2023.04.25
「いい睡眠」「悪い睡眠」脳内で起きる圧倒的な違い|翌日のパフォーマンスが大きく違う納得理由
睡眠は私たちの身体だけでなく、脳の働きも回復させます(写真:naka/PIXTA)
誰もが求める「よい眠り」のもたらすリターンは想像以上に大きいことが近年の研究から明らかになっています。では、具体的にどんなメリットが得られるのでしょうか。睡眠研究の第一人者、米スタンフォード大学教授・西野精治氏が『最高のリターンをもたらす超・睡眠術 30のアクションで眠りの質を高める』(西野精治・木田哲生)より、質の高い睡眠が脳のデトックスにつながる仕組みについて解説します。
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「よい睡眠」の間に脳の中で起きていること
睡眠は私たちの身体だけでなく、脳の働きも回復させます。ぐっすり眠れた日の翌日は頭がすっきりしてコスパが上がったという体験は、どなたにもあるでしょう。では、ぐっすり眠って翌朝すっきりした頭で目覚めてコスパが上がる「よい睡眠」の間に、脳の中ではどんなことが起きているのでしょうか。
質のよい眠りは、脳の奥深くに存在する大脳周縁系にあり「記憶の港」とも呼ばれる海馬を大きくすることが、これまでの研究によって明らかになっています。そして、記憶の港である海馬が大きくなればその分、一度に多くの情報を留めることができる──つまり、質のよい睡眠は記憶力をよくするのです。
「黄金の90分」とも呼ばれる眠りの最初に訪れる深いノンレム睡眠の間に、海馬から大脳皮質への情報の移動が行われます。この深くよい眠りの恩恵に与ることができれば、脳のコスパは最大限に上がるといえます。「最近、仕事の効率が悪い」「年齢には勝てないな」などと嘆いている方こそ、睡眠への意識を変え、最初の90分をしっかり眠る習慣をつけるべきでしょう。
また、睡眠と記憶については、さらに興味深い事実もあります。「睡眠はイヤな記憶も洗い流してくれる」──深いノンレム睡眠の間にたいせつな記憶は長期記憶へ移されますが、他方、ノンレム睡眠中の脳の中では、「記憶の消去」も行われているのです。
人間は、「記憶の消去」がなければ頭を切り換えられません。今日起こった心に障るイヤなことや、人生における苦しい体験などの記憶は、ほとんどの場合、時間とともに薄れていきますが、これは、ノンレム睡眠中に記憶の部分的な消去が行われるからなのです。
イヤなことがあった日こそ、憂さ晴らしの方法を模索するより、さっさと眠るにかぎります。ネガティブな感情を引きずらないすっきりした目覚めは、スマートな脳の働きを呼び起こしてくれるでしょう。
脳の不用物を洗い流し、パフォーマンスを上げる
睡眠は「記憶の消去」にもかかわり、イヤな記憶を忘れさせてくれるだけではなく、文字通り、脳の中の不要物を「洗い流して」脳のパフォーマンスを上げてくれる──そんな仕組みが近年、世界中の研究者たちの大きな注目を集めています。
たとえ肉体労働をしなくても脳を使えば、活動の過程で有害な老廃物などのゴミが大量に生じます。代表的なものがアミロイドβというたんぱく質で、脳の働きを衰えさせ、認知症の原因になるとも考えられているこの「脳のゴミ」を洗い流すしくみが、「グリンパティック・システム」。いわば、脳内のデトックスシステムなのです。
アミロイドβのもとになる前駆体は、細胞の膜表面に存在し神経の成長と修復などの機能を持つたんぱく質で、役目を終えれば断片化して排泄されます。そのなかでもとくに凝集しやすい断片が脳内に沈着し、他の病態とも合わせて脳に障害をもたらし、認知症の原因にもなると考えられています。
これまで、脳にはリンパ系が通っていないため、そうした脳の老廃物の除去がどのように行われているのかについては解明が進んでいませんでした。しかし、近年、リンパ系に代わり、神経細胞の情報をモニターしながら神経細胞のシナプス形成をコントロールしている「グリア細胞」が、脳の老廃物除去に関与していることがわかってきました。
グリア細胞の表面には水を取り込むシステムがあり、そのシステムがリンパ液と似た「脳脊髄液」を脳細胞内に呼び込み、細胞内を流れることによって、老廃物を洗い流す――この脳のゴミを除去するシステムが脳の働きに大きく影響しているのです。
睡眠習慣を見直して脳のデトックスを
このグリンパティック・システムは、日中にも機能していますが、睡眠中に最も活発に働くことがわかってきています。つまり、毎日、質のよい睡眠をとる習慣がついているだけで、無理なく脳のデトックス効果が期待できるというわけです。
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将来的には、グリンパティック・システムの解明がさまざまな疾患の予防や治療につながる可能性が期待されています。アルツハイマー病やパーキンソン病など、脳に老廃物や特定の物質が蓄積する神経変性疾患の治療や薬の開発にも、このグリンパティック・システムの働きが重大なヒントになることは間違いありません。
睡眠中に最も活発に働くこのシステムの恩恵に与りたければ、毎日、質のよい睡眠をとること。脳のデトックス効果は睡眠習慣を改めるだけで叶う最高のギフトと言えるでしょう。
このほかにも、睡眠を犠牲にする人生から睡眠を大切にする人生へ舵を切ることで得られるメリットは数え切れません。最高のリターンを得るために、ご自身の睡眠を見直し、睡眠の優先順位を高めるマインドチェンジを試みてはいかがでしょうか。
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提供元:「いい睡眠」「悪い睡眠」脳内で起きる圧倒的な違い|東洋経済オンライン