2023.04.20
【更年期障害】動悸や関節痛など、意外な症状も|診断のポイントや、間違いやすい病気も解説
更年期と更年期障害はどう違うのでしょうか(写真: ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)
顔のほてり、発汗、手足の冷え、イライラ、疲れ、めまい……。こうした更年期のつらい症状に苦しむ40〜50代女性は多い。「更年期と仕事に関する調査」によると、40〜50代の男女4万5000人のうち、更年期特有の症状を「現在、経験している」または「過去3年以内に経験した」という人は女性で約37%、男性で約9%いた。家庭にも仕事にも影響があったという。なぜ更年期につらい症状が起こるのか、更年期と更年期障害はどう違うのか、どう対処すべきかについて、牧田産婦人科医院 院長の牧田和也さんに詳しく話を聞いた。
※「更年期と仕事に関する調査」:2021年7月に日本放送協会(NHK)と公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会、特定非営利活動法人POSSEが行った調査。
「更年期」と「更年期障害」は違う
中高年の女性が自分の意見をはっきり口にしたり、怒ったりすると「更年期なんじゃないの?」などと揶揄されがちだ。一方、当の女性がちょっとした心身の不調に「更年期なのかも」なんて話すのも、よく見られる光景だろう。
しかし、まず知っておきたいのは「更年期」と「更年期障害」はイコールではないということ。更年期は月経のあるすべての女性に訪れるが、更年期障害はそうとは限らない。
「日本人女性が閉経(月経が終わること)を迎える時期は、平均して50歳ごろです。その閉経を中心として、前後5年間を『更年期』と呼びます。つまり、おおよそ45〜55歳頃の時期を表す言葉ですね。その更年期に起こるさまざまな症状があり、ほかの病気による症状ではない場合に『更年期障害』と診断されます」(牧田さん)
更年期は誰もが通る道だが、更年期障害にはなる人とならない人がいて、症状も重かったり軽かったりする。その違いはどこにあるのだろうか。
「更年期障害のリスク因子はよくわかっていません。遺伝とは関係がなさそうですし、産後すぐに無理をすると更年期障害になりやすいという説にも根拠はありません。更年期であれば、誰でもなりえます」(牧田さん)
大事なのは、「更年期に起こるすべての症状が、更年期障害のせいとは限らない」(牧田さん)という点。ちょうど40〜50代は加齢により体力が落ちたり、さまざまな不調が起こりやすかったりする時期だ。仕事に家事、子育てや介護などに追われる時期でもあるため、自分のことを後回しにして、結果的に症状をこじらせてしまうこともある。
「疲れやストレスのない人はいません。特に精神症状については、生活環境や背景が関係している場合が多いでしょう。なかには、単純に疲れているだけという方もいます。よく眠れていない、食事がとれないなどという場合は、更年期であろうとなかろうと生活の改善も大切です」(牧田さん)
20~30代で更年期障害になることはない
なお、近年では、20〜30代くらいでも更年期のような症状があるときに「若年性更年期障害」と言ってみたり、30代後半〜40代前半を「プレ更年期」と呼んだりしている。更年期が早めに訪れることはあるのだろうか。
「これらは医学用語ではありません。更年期でなくても疲れやすいなどの症状が起こることはありますが、更年期障害ではないんです。更年期障害は主にエストロゲンの低下が原因ですから、20〜30代で起こることはありません。もしもあるとすれば、手術などで卵巣を切除した場合、卵巣機能が停止した場合などですが、それは更年期障害とは言いません」(牧田さん)
そもそも女性の体は、卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の影響を受けていて、その分泌量はライフステージによって大きく変化していく。
エストロゲンの分泌量は思春期に急増し、20〜45歳くらいの性成熟期を経て更年期に急速に減少し、閉経後に老年期を迎える。つまり、更年期の最も大きな変化は、卵巣機能が衰えてエストロゲンが減少し、それが閉経という形で現れてさまざまな不調が起こるところだ(外部配信先では画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
女性は左右の卵巣にたくさんの卵子(原始卵胞)を持って生まれるが、その数には個人差があり、さらに加齢によってどんどん減っていく。平均すると、産まれたときには約100万〜200万個あったものが、思春期で約20万〜30万個、30代で2万〜3万個ほどに減る。
思春期以降に準備が整うと、脳の視床下部の指令により「卵胞刺激ホルモン(FSH)」が分泌されることで毎月複数の卵子が成熟し、そのなかの1つが選ばれてより成熟していく。残りの卵胞は萎縮してエストロゲンを分泌する。
こうして卵胞ホルモンが急増すると、今度は卵胞を黄体に変化させる「黄体形成ホルモン(LH)」が分泌され、これが刺激となって排卵が起こる。排卵後は黄体が「プロゲステロン(黄体ホルモン)」を分泌して子宮内膜を厚くするが、妊娠が成立しないと不要になった子宮内膜が剥がれ落ちることで、月経が起こる。
しかし、年齢を重ねるにつれて卵子の数は減っていき、こうした卵巣の機能も低下し、閉経へと向かうことになる。ただ、月経は急にピタッと終わるわけではない。月経が丸1年間止まれば、“振り返ってみて閉経した”ということになる。
「最後のほうは、月経が頻繁に来たり、急に来たと思ったら大量に出血したり、出血が長引いたりすることもあるでしょう。エストロゲンの分泌量もゆらぎながら低下していきます。そうして徐々に月経間隔が空いていき、やがて閉経を迎えるのです」(牧田さん)
エストロゲン分泌低下で起きる変化
エストロゲンは「女性らしさを作るホルモン」ともいわれ、肌や髪のうるおいを維持する、おりものを分泌する、丸みのある体を作るなどの働きがある。そのためエストロゲンが減少すると、肌や髪がカサつきやすくなったり、シワができやすくなったり、おりものの分泌が減って腟が乾きやすくなったり、乳房が萎縮したりと体型に変化が起こることもある。
さらにエストロゲンは体のあらゆる器官に影響を与え、健康を維持している。脂質代謝、血液循環、血管壁の柔軟性の維持、骨形成などに大きくかかわっているのだ。
「そのためエストロゲンの分泌が低下した更年期以降は、脂質の代謝が落ちてコレステロール値が上がる脂質代謝異常や、血液循環や血管壁の柔軟性が低下することで動脈硬化や心血管疾患などが起こりやすくなります。そして、先々には骨の形成が追いつかなくなり骨粗鬆症になるリスクも上がります」(牧田さん)
では、更年期障害の症状には、どんなものがあるだろうか。よく聞くのは、顔のほてりやのぼせだが、実際にはかなり多岐にわたるという。
「顔のほてり、のぼせなどで上半身が暑くなったり、そのせいで汗をかいたりというのは、エストロゲンの低下による典型的な症状です。また節々が痛いという関節痛、手指がこわばるといった症状も少なくありません。そのほか、不安やイライラといった精神症状など、更年期障害の症状は本当にさまざまです」(牧田さん)
以下がよく挙げられる更年期障害の症状だ(外部配信先では画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
日本産科婦人科学会によると、更年期障害にはほてりなどの「血管拡張と放熱に関係する症状」、関節痛などの「その他のさまざまな身体症状」、イライラなどの「精神症状」があるという。しかし、「どこまでの症状が更年期障害なのかというのは、非常に難しいところです」と牧田さん。
更年期障害は“除外診断”が重要になる
「じつは更年期障害の定義はありますが、どの症状を更年期障害とするのかについては明確な診断基準がありません。例えば幻聴があって眠れないのだとしたら、それは精神疾患です。でも、ホットフラッシュのせいで眠れないのだとしたら、更年期障害だということもあります。だから、診断では“ほかの病気による症状ではない”こと、つまり除外診断が重要になるんです」(牧田さん)
実際、「更年期障害かもしれない」と受診した人が別の病気だったために他科を紹介したケースや、逆に他の診療科で原因が見つからずに同院を受診された人が更年期障害だったというケースがあるそうだ。
では、更年期障害と間違われやすい病気には、どんなものがあるのだろうか。牧田さんの解説によるとこうだ。
「例えば上半身だけのほてり、のぼせがあるときは更年期障害である可能性が高いので、最初から産婦人科を受診していいでしょう。一方、めまいは耳鼻科、頭痛や貧血は内科、関節痛は整形外科を先に受診したほうがいいケースもあります」と牧田さん。
検査によって該当しそうな病気を除外していくのが大事なことで、決して無駄にはならないという。
症状がある場合は産婦人科で相談を
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「産婦人科では、問診で自覚症状をお聞きしたり、血中のエストロゲン値、FSH値を検査したりします。内診を行うこともありますが、必須ではありません。更年期障害には女性ホルモン補充療法などの治療法もあるので、症状がある方は一度、産婦人科で相談されてみてはいかがでしょうか」(牧田さん)
更年期障害は、エストロゲンの値だけで診断が確定するものではない。閉経が近づいていて、日常生活に差し支えるようなさまざまな更年期症状がある場合に「更年期障害」と診断されるのだ。詳しい治療については、次の記事で解説する。
(取材・文 / 大西まお)
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牧田産婦人科医院(埼玉県新座市) 院長
牧田和也医師
1961年、東京生まれ。牧田産婦人科医院(埼玉県新座市) 院長。日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医、日本頭痛学会専門医。専門分野は、更年期医療(更年期障害、骨粗鬆症、脂質異常症)。近年は、とくに月経困難症、女性の機能性頭痛、月経前症候群の治療にも注力している。患者さんがご自身の状態を理解し、納得して治療を受けていただけるよう「分かりやすい診療」を心がけている。
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提供元:【更年期障害】動悸や関節痛など、意外な症状も|東洋経済オンライン