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2023.05.15

「人生終わった」から抜け出す人が口にする一言|がん患者の心を救う「ユー・モア」の本当の意味


がんになって本当に怖いことは?(写真:プラナ/PIXTA)

がんになって本当に怖いことは?(写真:プラナ/PIXTA)

病理医として2000人を超える患者のがんを見てきた経験を生かし、2008年から「がん哲学外来」を無償で開いて、がんにまつわる人生哲学について、5000人以上の患者やその家族と対話を続けてきた樋野興夫氏。患者と家族の苦悩を独自の哲学で包みながら描いた『もしも突然、がんを告知されたとしたら。』を上梓した樋野医師が、がん患者を孤独の闇に突き落とす「なぜ?」と「人生終わった」という心理的な罠から脱出するための魔法の言葉を紹介する。

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「なぜ?」の答えは医師でもわからない

「なぜ、私ががんにならなきゃいけないの?」

初めてがんになった人は、みなさんがショックを受けて、どうしてもそう思ってしまいます。

確かにこれは無理もない。現代社会において、がんは非常に身近な病気で、2人に1人はがんになります。つまり、がんになるもならないもほぼ同じ確率なんですね。

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同じ確率であるにもかかわらず、がんになるのとならないのとでは大違いです。がんになった人は「もうすぐ死ぬのではないか」という恐怖にさいなまれるのに対し、ならない人はそんな恐怖を味わうことがない。これは非常に理不尽で不公平に思えます。それで、

「なぜ、私だけひどい目にあわされるの?」

と、思ってしまうんです。

でも、これはやめたほうがいい。なぜなら、この「なぜ?」の答えは、誰にもわからないからです。

確かに、医学的な研究により、がんになりやすい生活習慣や遺伝的素因はわかってきています。けれど、そうした習慣や遺伝のある人が必ずがんになるわけではありません。逆に、そうした習慣も遺伝もないのにがんになる人もいます。

ということは、がんになる人とならない人、この両者を分ける決定的な要素は何なのか、残念ながら、現代の医学でもまだわかっていないということなんです。

ですから、「なぜ私ががんに?」と問われても、がんを専門とする医師でさえ「○○だから」と明解に合理的に答えることは不可能なんです。

答えの出ない「なぜ?」から、いつまでも離れられないでいるのは良くない。

まず、「私ばかりが不当にひどい目にあっている」と思い続けているうち、気持ちが暗くなってきます。

しかも、この「なぜ?」には答えが返ってきませんから、同じ問いをただ繰り返すだけになり、どんどんと心は暗くなり続けます。そのうち、心が病んで、抑うつ症状となりかねないんです。

「なぜ」という不毛な問いにこだわるよりも、私がお勧めするのは、こう問いかけることです。

「いかに?」

例えば、がんに関する疑問について、「なぜ私が」という問いの代わりに、「いかにして私ががんになったのか?」と問いかけるとします。

すると、専門の医師から、即座にこんな答えが返ってくるんです。

「細胞分裂の際に一定の確率で遺伝子のコピーミスが起こるため、がん細胞が発生します」

もちろん、この答えを得たからといって、自分ががんになったことの理不尽さがなくなるわけではありません。けれど、頭の中から、「なぜ?」という不毛な問いが、ほんのしばらくでも消えてくれます。

このことが大きいんです。なぜなら、心が落ち着くきっかけになるからです。

そして、もう少し落ち着いたら、今度はぜひ、

「いかにすれば、がんを治せるのか?」

と問いかけてみてください。これに対しても、現代の医学からは、即座に具体的な答えが返ってくるはずです。そして、問いかけへの具体的な答えを得る、その手ごたえを感じていくうち、やがて、心が少しずつ前向きになっていきます。

このように、「いかに?」を考えることで頭の中から「なぜ?」が自然と消えていき、心が明るくなりやすいんです。

「人生終わった」は孤独への入り口

また、初めてがんだと知って、多くの人が抱いてしまうのが、

「私の人生はこれで終わりだ」

という絶望感です。

「もうすぐ死ぬんだ」と命の終わりを思う人もいますし、あるいは、「これで自分のキャリアは終わりだ」と、ご自分の仕事についての夢をあきらめる人もいます。

しかし、これらはどれも、少々結論が早すぎます 現在、多くのがんは治せるからです。

がん検査の技術が向上しており、治る見込みの高い初期のうちにがんを発見できるようになっています。もう少し進行したがんや、かつては治療の困難だったがんについても、治せる確率が格段に高くなってきているんです。

ですから、がんを告知されたからといって、すぐに命が終わると決めつけるのは早すぎるわけです。

また、現在ではがんを治療しながら働くことのできる場合が多くなっています。ですから、今までとは違い、がんを治しながらでも上を目指すことは必ずしも不可能ではありません。

ですから、がんになったからといって、すぐに仕事での目標や夢をあきらめる必要もないわけですね。

もっとも、今の時代、ネットで検索すればたいていのことは教えてくれますから、こんなことはがんを告知された人はとっくに調べて知っていることでしょう。ですから、現代医学の成果を確かめれば、冷静にがんと向き合うことができるだろうと、がんになったことのない人には、そんなふうに思えるかもしれません。

けれど、実際は、そんなに単純にはいかないんです。現代では多くのがんは治ると知ってもなお、「もう私の人生は終わったんだ」と短絡的に思ってしまうのが現実です。

そのわけは、かつて不治の病だったがんのイメージが、なおも根強く残っているためなんですよ。それで、自分ががんだと知ると、「どうせ死ぬのなら苦しみたくない」と、治療を拒否する人さえ、珍しくはないんです。

どうしてこんなに、「人生が終わった」と思ってしまう人が多いのか。それは、「死」の恐怖について慣れていないからです。

たいていの人は日常生活で「死」を意識することはあまりありません。なのに突然、「がんです」と告げられれば、それまでの人生で初めて「死」を強く意識させられます。それまであまり深く考えたこともなければ、慣れてもいない「死」の恐怖にさらされるんですから、それに飲み込まれてしまうのは仕方がないところなんですね。

けれど、思い詰めるあまり、

「どうせ私の苦しみは誰にもわからない」

と思うようになると、この恐怖の出口が見えなくなります。そして、孤独になって、底なし沼のような暗闇の中を、文字どおり死ぬまで、さ迷うことになりかねないんです。

「ユー・モア」の本当の意味

実は、この孤独が、がんという病気そのものよりも恐ろしいんです。

この恐怖とどのように向かい合うのか。

これが、がんと付き合う際の最も重要なポイントなんです。

孤独の暗闇にとらえられそうな人を見ると、私はこのように言うことがあります。

「ユー・モアが大切ですよ」

たいていの人はこう聞くと、「笑って楽しく」という意味だと思います。けれど、私は首を横に振り、このように話すんです。

「ユーは英語で二人称の『あなた』、つまり『目の前の人』という意味ですよね。そして、モアは『もっと』という意味ですから、続けると、こういう意味になります。

『目の前の人を、もっと、大切に』

つまり、自分のことばかり考えず、周りの人のことをもっと大切にしてください、ということなんですよ」

これを聞くと、冗談だと思ってただ笑うだけの人もいますが、これをきっかけにして、大事な、あることに気づく人が多いんです。

それは、「自分は一人じゃない」という事実です。

がん告知のショックで、頭の中が自分の病気とそれによる自分の死に占領されてしまうと、他の人のことを全く考えられなくなります。すると、心がどんどん閉ざされていき、孤独という心の闇の中に落ちてしまうんです。

死の恐怖とは孤独の恐怖です。

先ほども言いましたけれど、がんになって本当に怖いのは、ここなんですね。

けれど、自分以外の人が近くにちゃんといてくれることに気づくと、孤独という闇を作っていた濃い霧が段々と晴れてくるんですよ。

孤独から救ってくれるのは、何よりも、他の人が近くに存在するという事実です。

「ユー・モア」

ほとんどダジャレのような言葉ですが、もしがんになったら、どうか、この言葉を思い出してください。闇の出口がきっと見えます。

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提供元:「人生終わった」から抜け出す人が口にする一言|東洋経済オンライン

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