2023.04.19
【更年期障害】治療で「がんのリスク」は上がるか|家族が苦しんでいる時にどう対応するとよい?
更年期障害はどう改善できるのでしょうか(写真:プラナ / PIXTA)
女性の更年期に起こるつらい症状は、顔のほてり(ホットフラッシュ)、手足の冷え、疲れ、めまいなどの身体症状だけでなく、イライラや憂鬱などの精神症状もある。そんな更年期障害は、どうしたら改善できるのだろうか。病院での治療法はもちろん、セルフケアや、パートナーや家族ができることについて、牧田産婦人科医院 院長の牧田和也さんに詳しく話を聞いた。
更年期の症状は多様で、人によって表れ方や重さが異なる。「顔がほてるくらいで、病院で診てもらっていいのかな……」と受診を躊躇する人もいるだろうが、受診の目安はあるのだろうか。
「大事なのは患者さん自身が気になるかどうかです。もちろん、更年期障害は命に関わる病気ではないので、それほど気にならなければ様子をみても大丈夫です。でも、顔がほてる、極端に汗をかくなどの症状を苦痛に感じたり、どんどん症状が重くなるようだったり、月経の変化が気になるのであれば、遠慮なく受診してください」(牧田さん)
産婦人科で行われる検査
実際に受診して更年期障害と診断された場合、治療することもできるし、いったん様子をみることも可能だ。では、産婦人科ではどんな検査、診療が行われるのだろうか。
「まず、血液検査で女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の値、卵胞刺激ホルモン(FSH)の値を調べます。閉経が近づくとエストロゲンの値は下がり、反対に卵胞刺激ホルモンの値は上がります。内診は月経不順や不正出血の症状があるなど必要があれば行いますが、必須ではありません」(牧田さん)
一般的な健康診断を受けていなかったり、疲れやだるさなどの身体症状が強かったりする場合は、貧血、腎機能、肝機能などの検査を行うこともあるという。
「血液検査で更年期障害ではないことがわかった例としては、めまいや動悸が主な症状で受診された方が実は鉄分の値が低く、月経時の出血量が多い過多月経による重い貧血だったケースがあります。そのほかにも寝ていてもだるいと受診された方ではカルシウム値が非常に低く、そこから副甲状腺機能亢進症がわかったケースもありました」(牧田さん)
こうして他の病気がわかった場合は、その病気の治療を行うことになる。一方、更年期障害と診断されて治療を行う場合は、「ホルモン補充療法(HRT)」が第1の選択肢になる。
女性の更年期症状は、エストロゲンの分泌量がゆらぎながら減っていくことで生じる。そこで女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)を補うことで症状を緩和する治療がホルモン補充療法だ。
牧田さんによると、とくに顔のほてりや上半身の発汗、ほかの病気によるものではない関節痛や手指のこわばりなどの症状がある場合、または確実にエストロゲン値が下がっている場合ではホルモン補充療法を行うことで、それ以外の症状まで改善するケースもあるという。
「ホルモン補充療法」でがんのリスクは上がる?
ところが、ホルモン補充療法は「怖いもの」というイメージを持っている人も少なくない。それは過去に“子宮体がんと乳がんになるリスクが上がる”と言われていたからだ。
「確かに、ひと昔前のホルモン補充療法では、エストロゲンを単剤で何年も投与していたために子宮体がんのリスクが上がりました。現在ではプロゲステロンを一緒に投与することで、そのリスクは非常に低くなったといえます」(牧田さん)
一方、乳がんのリスクについてはどうなのだろうか。
「以前、ホルモン補充療法を5年以上行うと、統計学的には乳がんが増えるという指摘がありましたが、ごくわずかです。ただ、閉経して10年が経った60歳頃からホルモン補充療法を開始すると、乳がんや血栓症のリスクが高まることがわかっています。40代からずっとホルモン補充療法を続けた場合は必ずしもリスクは高くないでしょう」(牧田さん)
ホルモン補充療法には、大きく2種類の投与法がある。1つはエストロゲンとプロゲステロンを同時に補充する「持続的併用法」。もう1つはエストロゲン単独で10〜14日間、エストロゲンとプロゲステロンの両方を10〜14日間投与し、5〜7日間休薬する「周期的併用法」だ。
「持続的併用法のほうが簡単ですが、投薬を始めて何カ月かは不正出血が続くことがあります。閉経前や閉経直後などで不正出血が多い場合は、出血が起こりにくい薬に変える、または周期的併用法に変えるという方法を取ることがあります」(牧田さん)
薬には、エストロゲンとプロゲステロンの両方を配合した飲み薬(エストラジオール・レボノルゲストレル錠:ウェールナラ)とシールタイプの貼り薬(エストラジオール・酢酸ノルエチステロン経皮吸収型製剤:メノエイドコンビパッチ)がある。
そのほか、それぞれのホルモンの飲み薬、エストロゲン単独の貼り薬(エストラジオール経皮吸収型製剤:エストラーナテープ)とジェルタイプの塗り薬(エストラジオールゲル剤:ディビゲル、エストラジオール外用ゲル剤:ル・エストロジェルなど)もある。
「貼り薬や塗り薬のいいところは、内服薬と違って肝臓に負担がかからない、副作用の1つである血栓のリスクが下がるという点です。貼ったり塗ったりする部位を変えれば、かぶれる心配も少ないでしょう」(牧田さん)
ホルモン補充療法のやめどき
ホルモン補充療法は、いつまで続ければいいのだろうか。実際にホルモン補充療法を行っている人からも「やめどき」がわからないという声がある。
「これは非常に難しい話で、何歳まで、何年までという明確な決まりはありません。普通、遅くとも60歳ごろには閉経してエストロゲン値が低下した状態になりますが、患者さんの意思次第で続けてもやめてもいいと思います。ホルモン補充療法を一度やめてみてつらい症状が出たら、再開することもできます」(牧田さん)
エストロゲンを補充することで、肌や髪のつやの維持、骨粗鬆症や動脈硬化の予防、コレステロール低下などの副次的な効果も期待できる。ただし、副作用がないわけではない。
「頻度は高くないものの、不正出血、乳房の張りや痛み、胃のむかつき、ごくまれに血栓症が起こることも。とくにBMI25以上の肥満度の高い人、喫煙をしている人は血栓症のリスクが高くなります。それから、現在または過去に乳がん、脳血栓症、肺血栓症などにかかったことのある人は、ホルモン補充療法を受けることができません。あとは血圧や血糖がコントロールできていない人は、そちらの治療が先になります」(牧田さん)
ホルモン補充療法ができない場合、希望しない場合には、漢方薬や対症療法の薬を使うという手もある。
「のぼせやほてりには『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』、イライラや不安などの精神症状が強いときは『加味逍遙散(かみしょうようさん)』、どちらもあるような場合は『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』といったふうに、症状に応じて漢方薬を使いわけていきます」(牧田さん)
漢方薬は市販もされているが、医療機関での検査や診察を経て処方してもらったほうが安心できるうえ、健康保険が使える。
そのほか、頭痛には鎮痛薬、不眠には睡眠導入薬、不安には抗不安薬、状況によっては抗うつ薬などのような症状を軽くする薬を処方してもらうこともできる。
家庭でできるセルフケア
では、家庭でできる更年期障害のセルフケア方法はあるだろうか。
更年期障害の症状によっては「毎日の生活を見直すことも大切です」と牧田さん。疲れ、倦怠感、めまい、肩こり、冷え、頭痛などの症状は、生活習慣の改善(規則正しい生活を送る、栄養バランスのよい食事をとる、適度な運動をする、十分に眠るなど)だけで治る場合もあるという。
もう1つ、今、エストロゲンに似た構造を持つ大豆イソフラボンの代謝物「エクオール」のサプリメントが注目されている。大塚製薬の「エクエル」、小林製薬の「命の母 エクオール」などだ。「産婦人科などにかかるほど重い症状がなく、何らかのセルフケアをしたいなら、一度試してみる価値はあると思います」と牧田さん。
以前から大豆イソフラボンは、更年期障害の症状改善にいいといわれてきた。大豆イソフラボンの成分・ダイゼインは、腸内細菌によって、イソフラボンと似た構造を持つエクオールに変換される。ところが体内でダイゼインをエクオールに変換することができるのは約半数の人だけだという。そのため大豆よりサプリメントで摂ったほうが効率がいいと考えられている。
もし妻や母親が更年期障害に苦しんでいたとしたら、夫や子どもなどはどうすればいいか。
「しんどいという話をしっかり聞くことが一番です。家族にこぼすほどであれば、やはり調子が悪いんだと思います。あまりにもつらそうであれば、産婦人科の受診を勧めてもいいのではないでしょうか」(牧田さん)
40〜50代に訪れる更年期は、男女ともに体力が落ちてきたことを実感したり、体の変化を感じたりしやすい時期でもある。そして同時に、夫婦関係を見直す時期にもなりそうだ。
更年期に備えるための対策
この連載の一覧はこちら ※外部サイトに遷移します
一方、まだ更年期が先の場合には、よりスムーズに乗り越えるための対策はないだろうか。
1つは、早くからかかりつけの産婦人科を見つけ、定期的に診察を受けるとともに月経をコントロールしておくことが挙げられるだろう。
「今でも産婦人科にかかるのを躊躇される方もいますが、月経困難症や過多月経をピルやミレーナなどで治療する人も増えています。できれば、子宮頸がん検診などで産婦人科を受診して、例えばオプションで骨密度を計ったり、ホルモン値を確認するなどして、一度ご自身の現状を確認されるのもいいでしょう」(牧田さん)
20〜40代の性成熟期のうちからかかりつけの産婦人科医を見つけておけば、40〜50代の更年期になっても慌てなくてすむ。また、閉経後の老年期になっても、気になることを相談できる。早めにかかりつけ医を見つけておくことをお勧めしたい。
(取材・文 /大西まお)
関連記事:【更年期障害】動悸や関節痛など、意外な症状も ※外部サイトに遷移します
牧田産婦人科医院(埼玉県新座市) 院長
牧田和也医師
1961年、東京生まれ。牧田産婦人科医院(埼玉県新座市) 院長。日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本女性医学学会認定ヘルスケア専門医、日本頭痛学会専門医。専門分野は、更年期医療(更年期障害、骨粗鬆症、脂質異常症)。近年は、とくに月経困難症、女性の機能性頭痛、月経前症候群の治療にも注力している。患者さんがご自身の状態を理解し、納得して治療を受けていただけるよう「分かりやすい診療」を心がけている。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:【更年期障害】治療で「がんのリスク」は上がるか|東洋経済オンライン