに菌叢構成の多様性(β多様性)について男女差を認め、属レベルでの解析では食物繊維を分解する能力が高いプレボテラ属、メガモナス属、潰瘍性大腸炎や大腸がんの原因菌とされるフソバクテリウム属、ビールの品質を腐敗させるメガスファエラ属が男性に優位な菌であり、ビフィズス菌で有名なビフィドバクテリウム属、ルミノコッテカス属、ムチンを好むアッカーマンシア属が女性に優位な菌でした。

さらに、腸内細菌叢とBSFS との関連を解析した結果、多様性(細菌叢の豊富さ、均等度)については、男女ともに便性状において明らかな差異はみられませんでした。

しかし、属レベルの腸内細菌叢解析結果では、男性の軟便傾向の便(BSFS Type5、Typ6)でフソバクテリウム属、オシロスピラ属が有意に増加し、硬便傾向の便(BSFS Type1、Type2)でオシロスピラ属が増加していたのです。ビフィドバクテリウム属は平均して10%を占める日本人女性に多い特徴的善玉菌で、全体で見ても便秘傾向の便(BSFS Type1、Type2)で増加しており、その傾向は女性でより顕著という結果でした。

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提供元:「今日何を食べたいのか」腸が操っている驚く事実|東洋経済オンライン

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